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1歳の赤ん坊は世界をどう理解するか−手法は科学者と共通
By ALISON GOPNIK
2015 年 4 月 16 日 14:04 JST
赤ん坊は並の大人より有能な科学者かもしれない Getty Images
1歳の赤ん坊をしばらくの間注意深く観察し、いくつの「実験」をしているか数えてみよう。1歳5カ月の孫娘ジョージアナは先週末にわたしの家に来たとき、イースター(復活祭)で飾られる斑点模様の発泡スチロール製卵を15分もの間いじっていた。それはチョコレートの卵なのか、あるいは固いゆで卵なのか。それはバウンドするのか。転がるだろうか。食べられるのだろうか。
われわれを人間らしくしたのは何なのか―愛くるしい赤ん坊
わたしと一部の同僚たちは過去20年間、生まれて間もない赤ん坊でさえ、科学者たちがするのとほとんど同じ方法で世界について学習していると主張してきた。彼らは理論を組み立て、統計を分析し、予測していなかった出来事の説明を試み、実験することすらある。この「理論説」(人は一般的な知識に基づいて他者の心的状況を理解するという説)を学術誌に執筆する時、わたしは哲学、コンピューター科学、進化生物学の概念を使って極めて抽象的に語る。
しかし真実はと言えば、わたし個人に関する限り、孫娘を観察することは、あらゆる実験あるいは主張と同じくらい説得力がある。わたしは彼女のおじいちゃん、つまりわたしの夫に、「あなた、あれ見た? 素晴らしい。彼女はきっとエンジニアになるわ」と叫ぶ。科学者ではない普通のおばあちゃんと同じように、大きな誇りと驚きをもって叫んでいるのだ(そして独り言を言う。「この小さな頭の中で何が起こっているのかを理解するのがわたしの仕事だとすれば、どれほど素晴らしいことか」と。もちろん、それはわたしの仕事だとされている。しかし、情報社会における他の誰もがそうであるように、わたしが実際にしているのは、電子メールに返信することだとしばしば感じてしまうのだ)。
だが、逸話が蓄積してもデータにならないのと同じように、孫に甘い祖母の観察は科学ではない。赤ん坊が何を考えているか推量するのは容易だし面白いが、それを証明するのは本当に難しい。精緻な実験技術が必要だ。
ジョンズ・ホプキンズ大学のエイミー・シュタール、リサ・ファイゲンソン両氏は、米科学誌サイエンスに掲載された驚くほど鋭い論文で、生後11カ月の赤ん坊が科学者たちと同じように、自分の予測が外れた時に特別の注意を払い、その結果としてとりわけよく学習し、何が起こったのか突き止めるために実験しさえすることを系統的に示している。
両氏は、赤ん坊は予期しなかったことを目撃したときにそれを普段よりも長く観察することを示した古典的な研究から始めた。研究の対象になった赤ん坊たちは、あり得ない出来事(例えば固いれんがの壁をボールが一見して通過するようにみえること)、あるいは普通の出来事(同じボールが単純に空間を通過して動いていくこと)のいずれかを見た。その時、彼らはボールが雑音を発するのを聞いた。ボールが雑音を出したと赤ん坊が学習する確率が高かったのは、ボールが予測どおり空間を動いた時よりも、壁を通過した時のほうだった。
2番目の実験で、何人かの赤ん坊に、融解する不思議なボールないし、普通の固体のボールを見せた。他の赤ん坊には、棚にそって転がるボールか、あるいは棚の端から外れ、空中で止まったままに見えるボールを見せた。その後、これらの赤ん坊たちにこのボールを手渡して遊ばせた。
すると赤ん坊たちは、予期せぬ動きをしたボールをより丹念に調べた。また、ボールが「どのように」予期せぬ動きをしたかに応じて、調べ方を変えた。壁を通して消えたかに見えたボールの場合、赤ん坊はボールを表面に対して打ち付けてみた。一見して空中で停止していたボールについては、それを落としてみた。それは、ボールが本当に固いのか、あるいは本当に重力に逆らっていたのか実験しようとしているかのようだった。それは、孫娘がイースターの籠の中の偽の卵を試しているのとよく似ていた。
これらの実験は、赤ん坊が並の大人よりも有能な科学者であるかもしれないことを示唆している。成人は「確証バイアス」の被害を受けている。つまり、われわれは、自分にとって既知のものに適合する出来事に注意を払い、われわれの先入観を動揺させるかもしれないものを無視しているのだ。チャールズ・ダーウィンは、自分の理論と食い違うあらゆる事実の特別リストを保持していた。そうしないとそれらの事実を無視する誘惑に駆られるか、あるいは忘れてしまうことを知っていたからだ。
