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統治なき肥大化 小保方博士と理研の迷宮(下)
http://www.asyura2.com/13/nature5/msg/452.html
投稿者 あっしら 日時 2014 年 5 月 14 日 12:33:47: Mo7ApAlflbQ6s
 


「「悪意」の源流 小保方博士と理研の迷宮(上)」
http://www.asyura2.com/13/nature5/msg/445.html

「スター誕生の裏側 小保方博士と理研の迷宮(中)」
http://www.asyura2.com/13/nature5/msg/446.html

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統治なき肥大化 小保方博士と理研の迷宮(下) [日経新聞]
2014/5/14 7:00

 4月下旬、理化学研究所から取材を辞退するというメールが届いた。来年4月に特定国立研究開発法人に指定される予定だったが、STAP細胞論文問題の混乱によって今国会での法案提出が危ぶまれていた。そこで、新法人のメリットを担当者に聞きたいと依頼していたのだ。
 理研は拒否する理由をこう切り出した。
 「(新法人は)理研が自ら手を挙げてなるものではなく国から選ばれるものである」


■理研とは何か

 そこで、質問のテーマを「独立行政法人としての10年の総括」に変え、理事長の野依良治に依頼した。だが、広報担当者はメールで、「スケジュールが詰まっている」として、野依のメッセージを添付してきた。
 「光栄です。またの機会によろしくおねがいします」
 STAP細胞論文を巡る騒動が続き、理研と小保方晴子側が何度となく会見を開く中、組織のトップが1カ月以上、その席に現れていない。

 組織の行く末を左右する重大な局面で、理研がどこに向かおうとしているのか。研究拠点分散や任期制も、取材依頼の質問項目に入れたが、回答は得られなかった。
 「理研とは何か」。この根源的な問題を巡って、理研は迷走を続けてきた歴史がある。


■マンガで組織を語る

 四半世紀近く前、理事会は意見が対立していた。
 1993年、国内外の有識者を招いて運営と研究の評価を受ける「理研アドバイザリー・カウンシル」を設置している。その説明資料を作ろうとした時のこと。理事たちは、組織のミッションや役員の責任などが存在しないことに気づく。そこで、文書を作ろうとすると、理事長の小田稔が強く反対した。
 「文字として表現できないところに理研の良さがある」
 そう言って、「小田マンガ」と呼ばれる、組織をアメーバ状に描いた絵をもとに、口頭で解説すると主張した。
 結果、簡略化した英語版だけ作成して終わった。日本語で書こうとすると、組織や意思決定が複雑で、しかも具体的な表現にした瞬間に意見が対立したという。
 その複雑な組織は、さらに膨張する。2000年をまたぐ3年間に、生命科学だけで6つの研究センターを作ってしまった。組織内をまとめあげる統治(ガバナンス)が効かず、その隙を突かれた形で、国や行政の思惑に翻弄された結果だった。

それから10年を超える時が流れ、研究分野の重複解消に乗り出している。
 昨年4月、第3期中期計画が始まるタイミングで、研究センターを再編。その結果、埼玉県和光市の本所(本社)にある基幹研究所と横浜市にある植物科学研究センターの重複する研究室が統合され、「環境資源科学研究センター」になるなど、8の統合・再編が実施された。
 「その瞬間、イス取りゲームが始まった」(理研チームリーダー)
 センター長など主要ポストを争う。それでも、組織が一体として機能すればいいが、再編されたはずの研究室が、そのまま各地に分かれて残ってしまっている。「テレビ会議が多くなった。でも、近くにいるわけではないから、研究上の連携はとりにくい」(同リーダー)

■人も組織も「任期制」

 思い切って組織にメスを入れられない1つの理由に、統治しにくい研究現場の実情もある。
 研究員の9割近くが任期制で採用されているが、実は組織にも「期限」がある。すべての研究センターには、事業終了の期日が決められている。また、独立行政法人として、5年ごとに中期計画を見直す。
 「自分は5年で辞めるし、研究センターも期限が来る。さらに中期計画で再編される可能性もある。毎年のようにクビになるかもしれない節目がやってくる。それで帰属意識なんて持ちようがないでしょう」
 チームリーダーは、自分の部下たちに「機会があれば、転職するように」と勧めている。タイミングを逃すと、研究職として転職が可能な35歳の壁を越えてしまう。
 組織をまとめるどころか、常に「期限」に追われ、強い遠心力が働いている。その亀裂にはまって、STAP細胞論文は生まれてしまう。


