03. 2014年7月04日 10:04:10
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http://mainichi.jp/feature/news/20140704mog00m040001000c.html 理研:iPS臨床・高橋氏との一問一答詳細 2014年07月04日 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)の高橋政代プロジェクトリーダーとの主な一問一答は次の通り。 −−1日付のツイッターで「理研の倫理観にもう耐えられない」とつぶやいた真意は? 「倫理観」とは何を指すのか? ◆理化学研究所が「何が良くて何が悪いのか」を態度で示せていない。理研がどう考えているのかが一貫して分からない状態ですよね。恐らく、外から見えているものと実際とがずれていると思う。それも恐らく「倫理観をきちんと示せていない」ことから、理研も誤解を受けていると思う。そういう意味でした。それを発信できていないと思う。CDBでお世話になり、この(iPS細胞の臨床研究の)プロジェクトを育ててくれた。私の場合は愛情があり、批判をしたくないから抑えていた部分なのですが、ツイッターで書いたように(iPS細胞を使った世界初の)臨床研究を落ち着いてできる環境ではなくなってきた。白黒はっきりというか、何が悪いかがまだ数カ月は出ないことがはっきりした。処分などが片がつかず落ち着かない。まだまだ事態の収束がずれこむことが分かったので、このまま臨床研究に突入するのは危ないと思ったわけです。 −−何が悪いかはっきりしないまま、小保方晴子氏が検証実験に参加していることが問題なのか? ◆それもありますが、参加していることというよりも、片がつくのが遅れるということです。状況が改善されない、ということが分かったので、「私は違う考え方をもっている」ということ、「困っている」ということを声を上げないといけないと思ったわけです。今回のSTAP細胞問題に関しては、私は最初から「理研の対応はおかしい、遅い」と言っていました。その危機管理の対応が、病院の危機管理に慣れている者にとってはとても違いました。この対応の遅さでは、臨床研究の出来事に対する対応は無理だろうと思いました。もちろん臨床研究自体は先端医療センターで実施し、理研は「細胞作り」に責任を持っているのですが、理研は統括を担っていますから責任はとても重い。臨床現場で何かが起こったときの対応、これでは無理だなと思ったわけです。 −−理研は新たな疑義の調査を始めると言っているが、これも遅いですか? ◆私は遅いと思います。なぜしないんだろう、皆が疑問に思っていた部分ではないのか、と。今言っても仕方がないので、今回声を上げたのは「臨床研究をできる環境ではない」ということから、「臨床研究はきちんとやりたいので、環境を整えてください」ということを伝えたかった。 −−臨床研究に遅れは生じていますか? ◆そういうことはないです。科学的、医学的にはものすごく順調です。臨床で何が決め手になるかというと信頼感なんです。「倫理がしっかりしている」という信頼感がないと、少しのことが大きな問題になってしまうのは臨床の現場でよくあることです。ですから、今理研への不信がある中で、同じことが起きても大きく悪いことであると捉えられてしまうだろうという心配がある。今まで私はiPSの臨床研究というものすごく新しいことをやるために慎重に進めてきましたし、本当に静かなところで大事に作った船をそっと置いて、波風立たないようにそれに神経を使ってきた。ところが、横で起こったことでものすごい荒波の中にさらされている。この状況で実施すると、波がかかってきて大事になってしまう。こういう状況を改善してほしい。そのためにSTAPの問題を早く収束させてほしいというのが願いで、ずっと早く対応してくださいとお願いしてきましたが、まだ(時間が)かかるということで、「ちょっとこれは」と思いました。 −−STAP問題が収束しなければ臨床研究を始められないのですか? ◆そうではないです。できますが、ものすごく困難なかじ取りを強いられるわけです。困難なかじ取りにならなくてもいいように、いろいろな調整をしてきて、何年もかかって環境を整えてきたものを、いきなり壊されたということにいら立ちがあります。 −−「複数の人から臨床研究を中止しては」という意見を聞いたというのは、具体的にどういうことでしょうか? ◆STAPの問題があるので、私たちの研究にも疑いの目が向けられています。本当にちゃんとしたデータなのかという疑いですね。その対応に追われたりもしています。いろいろなことがSTAPで止まってしまって手続きが進まない、などです。ツイッターで答えたのは、「こんな状況だったら中止されたらどうですか」というツイートがあったので、「それも含めて考えましょう」と答えたのですが、それが「中止」と伝わってしまいました。真意は、「慎重に検討しなければいけない状況である」という意味でした。 −−患者さんからそのような声はありますか? ◆それはないです。患者さんとの信頼関係は壊れていません。ですからそれは大丈夫です。ただし、「こんな荒波でかじ取りさせないでくれ」と。「せっかく整えた静かな海をもう一回返してくれ」という思いです。「もう一回、環境を整えていただきたい」ということが一番お願いしたいことですね。 −−繰り返しだが、一定のけじめや懲罰がなければ静かな海は返ってこないと考えているのか? ◆実際は、懲戒委員会が検討して結論を出さなければいけないということは分かりますが、理研がどこを問題だと考えているか、どちらの方向へ進もうとしているのかが伝わってこない。そして大事にすべきことがずれている。