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STAP論文不正問題で、理研は「再調査を行わない」と決定。小保方氏の実験ノートが8カ月で4ページしかなかったこと、画像切り貼りは「Science」からも指摘されていたことなどが明らかになった。
「STAP細胞」論文をめぐる研究不正問題で、小保方晴子研究ユニットリーダーによる不服申し立てを審査していた理化学研究所の調査委員会は5月7日、「再調査は不要」と結論付け、理研に報告書を提出した。これを受けて理研は8日、再調査を行わないと決定。同日午後、調査委員会と理研がそれぞれ記者会見し、判断の根拠などを説明した。
「悪意はあったことは明らか」「偶々(たまたま)の失念と評価できるものではないことは言うまでもない」――調査委員会の報告書には、「明らか」「言うまでもない」など強い言葉がたびたび現れ、小保方氏の説明や、不服申し立ての矛盾点などを指摘している。
調査委が「改ざん」と判定した、「Nature」の「論文1」の電気泳動画像は、以前に科学誌「Science」にも投稿されており、Scienceから修正すべきと指摘されていたこと、小保方氏の実験ノートが8カ月で4ページしかなく、「ねつ造」と認定した画像の差し替え用画像のルーツを正確にたどれなかったことなど、新たな事実も明らかになった。
理研は小保方氏に対して、論文1の取り下げを勧告。小保方氏などの処分は今後、懲戒委員会が議論して決める。
「悪意」は「故意」
理研の研究不正に関する規定では、「改ざん」「ねつ造」「盗用」を不正と定義。「悪意のない間違い」は不正に含まないとしている。審査結果の報告書では、「改ざん」「ねつ造」「悪意」の定義を示した上で、不服申し立て書の内容について1つ1つ反論している。
小保方氏側は、不正と認定された点について「悪意のない間違い」と主張。悪意の定義を改めて理研に問うていた。報告書では、「悪意は、法律用語としての『知っていること』の意であり、故意と同義」と定義し、小保方氏の悪意を改めて認定している。
電気泳動画像の切り貼り、Science誌が過去に指摘
論文1の「Figure1i」の電気泳動画像で、泳動距離が異なる別のゲルからレーンを切り貼り・編集して挿入していたことについて、小保方氏側は、「良好な結果を示す良好なデータが存在しており、架空のデータを作出する『改ざん』には当たらない」と主張していた。
報告書では「加工でFigure1iが真正でなくなった場合、改ざんの範疇にあることは言うまでもない」と反論。小保方氏は、標準DNAサイズマーカーを基準にレーンを切り貼りしたと主張していたが、調査委は「どう縮尺を変えても2つのゲルの標準DNAサイズマーカーすべてを一致させることはできない」と指摘。目視によって見かけ上、レーンを合わせることは可能だが、科学的根拠はなく、「データの真正さを欠くという結論は変わらない」とする。
この画像について、新たな事実も判明した。小保方氏は、論文1と同じ趣旨の論文を2012年4月にNatureに投稿し、掲載を拒否された後の同年7月、類似の論文をScienceに投稿。同誌の査読者から「異なるゲルから取った画像は、レーンの両脇に白線を入れなさい」と指摘されていたという。
Scienceに投稿した論文は、小保方氏が調査委への提出を拒否しており、指摘のあった画像がFigure1iと同じ画像かは不明だ。小保方氏は「Science論文は、Natureの論文1と論旨が異なる」「コメントを精査しておらず、具体的内容の認識はない」と主張しているという。
だが調査委は、「Science論文は論文1とほぼ同旨」と反論。小保方氏がScience論文の改訂論文と思われる論文を用意していたことも判明しており、「査読者のコメントに全く目を通していなかったなどの説明に合理性を認めることはできない」と指摘する。
画像はPowerPointで上書き……ずさんな管理 「ねつ造」判定の背景
調査委は、論文1に掲載されていたテラトーマ画像が、学位論文の画像に酷似していたことを、「ねつ造」と判断している。小保方氏側は、ミスで画像を取り違えたと説明。真正な画像(画像B)が存在することや、ミスに自ら気づいたことなどをあげ、「単なる画像の掲載違いであり、ねつ造ではない」と主張している。
調査委は、「ねつ造は、画像が論文に記載されている実験条件下で作成されたか否かで判断される」と反論。論文1の実験条件(酸処理で作成した脾臓由来のSTAP細胞)と、学位論文のそれ(細いピペットを通過させて作った骨髄由来のSTAP細胞)は大きく異なっており、「ねつ造の範疇にあることは明らか」とする。