■3人で見切り発車

 小保方は理研に入った当初、若山照彦研究所に所属していた。そして、若山の指導の下で2年かけて、STAP論文を作成するはずだった。だが、最終段階が近づいた時、若山が山梨大学教授に転出することが決まる。急きょ、後任として、発生・再生科学総合研究センターの副センター長、笹井芳樹が指名される。そして、提出までの2カ月、小保方を指導することになる。
 笹井は会見で、論理構成を作り上げるために、文章を大きく手直しをしたと話している。だが、2年前に英ネイチャー誌に提出して、却下された論文を読んでいなかったという。

 「若山先生が引っ越しで忙しくて、引き継ぎができなかった」(笹井)。そして、ノートなど実験の元データをほとんど確認することなく、共同執筆者として名を連ねることになる。
 「今回の事件は、小保方、笹井、若山の3人が、全員、少しずつ当事者意識が欠けていた。だから、みんなで見切り発車をしてしまったのではないか」(理研元研究者)


■「理解なき優遇」が科学をゆがめる

 理研が落ちた罠を、半世紀前に見抜いていた賢人がいた。
 朝永振一郎。京都帝国大学理学部を卒業後、1931年に理研の研究員になっている。そして65年、ノーベル物理学賞を受賞する。その年の講演会で、こう警鐘を鳴らしていた。
 「研究をして新しい技術が出てくると、非常にお金がもうかる、だから大いに科学を奨励しなくちゃいけない、そういう見方が出てきたわけです。ほんとうに科学の価値のおきどころを理解しての上の優遇でありませんと、科学自体、歪んだ形になってしまう。その優遇にむくいる科学者の行動もまた正しくない方向に向っていくおそれがあるのです」

 科学技術に、性急な経済効果を求める国や社会の姿勢を批判する一方で、科学者にも反省を促している。
 「科学者というのは何を考えているのかさっぱりわからないというふうにおっしゃるのも、無理ないことだと思うのです。少なくとも専門以外の人と話をする能力、そういうものをもたなくてはならない」(『科学者の自由な楽園』から抜粋)
 そして、違う分野の専門家や、社会との対話が重要な時代に入ってきたと説いた。
 それは、朝永が在籍した、戦前の理研をほうふつさせる。


■組織で研究する意味を問い直す

 1917年に財団法人として設立された理研には、戦前、日本人初のノーベル賞を受賞する湯川秀樹や、ビタミンの発見で知られる鈴木梅太郎など一流の研究者が名を連ねていた。寺田寅彦は随筆家、俳人としても高名で、夏目漱石が最も信頼を置いた友人といわれる。昼間はカフェに入り浸り、夕方から研究所に来て、「金平糖の角の研究」などあらゆるテーマで独自の研究成果をあげ、文学史にもその名を刻んだ。

 戦前、理研は産業化にも成功し、ピーク時には63社に上る企業グループを形成している。研究と実業を成功に導いたのは、東京帝国大学工学部出身の3代目所長、大河内正敏だった。
 「組織で研究をすることの意味を熟知していた」
 『大河内正敏──科学・技術に生涯をかけた男』の著者、専修大学教授の斎藤憲は、そう大河内評を語る。
 21年、経営難に陥っていた理研の理事長に就任すると、翌年に大改革を断行する。対立を深めていた物理部と化学部を解体して、主任研究員制度を導入。14の主任研究員が研究室を持ち、所長の直下に同列に並べられた。敵対していた両部の部長も、一主任研究員となった。
 そして「学術の研究と実際とを結合させる」とうたい、自ら率先して実業界などと広く交流を深め、理研のベクトルを定めていった。
 「大河内は、一見、自由に研究をやらせているようで、実は巧みに研究を成功へと導いていた」(斎藤)。休日に研究者が集まって研究の状況や成果を、大河内も交えて話し合う。他の専門家や社会との接点を増やしていくことで、新しいヒントが生まれ、自然と組織全体の進むべき方向性が見えてくる。
 組織として研究所が存在する意義は、相互作用に他ならない。規模が大きいほど、その知が織りなす「総力」を高める仕組みが求められる。
 だが、理研はバブル崩壊後、資金量を膨張させながらも、人材と組織は分散と短期化を繰り返してきた。小保方とSTAP論文問題は、組織の片隅で起きた特異な事件ではない。理研とその先に広がる日本の科学技術研究の世界は、大転換を迫られている。
=敬称略
(編集委員 金田信一郎)

