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【第74回】 2015年6月18日 原英次郎
崖っぷちに立つ地球の環境問題と
問題解決への明確なプランを提示
『地球に残された時間――80億人を希望に導く最終処方箋』
全世界の軍事支出の12%を毎年充てることで環境問題が解決する、という試算をご存じでしょうか。今回ご紹介する『地球に残された時間――80億人を希望に導く最終処方箋』では、「プランB」と呼ばれる「環境の処方箋」を紹介しています。その内容を少しだけお見せしましょう。
レスター・R・ブラウン著、枝廣淳子、中小路佳代子訳『地球に残された時間――80億人を希望に導く最終処方箋』
2012年2月刊。300ページにおよぶ骨太な翻訳書です。
6月上旬、ドイツで開かれたG7サミットでは、2050年までに、温室効果ガスの排出量を10年比で、40%〜70%の幅の上方に削減するという首脳宣言が採択されました。年末にはパリでCOP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)が開かれ、新しい枠組み作りに合意できるかどうかが焦点となります。
地球環境問題の大家・レスター・R・ブラウンが著したこの本は、こうした時宜にぴったりの1冊です。レスターは地球の環境問題が、人々が考えているよりも深刻であることを指摘しつつ、人類はそれを解決すべき手段をすべて持っており、その処方箋を提示しています。
水資源の枯渇がもたらすもの
35℃を軽々と超えるようになった真夏の暑さに、ゲリラ豪雨などなど、日本でも「気候が何かおかしい」と感じている方は多いと思います。この本を読むと、世界規模で進む環境破壊について、われわれがいかに無知であるかを思い知らされます。
たとえば、砂漠の国サウジアラビアが最近まで、主食である小麦を生産し自給自足していたのをご存知でしょうか。石油掘削技術を用いて、砂漠のはるか下にある「化石帯水層」から水をくみ上げることで、灌漑農業を可能としたからです。しかし、2008年に同国は「この帯水層がほぼ枯渇したため、小麦生産を段階的にやめていくと発表」しました。化石帯水層は地表近くにある帯水層と違って地下深くにあるため、降雨によっては回復されず、使い切ってしまえばそれで終わり。農業をやめざるを得ないのです。
水のくみ上げ過ぎによる水資源枯渇は食糧生産を減少させ、難民を生み出し、ついには国家そのものを破たんに追い込むのです。水資源の枯渇問題は、サウジアラビアのような中東諸国や新興国に限りません。世界屈指の穀物生産国であるアメリカや中国にも忍び寄っています。本書では水資源問題だけでなく、土壌の浸食、気温の上昇がどのような結果をもたらすかが、詳しく描かれています。
なぜ人々はこうした危機に気付かないのでしょうか。レスターは市場価格が真実を伝えていないからだと言います。例えば、ガソリンの価格には直接コストだけが反映され、気候変動、石油業界に対する補助金、排ガスによる健康被害、石油供給防衛のための軍事費などの間接コストは反映されていません。つまり、ガソリン価格は実際にかかっているコストより低く設定されているため、超過需要が発生しているのです。価格メカニズムは資源の配分にすばらしい効力を発揮しますが、「市場が間違った情報を与えれば、私たちは間違った決定を下す。それがまさに、これまでずっと起こってきたことである」(256ページ)と喝破します。
必要な予算は全世界の軍事費のわずか12%
レスターは崖っぷちにある地球の環境問題の解決に向けて、「プランB」と呼ぶ処方箋を提案します。プランBの「構成要素は四つある。二〇二〇年までに世界の二酸化炭素排出量の八〇%を削減すること、二〇四〇年までに世界人口を八〇億人以下で安定させること、貧困を根絶すること、そして森林、土壌、帯水層、漁場を回復させること」(20ページ)、簡潔に言えば、「気候の安定化」「人口の安定化」「貧困の根絶」「経済を支える自然システムの修復」です。
そしてプランBを実現するために、エネルギー効率の良い世界経済をいかに構築するか、経済を支える自然のシステムをいかに修復するか、いかに貧困を根絶し、人口を安定させ、破綻しつつある国家を救済するかを個別に論じていきます。ここで重要なことは4つの構成要素が相互に深く関連していることです。「たとえば、エネルギー効率を向上させて石油への依存度が下がれば、二酸化炭素排出量も大気汚染も減る。貧困の根絶は人口の安定化にも役立つ。森林を再生させれば、炭素は吸収され、帯水層の涵養量は増え、土壌侵食も減少する。必要なだけのすう勢をいったん正しい方向に向かわせれば、それらは互いに強め合うだろう」(277ページ)と言います。
プランBにかかる費用も天文学的な数字ではありません。レスターの試算によれば、それは年間一八五〇億ドルです。「これは全世界の軍事支出の一二%、そして米国の軍事支出の二八%」(275ページ)に過ぎないのです。安全保障というと21世紀のいまでも、議論は軍事をベースにしたものです。レスターは安全保障を再定義する必要性があると言い、次のように述べます。
「世界中に散らばる数百の軍事基地など、広範囲に及ぶ米国の軍備が文明を救うことはないだろう。それはひと昔前のものである。私たちが安全保障の目標を最も効果的に達成できるのは、食糧生産の拡大に力を貸し、家族計画の不足を補い、ウィンド・ファームや太陽光発電所を建設し、学校や診療所をつくることを通じてである」(260〜261ページ)
解決手段はあります。要は、世界の指導者たちが20世紀的な発想を転換し、世界の安全保障に対する最大の脅威が、気候変動・環境破壊であることで合意に達し、協同した歩調が取れるかどうかにかかっています。果たしてそれは可能なのでしょうか。
レスターは日本に対して、省エネ家電の開発、新幹線に代表される都市間高速鉄道網の発達など、エネルギー効率の高い社会に高い評価を与えています。その一方で、「日本は、世界でも最も地熱に恵まれた国の一つである……地熱の潜在的な発電容量は八万メガワットを超えており、全国の電力の半分を賄うことができる。すべての原子力発電所と古くて汚い石炭火力発電所の多くを止めることができる」(日本語版への序文iiiページ)と指摘しています。
現在、国会では安全保障法制の審議が佳境を迎えていますが、これも軍事的な視点が中心です。日本が国際社会で名誉ある地位を占め、本当に尊敬されるには、21世紀の安全保障とは何かへと問題意識を切り替える必要あると思えてなりません。我が国は地球環境問題解決のトップランナーになり得る、多くの科学技術を持っているのですから。
http://diamond.jp/articles/-/73403
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