http://www.asyura2.com/13/nature5/msg/443.html
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STAP細胞の論文を巡り、一般の人たちにも「研究倫理の問題」が身近な話題となっている。過去に起きた研究不正事件を知ることは、研究者に求められる倫理とはどういうものなのかを具体的に考えていく上で参考になる。入門書としてはウイリアム・ブロード&ニコラス・ウェイド著、牧野賢治訳『背信の科学者たち』(講談社ブルーバックス)がお薦めであるが、残念ながら現在品切れであり復刊が望まれる。米国では1980年代から研究不正行為の発覚が相次いで起こり、社会問題となり始めていた。原著は83年に書かれ、科学記者の著者2人が様々な事例を取材して研究不正問題を広く提起した本であり、この系統の本の中では「古典」として位置づけられているが、その内容は今でも色あせていない。
■「画期的」の裏に
事例研究として優れているのは村松秀著『論文捏造(ねつぞう)』である。この本で取り上げられているのは、2002年に発覚した米国の名門研究所を舞台としたヘンドリック・シェーン氏による論文捏造事件である。読み返すと、この事例はSTAP細胞論文の問題との類似点が多いことに改めて気付かされる。若手研究者がその人しか再現できない「画期的」な研究成果を出し、その分野で著名な研究者にプロデュースされ、有名科学誌に論文が掲載され、「スター研究者」として華やかに登場する。この事件は、過去に起きていたジョン・ロング事件(1979年)やマーク・スペクター事件(81年)等とも共通性がある。その人しか再現できない研究成果を出すことで「凄腕(すごうで)の研究者」として賞賛されたカリスマが、実は不正を行っていたというケースは、過去の大型捏造事件に共通した典型的なパターンでもある。科学として大事な手続きである第三者による「再現性」の確認が疎(おろそ)かであったことは特記しておきたい。
STAP細胞論文の不正問題が日本の世論を賑(にぎ)わせているが、著者たちへの批判と共に擁護論も活発に行われている。不正を疑い調査の必要を訴えた人に対し、中傷や罵倒が盛んに行われる状況にエスカレートしている。韓国では、黄禹錫(ファンウソク)氏の論文捏造発覚後に、「将来の難病治療に有望な成果を出した研究者を潰すな」「国益のためにも黄禹錫氏を守れ」との擁護論が強まったことを思い出させる。黄禹錫氏の熱心な支持者たちが起こした様々な反応は李成柱(イソンジュ)著『国家を騙(だま)した科学者』に詳しく書かれている。著者の李氏は2005年に発覚した日本での研究不正の事例を取り上げて、不正を批判した科学者たちに対して妬(ねた)みによるものだと考える人はいなかったとして日本社会の成熟度を褒めているが、今回のSTAP細胞騒動を見ると五十歩百歩ではないかと思う。
■共著者の責任は
STAP細胞論文では、不適切なデータ使用の他に、共著者の責任についても注目されている。論文のオーサーシップの問題(誰を共著者に入れるべきか、または入れてはいけないか)は近年重要視されてきており、特に欧米諸国では厳しい目が向けられている。こうした経緯については山崎茂明著『科学者の発表倫理 不正のない論文発表を考える』で紹介されている。科学誌の編集者たちが集まって科学論文のあり方を討議してきた歴史や、論文不正に関する最近のデータが紹介されており、研究倫理問題の動向を知る上でも参考になる。
◇かたせ・くみこ サイエンスライター 64年生まれ。『もうダマされないための「科学」講義』(共著)など。
http://www.asahi.com/articles/DA3S11128548.html
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