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「ヒトiPS細胞作成をめぐる競争」(EJ第4037号)
http://electronic-journal.seesaa.net/article/419201910.html
2015年05月20日 Electronic Journal
STAP細胞事件の本質を明らかにするため、もう少しiPS
細胞や山中伸弥教授のことについて述べる必要があります。
山中教授が2006年8月に「セル」誌にマウスでのiPS細
胞の論文を発表するや、その時点から、次の目標であるヒトiP
S細胞作成の競争が世界中で始まったのです。何しろ山中レシピ
はシンプルであり、論文発表を機に、世界中のこの分野の学者は
一斉にヒトiPS細胞の作成に取り組んだのです。
そもそもマウスとヒトの細胞はどう違うのでしょうか。素人に
はわかりにくいことですが、東京大学名誉教授の黒木登志夫氏は
これについて次のように説明しています。これによって大体のイ
メージはわかると思います。
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ヒトの細胞は、マウスの細胞とは、ずいぶん違っている。私も
ヒトの細胞を試験管内でがん化させるべく実験を重ねたがついに
成功しなかった。iPS細胞でも、マウス細胞を単にヒトに置き
換えればよいということではなかった。
まず、マウスとヒトではES細胞の形も培養方法も異なる。マ
ウスのES細胞は、お椀をひっくり返したように盛り上がってい
るが、ヒトのES細胞は、せんべいのように薄べったい。その上
マウスとヒトのiPS細胞では、細胞培養のための培地成分が違
う。(一部略)その上、ヒト細胞には遺伝子が導入できにくかっ
た。マウスでは80パーセント以上の細胞にレトロウイルスに組
み込んだ遺伝子を導入できたのに、ヒト細胞では20パーセント
くらいしか入らない。 ──黒木登志夫著
『iPS細胞/不可能を可能にした細胞』/中公新書2314
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ヒトiPS細胞が作成されると、病気の治療やそのメカニズム
の解明に応用でき、医療の革命を起こすことが可能になります。
したがって、この分野の競合は熾烈を極めたのです。もちろん、
山中教授は2005年からヒトiPS細胞作成の準備を進めてき
ており、そこに抜かりはなかったのです。ただ、問題はヒト細胞
を作るとなると、日本では倫理委員会への申請手続きなどが煩雑
で時間がかかるので、商業的に確立された細胞を米国から輸入し
てこの問題をクリアしたのです。
このようにして2007年秋ごろには、山中研究室では、ヒト
iPS細胞についても実験データが整い、論文を発表できる準備
ができていたのです。
ところが、山中教授は出張先の米国で、どこかの研究チームが
ヒトiPS細胞に成功し、論文準備を進めているという情報を得
たのです。そこで、山中教授は急遽帰国の飛行機のなかで一気に
論文を完成させて「セル」誌に投稿。「セル」誌はこの論文をわ
ずか3週間の超スピード審査で、インターネット上で発表したの
です。2007年11月20日(火)のことです。
実は、ヒトiPS細胞の作成に成功し、論文発表を進めていた
のは、世界初のヒトES細胞の作成者であるウイスコンシン大学
のジェームス・トムソン教授のチームだったのです。強敵です。
トムソン論文は、2007年11月22日(木)の「サイエン
ス」誌のオンライン版で発表する予定だったのですが、20日に
「セル」誌で山中論文が発表されるという情報を掴むや毎週木曜
日の本来の発刊日を2日前倒しし、山中論文と同じ20日(火)
に発表したのです。雑誌社が発行日を変更するのは極めて異例の
ことであり、いかにこの分野での競合が熾烈なものであるかを物
語っています。
しかし、トムソン教授は、山中教授に次のメールを送り、自身
の敗北を認めています。
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競争に負けたのは残念だ。しかし、負けた相手がシンヤで良
かった。 ──ジェームス・トムソン教授
──黒木登志夫著の前掲書より
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ちなみに、トムソン教授が使った4つの遺伝子は、山中ファク
ターと同一ではないのです。2つは同一でしたが、残りの2つは
山中教授とは異なるアプローチで、ヒトiPS細胞の作成に成功
しているのです。
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1. Oct4
2. Sox2
3.Nanog →トムソンチームが発見
4.Lin28 →トムソンチームが発見
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これによりこの時点で、山中伸弥教授のノーベル賞受賞はほぼ
確定したといってよいのです。
山中伸弥教授のこの一連の快挙に当時の福田康夫首相は、発表
から1週間後の2007年11月28日に科学政策の司令塔であ
る総合科技術会議を招集し、再生医療を進めるための研究環境づ
くりについて次のように指示しています。
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再生医療の実用化に向け、臨床試験の進め方など、この研究を
円滑に進めるための環境づくりを早急に進めていただきたい。
──福田康夫首相
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この福田首相の指示を受けて、2008年度予算案の復活折衝
で、文部科学省のiPS細胞研究に約22億円が投入されること
になったのです。2007年度が約2億7000万円だったこと
を考えると、約8倍の増額になったのです。
文科省は、2008年2月にiPS細胞研究の拠点として、京
都大学、東京大学、慶応義塾大学、理化学研究所を選定していま
す。そして3月にはこれらの施設を核に、20を超す大学や公的
研究機関が連携するネットワークが立ち上がったのです。
── [STAP細胞事件/010]
≪画像および関連情報≫
●iPS細胞の発見は人類にとって「福音」となるのか?
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2012年10月、山中教授にノーベル医学生理学賞授与の
発表があった。同時受賞をしたのは、英国人のジョン・ガー
ドン氏。1962年にオタマジャクシを使って最初のクロー
ン(遺伝子が同じ生命体)を作りだした研究者で、今年79
歳だ。山中氏は50歳。ノーベル賞受賞者としては最年少に
近いのではないだろうか。山中教授の受賞を聞いて、筆者は
ジェームズ・トムソン教授(ウィスコンシン大学)が同時受
賞しなかったのを意外に思った。トムソン教授は98年に、
ヒトES細胞の開発に成功し、幹細胞の研究で先人的役割を
果たしてきた。両教授はそれぞれ、2007年11月に専門
誌上に、人間の受精卵を使わずに皮膚細胞からiPS細胞が
できると発表して世界を驚かせた。米国の新聞は、山中氏の
受賞を自国の受賞のように喜び称賛している。理由の一つに
は同氏が、93年からカリフォルニア大学サンフランシスコ
校グラッドストーン研究所の研究員であったことが挙げられ
る。山中氏は大阪市立大学で博士号を取得後、米国で研究を
展開するためにいくつもの大学や研究所に研究員としての願
書を提出したが、受け入れてくれたのはグラッドストーン研
究所だけであった。グラッドストーンでの山中氏の研究課題
は、遺伝子移植でクローン再生したマウスを使ってコレステ
ロールの研究・実験することだった。この実験は十分な成果
を出せなかったが、その時の経験を幹細胞の研究に投入して
いった。 http://bit.ly/1A6RZ1C
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