http://www.asyura2.com/13/nature5/msg/242.html
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【プレィジャリズム】
Plagarismと綴り「盗用、剽窃」を言う。ラテン語で「人さらい、誘拐」のことを「プラギウム(plagium)」といい、そこから出た言葉である。他人の成果を勝手にこっそりとさらって行くから、盗用は「人さらい」なのである。
かつて盗用は主に文芸の世界での出来事だった。ことに長文のテキストから成る小説では、素材としての資料から一部を無断で「地の文」として利用したケースが多い。
(鵜飼清「山崎豊子問題小説の研究:社会派<国民作家>の作られ方」, 社会評論社, 2002、
竹山哲「現代日本文学<盗作疑惑>の研究」, PHP研究所, 2002)
他方で第二次大戦後の急速な科学技術の発展は、この分野での多くの「科学者」の誕生を促し、どの専門分野でも科学者間の激しい競争・競り合いが生まれた。
1981年には世界の科学論文発表総数は約5万件に過ぎなかったが、2011年には約110万件に増加している。
http://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-RM218-FullJ.pdf
2011年に発表された科学論文110万件のうち「基礎生命科学・臨床医学」分野の論文は約60万件で、全論文の55%を占める。広義の生命科学分野がいかに多くの科学者を集め、科学研究費を使っているかが、この数値からも理解できる。
多数の研究者が参入し多くの論文が発表される分野では競争が激化し、研究費や地位や社会的知名度を獲得するために、研究上の不正が発生する絶対数は増加する。この傾向は、高度に細分化した研究分野であるため、科学研究費の審査者や人事担当者が研究内容を理解できず、しばしば「論文評価」が「実績主義」つまり発表論文の数に基づいて判断されることによっても助長される。
米国では1992年に創設された「研究公正局(ORI=Office of Research Integrity)」が、「科学における不正」の告発を受け付けており、告発に基づいて独自の調査と処分をすることができる。捜査に入った被告発者はネット上に掲示される。
https://ori.hhs.gov/
氏名は不正事実の要約と共に、処分期間中は「年次事例要約」に掲載され、誰でも閲覧できる。
ORIは創設から1997年までの5年間に約1000件の告発を受理し、218件の調査を終えた。うち68件(約20%)は研究機関への問い合わせで解決し、ORIの本調査(捜査)が必要とされ、調査を終えたのは150件(約80%)だった。
(山崎茂明「科学者の不正行為:捏造・偽造・盗用」, 丸善, 2002)
本調査が行われた上記150件の不正内容をみると、
1. 偽造: 43%
2. 捏造: 12%
3. 盗用: 5%
4. 捏造/偽造:31%
5. 偽造/盗用:4%
6. その他: 5%
と捏造(Fabrication)、偽造(Falsification)、盗用(Plagiarism)の単独もしくはその組合せによる不正が、95%を占めていた。
ここで言葉を定義しておきたい。「広辞苑 第6版」によると、以下のようになっている。
「捏造」は「事実でないことを事実のようにこしらえること」を意味している。
藤村新一は縄文石器を旧石器時代の古い地層に埋めて、「旧石器遺跡」をこしらえていたので、これは旧石器遺跡の「捏造」である。
「偽造」はほんもの類似のものを作ることをいう。
埋めた石器の中には、藤村が自作したものもあった。これは彼が指導者の岡村の学説に発掘石器をあわせるためだった。
「盗用」は「ぬすんで使用すること」をいう。
藤村が埋めた石器の中には、鉄道の路線敷きから拾ってきたバラスが、そのまま使用されたケースもあった。
盗用のことを「盗作」、「剽窃」ともいう。
盗作の「作」は「作品」を意味するので、文芸作品(詩歌、小説など)の場合には「盗作」という用語が使用されることが多い。科学論文の場合にはあまり用いられない。
「剽窃」は盗用の一種で、文芸作品だけでなく学術的な論文や著書についても用いられる。しかし、電力を「盗用する」と言っても、電力を「剽窃する」とは言わない。「剽」には「剽軽(ひょうきん)」のように、「気軽に、すばやく」の意味があり、自分で苦労して創作や実験を行うのではなく、他人の作や著書・論文から手軽に盗み取り、あたかも自作のように見せかけるのが「剽窃」である。
米NHIが「科学不正」に関して、捏造(Fabrication)、偽造(Falsification)、盗用(Plagiarism)に与えている定義は、こうなっている。
https://grants.nih.gov/grants/research_integrity/definitions.htm
盗用(Plagiarism): The appropriation of another person's ideas, processes, results, or words without giving appropriate credit.
ORI's policy on Plagiarism excludes: the limited use of identical or nearly-identical (general) phrases that are not substantially misleading or of great significance.