http://www.nikkei.com/article/DGXBZO71119810T10C14A5000000/?dg=1


 

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コメント
 
01. 2014年5月14日 19:59:27 : zu2xsm5RUQ
あいかわらずくだらん報道。

こんな報道より、アベノミクスの再生医療規制検討委員会やバイオ企業のことや証券取引監視委員会のことやT大やW大とのつながりも絡めて理研のことを報道したらどうだね・・・

国民の血税がでたらめに使われようとされたのか否か、国民はそこが一番知りたいのよ。

そここそ報道を頑張るのが国民からすれば素晴らしいマスコミっていうことなのよ。

あまりにも近頃のマスゴミはピントが狂っている。

既得権益の御用達か。

あほくさ。


02. 2014年5月14日 22:19:09 : D538G41JYA
典型的な後出しじゃんけん報道。

STAP細胞以前からの理研をはじめとする我が国の研究体制に問題があったのなら、なぜもっと早くにこういう報道をしないのか。特定研究法人の法律ができようというときに、日経として報道する勇気がなかったのなら、実にだらしない。

また、今となって報道するなら、理研に限らずもっと広い視野で我が国の研究体制の課題を論じるべき。そしてどうしたらよいのかの提言もすべきでは。ここには、提言はまったくなく、「日本の科学技術研究の世界は、大転換を迫られている。」と無責任に評論しているだけ。小学生でもできる結論。



03. 2014年5月15日 12:30:27 : c2ZLdD2o3Q
基本的に 02番 (2014年5月14日 22:19:09 : D538G41JYA )さんの意見に賛成です。
さらに今回の小保方博士の研究不正の問題を理研の問題にすり替えて,小保方博士を擁護しようとする裏の意図が見え透いているように思われます。

悪いやつは悪いと 厳しく断罪する必要があります。そうすることによって小保方博士のまねをする人間が出てくるのを防げるのでは無いでしょうか。

その上で組織体制の問題等を考えるべきで,さらに理研にとどまらず,国公立大学の独立行政法人化の問題も再検討すべきでは無いでしょうか。

さらに今回の問題は証券取引員会の取り締まりも今後どうなるか注目すべきである都思います。


04. 2014年5月15日 23:55:01 : nJF6kGWndY
>理研とは何か

大学と違い、単なる研究プロジェクトの集合体

何か中心があるわけではない

メリットは流動性があり、先端のヒトとカネを、外部から大学、企業、国が潤沢に供給でき、重要で新しい課題に即応できる

デメリットは、無責任で、モラルハザードが起こり易いことだが、

そんなことは欧米で既にわかっていたこと


この程度の事件は、起こらなかった方が不思議なくらいだ

生活保護の不正と同じで、確率的に発生すると見て、それなりに対処すればいいだけの話



05. 2014年5月16日 01:52:21 : nJF6kGWndY

それに何と言っても、こういう小さい問題ばかり報道し

他の組織の露骨な不正や有害さ

そして隠蔽体質を報道しない方が、遥かに問題だろうな


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40686
JBpress>日本再生>オピニオン [オピニオン]
より批判されるべきは理研か東大病院か
同じ国が管轄する機関なのになぜこれほどの差が生まれたのか
2014年05月16日(Fri) 関家 一樹
 5月8日、理化学研究所は、「STAP細胞論文への研究不正認定に対する小保方晴子さんの不服申し立てにつき、再調査の必要はないとの結論に達した」と記者会見を行った。

