05. 2014年12月17日 08:16:34
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死んだクジラの胃袋を満たしていたもの ゴミ問題を解決するのは人間の良心か科学の進歩か 2014年12月17日(Wed) 川口マーン 惠美 東京でいつも感心するのは、ゴミに関することだ。たいていの人が、ペットボトルはラベルを外して潰し、テトラパックは洗って切り開いて束ね、ちゃんときれいに早朝に出している。これはすごい。 悪い意味で感心するのは、道端にひどい出し方をして、町の景観を損ねている人たち。出してはいけない布団やら電化製品を放置する人もいる。よくこんなことができるなあと思う。 しかし、何と言っても一番感心するのは、そのゴミを集めている人たちで、トラックの上で、心ある人が出したゴミも、心無い人が出したゴミも、きちんと仕分けしながら回収していく。ゴミ集めも、未だに半分手仕事で、整然としている。 経済合理性で動くドイツのゴミ収集 ドイツでは、ペットボトルや、ビールの瓶などはデポジット(預り金)が掛かっていて、戻すとその料金が返ってくるので、皆、指定されたところに持って行く。デポジットがないと、リサイクル分は相当減るだろう。 普通ゴミは、各家庭が自治体から借り受けたゴミ用コンテナに捨てる。たいてい家の前の道にゴミ用コンテナの置き場が作ってあるので、収集の日には何もしなくてもゴミ屋さんが空にしてくれる。 ゴミ収集車はオートメーション化されているので、ゴミ屋さんは、下に車輪のついているコンテナをゴロゴロ転がしてきて、その車のフォークリフトになっているところにカチッとはめ込み、ボタンを押せばすべて自動で進む。あとは、空になって下りてきたコンテナを外して、また、ゴロゴロと元あったところに戻しておけば良い。 コンテナは大きさによって借り受けの値段が違うので、ゴミの削減に真面目に取り組めば経済的な見返りがある。瓶のデポジットも同じだが、経済的な見返りなしに、道徳心だけに頼ってドイツの大衆を動かすことは難しい。ちなみに普通の家庭ゴミの収集は、2週間に一度だ。日本人は甘やかされ過ぎ。 一方、包装材(ポリ袋、プラスチック容器、缶、発泡スチロールなど、紙とガラス以外のすべての包装材)は違ったルートで集められているので、たいていの自治体では、3週間に一度、既定の袋に入れて家の前に出しておくと、収集される。 こちらのほうは、人がゴミ袋を手作業で集めているところが、日本のゴミの収集風景とよく似ている。さらに、出してはいけない違反のゴミが置いていかれて、収集のあと袋が散らかり、しばしば道が汚くなるところも似ている。 EU諸国では不法なゴミ処理で儲ける暴力組織も とはいえ、日本もドイツも、ゴミはちゃんと管理されている。集められたゴミがそのまま行方不明になったり、不当投棄されたりということもない。すべてが理想的にリサイクルされているかどうかは疑問だとしても、ドイツでは、リサイクルされそこなったゴミも、少なくとも焼却炉までは辿り着いている。 プラスチック類の焼却は、発生した熱を効果的に利用できる焼却炉で燃やせば、熱エネルギーとしての再利用ということで、リサイクルと見做されているからだ。しかも最近のプラスチックは、燃やしても有害物質があまり出ない。 ドイツのゴミ焼却炉はハイテク施設が多く、焼却の効率がよいばかりでなく、容量が余っている。そのため、ゴミ処理にてこずっている他国のゴミの焼却までしばしば引き受けているという。ゴミが貨物列車に乗って、EU内を走っているのだ。 EUでは、毎年約19億トンのゴミが出る。EUのゴミに関する法律は厳しいが、それが守られているかどうかは別問題。再利用に回されているものは3分の1以下で、とくに新加盟国では、家庭ゴミの90%を集積場に放置している国さえある。 ゴミ業者としてゴミを引き取っては、海や野原に不法投棄している暴力組織も蔓延っている。特に危険ゴミの処理は大きなお金が動くので、麻薬や人身売買よりもずっと安全で、良い利益が上がるという。 ただ、空き地や、山肌にダイナマイトで作った穴などに放置された危険ゴミは、土壌や地下水を汚し、その近辺の農作物が知らず知らずのうちに汚染されてしまう。 見えない海洋汚染を引き起こす厄介者 すでに多数のクジラがプラスチック廃棄物を飲み込む被害に遭っている [AFPBB News] 一方、現在、警鐘が鳴らされているのがポリ袋。日本ではあまり見ないが、すごく薄い、すぐに破けそうなレジ袋だ。今年の初め、スペインの海岸に流れ着いたマッコウクジラの胃袋がこのポリ袋でいっぱいだったと報道されて以来、しばしば話題に上る。