「テラトーマの写真がどこを見ても見つからなかった」「いつ間違えたかも分からない」など小保方氏の発言を引用し、データ管理の手法も強く批判。複数の画像をまとめて掲載したPowerPointを上書きしながらFigureを作り続けていたこと、各画像に由来を示す説明がついていなかったことも挙げ、「まとめて編集したデータをそのまま使用する危険性を全く無視したものであると言わざるを得ない」と指摘する。
また、「論文1の投稿時期は多忙で、差し替えを忘れた」とする小保方氏側の主張に対しては、投稿から採択まで9カ月あまりあったこと、同旨の論文を12年にNature、Cell、Scienceに投稿していたことなどをあげ、「差し替えを行う機会は十分にあり、投稿時の特殊な事情は考慮する範疇にない」とする。
学位論文の画像は、小保方氏本人が「チャンピオンデータ(頻度は低いながらも非常にうまくいった実験データ)」と称しており、小保方氏の記憶にも強く残るデータと思われることからも、「異なる実験のデータである可能性を認識しながら使用したものと判断せざるを得ない」と指摘している。
実験ノート、8カ月でわずか4ページ
画像の取り違えは小保方氏自らが気づいたとしており、12年1月に取り出し、6月に染色・撮影したという真正のテラトーマ画像「画像B」が存在すると主張している。だが、その根拠となる実験ノートの記述が、きわめてあいまいだったという。
画像Bについての記述があるという75ページには日付がなく、73ページに「6/28」、76ページに「2/29」または「2/19」(いずれか判読不能)、81ページに「10月」と記載があるのみ(いずれも年の記載なし)。75ページには、日付の記載がなかっただけでなく、このテラトーマがどんな細胞と方法で作製されたかも記載されていないという。
通常はテラトーマを取り出してからすぐに免疫染色などの解析を行うが、小保方氏は1月に取り出してから半年後の6月に免疫染色解析を行ったと説明しており、調査委は「違和感を感じざるを得ない」と指摘。さらに、画像Bを撮影した後に提出したCellやScienceの論文に画像Bを使用しなかったことは、「なおさら理解しがたい」としている。
実験ノートの追加提出や診断書の提出なし
小保方氏は一連の不正について、「説明の機会が不十分だった」とも主張しているが、調査委は、小保方氏の会見後、追加の実験ノートの提出を求めたり、数日後にヒアリングを行う準備があることを伝えるなど、十分な説明の機会を与えたという。
だが、小保方氏側は実験ノートや追加の資料を提出せず、ヒアリングには「体調からして1週間程度の猶予が必要。必要なら医師の診断書を提出する」などと応じなかった。診断書の提出もなかったという。
小保方氏は退職か解雇? 処分は懲戒委員会が決定
今後は、懲戒委員会を組織し、同委員会が小保方氏などの処分を決める。理研の規定では、論文不正があった場合、「諭旨退職及び懲戒解雇」となっており、「情状により懲戒(減給、降格など)にとどめることがある」とされている。
小保方氏や論文著者の処分の見通しについては「懲戒委員会の判断」(理研のコンプライアンス担当理事・米倉実氏)とし、触れなかった。懲戒委員会の判断が出るまでには、一般的には1カ月程度かかるという。
理研はSTAP細胞の国際特許を申請しており、特許の取り下げは行わないという。特許についての今後の対応は、「検証実験の結果を踏まえて判断したい」(理研の研究担当理事・川合眞紀氏)としている。
調査委員への疑義は
調査委員のうち3人の論文にも、電気泳動画像の切り貼りに関する疑義が出ており、所属先が調査するなど対応に追われている。
東京医科歯科大の田賀哲也教授は、疑義のあった2004〜05年の論文について、「論文の記述に合うよう画像の順番を入れ替えた。そのままだと真正でない画像を、真正なものにした」などと説明。同大は両論文について、「不正はなかった」とする予備調査を結果を発表している。理研所属の2人はコメントを避けた。
理研の川合氏は、「2000年代にソフトが発達し、データの加工が非常に簡単にできるようになったことに伴い、加工されたものを正しく判定することが重要になった」と指摘。「加工がいけないのではなく、科学の真正性、事実を曲げることが問題」と述べた。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1405/08/news166.html
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