 マスコミでは、調査に携わった委員にも研究不正があるのでないかと伝えられ、1月末に世紀の大発見と騒がれたこの問題は3か月を経てなお、連日の盛り上がりを見せている。

 確かに理研は問題の多い組織であり、そのことは私自身も他の記事で指摘させていただいている。しかし相対的に見たときには、理研はかなり誠実かつ真面目な組織であると言えるだろう。

 今回は、同じく1月半ばに問題が報道されたSIGN研究に関する東大病院と理研を比較してみたい。

不正内容の実態の差

 STAP問題は既に再三報道されているが、理研の小保方さんと共著者により発表された、再生医療などへの利用が期待されるSTAP細胞の論文について、論文中の画像が不正に改ざん・捏造されたのではないかと指摘されている問題である。

 小保方さんが争っているのは、あくまで理研の内規に従って研究の不正が認定されたことであり、現状は労働法的な不利益が科されていないため法律問題になっていない。

 したがってSTAP問題には被害者が基本的にいない、あえて言えば研究費を不正に利用された理研が被害者と言えるか、という程度にとどまる。

 SIGN研究は東京大学医学部附属病院の血液内科と、同科に事務局を置く研究会組織が主導して行った、白血病治療薬タシグナに関する医師主導の中立的臨床研究に、当該薬の製造元であるノバルティス社が不正に関与していたという事件である。

 この研究には22の医療施設が参加し、実際に慢性骨髄性白血病を患っている患者さんに対してアンケートを行ったうえで、一部の患者さんには治療薬の切り替えとタシグナの投薬が行われている。

 このようにSIGN研究は「研究に参加した患者さん」という人間を対象とした研究であり、マウスを相手にしていたSTAP問題とは大きな違いがある。

 注意したいのは、よりアクティブに「研究に対する不正行為を行った」と考えられるのはSTAP論文の小保方さんの方だということだ。しかしSIGN研究のように実際の患者さんが参加する臨床研究の場合は、パッシブに研究不正を行ってしまったとしても、非常に大きな被害を引き起こす可能性がある。

 SIGN研究の問題点は既に何度も指摘させていただいているが、大きなものとしては以下の3点が挙げられる。

(1)参加した患者さんの個人情報が製薬会社に流出したということ。
(2)製薬会社との利益関係はないと説明して、参加医療施設の倫理委員会の研究への承認を詐取したということ。
(3)製薬会社との利益関係はないと説明して、患者さんの研究への参加同意を詐取した上で、病態に関するアンケートや、実際に投薬を行ったということ。

 以上の点は、たとえ研究内容の改ざんがされていなくても、罪として問われるべき問題である。

 SIGN研究はSTAP問題と異なり、たとえ薬の効果があろうとなかろうと法律に違反しているのである。

ホームページから見る情報公開の差

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 現代において私たちが最も簡単に、当事者の直接の意見を受け取ることができるのはホームページである。

 そこでホームページでの理研のSTAP問題の扱いと、東大病院のSIGN研究の扱いを比較してみよう。

 右の画像は、
・理研のトップページ(http://www.riken.jp/
・東大病院のトップページ(http://www.h.u-tokyo.ac.jp/index.html

 を2014年5月12日15時〜16時の状態でキャプチャーし、筆者が問題を扱っている部分を赤く囲ったものだ。

 見てもらえれば一目瞭然であるが、東大病院の側に赤い囲いがないのはミスではなく、東大病院のTOPページから現在SIGN研究の情報は消えている。

拡大画像表示
 SIGN研究に関する記事は「慢性期慢性骨髄性白血病治療薬の臨床研究「SIGN研究」についての調査中間報告」という3月14日の記事のみで、これはTOPページからだと、「病院からのお知らせ」の右にある「>一覧」という部分をクリックし、さらにお知らせのページを「3月14日」まで下スクロールしてもらって、ようやくたどり着くことができる。

 一方、理研はSTAP問題について「研究論文(STAP細胞)に関する情報等について」という独自のページを設けており、情報を積極的かつ更新して発信している。

 さらに理研のホームページの特筆すべき点は、反対者の意見も自らのページで公開している点にあるだろう。先述のページの下の方には小保方さんの、理研の調査に対する不服を述べているコメントもPDFファイルの形で、きちんと整理されて掲載されている。

 情報開示の積極性と、開示に関する誠実さについては、率直に理研を評価して良いだろう。

 では、SIGN研究は医療系の臨床研究であり、刑事手続きの可能性があることからも、積極的な情報公開ができないのだろうか?