そういえば3年前、アルバニアに行ったとき、水路が一面、物の見事に、ペットボトルとポリ袋で覆われていたのを見てびっくりしたことがある。郊外をバスで走ると、道端にもやはり、あらゆるところにペットボトルとポリ袋が散乱し、風に吹かれて舞っていた。 紙屑ならそのうち無くなるけれど、プラスチック製品はそう簡単には無くならない。材質が分解し、自然回帰するまでには何百年もかかるそうだ。 もっとも、プラスチック製品が川や道端に散乱している様子を見るためには、別にアルバニアほど貧しい国に行く必要はない。たとえばスペインやイタリアでも、ゴミの管理はドイツに比べるとかなり緩い。 たいてい分別の必要もなく、あらゆるゴミがコンテナに突っ込まれ、どこもあふれんばかりになっている。さらにひどいのは東欧。不当投棄も日常茶飯事だ。 EUでポリ袋の消費が一番多い国は、ポーランドとポルトガルで、年間1人400枚以上。チェコが297枚、ルーマニアが252枚、ドイツは64枚だ。少ないのはフィンランドとデンマークで、年間1人たったの4枚。たいていのポリ袋は、家に持ち帰られると平均25分でゴミとなる。その量が、EU全体で年間80億枚以上とか。 11月21日、EUがポリ袋のゴミを減らすための対策案を発表した。ポリ袋の使用を、25年までに80パーセント削減しよう意欲的な計画だ。制限の対象は厚さが50μmm以下のポリ袋で、分厚い何度も使える物はOKだそうだ。 EUの調べによると、地中海だけでも、500トンのプラスチックゴミが浮遊している。中でもポリ袋は海の中でだんだん細切れになって漂い続け、さらに時間が経つにつれ、目に見えないほど小さな小片となり、それを魚が食べ、その魚を人間が食べる。 この、見えない海洋汚染は、すでにかなり進んでいると言われており、魚を好んで食べる日本人にとっては戦慄を覚える事態だ。 ポリ袋使用制限の実現が難しい理由 ただ、EUが取り組もうとしているポリ袋の使用削減計画は、口でいうほど簡単なことではない。緑の党は、去年、ポリ袋1枚につき、22セントの税金を課そうと提案した。アイルランドではこの方法により、1人あたりの年間使用が、328枚から、21枚にまで減ったそうだ。 しかし、いくら効果的とはいえ、こういう法律があちこちで通るとは思えないし、ましてやEU全体で可能になるとも思えない。 なお、課税ではなく、ポリ袋の使用自体を制限しようとしても、目下のところ、EUの加盟国は、EU法で認められている物を、勝手に自国で禁止することはできない決まりだ。だから、ポリ袋の制限にはEUの法律を改正しなければならないが、そのためには、加盟国の商取引に不平等が生じないという条件が満たされなければならない。 なお、たとえそれがクリアできたとしても、今度は国際的な商法とのかかわりが出てくる。たかが薄っぺらいレジ袋一つの扱いにも、とても面倒な、あまたの法律上の調整が必要となるのである。 しかも、EUがどうにか法改正をしたとしても、ポリ袋はEU以外の国々で、さらに景気よく使われているのだから、地球全体の環境問題の解決にはならない。魚は将来も目に見えないほどのポリ袋の細片を食べ続けるかと思うと、なんだか絶望的だ。 すでにドイツでは、30年も前から、ちゃんと自分の布バッグや買い物かごを持って買い物をしている人が多い。そういう意味では、他国の人々が使い捨てているポリ袋を見て、やきもきしているという状況だ。 EUがどのような法律を通すことができるのか、あるいは、できないのかはわからないが、どのみち、絵に描いた餅になる可能性は高いのではないか。 ただ、一つグッドニュースは、現在、生分解性ポリ袋や光分解性ポリ袋の研究が進んでいること。人間の良識や良心ではなく、科学の進歩のほうに期待するほうが、確実な方法だと、私には思える。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42451 |