検証実験も(STAP細胞が)できることを期待しているのか。何のためにやるのかよく分からない。そういう説明が足りないような気がしますね。 −−理研に対して、この問題に対するメッセージをもっと出してほしいと考えているのか? ◆はい。何が良くて何が悪いか、という判断がされないままきていると思います。もっと早くけじめをつけられたと思いますが、まとめると、けじめがつかないまま結論が延びていることによる環境です。さらに、ここまで遅らせてしまう対応は、もし臨床研究の際に何か起きた場合に対応できないであろう、という点から「臨床研究が困難ではないか」と感じました。私たちの責任が非常に重くなっている気がします。 −−理研の外部識者による改革委員会が出した(CDB解体などの)提言への評価は? それに対する理研のアクションはどうでしょうか? ◆アクションはないです。それ(提言)をどう思っているのかというアクションがないのです。「CDB解体」という言葉は衝撃的ですね。CDBはすごくいい研究所だったんです。いい実績を上げていた。ただし、本気で臨床につながることをやっているという覚悟が少ないような気がしていましたので、今後はそこを改善してほしい。 −−「解体」という言葉に内部の反応は? ◆私自身はそうでもないが、若いPI(研究室主宰者)たちは動揺しています。 −−このような提言も予想していたのか? ◆そこまではありませんでしたが、「臨床のことをしっかりやってほしい」と思っていたので、変わるべきところはあるとは思っていました。「消滅させてはいけない研究所」だと私は思っています。それでもアクションが遅いですね。 −−改革委の提言は理解できるか? ◆「消滅させよ」ということであれば納得できません。変わらないといけない部分があるということなら「アグリー(賛成)」です。 −−もう少し応用を意識した研究に、組織として力を入れるべきだということですか? ◆力を入れてほしいと思います。 −−さかのぼって、どの時点で理研の対応が遅いと感じられたか? ◆最初です。3月初めくらいでしょうか。これは病院でやっている危機管理と全然違う、遅いと思いました。もう少し「重大事だ」という認識を持たないといけない、という気がしました。 −−重大という認識が理研にもCDBにも感じられなかった? ◆そうなんです。 −−それが対応の遅れにつながった? ◆そう思います。病院の危機管理は、実際に起きたことや一般に思われているよりも、より深刻にものごとをとらえて対処するということを心掛けます。それを、私はやってきました。それが今回の理研は逆になっています。社会が思うよりも低く見積もり、世間が怒る、という悪循環で、事態がどんどん拡大していったと思います。 −−最初に最悪のケースを想定するのが危機管理ということですか? ◆それが基本だと思います。 −−一つの研究の問題が、CDB全体、日本全体の信用を失墜させていると思いますか? ◆そう思います、再生医療に関しても、STAPはとても再生医療につながるようなものではなかったわけです。(細胞が)あったとしてもです。まだまだ「再生医療」という言葉を口にしてはいけない段階だったのに、それにつなげて説明したことも問題だったと思います。 −−まだ赤ちゃんのマウスの細胞からしか作れない、という説明だったからですか? ◆それもありますが、安全性もまだ分からない段階でした。だから医療のことは口にしてほしくなかった。(記者会見などで)患者さんのことに言及されたのは、本当に怒りを覚えました。 −−再生医療に使えると期待させるような広報が問題だったのでしょうか? ◆はい。 −−臨床研究のプロジェクトで高橋先生が最も気をつけてこられた点ですね。 ◆そうです。患者さんに過大な期待をさせない、ということをずっとやってきましたから。STAP細胞の説明では、基礎研究と応用研究との距離感が分かっていないと感じました。あくまで「基礎の基礎」の「始まり」の段階だったものなのに、「応用研究」のような顔をしてしまった。 −−発表時に小保方氏とシニアの研究者がそういう発信をしましたが。 ◆基礎研究と臨床の距離を分かっていない人が発表すると、そうなるということですね。 −−小保方氏や笹井芳樹副センター長の対応について、どう思いますか。 ◆「真摯(しんし)」かもしれませんが、遅いと思います。私は調査結果全体を把握しているわけではありませんが、事実はどうあれ責任があるということを、もっと早く自分たちで表明すべきだったと思います。 −−論文の撤回も含めて遅いということですか? ◆そうですよね。遅いですよね。それが環境の悪化を招いたと思います。 −−臨床研究のスタッフに動揺はありましたか? ◆昨日ツイッターが、あそこまで報道されるとは思わなかったので、スタッフや他の方たちに迷惑をかけました。私たちのラボや臨床チームには動揺はありませんが、私たちのチーム以外の人に動揺を与えてしまって、それは大変申し訳なかったと思っています。 −−臨床研究は、当初の予定通りですか。 ◆そうですね。だから声を上げようと考えました。このままでは「荒れた海」なので、今から抑えなおしておかないと、と考えました。理研の信頼を早く回復してほしい。 −−より少数例になる可能性はありますか? ◆いろいろな可能性があります。(再生医療などの)法律も変わりますし、いろいろな可能性が想定できます。臨床としては必ずやります。 −−「遅れては困る」という患者さんはいますか? ◆一刻も早く治療してほしいという思いはあると思う。昨日私が駄目だったのは、「中止」という言葉を出したため、あたかも「臨床研究を中止する」というような報道になってしまった。「検討する」という言葉が「中止」と受け取られてしまったことが、動揺を広げてしまい、ご迷惑をおかけしたと思います。 |