「盗用」の定義では「適切な引用なしに、他人のアイデア、手技、結果、文章を利用すること」となっているが、ORIの運用方針では「同一もしくはほぼ同一の(一般的な)句の限定的な使用」については除外するとしている。
ORIの活動が「科学における不正」の摘発と予防に貢献したことは高く評価されているが、この「除外規定」に困っているのが学術雑誌編集部である。出版後に盗用論文と判明し、「撤回」措置を取ることは、MEDLINEなどの科学データベースの変更や図書館が所蔵する雑誌の該当ページへのタグの貼り付けなど、第三者に大いなる被害を及ぼすだけでなく雑誌の評判にもかかわる。
このため、世界の出版社で組織される「出版倫理委員会(COPE)」は「盗用」を未然に発見するために独自の規程を持っている。
http://publicationethics.org/files/COPE_plagiarism_discussion_%20doc_26%20Apr%2011.pdf
委員の一人「英国医学雑誌」の編集者エリザベス・ワグナーによると、盗用は「大きな盗用」と「小さな盗用」に大別され、
「大きな盗用」とは、「逐語的に100語以上がコピーされていて、コピー元の論文の引用がない」ものをいう。実験手法のような技術的部分の記述に関しても、引用符を付けて直接引用だと明示せずに、逐語的にコピーして地の文章として扱い、文献番号で本論文を示す方式は「大きな盗用」に属するとしている。
2/27のメルマガで、小保方第1論文にはGuoら(2005)の論文から10行、206語に及ぶ文章がそのまま転記されていることを指摘した。文の構造や語順はそのままで、わずか数語が別の単語に置換されているにすぎない。
これを具体的に述べれば、Cuo論文も小保方論文も、共に11個の文章から成り立っている。いずれも短文で、コピーは逐語的に行われている。以下、各文の比較。
第1文:Cuo 25語、小保方 27語、うち23/27が同一。
第2文:Cuo 23語、小保方 22語、うち21/22が同一
第3文:Guo 21語、小保方21語、 全語同一
第4文:Guo 9語、小保方 9語、 全語同一
第5文:Guo 22語、小保方 22語、 全語同一
第6文:Guo 15語、小保方 15語、 全語同一
第7文:Guo 13語、小保方 13語、 12/13語同一
第8文:Guo 21語、小保方 21語、 19/21語同一
第9文:Guo 33語、小保方28語、 28/33語同一
第10文:Guo 17語、小保方12語、12/17語同一
第11文:Guo 16語、小保方16語、全語同一
このパラグラフには11の文章があるが、各文の配列はすべて同一である。うち5つの文は使用語と語順がまったく同じである。残りの文でも、一般的な表現では「prior to→before」、「analysis→procedure」という言い替え(パラフレーズ)が2箇所にあるのみで、他は化学薬品名をフル標記から略号に変えた程度の変更があるにすぎない。
つまり小保方第1論文の「核型分析の方法」に関する項は、全語数206語のうち198語(96.6%) がGuoらの論文から写し取られている。この盗用の程度は上記ワグナーが提示する「大きな盗用」に該当する。
「技術的部分の重複だから(差し支えない)」とコピーを過小評価する意見もネット上で見かけられる。しかし、小保方は逐語的にコピーしたGuoら(2005)の論文を引用せず、Guoらが引用していたJetschら(2003)の論文を引用しているので、「文章を引用しながら、その執筆者を明示していない」ことになり、この点でも「大きな盗用」に合致する。
要するに、一般的文章としても技術的記述文としても、小保方第1論文は「大きな盗用」の基準を二重に満足しているといえよう。
そこで、盗用に対する編集者の対処法として、
1)掲載論文に「小さい盗用」が見つかった場合、著者に連絡を取り、協議した上で、「訂正とお詫び」を掲載する。
2)掲載論文に「大きな盗用」が見つかった場合、論文を撤回し、著者が所属する研究機の長に通報する、
とワグナーは述べている。
今回の事例では「大きな盗用」に該当すると思われるが、「ネイチャー」誌の調査結果が最終的にどういう内容になるかは分からない。
ワグナー女史の論文を読んで驚いたのは、「捏造、盗用、偽造」が増えているので、科学論文の編集者は原稿を受け付けたら、まず原稿テキストを、「盗用検出ソフト」を用いて過去の電子データに同じ表現がないかどうか、チェックするという。
例えば「p<0.05 was considered statistically significant」(p<0.05は統計学的に有意と考えられた)というフレーズは、Google検索で58.8万件、Google Scholarで7万600件ヒットする(2011年現在)ほど、ありふれているという。つまり統計学に関する「紋切り型表現」なので、この5語程度の「逐語的一致」は盗用に当たらないということだ。
ただ、今のコンピュータやソフトでは100語以上の盗用を検出できないので、「100語以上」のコピーを悪質、「100語未満」を軽度と区別しているようだ。
ところで、このワグナー論文は2011/4/26に発表されている。そうすると2013/3/10に投稿されて、2013/12/20に受理された小保方第1論文も、ネイチャー編集部で同様に「盗用チェック」を事前に受けたはずであり、どうして編集部が審査員に査読に出す前に「盗用」が発見されなかったのか、納得が行かない。かつてネイチャー誌は何度も捏造、盗用ふくむ不正論文を掲載して、たびたび謝罪と撤回を繰り返しているだけになおさらである。
ここでは研究者倫理に絞って小保方第1論文の問題点を考察し、それが「撤回」に値する「大きな盗用」を含んでいることを論じた。小保方第1論文が主張している発見の内容については、3/5に理研から公表された「実験手順プロトコル」ときわめて重要な点で大きく異なり、別途論じる予定だ。
しかし、すでに世界の多くの幹細胞研究者はSTAP細胞実験を追試する意欲を失っているのが実情で、これ以上第三者に、多くの時間と労力とお金を要する追試を呼びかけるのは妥当とは思えない。混乱を収束に向かわせるには「大きな盗用」を認め、速やかに論文を撤回するのが、最も現実的で適切な措置だと考える。
http://blog.goo.ne.jp/motosuke_t/e/553f7593435966e3426c5fc75b70d20e
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