01. 2014年4月17日 16:30:11
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理研の笹井氏が会見 - STAP論文にかかる8つの疑問を説明理化学研究所(理研)は4月16日、都内で理研 発生・再生科学総合研究センター(CDB)副センター長の笹井芳樹氏が一連のSTAP論文に関する自身の立場などの説明を行う会見を開いた。 冒頭、笹井氏は「STAP研究の論文に対し、多くの混乱と、その齟齬による多くの心配、また疑惑を招く事態となったことを心よりお詫び申し上げます。また、期待を寄せるたくさんの人たちの 信頼を損ねることになったことを心よりお詫び申し上げます」と頭を下げた後、「Natureの論文について、2つの研究不正行為が調査委員会によって判断され、この論文に参加したシニアな共著者として心痛の極み。また、本論文の不備、不正認定により、日本の科学全体を損ねかねない状態になっていることについても、研究所内外の研究者、国際コミュニティの皆様に心よりお詫び申し上げます」と述べ、再び頭を下げた。 ■論文共著者ではなく、論文作成の「アドバイザー」として参加 今回の会見では、2014年2月中旬以降、笹井氏に寄せられた多くの質問の中から、共通して聞かれる論文作成に関する質問として5つ、そして科学面に関する質問3つに対する説明が行われた。 論文作成に関する質問は、大きく述べると以下の5つ。 研究論文作成における役割 どうして過誤を見抜けなかったのか 経験の浅い人物を研究リーダーとして選出したことは問題でなかったのか 論文の撤回に同意するか 発表時の資料におけるSTAP細胞とiPS細胞の比較で不必要な比較が行われていなかったか 1つ目については、「(論文)投稿までには4つの段階がある。1つ目がアイデアの着想、2つ目が実験の実施、3つ目が実施された実験データの解析とその実験ごとの図表の作成、そして4つ目が、それらをまとめて論文を書き上げる段階」とし、今回の論文については、この関係性が複雑であり、1つ目については主にハーバード大学および若山研究室にて行われ、2つ目の実験についても若山研で、小保方氏と若山氏が中心となって実施し、3つ目の図表の作成も小保方氏により行われたとのことで、実際に笹井氏が参加したのは4つ目の論文を書く段階であったとした。 また、その論文作成においても、実際には2012年初に小保方氏と若山氏の手によってNatureに投稿されたものが却下されたことを受けて、理研の人事院が研究内容に対し、完成度が十分でなく、データの追加だけでは採択が難しいという判断をしたことから、CDBセンター長である竹市氏から、笹井氏へ論文の仕上げ面についてサポートを行うように、という依頼があったので引き受けたということで、「その段階ではあくまで論文に名前を連ねるつもりはないアドバイザー的な位置づけ」として参加したという。また、その頃、若山氏が山梨大学へ移ることとなり、その移転作業で謀殺されていたこともあり、論文の仕上げを積極的に代行して引き受け、STAP細胞のライブセルイメージングや試験管評価などの実験試料の評価を実施するなど、追加実験や技術指導として協力していたという。 実際に論文の共著者として名前を連ねることになった経緯としては、ハーバード大学のチャールズ・バカンティ教授の要請があったこと、ならびにレター(Letter)論文の方についても、改訂論文の作成時に、若山氏の専門外である細胞生物的解析を査読者から要求されたことから、その部分の追加を行うために必要ということで若山氏から責任著者として加わってもらいたいという依頼を受けて参加したと、あくまで自身としては「アドバイザー」として参加する立場でいたことを強調した。 ■実験ノートは見る機会がなかった 2つ目の「どうして過誤を見抜けなかったのか」、という点については、「こうした問題は決してあってはならないこと」と述べ、「共著者である自分が論文の不正を見抜けなかったことは慙愧の念に堪えない」と後悔の念をにじませながら、「論文を書きあげる段階からの参加であり、その時点ですでに多くのデータが図表になっていた。今回、不正と認定されたデータも2012年度よりも以前のもので、生データや実験ノートを見る機会がなかった。小保方氏はユニットリーダーという独立した研究者であり、直属の部下ではなかったため、(自分の研究室に在籍しているような)大学院生に指導するようなノートを持ってきて見せなさい、という不躾なことができなかったことが問題であった」と、原因を分析。 また、「(できあがった)図表は、ほかのデータと整合性があり、それだけを見ても間違いを見抜くことはできなかった」とし、複数のシニア研究者が共著者として参加した特殊な共同研究のケースであり、文章の仕上げを行った笹井氏と、そこまでの過程の指導をしてきたのが若山氏という別々の人物であったこと、そしてバカンティ教授も米国に居た、といった事情が2重3重のチェック機能を働かせなかった要因の1つという分析を示した。 ちなみに、「論文投稿時に、過去にさかのぼって生データをチェックすれば、という話もあるが、それは現実的ではない。