拡大画像表示
 SIGN研究のもう一方の主人公である、ノバ社のホームページ(http://www.novartis.co.jp/)を見てみよう(時期・加工については同様)。

 しっかりと、右側に背景強調までして掲載している。なお上から2番目のブロックについてはSIGN研究ではなく、降圧剤の臨床研究に関する不正関与事件に関するものであるが、ノバ社の側からみると同様事例という点で赤く囲っている。

 そしてこの降圧剤に関する研究不正については、ノバ社は現に厚生労働省から刑事告発を受けているという状況である。

 「刑事手続きが・・・」が危機対応における情報公開の言い訳にならないことは、このホームページを見ればすぐに分かるだろう。

 このように東大病院の現在のSIGN研究に対する対応は「人の噂も七十五日」よろしく、このまま黙っていることで何事もなかったように波が収まるのを待っているのではないかと勘繰りたくなるような有様だ。

 もっともそれは当のノバ社が許してくれなさそうだ。ノバ社は今年の夏までに2011年以降に行われた医師主導臨床試験への不正関与をすべて公表すると宣言しており、既に東大病院自身が記者会見で認めているように、SIGN研究以外にも不正関与が疑われる臨床研究が存在する状況だ。

 ともかく、現状の東大病院のホームページにおける情報公開の状況はあまりにもお粗末である。理研は多くの情報を公開している関係上、何度もメディアに露出することになっているが、そのことは理研に問題が多いというよりは情報公開に誠実である結果とも言える。理研のこの姿勢は是非、東大病院も真似てもらいたい。

不正への対応の進行の差

拡大画像表示
 では実際の不正への調査対応の進行についてはどうなのだろうか? 理研と東大病院にノバ社を加えた表で比較してみよう。

(理研は「研究論文の疑義等に関するこれまでの経緯」、東大病院は「慢性期慢性骨髄性白血病治療薬の臨床研究「SIGN研究」についての調査中間報告」、ノバ社は社外調査委員会の「調査報告書」に記載されている情報を基礎としつつ、ホームページで公開されている経過を筆者が補充した)


 東大病院については3月14日以降の情報が公開されていないので空白の状況だ。

 それでも2月13日に問題が発覚した理研が、2月13日〜17日の間に予備調査を終え、2月18日〜3月31日の間に本調査を行い、4月1日には調査結果を発表しているのに対して、東大病院は約1か月前の1月17日には問題が発覚していたのにもかかわらず、最新の状況では予備調査委員会の中間報告で止まってしまっている。

 SIGN研究の他方当事者であるノバ社に至っては、既に4月2日の段階で社外調査委員会による調査を終えて、改革的な処分である役員人事の刷新についても4月3日に完了している状況だ。

 文字ベースでは少し分かりにくいので、タイムテーブルにまとめなおしてみた。少し縦に長いがご容赦願いたい。

(3月16日の理研の笹井さんの記者会見については、個人のものとして外している)

 こうして見てみると、東大病院は「予備調査」の段階ですら、約1か月後に問題が発覚した理研に後れを取っていることが分かる。

 無論、何をもって「予備調査」とするかは、それぞれの組織の問題であり名称が同じであるからといって単純に比較はできないが、理研やノバ社が「調査」を完了し「改革」にまで手をつけていることに比べれば、東大病院の遅れは明らかである。

 東大病院は現在でも予備調査委員の名前が不明である。また中間報告では「利益相反申告のあり方については今後作業部会等を設置して対策を検討する」と記載しているが、この作業部会は設置されたのかさえ不明であり、大学本部に設置したことになっている、特別調査委員会の活動についても全く情報が開示されていない。

 また情報公開や進行との関係では、理研は当事者がしっかりと公開の場で発言している事が挙げられる。

 これはマスコミの取材攻勢によるものとも言えるが、それぞれの言葉でSTAP問題について自らの考えを述べるということは非常に勇気のいる行為であり、問題の当事者の姿勢として評価されるべきものである。

