02. 2014年3月11日 04:49:27
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20140309/260768/?ST=print 小保方博士の報道に見る“オトナ”になれない日本社会
「ジャッジできない俺は無能?」正解を強要する“A型上司”の罠 2014年3月11日(火) 河合 薫 さっさとジャッジできないのはいけないこと、ダメなこと――。そう考えるリーダーは、実に多い。 「あわぁぁ〜、あの……いつも、そんなにまくしたてているのでしょうか? た、多分そこに御社の問 題の根元があるのでは……」 と突っ込みたくなるほど、スピーディなジャッジにこだわるトップに、先日もお目にかかった。 競争が激化すればするほど、性急に白黒つけて、はっきりしたくなる。遅いよりも早いほうがいいだろ うし、白か黒か、はっきりしたほうがすっきりもする。 でも、世の中、そんなに白黒つけられることばかりじゃないわけで……。無駄だと思われているものが 実は大切なものだったり、非効率なほうが思いもよらない産物につながったりすることもある。 急いで白黒つけることで、失われているもののほうが多いのでないか? そんな気持ちになることが、 最近多い。 というか、私自身がちょっとウンザリ気味なのだ。すぐに、「白か黒か」とケリをつけたがるリーダー たちに……。いや、正確には、世の中の風潮に、といったほうがいいかもしれない……。 そうなのだ。過剰なまでに、「白と黒=ポジティブとネガティブ」の対立軸で物事にジャッジを下すこ とがどうにもスッキリしない。なんだかとんでもなく、それが息苦しい。 そこで、今回は、「白と黒」について考えてみようと思う。 社員にスピード決断を迫るモーレツ社長に唖然 「何ごともスピード感を持って、決断と実行ができなきゃ。日本人の曖昧さは、企業にとって命取りで す。もっと迅速に、決断していかないとダメ。今後、ますます当社を取り巻く状況は厳しくなるから、結 果が出ないもの、無駄なものはどんどん廃止しなきゃダメ。そうしないと生き残れません」 「なので、私はいつも社員には、白黒を早急に見極めて、必要なものにはどんどん投資しろって言って るんだけどね。これが、どうも社員に伝わらないみたいで。のんびりしてるんだよね。ホラ、昔あったで しょ。ファジーって? それじゃダメなんだけどね」 「アナタもいつだったから、書いてましたよね? 社員と顔と顔を突き合わせて、話す時間をトップは 大事にしなきゃダメだって。私も社員の意見を聞くように心掛けているし、そういった場をいくつも設け ている。でも、意見が出ない。ダメだね〜。たまに出たとしても、発想が貧困だし、改革精神に乏しい。 危機感がない」 「やっぱり内向きなんですかね。これからは外にどんどん目を向けて、チャレンジしていかなきゃダメ なんだけどね。まっ、そういうわけなので、社員にちょっとアナタからも発破かけてくださいな。私はち ょっとこのあと用事がありますんで、せっかくのお話を聞けないんですけど。よろしくお願いしますね」 これは先日、講演会に呼んでくださった会社の社長さんが、控室にご挨拶に来たときに話してくださっ たこと。 数々の業績をあげ、鳴り物入りで親会社からやってきたという、この社長さん。彼は、ここには書きき れなかったほどの、「ダメ」「ダメ」「ダメ」を連発し、「僕はね、時間に追われていて忙しいんだよ」 と言わんばかりの早足で、とっとと出て行ってしまったのである。 メチャクチャすごかった。というか、正直、唖然とした。 攻撃的で、油断がない語り口。歩くのが速く、話すのも早口で、とにもかくにもこの社長さんのパワー はすさまじかった。 絵に描いたような、『A型行動パターン』の持ち主だったのである。 経営者や役員に多く見られる「A型行動パターン」とは? A型行動パターンとは、米国の心理学者、フリードマンとローゼンマンが提唱したもので、 「できるだけ短い時間に、より多くのことを達成しようとする慢性的で絶え間ないもがきがあり、もし そう要求されたら、他の物事や他人と衝突してでもやり遂げようとする」 行動パターンのことを言う。 欧米と日本では、A型行動パターンの特徴が異なるという議論もある。ただし、何が異なるのかという 点については意見もまちまちで、日本で実施された多くの調査では、A型行動パターンの顕著な人は経営 者や役員、部長クラスに多く、残業が長く、大量の仕事をこなすといった傾向が共通に認められている。 まぁ、要するに、A型行動パターンとは、いつも時間に追われていて、爆発的で性急な言動を取り、目 標の達成に邁進し、競争心が強く、昇進意欲が高く……(書いているだけで苦しくなった)、……往々に して自他ともに認める、“デキる人”だ。 