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マルハナバチの飛翔の謎  
http://www.asyura2.com/13/nature5/msg/164.html
投稿者 SRI 日時 2013 年 10 月 24 日 17:56:12: rUXLhToetCnYE
 

マルハナバチの飛翔の謎 ブックマーク

Flight of the bumblebee decoded

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2013.131102
原文:Nature (2013-08-22) | doi: 10.1038/nature.2013.13587 | 英語の原文
羽ばたき1回当たり40コマという超高速X線ムービーを記録することで、昆虫飛翔筋が脊椎動物の筋肉と同じ分子メカニズムを利用して動いていることが示唆された。

昆虫が空中にとどまるためには、超高速で羽ばたかなければならない。蚊の場合、それは毎秒500回にも及ぶが、正確にどのようなメカニズムで高速羽ばたきを実現しているのかについては、今なお議論が続いている。今回、生きたマルハナバチの羽ばたきを分子レベルで詳細に把握することにより、昆虫飛翔筋が特殊なメカニズムで動いているのではなく、脊椎動物の筋肉と共通の性質を利用しているらしいことが分かった1。


マルハナバチの羽ばたきを、X線散乱を利用して詳細に分析することができた。
Credit: SCIENCE/AAAS
共同研究者の八木直人とともにその研究を行った高輝度光科学研究センター(大型放射光施設SPring-8、兵庫)の生物物理学者、岩本裕之は、「多くの昆虫で、飛翔筋の動かし方が脊椎動物と違うことは、以前から知られていました。その違いが昆虫飛翔筋に特有のものなのか、それとも全ての筋タンパク質に共通の性質が利用されているのか、という点が大きな問題となっていました」と話す。

ヒトの筋肉は、運動神経から指令を受けて収縮する。その指令により筋細胞の膜から放出されたカルシウムイオンは、繊維状タンパク質アクチンの上にある調節タンパク質トロポニンに捕捉され、その結果モータータンパク質ミオシンの「頭部」と結合するアクチン上の部位が露出する。その頭部がアクチンに結合するとミオシン分子はエネルギーを消費して首を振り、アクチンフィラメントを引き寄せて筋肉を収縮させる。しかし、ヒトと同じメカニズムでは毎秒数百回もの羽ばたきのたびにカルシウムをくみ出す必要があり、エネルギーの無駄が多い。

実際には「昆虫飛翔筋は、いったん神経から指令を受けて活性化されると、自発的に振動するのです」とペンシルベニア大学(米国フィラデルフィア)の筋生理学者Yale Goldmanは説明する。

筋肉自体によって持続するこの振動は2つの拮抗的な飛翔筋が持つ「伸張による活性化」という性質によって引き起こされる。つまり、これら2つの飛翔筋は片方が縮むともう片方が引き伸ばされる関係になっており、互いに引っ張り返すことで振動を持続させるのだ。

特別な適応?

「伸張による活性化には反復的なカルシウムの放出と取り込みが必要ないため、羽ばたきの周波数(速さ)に上限がありません」と岩本は説明する。

しかしGoldmanは、「何が伸張による活性化を引き起こすのかは分かっておらず、これまで謎のままだったのです」と言う。

その答えになりそうな説は、1979年に発表された。それは、筋肉が引き伸ばされると、アクチンと結合できる位置にミオシン頭部が移動するために、伸張による活性化が起こるというものだ2。しかし近年、昆虫の飛翔筋は脊椎動物にない特殊な適応を獲得したのではないかという説が出された。カルシウムイオンによる活性化が不要なタイプのトロポニンが昆虫で見つかったのだ3。

今回の研究で岩本と八木は、細いアルミニウム管の先に固定されたまま飛んでいる(というよりは「飛ぼうとしている」)昆虫の中で、筋肉を動かす分子モーターの並び方がどう変化しているかを測定した。

その昆虫は、X線ビームの光路上に置かれた。X線が筋肉によって散乱されてできる明るいスポットのパターンには、昆虫のタンパク質分子の構造変化を知るのに必要な情報が含まれている。岩本と八木は、完全に同期した形でハチの動画と高速のX線データを毎秒5000コマで同時収集することによって、その変化を追跡した。

その結果、昆虫飛翔筋では伸張時にミオシン頭部にねじれが加えられ、それが引き金になってミオシン頭部がアクチンにより強く結合するという結論が得られた。言い換えれば、昆虫飛翔筋の伸張による活性化は、脊椎動物の筋肉と全く同様に、アクチンとミオシンとの相互作用が持つ基本的な性質の表れだったのだ。このミオシン頭部のねじれは、X線データの中で、ある特定のX線スポットの増強として現れる。

生きている昆虫のX線散乱はすでに報告例があるが4、今回の記録は、羽ばたき1回当たり40コマという高速の計測だ。「技術的観点から、この論文は極めて印象的です」とGoldmanは言う。

今回の発見についてフロリダ州立大学(米国タラハシー)の分子生物物理学者Kenneth Taylorは、「昆虫飛翔筋が力を発生するプロセスの解明に本当に役立ちます」と語る。また、「全ての筋肉でミオシンとアクチンがほぼ同じように機能するのだとすれば、筋収縮を包括的に理解する上で大きな前進です」と も話す。

しかしGoldmanは、「(上に述べられた)特殊なトロポニンが引き金になっているという説があるので、今後まだ議論が起きるかもしれません」と言っている。

(翻訳:小林盛方、要約:編集部)

参考文献
Iwamoto, H. & Yagi, N. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1237266 (2013).
Wray, J. S. Nature 280, 325–326 (1979).
Agianian, B. et al. EMBO J. 23, 772–779 (2004).
Dickinson, M. et al. Nature 433, 330–334 (2005).
http://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/specials/48325  

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