 他方でSIGN研究の研究責任者となっている、東大病院の黒川峰夫教授が公の場で自らSIGN研究についての所見を述べたという話は聞かない。

 参加医療施設の関係者の話によると、3月14日の中間報告後、黒川教授と部下の講師が謝罪に来たようだが、その際も竹田幸博事務部長に付き添い監視されていて、自ら口を開くことはなかったそうだ。

 どちらの姿勢が、問題の当事者として適切であるかは、論ずるまでもないだろう。

天下り官僚もいろいろ

 理研は文部科学省が管轄している独立行政法人である、ちなみにライバルの産業技術総合研究所は経済産業省の管轄だ。また東大病院も通常医療は厚生労働省の縄張りなのだが、国立大学法人東京大学の附属病院として文科省の縄張りになっている。

 独法や国立大学のように国が積極的に関与している法人には、管轄官庁のポストというものが存在し、いわゆる「天下り先」となる。

 こうした法人は事務的・人事的な運営能力がない場合が多く、またあったとしても結局予算を決めるのが管轄官庁である以上、管轄官庁の支配に服するしかない。したがって内部の組織運営を、元役人が音頭を取って決めていくことになる場合が多い。

 今回の理研ではコンプライアンス担当理事として記者会見にも登場していた、米倉実理事が文科省の出身である。

 東大病院の側も同じく中間報告の記者会見に登場した、竹田幸博事務部長が文科省の出身である。

 もっとも、同じ文科省からの天下りだとしても、両事件において果たしている役割はかなり違うようだ。

 記者会見を見る限り、理研の米倉理事は淡々と内規に従った日程で、調査委員会・不服審査・懲罰委員会と進行していくことを想定し、事実今までのところ理研の調査委員会や不服審査は日程通り進行してきている。

 他方で東大病院の竹田事務部長は、記者会見の際の日程の質問に対して「一切未定」と回答し、人事の処分についても「上で決める」と抽象的な返答に終始している。またある意味カメラを恐れず記者会見中にも門脇病院長に耳打ちをし、先述の通り謝罪行脚にも同行し研究責任者の黒川教授を監視しているという有様だ。

 東大病院があまりにも情報を公開していないため詳しい内部関係は不明であるが、それでも竹田事務部長の行動が調査の遅延、情報公開の制限を招いていると言われても仕方がない状況である。

 天下りを根絶しようというのは政治的に耳当たりの良い言葉であるが、現実的ではない。実際に管轄官庁との緊密な連携を取る必要がある以上、これらの法人には今後も一定数の天下りの方々が存在することになるだろう。

 こうした元役人の方々には、別にリーダーシップや正義感を発揮してもらう必要はない。ただ淡々と法律や内規に従って物事を進めていってほしい。

 ルールに従った淡々とした作業は何気ないように見えて実は難しく、事務能力が必要とされる。正に元役人としての能力を正しく発揮してもらいたい部門である。

 そうした意味で、米倉理事と竹田事務部長の言動はこれからも注目に値するだろう。

なぜこんな差が生まれるのか?

 ガバナンスの視点で見たときに、給料を得ている職員がいる組織に共通して言えることがある。

 それは「お金をくれる人の方向を向いて仕事をする」ということである。

 こう露骨に書くといかにも悪いことのように受け止められるが、たとえば株式会社で考えればこれはけして悪いことではない。収益の元となる顧客の方向を向くということであり、法により投資元・還元先・支配者である株主の方向を向くということである。

 そして株主は顧客から得た利益を還元されるという性質上、株主の満足を得るためには、顧客の方向を向く必要がどうしても出てくる。そして顧客が広範な消費者の場合、社会的な批判にも対応する必要が出てくる、という仕かけになるわけだ。

 既に進行の差で確認したように、理研・東大病院・ノバ社の三者を比較すると、トラブルに対し最も迅速かつ徹底して対応を行ったのが、株式会社であるノバ社だというのは客観的に明らかだろう。