ちなみに、A型行動パターン特性は、心理特性や行動特性と疾病との関連性を発見した、先駆けとなっ た理論でもあり、A型行動パターンの人は、そうでない人に比べて、冠動脈疾患や心筋梗塞をはじめとす るストレス関連疾患の発症リスクが格段に高い。“デキる人”は、心身の状態に十分過ぎるほど、気を配 った方がいい。 『余裕をもち、曖昧さを大切』にさえすれば、リスクは低下するのだが、それが実に難しい。なんせ、 これらの姿勢や行動は無意識だから。よほど頑丈な“強制ギブス”をはめない限り、「慢性的で絶え間な いもがき」は是正されないのである。 何でも「白黒つけたがる」傾向、気になりませんか さて、話を戻そう。 いずれにしても、このトップの方は、「白黒を早急に見極める」必要性を強調し、「ファジーはダメ」 だと、曖昧さを否定した。 「ファジー」――。実に、懐かしい言葉だ。 1990年のバブル期には、「ファジー家電」なるものが一世を風靡し、「まっ、いいんじゃね〜」とか、 「まぁ、そんな感じでヨロシク〜」といった、ファジー言葉も飛び交った。 だが、今では完全に死語と化し、曖昧さが否定され、白黒つけたがる傾向が広がっている。 勝ち組・負け組なんてものは、そのさきがけだし、政治も、TPP「賛成・反対」、原発「賛成・反対」 などなど、二分法ばかりだ。 金銭的にも時間的にも、余裕がなくなったからなのか? 価値観が多様化し、物事が複雑になったから なのか? それこそ原因は一つではなく、白黒つけられないのだとは思う。 もちろん限られた資源の中でやりくりするには、何かを選び、何かを捨てる、選択と集中が重要なのだ ろうけど、ホントにそれでいいのだろうか。前述のトップの方のような“A型行動パターン”が、日本中 に蔓延しつつある……。そう思えてならないのである。 小保方博士へのネガティブ報道に感じる不安 例えば、小保方博士の論文の報道にも、その傾向が見え隠れする。 「世界的な発明」、「ノーベル賞候補だ!」と散々持ち上げたかと思いきや、「捏造か?」なんて見出 しが週刊誌やネットの画面に踊る始末だ。 論文の掲載元であるネイチャーの調査結果も、まだ明らかになっていないにも関わらず、あたかも「× (バツ)」と言わんばかりの報道や、コメントが行き交っている。 京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授が、 「STAP細胞は、細胞の初期化メカニズムに迫る上で、極めて有用です。またSTAP細胞は未来の医療、た とえば移植に頼らない体内での臓器の再生、失われた四肢の再生などにつながる大きな可能性のある技術 です。iPS細胞研究所でも研究に取り入れて行きたいですし、理化学研究所等、他の研究機関と最大限に 協力して、技術の発展に貢献していきたいと思います」 とHPで見解を述べているにも関わらず、だ(全文はこちらを参照)。 だいたい、どれだけの人たちが、『Nature』(ネイチャー)という科学雑誌に掲載されるまでのプロセ スや、そのハードルの高さを知っているのだろうか。 いかなる分野のジャーナルであれ、レフリー(審判員)付きの場合には、その研究分野に精通するレフ リーが2〜3人つく。そして、最初のハードルでレフリーが「箸にも棒にもかからない=論文掲載は×(バ ツ)」と判断されたものは、リジェクトされる。 一方、「議論の価値あり=△(サンカク)」と判断された場合には、筆頭論文執筆者は、「これでもか !」っていうほど、レフリーから重箱の隅をつつかれ、やりとりを繰り返す。指摘の1つひとつに、相手 を納得させるエビデンスを示し、論文を修正する。このやりとりが実に厳しく、知力も、体力も、気力も いる作業なのだ。 なんといっても、相手はプロ中のプロだ。その分野を知り尽くし、さまざまな視点からも議論できるプ ロフェッショナルの研究者を納得させるのは極めて難しく、これはとことん考え抜く作業でもあり、自分 との戦いでもある。 特にネイチャーのようなジャーナルでは、このハードルが高く、1万本前後の論文が毎年投稿され、ジ ャーナルに掲載されるのはわずか800本前後。掲載に至る論文はわずか8%しかない。 私も研究者の端くれなので、海外の産業心理学系や公衆衛生系のジャーナルに投稿することがあるのだ が、1回目の査読で指摘された点を、決められた期日内に修正し、その結果にNGを出され、ジ・エンドと なることもあれば、2回目の査読で新たに重箱の角をつつかれ、さらなる修正を求められることもある。 そこで、「やっぱダメね」とリジェクトされてしまうときもあれば、査読はどうにかくぐり抜けても、 最後の最後で編集部からNGを出されてしまうこともごくたまにある(編集部にNGをだされた経験は私には ないが)。とにかく骨が折れる。しんどい。が、それ以上の収穫もある。