それでも、若山氏と協力して小保方氏に対して注意喚起をしなかったことや、文章全体を俯瞰する立場にあった自身の立場を考えるとその責任は重く、申し訳ないと思っている」と反省の弁を述べた。 ■論文の撤回は適切な判断 3つ目の「経験の浅い人物を研究リーダーに選んだこと」については、2012年12月中旬に実施された選考審査の中においては、他の研究リーダーと同様に、CDBの人事委員会にて研究内容や研究の進捗などを聞いて、それに対する議論を行い、かつこれまでの小保方氏の指導者やそれに準じる人たちからの評価を加味し採用を決定したとのことで、この流れ自体は、通常の人材採用の流れと同じであり、そこに偏りがあったとは言えない。 また、研究リーダーの選考にあたっては、大胆な独創体を若手から提案することを奨励しており、「30歳前後でリーダーになることは珍しくない」とし、そのフォローアップのためのシステムも整備していることを強調。小保方氏については、「採用時、生物系の研究者としての歴史も浅かったことから、もっとも小さなサイズのラボである研究ユニットを主催してもらうことを決定し、その後、論文の発表を経て、シニア研究者が分担して、多面的な教育育成を行う計画を立てていた」と事情を明かした。 4つ目の「論文の撤回に同意するのか」という点については、「論文の信頼性が複数の過誤や不備により損なわれた以上、STAP細胞の真偽には理研内外の再現検証が必要になってくる。そういう考えをもとにすれば、撤回をすることが適切な判断であると考えられる」とし、小保方氏が会見で述べた、「(論文の撤回は)国際的に、その結論が完全に間違えであったと示すことになると考えている。著者として間違いであると発表することになるので、結論が正しい以上、撤回は正しい行為ではないと思っている」との発言に対しては、「そういった考え方があることも理解できる」と一定の理解を見せたが、「一度、検証することを決めた以上、議論的にSTAP現象は検証すべき仮説となったと考える必要がある」とし、改めて仮説を実証した上で、論文を提出すべきであるとの姿勢を崩さなかった。 5つ目の、「会見時の資料におけるSTAP細胞とiPS細胞の比較における不必要な比較の有無」については、「発表時の資料は、あくまで基礎的なマウスの研究段階としてリリースしたものであり、当初の目的は原理論の解説」とし、「そこから技術効率論の話題として独り歩きをし始めてしまい、京都大学の山中伸弥教授や京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の皆様にはご迷惑をおかけしてしまった。自ら京大にお詫びに赴き、資料の撤回を行うことを決めた」と経緯を説明した。笹井氏としては、イラストによる原理的な説明を意図していたが、資料にはiPS細胞の誘導効率として、開発当初の数値(山中因子のみを使用)を用いていたために、STAP細胞のほうが効率が良いという話に発展してしまったという見解であり、「現在のiPS細胞の誘導効率が向上していることも十分認識しており、STAP細胞の優位性を強調する意思はなかった」という説明のほか、「CDBでは積極的な関係をCiRAと築いてきており、今後もその関係を維持していきたいと思っている」と再生医学を進めるうえでの共同歩調をとっていく姿勢をしめした。 ■STAP現象でないと説明が付きづらい複数の現象を確認 8つの回答の内5つは論文の作成に関するものであったが、残る3つは実際のSTAP細胞やSTAP現象に対するものであり、大きく分けると以下の3つの質問となる。 STAP現象の存在の有無に関する笹井氏自身の見解 STAP現象を前提にしないと容易に説明できないデータが存在する件 STAP現象を再現するためには何が難しいのか 1つ目については、「検証を行うと決めた以上、STAP現象は検証すべき仮説となった。ただし、観察現象をもとにすると、十分観察するべき合理性の高い現象である」と考えられるとの見方を示した。 その観察するべき合理性の高い現象である背景が2つ目の回答につながる。今回笹井氏が示した「STAP現象を前提にしないと容易に説明できない部分」は以下の3つ。 ライブセルイメージング(顕微鏡ムービー) 特徴ある細胞の性質 胚盤胞の細胞注入実験(いわゆるキメラマウス実験)の結果 ライブセルイメージングは、ほぼ全自動で細胞の様子を観察、撮影し、その1コマ1コマに日付データなどのデータが付与される。また、感度も高く、人為的に入れ替える動きなどがあれば、即座にそれを感知できるため、そうした不正を働きにくい手法だ。また、死んだ細胞(死細胞)の自家蛍光との区別もできるため、実際に撮影された映像にある、「Oct4-GFPを発現しない分散したリンパ球から、Oct4-GFPを発現するSTAP細胞特有の細胞塊が形成される」という現象を、そういったものと見間違える可能性は低いとした。 また、リンパ球やES細胞も小さな細胞と考えられているが、STAP細胞はさらにその半分程度と、小さな細胞であり、ES細胞と比べても、核も小さい特殊な細胞であることが分かっている。遺伝子発現パターンの詳細解析でも、STAP細胞はES細胞や他の幹細胞とは共通の部分もあるが、一致しない部分もあり、単純にES細胞が混入したという説明はできないとした。 