 話はそれるが以前医療行為に株式会社参入を認めるか否かという議論の時に、「株式会社は営利のことしか考えてないから〜」というコンテクストで批判されたことがあったが、こうして実際のトラブルが発生した時にガバナンスを比較すると株式会社が最も優れた対応をしている(混合診療や広告規制との関係で、私は必ずしも現在参入を推進している人たちとは立場を異にするが、この話は機会を改めたい)。

 確かに株式会社は以前法定されていたように、営利のことしか考えていないわけだが、その営利を得るためには顧客の方向を向き社会的要請にこたえる必要がある。収入を維持するためには社会的批判に対して、迅速に対応する必要があるのだ。

 一方で国立大学法人の附属病院である、東大病院はどうだろうか?

 3月14日の記者会見において質疑応答の際に門脇病院長は、臨床研究への監督機能を強化するためにも国にはさらなる予算拡充をお願いしたい、との趣旨の発言をしている。

 これでは不祥事を起こすほど収入が増えるという理屈になる。企業経営者はたとえトラブルに対処するために予算が必要だとしても、記者会見の際に「トラブル対処のためにさらなる収益の増加を目指したい」とは言わない。

 端的に意識の差が見て取れるところであるが、東大病院が自分たちの収入が社会的批判とは関係なく「国」、ひいては管轄官庁の「役人」によって決されていると考えていることがよく反映されている。

 結果として社会的批判に対応する必要性はなくなり、特定の官庁の方向ばかりを向いた言動に終始するという事態が生じる。もっとも東大病院は多くの患者さんを見ている病院としての側面もある、東大病院の経営者である病院長が本当にそのような言動をする必要があるのかは再考する価値がある。

 理研も同じように国から予算を受け取る独立行政法人である、組織的傾向としてはどうしても管轄官庁の方向を向いてしまう。

 しかしここで理研と東大病院に大きな違いが出てくる。

 理研は自分たちで決めたルールである「内規」を、今のところ守りそして誠実に運用している。

 ガバナンスの基本の1つに「自分で決めたルールを自分で守る」ことが挙げられる。これは日程や組織を形式的に守るだけでなく、内規を定めた趣旨に従って誠実に運用するということも含まれる。また運用面では逆に内規で決めた以上の判断や職権を行使しないという、自制と分別を徹底することも必要になる。

 理研の「内規(末尾に添付)」は2004年に理研で発生した論文不正事件を受けて、2006年に制定されたものである。今回のSTAP問題を受けて改めて、この内規で良いのかを再検証する必要はあるものの、現状この内規は適切に運用され機能しているようである。

 こうした内規をあらかじめ作り守っていくことで、組織が本来向いてしまう方向以外の方向に着実に進むことが可能になる。

 では東大病院にも理研と同じような内規を作ればいいのだろうか?

 東大病院には既に理研と同等の内規があり倫理教育もずっとやってきているのだ。

 現在の東大病院の問題はシステムと言うよりは、運用の問題なのである。改善のためには運用をきちんとできる人に、運用をさせるしかない。

 したがって人事的な改革を行うことに尽きる。

 先述したが東大病院は、病院として見たときには多くの患者さんを診察しており、一経営体として存立することが可能な組織である。こうした独立した収益構造を持つ組織の経営者である病院長は、本来その収益構造を維持するために権限を行使することが許される。

 つまり東大病院はやろうと思えば改革ができるはずである。このままでは、明らかに東大病院のガバナンスは理研に劣っている。

おわりに

 STAP問題で割烹着やヴィヴィアン・ウエストウッドを見るのもよい、しかしたまには地味だが危険がはびこっている、SIGN研究のような臨床研究不正に目を向けることも必要ではないだろうか。

 患者さんという人間が被研対象となり、大規模な健康被害を引き起こす可能性のある臨床研究における研究不正は、けして時間が経てば消える問題ではない。これからも記憶を風化させることなく、指摘を続けていきたい。
 


06. 2014年5月16日 13:36:33 : nbLx0eVkgs
>>04 に100%同意します。
>>05 内部調査結果に基づく黒川教授の進退に関しては、私も重大な関心を持って見守っています。彼は今でも、院内の各種委員会の長などを勤めており、ご懸念を共有しております。

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