レフリーとのやり取りでは学ぶ ことが多く、論文が掲載される間にわずかながら成長できるのだ。 「第一に、あらゆる科学分野における重要な研究成果を、迅速に掲載することで研究者を支援すると同 時に、科学関連のニュースや問題を報告し、議論するためのフォーラムを提供することです。第二に、研 究成果について、その学問的意義や文化的意義とともに、身近な生活にどのように関わっているかを解説 し、世界中の読者に速やかに伝えることです」 これは、ネイチャー が1869年の創刊時に掲げ、144年経った現在もなんら変わることなく守り、行き続 けている「創刊の趣旨」だ。 要するに、論文掲載は、あくまでもスタートライン。「これは議論に値する△(サンカク)です。△を ○(マル)に近づけ、世の中に貢献するために、さぁ、みなさん、議論をはじめましょう!」と、専門家 たちがスタートの旗を振った。今度は世間から、「◯」をもらう作業が始まるのである。 つまり、小保方博士の研究結果は、肯定されたわけでも、否定されたわけでもない。まさしく△。将来 、結果的に〇になることもあれば、残念ながら×になることもある。だが、仮に×になったとしても、小 保方博士の研究結果は、「細胞の初期化メカニズムに迫る上で、極めて有用です」という山中教授の言葉 どおり、意味のある発見なのだ。 短期的な判断では、“伸び代がある人”を見いだせない いずれにしても、この△を△だと認め、どうしたら○にできるかをとことん考えさせ、○に近づくため の議論をとことんして、実際にとことん試してみる。 そのめんどくさい作業を繰り返すことのほうが、「白黒を早急に見極める」ことよりも大切なんじゃな いだろうか。 だが、なぜ「○」にならないのか、を考えるのは実にしんどいから、そのしんどい作業にさっさとケリ をつけたくて、白黒つけたくなる。そして、あたかもそれが正解であると思い込み、「はっきりした」と いう事実に納得する。要するに、ジャッジすること自体が目的化している。 決断できない人を無能扱いすると、チャレンジ精神を奪う 「いつ結果を出せるんだ?」 「それで勝てるのか? どうなんだ?」 と毎回、責め立てられたら、怖くて何も言えなくなる。 「必要なのか? 無駄なのか? どっちなんだ? はっきりしろ」 なんて迫れたら、 「無駄です」 としか答えられない。意見を言わないのではない。言えないのだ。 で、終いには、自分でジャッジするのを止め、トップが好みそうなジャッジを下すようになる。そのほ うが楽だから。言われたことだけやったほうが楽。さっさと判断を下せない「自分=無能な自分」と思い たくないから、部下自身もジャッジそのものを目的とするようになる。物事の本質の議論がないがしろに されたら、改革もへったくれもあったもんじゃない。 完全なる負のスパイラル。トップが拙速にジャッジしたがることが、社員たちのチャレンジ精神を奪い 、改革精神を乏しくする。すると、ますますトップは、部下たちをまくし立てるようになり、ますます部 下たちは、楽な道を選ぶようになる。なんとも……、皮肉なことだ。 「最近は人事評価も、若いうちに、使える人材かどうかのジャッジが求められるので、イカタイプの人 材が切り捨てられちゃうんですよね。人って、噛めば噛むほどいい味を出すタイプがいるんです。伸び代 があるというか……」 ある会社の人事部の方が、こう嘆いていることがあった。 新しいものは常に混沌としていて、実に曖昧で、貧弱だ。だからこそ、おもしろい。 「成熟するということは、曖昧さを受け入れる能力をもつということ」――。 このジークムント・フロイト(オーストリアの精神分析学者)の名言を、私なりに解釈をすると、 今の世の中では「最低」と評される「まぁ、そんな感じでヨロシク〜」的至極曖昧なリーダーを演じる ことができるトップこそが「成熟したトップ」であり、厳しい競争を生き抜く最大の策なのじゃないだろ うか。 人生を変える ココロノート 本コラム筆者の河合薫さんの新刊が発売されました。変化の激しい今の時代。5年後に、あなたの仕事、
ポジション、あなたの会社はどうなっているでしょうか。5年後に必要な人材になるために、今、私たち がすべきことは、「5年後の未来を記憶すること」です。「未来への記憶」を書きとめ、それを行動に落 とし込むためのツールが「ココロノート」です。どう書き込むか、何を書くかを丁寧に解説します。 ⇒『人生を変える ココロノート』 このコラムについて 河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学
上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかってい る。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい 。 |