さらに、ES細胞は増殖能が高く、1個1個の細胞を分散させて培養が可能だが、STAP細胞は増殖能が低く、分散力も低いため、バラバラにすると死んでしまうという点もES細胞では説明がつかないとした。 この他、キメラマウス実験の結果についても、小さな細胞塊が存在しているが、ES細胞やTS細胞が混ざった場合、細胞接着がうまくいかず、1つの細胞塊にならないこと、内部細胞塊細胞の可能性も指摘されているが、STAP細胞の方が小さく、これを見間違えることはないとする。 「1個人の人為的操作が難しい確度の高いデータを見ても、ES細胞など、従来の細胞では説明できない特殊な反応が見られている。これらを加味して考えると、STAP現象(STAP細胞)は合理的な仮説として説明できると思っている」と、STAP現象はもっとも有力な仮説となりうると説明したが、「仮説にはつねに反証があり、それを吟味していくのが科学の常道。現時点で思いついていない反証仮説が出てくる可能性もある」とし、その検証のために理研が現在進めている研究が重要になり、それが最終的に第3者でもできるようになることが必要とした。 ■なにが再現実験を難しくしているのか? そして、最後の「STAP現象の再現はどこが難しいのか」という点。これについては、「今後の検証過程で、詳しく検証をしたうえで、明らかにしていくのが筋」としながら、個人的な見解として、ライブセルイメージングなどの解析から体細胞からSTAP細胞と思われる細胞の塊が形成される7日間には少なくとも4つのステップがあるとする。 1つ目のステップがストレス処理を行った後の1〜2日目ころ。いわゆる「サバイバルステップ」で、強いストレスを受けて8割程度の細胞がゆっくりと死亡していき、その後、2割程度の細胞がストレスから回復しつつ生存するという状況である。 2つ目のステップが、2〜3日目ころ。ストレスから自己防衛に成功した細胞が小型化し、多能性マーカー(Oct4-GFP)を弱く発するようになる。また逆に分化マーカーの発現は減弱することとなる。 3つ目のステップが、3〜5日目ごろ。Oct4-GFP陽性細胞が集合していき、弱い接着を開始し、小さな集合塊を形成する。この様子について、笹井氏は「シャーレの中を活発に動くことがライブセルイメージングにより観察されている」とする。 そして4つ目のステップが5〜7日目ごろ。集合塊が大きくなり、Oct4-GFPの発現強度が高くなり、その他の多能性マーカーの発現も強くなる時期であり、これにより多能性が獲得されるとする。 実際の検証では、この7日間でできあがった細胞を検証していくことになるが、何が促進しているのか、阻害しているのかについては部分的にしか判明していないとする。すでに判明している部分については、丹羽氏が中心となって執筆したプロトコールとして公表されているが、「それだけでは完全ではない。やりかたによって、書ききれていないものが存在すると思う。特に第2ステップ、第3ステップで止まってしまう培養も多いことが知られている。生後3週目以降のマウスでは生後1週目のマウスに比べて、発現が止まってしまいやすいというデータもある。そうした解析も含め、論文に記載されている部分、予備的な部分も含め、検証チームにより再現性の高いプロトコルが今後、作成されていくことになると思う」とした。 また、小保方氏が会見で述べていた「コツのようなものがある」という発現については、「2つのレベルのコツがあると思っている」との見方を示した。1つ目は、論文の作成に取り掛かった最初の2011年時点で小保方氏が最良と思われたプロトコルであり、「本人には気が付いていないが、ハンドリングや微妙な手際など、個人的なコツがある可能性がある」とする。もう1つのコツは、「詳しくは聞いていないが、そこから改良したバージョンが存在する可能性がある」とするが、このいわゆる改良版の2014年バージョンを小保方氏が持っているかどうかについては、あくまで推測であり、何とも言えないとした。 ちなみに第3者の成功については、発表前に少なくとも1名、発表後にも1名が細胞塊ができ、多能性マーカーができる部分まで成功した人がいるということまでは聞いているが、理研の検証としては「次の段階のキメラマウスや奇形種などまで一貫してやらないと意味がない」とした。 今回の会見で、笹井氏は、あくまで当初はアドバイザー的な役割が求められており、それにこたえる形で参加していただけで、実際の根幹となる実験などは若山氏と小保方氏を中心にしていたという回答を何度も行っていた。また、論文のチェックについても、一度若山研時代に投稿しているものについては、若山氏が当然チェックしているものという判断をしており、そこまで詳しく確認をしていなかったとし、そうした複数の研究者が段階ごとに参加していき、混沌とした状態になっていったことが要因の1つとなっていったことを強調していた。 なお、笹井氏は、小保方氏に対し、「こうした事態を避けてあげられなかった自分のアドバイザーとしての力の足りなさを詫びたい」とコメントしている。 http://news.mynavi.jp/articles/2014/04/17/stap_sasai/ |