http://www.asyura2.com/13/nature5/msg/197.html
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多くの学者は陰謀論者を偏執・妄想の人として相手にしない。だが、そうした反主流の考え方を抱く人は驚くほど多い。調査会社パブリック・ポリシー・ポーリングが2013年4月に発表した全米調査によると、米国人の37%が地球温暖化はでっち上げだと信じ、28%が秘密のエリート権力が世界征服を企んでいるのではないかと疑っている。
陰謀論は政治的に重要な問題への一般市民の関心をそぎ、関与を妨げてしまう恐れがあることが、最近の研究から示されている。陰謀論が絶えない理由をもっとよく理解すれば、誤った情報と戦う新たな方法を考案するのに役立つだろう。
思い込みのかたまり
まず用語について。陰謀論はもちろん、科学的な意味での理論ではない。これに対し陰謀論者は、それを裏づけるしっかりしたデータがないままに、有力者や有力グループが邪悪な目的を達成するために何かを密かに企んでいると主張する。
陰謀論に関するこれまでの研究で一貫して確認された事実に、ある特異な説明を信じ込んでいる人は、それとは別のやはり風変わりな説まで信奉しがちである、ということがある。この観察事実は、ラトガーズ大学の社会学者ゲルツェル(Ted Goertzel)が1994年に提唱した「陰謀論的思い込みはさらなる奇妙な考えを助長する」という仮説を裏づけるものだ。ある事例で官僚は信用できないと思い込むと、世の中で起きている不穏な出来事はすべて同様の隠蔽工作が背景にあるように見えてしまうのだろう。
英ケント大学の心理学者であるウッド(Michael J.Wood)とダグラス(Karen M.Douglas)、およびサットン(Robbie M.Sutton)は2011年の研究で、オサマ・ビンラディンが米軍の急襲によって殺害されたという公式説明をどの程度支持するかを大学生たちに1から7の7段階で評定してもらった。政府の説明を疑問視し、襲撃時にビンラディンはすでに死んでいたと考えた人たちは、驚いたことに、ビンラディンがまだ生きていると主張する傾向が他の人よりも強かった。
ウッドらは、人が陰謀論を信じるのはその筋書きの詳細を信じるからではなく、陰謀論的考え方一般を支えるもっと高次の思い込みを抱いているからだと結論づけた。そうした観念を生む大きな要因の1つは、権威・権力に対する強い不信だろう。権力は基本的に信用ならないとする信念体系においては、困った事態に対する別の説明が(いかに異様で矛盾したものであろうとも)、そのありうる権力に対する懐疑と整合している限り、もっともらしく思えるのだろう。
科学に対する非科学的疑念
パブリック・ポリシー・ポーリングの調査結果に見るように米国人の1/3以上が気候学者たちの結論の真実性を疑っているいま、社会への影響は重大なものになりかねない。西オーストラリア大学に所属する心理学者のレバンドウスキー(Stephan Lewandowsky)らは2013年5月に論文発表した研究で、科学を受容する姿勢と陰謀論的思考パターンの関係を調べた。気候問題のブログを執筆している人から被験者を集め、その集団の信念体系に的を絞って調べた。この結果、複数の陰謀論を信じている人は重要な科学的結論を受け付けない傾向があることがわかった。気候学に限らず、喫煙ががんを引き起こす場合がある、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)がエイズにつながる、といった確立した事実も拒否する。
ダグラスとケント大学の大学院生ジョリー(Daniel Jolley)は2013年に発表した研究で、被験者に地球温暖化懐疑論を含む様々な陰謀論を支持する記述を読ませた。この結果、地球温暖化はでっち上げであるとの考え方を肯定する情報に接した人は、この問題に政治的に関与する気が薄れ、自分でできる二酸化炭素排出抑制の努力などを実行に移さなくなることがわかった。この結果は陰謀論を表面的に擁護しただけでも不信のタネがばらまかれ、重要な科学的・政治的・社会的問題から注意がそらされることを示しており、注意を要する。