これに対し、赤ん坊は予期しない出来事に食指が動くようだ。科学哲学者カール・ポパーが提示した理想的な科学者のように、赤ん坊は自分たちの理論をねじ曲げる事実を常に求めている。皆さんも宇宙の神秘を学びたいと望むなら、こうした奇妙な卵に目をこらしてみることだ。
(訳注)筆者のアリソン・ゴプニック氏は米国の著名な心理学者
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われわれを人間らしくしたのは何なのか―愛くるしい赤ん坊
By ALISON GOPNIK
2014 年 5 月 19 日 14:29 JST
自然史博物館のジオラマは誰でも見たことがあるだろう。力強い穴居人たちが力を合わせてマストドン(マンモスに似た古代生物)を倒している。進化生物学者は長い間、猟や戦いといった男たちの仕事を使って人間の協力の進化を説明してきた。
しかし、最近カリフォルニア大学サンディエゴ校で開かれた研究シンポジウムは、ジオラマの背景の中にいる子供たちが重要なのではないかということを示唆した。子供の世話は文字通り、われわれを人間らしくし、認識、協力、文化に対する人間独特の能力を発展させた可能性がある。同じような考え方は、人間の子育ては母をはるかに越えるということを示唆している。
Luci Gutiérrez
人類学者のサラ・フルディ博士は、人間の発展は「共同で行う子育て」の出現に依存していると主張する。チンパンジーの赤ん坊はその生物学的母親によって独占的に世話をされている。母たちは子供に近づくものは何であれ、それと戦う。これとは対照的に人間は育児の面で優れた3人を作りだした。祖母と父親、それに「アロペアレント(親以外の養育者)」が赤ん坊の世話を手助けする。これが人間と人間に最も近い霊長類との大きな違いだ。
私は前回のコラムで、祖母に関する興味をそそる研究について話した。父親が子供の世話をすることは疑問の余地がないように見えるが、これも人間独特のことだ。人間は、ほとんどの霊長類―実際にはほとんどの哺乳類―に見られないような形で「つながりを結合する」。父親と母親は緊密な関係を築き、人間は関係の近い霊長類のどれよりも一夫一婦の関係が強い。
父親の世話は母親のそれよりも多様だ。フォーレージャー社会(狩猟採集社会)でも、一部の生物学的父親は子育てに深く関わっており、他の父親はほとんど何もしていない。父親にとって、母親よりも、赤ん坊と非常に緊密な関係を持っているという事実は赤ん坊を世話する衝動と言われる。例えば、父親が赤ん坊に触れて遊ぶ時、父親たちは母親と同じようにオキシトシン(「世話焼き・仲良し」ホルモン)を分泌している。
人間には「アロペアレント」もいる。関係のない赤ん坊でも世話をする成人のことだ。狩猟採集社会では、これらのアロペアレントはしばしば、まだ子供のいない若い女性だ。他の人の子供を世話することで、これらの女性は子育ての技術を身に付け、一方で子供が生き残るのを助けている。母親たちは時に世話を交代し、互いに助け合っている。子供のいない女性に特にかわいい赤ん坊の絵を見せると、脳の報酬中枢が明るくなる(かわいい赤ん坊がおおむね誰にでも魅力的だと結論付けるのに、こうしたイメージング研究は実際のところ必要なかったのだが)。
フルディ博士は、この協力的な子育て戦略が他の人間独特の能力を発達させていると考えた。人間の知性の多くは社会的知性だ。人間は特に他の人々について学んだり、他の人々から学ぶことが得意だ。まだ座ることのできない赤ん坊でもほほ笑み、視線を合わせることができる。さまざまな研究では、赤ん坊は他の人たちが何を望んでいるかも理解できるという結果が得られた。
同博士は、まず協力的な子育てがあり、祖母や父親、アロペアレントによる追加の子育てによって長い期間の子供時代が作られ、この間に子供たちは学習することができるようになることを示唆している。実際、社会的知性は、協力的子育ての必要性が直接もたらした結果である可能性がある。
フルディ博士はさらに、協力的な子育ての世界では赤ん坊が自らの生存を守るようになったと示唆している。非常にかわいい赤ん坊の大きな瞳やふくよかな頬は、見た目以上の働きをする。赤ん坊たちはまず社会的知性を使って父親や祖母、アロペアレントの気を引きつけて、その愛くるしいクモの巣に取り込もうとする。赤ん坊たちは次いで、そのほかの全てのこと―マストドン1頭あるいは2頭を倒すことを含めて―をするために社会的知性を使うことになる。
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