02. 2013年6月27日 09:24:17
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JBpress>リーダーズライフ>映画の中の世界 [映画の中の世界]蜂が消え、人類が消え、そして地球は・・・ 最新作「アフター・アース」「オブリビオン」が描くもの 2013年06月27日(Thu) 竹野 敏貴 国連食糧農業機関(FAO)は、食糧危機対策の一案として昆虫食を提言するリポートをまとめた。昆虫にはタンパク質や脂質が多く含まれ、ビタミン、ミネラルも豊富。牛などの家畜に比べ、はるかに狭い施設で環境負荷も少なく大量飼育が可能、との利点も示されている。 昆虫食は哺乳類の始祖の時代、2億年を超える昔の中生代三畳紀に始まる。そして、我々の祖先たちが農業や牧畜などを始めるまでの狩猟採集生活の中で、大切な蛋白源の1つだったことも、地層に残された糞石などの分析から証明されている。 昆虫食を蔑視する西洋人 世界では今も20億もの人々が1900種類以上の昆虫を食用としているというから、決して珍しい食習慣ではないのだが、特に西欧では、文化的宗教的習慣から、悪食、ゲテモノとのイメージとなり、次第に食べられなくなっていった。 『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)には、蛇、蜘蛛、さらにはサルの脳などを食する人々を見てヒロインが卒倒する様がコミカルに描かれているが、これこそゲテモノ食いと蔑視する西洋人の姿でもある。 イスラム圏では羊の脳が普通に料理の素材として使われているし、タイ、カンボジア、ラオスあたりの田舎では、食用の虫ばかりが並ぶ屋台もある。そんなクモやアリ、バッタ、コオロギのから揚げなどは、結構美味。 世界を彷徨していて、随分といろいろなものを口にしてきた私自身の経験では、食べられないほどまずいものはごくわずか。もっとも、韓国のつまみとして日本でも知られている蚕の蛹「ポンデギ」のように匂いがキツく、初めは大変なものもあるのだが・・・。 海のない地域では貴重な蛋白源として、バッタ、ハチ、アリ、ゴキブリ、セミなど、身近で採りやすい昆虫が多く食されてきた。 日本でも、長野あたりでは、今も、ハチノコ、蚕、ざざむしなどが食材として存在しているし、日本の空の玄関成田あたりでも、道端でイナゴの佃煮を容易に買うことができる。 そんなFAOリポートと時をほぼ同じくして、EUの専門機関「欧州食品安全機関(EFSA)」は、12月からの2年間、ネオニコチノイド系農薬3種の域内での使用を暫定的に強く制限することを発表した。近年問題が顕在化しているミツバチ減少との関連が指摘されている農薬である。 2006年秋、米国で全巣箱の3分の1ものミツバチが消えた。巣を飛び立ったまま戻らず、死骸すら見つからないミツバチの大量失踪事件である。謎多きこの現象は「蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder=CCD)」と名づけられ、その後も深刻な問題であり続けている。 M・ナイト・シャマラン監督の『ハプニング』(2008)には、開巻まもなく、主人公の高校教師が学生にCCDの原因を推測させるシーンがある。そこで彼らが出した答えは「病気」「汚染」「地球温暖化」といったもの。 こうした答えにさらに補足すれば、ウイルスや真菌感染、ダニの寄生、複数の殺虫剤、農薬、栄養不足、さらには、近年ミツバチが強いられている移動によるストレス(これについては後述)などが原因として浮かび上がってくる。 食糧問題と直結するミツバチの失踪 アフター・アース その中で最も強く疑われたのが今回EUが措置に踏み切った農薬だったわけである。 しかし、原因究明を進めていくなか、明らかなる単一要因は見つからず、複数の原因による相乗作用との見方が有力である。もっとも、映画の中での学生の答え「自然界のことは完全に分かるものではない」というのが一番の回答かもしれないが・・・。 ところで、ミツバチの失踪が、どうしてこれほどの大騒動となっているのだろうか。それは食糧問題と直結するからである。 米国では、アーモンドなどの大規模農業で花粉の運び屋たる養蜂業者のミツバチが受粉業務の多くを担っている。そんなミツバチたちは、定住することも許されず、農場から農場へとトラックで運ばれる日々を送る季節労働者。 