オクラホマ州選出の上院議員インホフ(James Inhofe)による近著「The Greatest Hoax : How the Global Warming Conspiracy Threatens Your Future (大捏造 : 地球温暖化の陰謀論はいかにあなたの未来を脅かすか)」のような目に付く本は、本の中身まで読まれなくても、気候変動抑制対策に対する市民の支持を微妙に損なうかもしれない。
実際、陰謀論を引きずり下ろすのはひどく難しい。陰謀論を論駁しようとすると、残念ながら陰謀論を正当化する副作用が同時に生じてしまうからだ。解決策としては、しっかりした科学的証拠を可能な限り広く社会に広め、トンデモ世界観に一般市民が少しでも惑わされなくなるのを期待する以外にないのかもしれない。
哲学者のポパー(Karl Popper)は、陰謀論の悪いところは大事件を計画されたものとして述べる傾向にあり、多くの政治的・社会的行動が本来行き当たりばったりであり予期せぬ結果が生じることを著しく過小評価させてしまうのが問題なのだと主張した。ポパーが述べたこの認知バイアスは心理学者が「根本的な帰属の誤り」と呼んでいるもので、他者の行動の背景に意図を過大に感じ取る習性のことだ。この認知バイアスが働くと、人々は複雑な出来事に対して単純な説明を与えて世界を理解するようになると考えられる。陰謀論を信じ込むと無力感と不確実さの感覚を伴うことが、いくつかの研究によって示されている。例えばテキサス大学オースティン校のウィトスン(Jennifer Whitson)とノースウェスタン大学のガリンスキー(Adam Galinsky)による2008年の大規模調査は、抑制を欠いた人は陰謀論を含め幻のパターンを知覚しやすいことを示した。存在しないパターンを見いだすことによって、構造と組織を求める欲求が満たされるのだとウィトスンらは指摘している。
言い換えると、陰謀論を採用することで世界をより予測可能なものに焼き直しているのだ。はっきりした敵を作り出すことで、あまりに抽象的に思えた問題をすべてその敵のせいにする。
気候変動問題がよい例だ。気候問題に関する査読論文を解析した2013年のある研究によると、人間活動に起因する地球温暖化を支持する科学的見解は全体の97%に達している。もちろん、それが意味するところに対処するにはただではすまないだろう。温暖化という現象全体をでっち上げにすぎないとみるほうが、温暖化抑制に必要となる犠牲を払うという困難な決定をするよりも、心理的にはるかに好都合だ。
著者
Sander Van Der Linden
ロンドン大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(グランサム気候変動環境研究所)の博士課程に在学,現在はエール大学の気候変動コミュニケーションプロジェクトの客員研究員として研究している。
原題名
What a Hoax(SCIENTIFIC AMERICAN MIND September/October 2013)
http://www.nikkei-science.com/201402_044.html
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この文章は日経サイエンス2014年2月号の記事の重要部分を要約したものです。
気候変動問題に関して言えば、ピュアレビューを通過した論文のうち、温暖化人為起源説を支持しない論文は全体のわずか3%しかなかったという事実が専門家の間ではこの問題について現在ではすでに決着がついていることを示している。温暖化懐疑論のほとんどは、専門外の門外漢やすでに現役を引退した専門外の学者が書いたものであり、保守系新聞紙、保守系ウェブサイト、陰謀論系サイトなど、専門家向けではない素人向けのメディアにばかり掲載されている。特に米国では保守系メディアに多くの温暖化懐疑論が掲載されている。そのことは温暖化懐疑論が科学的理由からではなく、石油産業など大企業の経済的利害が動機となっていることを示唆している。そんな科学的裏付けのないものであっても本当だと真に受けてしまう人も多い。
- Re: 陰謀論をなぜ信じるか (原文記事の紹介) 脳天気な 2014/2/23 09:56:15
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- ↑ のタイトルは 陰謀論をなぜ信じるか です。 ダイナモ 2014/2/08 22:26:56
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