しかし、中国産蜂蜜が超安値で市場を席巻する中、蜂蜜だけでは食べていけなくなった養蜂業者の生活を支える大切な戦力でもあるのだ。 CCDで帰巣本能を失ったミツバチ同様、方向感覚を失った人間たちが次々と命を落していく、という『ハプニング』は、植物の放つ化学物質が人類を破滅に追い込もうとしており、さらなる惨劇が始まることを示唆して終わる。 それから5年、(間に『エアベンダー』(2010)を挟んでいるが)シャマラン監督が発表した最新作が、現在劇場公開中の『アフター・アース』(2013)。 ここでは、すでに人類は地球上に存在していない。環境破壊が続く地球ではその攪乱因子たる人類を排除せんと進化が続き、2071年、ついに人類は新たなる地を求め宇宙へと飛び立った。 わずか75万人の人類を乗せた6艦の「箱舟」が旅立ったその日は、「After Earth(AE)」元年となった、との設定なのである。 そして、さらに1000年の年月が経過したある日、人類にとって危険な惑星として近づいてはいけない場所となっていた地球に心ならずも行き着いてしまった親子の物語が展開していく。 人類の末裔もいない地球を描いた作品は珍しい コスタリカ こうした「人類後の地球」を描いた映画には『猿の惑星』などがあるが、(進化しようが退化しようが)人類の末裔すらいない地球の姿を描いた作品は珍しい。 そんな人類のディストピアにして他の多くの生物にとってのユートピアとなった地球のロケ地として選ばれたのが、コスタリカの鬱蒼とした熱帯雨林や火山。 地球上の種の5%が生息するという生物多様性が売りのエコツーリズムのメッカの面目躍如といったところだ。 そこには人類なき後で悠々と暮らす「進化した」大型動物も登場する。こうした風景を見ていて思い浮かぶのが、ドゥーガル・ディクソンとジョン・アダムスのベストセラー「フューチャー・イズ・ワイルド」。 フューチャー・イズ・ワイルド SFファンタジーであるこの映画とは違って、科学的推測に基づく未来の地球で、人間のいなくなった2億年後に超大陸を闊歩する巨大生物たちの姿である。 その映像版(日本でもディスカバリーチャンネルで放映済)は、「もはや住むことが難しくなった地球を去ることになった人類は別の星へと移住した。そこから故郷を探査しようと送り込んだドローン(無人機)による映像がこれ」とのナレーションから始まる。 今やテロとの戦いなどで頻繁に登場するようになったドローンだが、現在公開中のSF映画『オブリビオン』(2013)では、地球を遠隔監視するシステムとして使われている。 この映画では、エイリアンとの戦いで地球は荒廃しつくしてしまい、多くの在来生物にとってもディストピアと化している。そんな荒涼たる地球の風景として選ばれたロケ地はアイスランドである。 そのアイスランドには、「ギャオ」と呼ばれるアイスランド語で「裂け目」を意味する地がある。北米プレートとユーラシアプレートの間の裂け目が地上に露出したものである。そんな地で剥き出しとなっている地層を眺めていると、地球46億年の歴史を感ぜずにはいられない。 アイスランド しかし、悲しいかな、長生きしてもせいぜい30億秒という1人の人間の生涯をそこに感じることはできない。 世界中の博物館に必ずと言っていいほど掲示されている地球の歴史を1年に換算したスケジュール(?)表を見ても、ヒトが登場するのは大晦日の紅白歌合戦もフィナーレを迎える頃。ましてや、人間の一生など1秒にも満たない。 とはいえ、人類の足跡を地層に感じることはできるかもしれない。 オランダのノーベル賞受賞学者パウル・クルッツェンは、現在は「完新世」の一部とされている人間の生きる時代に「Anthropocene」という新たなる区分を与えることを提唱している。 その始まりは、農業の始まった時代、化石燃料が世を変えた18世紀末、温室効果ガス濃度がグッと上がった20世紀半ば、など意見はまちまちだが、とにかく地球環境を人間が変化させた時期からということのようだ。 将来、そんな地層解析を行い、人類の足跡を観察する主は、我々人類の子孫であることを望むばかりである。それが仮にドローンによる遠隔操作の映像であっても・・・。 (本文おわり、次ページ以降は本文で紹介した映画についての紹介。映画の番号は第1回からの通し番号) (742)インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説 (743)ハプニング (744)アフター・アース (745)オブリビオン 742.インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説 Indiana Jones and the temple of doom 1984年米国映画 インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説 (監督)スティーブン・スピルバーグ (出演)ハリソン・フォード、ケイト・キャプショー 1935年の上海のナイトクラブ。ヌルハチの位牌との交換でダイヤを手にしたインディ・ジョーンズ。 しかし、相手は犯罪王。インディに毒を盛り、ダイヤを取り返そうとする。 乱闘の末、何とかその場を逃げ出したインディは、無事飛行機に乗り込み飛び立つ。 ところがそれは犯罪王のもの。結局、そこからも逃げ出すことになったインディの行き着いた先はインドの山奥で・・・。 『レイダース/失われたアーク<聖櫃>』(1981)に続く大ヒットシリーズ第2弾は、前作の1年前が舞台。高所やトロッコなどを巧みに使い、めまぐるしく画面が展開するローラーコースタームービーである。 743.ハプニング The happening 2008年米国映画 ハプニング (監督)M・ナイト・シャマラン (出演)マーク・ウォールバーグ、ズーイー・デシャネル (音楽)ジェームズ・ニュートン・ハワード ニューヨークのセントラルパーク。人々は時が静止したかのように動くことをやめ、突然自らの命を絶った。 工事現場でも、ビルの屋上から何人もの作業員たちが身を投げた。そんな人々に共通するのは言葉の錯乱と方向感覚の喪失。 その頃、フィラデルフィアの高校で、エリオットは「蜂群崩壊症候群」について生徒たちと議論していた。 しかし、ニューヨークでの事件がテロかもしれないということで、生徒たちは帰宅、エリオットも同僚や妻とともに安全な場所へと避難を始める。 しかし、そのために乗った電車は停まってしまい・・・。 斬新なプロットとセンスが光る『シックス・センス』(1999)でアカデミー作品賞、監督賞などにノミネートされ、興行的にも大成功を収めたシャマラン監督作品には、常に自然を超えた力や死というものがついてまわる。本作もそんな見えない脅威からの脱出劇である。 744.アフター・アース After Earth 2013年米国映画 アフター・アース (監督)M・ナイト・シャマラン (出演)ジェイデン・スミス、ウィル・スミス 1000年前、地球を捨て、新たなる生活の地「ノヴァ・プライム」へと移住した人類。 軍総司令官レイジは、今回の宇宙遠征に息子キタイを連れていくことにした。 しかし、小惑星嵐に巻き込まれ、今は「危険惑星」と化した地球に不時着。生き残ったのは親子2人だけのようだ。 ところが、救難信号を送ろうにも、手元の発信機は故障している。もう1台は、破損して砕け散った機体とともに100キロ先にある。 両足を骨折して動けないレイジは希望をキタイに託した。 地球はかつて人類を追い出すために進化を遂げた地。難破船に乗せられていた生物兵器アーサも地球に逃げ出しており、襲ってくることも考えられる。発信機を求め、キタイの地球での壮絶なるサバイバルが始まった・・・。 かつて人類を追い出すべく進化を遂げた地球を舞台に、親子の葛藤と少年の成長を描く本作はウィル・スミスの原案。ウィルとジェイデンのスミス親子『幸せのちから』(2006)に続く競演作である。 コスタリカのアレナル火山や野鳥の宝庫ラ・セルバ生物保護区などでロケされた。 745.オブリビオン Oblivion 2013年米国映画 オブリビオン (監督)ジョセフ・コシンスキー (出演)トム・クルーズ、モーガン・フリーマン、オリガ・キュリレンコ 「スカヴ」と呼ばれるエイリアンの攻撃で荒廃してしまった地球にはもはや人類の生活する場はなく、土星の衛星タイタンへと移住しようとしていた。 そんな地球には、監視のためのドローンが飛び回り、その管理のため、妻とふたり、地球に滞在しているのがジャック・ハーパー。そんなジャックの記憶は、機密保全のため5年分しかなかった。 ある日、飛行物体が墜落。カプセルに眠る女性を助け出すと、女性の口からは知るはずもないジャックの名が発せられ・・・。 今も3Dグラフィックやモデリングの研究室をコロンビア大学に持ち、助教授の座にもあるコシンスキーが『トロン:レガシー』(2010)に続き監督した第2作は、アーヴィド・ネルソンとの共著による自身のグラフィックノベルの映画化である。 |