02. 2013年6月12日 18:10:58
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永久凍土が解けて、森が枯れる理由実はヤバい永久凍土 飯島慈裕さん(2) 2013年6月12日(水) 片瀬 京子 シベリアで永久凍土を研究するJAMSTEC飯島慈裕さんの2回目。ここ数年にわたり雨や雪が増えた結果、シベリアの森が枯れていることに気付いた飯島さんは、人海戦術でその原因解明に乗り出しました。(写真:田中良知) 前回の復習。北米側に高気圧、シベリア側に低気圧が居座った結果、北極海の海氷が風で流されたり、シベリアに雨を降らせたりしている。(提供:飯島慈裕) 北極周辺の気圧配置が変化している。 それによって北極から大西洋に向かう風が吹き、海氷を流し、その結果、北極海の海氷が減っている。 北米の永久凍土では、凍土融解と少雨が重なり、水不足で森林が枯死している。
わからないのは東シベリア。 多雨であるにもかかわらず、森林の枯死は増えている。 その謎を解いたのが、JAMSTECの飯島慈裕さんだ。 飯島さん、いったいどうなっているのでしょう? そこに永久凍土は、どう関係しているのでしょう? 雨降って、凍土解ける 「季節を分けて考えましょう。まず、冬です。雪は積もると、布団のような役割を果たします。雪が少なければ布団は薄く、雪が多ければ布団は厚いというわけです」 なるほど。 「冬は大気がマイナス50℃くらいまで冷えるので、布団が薄いと、地面からどんどん熱を奪っていきます。逆に、布団が厚ければ、断熱効果によって、地面の温度はあまり下がりません」 ということは、凍土は融解が進む。雪が多いと、凍土は冷えないのだ。 飯島慈裕(いいじまよしひろ)さん。 そして、夏。雨が多いと、土壌表面の層は湿っていく。
「表面に近い土壌が水で満たされて、熱伝導率が上がり、大気の熱を伝えやすくなります。それに、水は0℃以上ですから、凍土は融解が進みます。また、大量の水が土壌に居残ることで熱容量が増え、冬の間にますます凍りにくくなります」 つまり、冬に雪が多く、夏に雨が多いと、年間を通じて森林は湿潤になるということだ。 凍土の凹凸を力ずくで測定 ただ、ちょっと湿潤なくらいでは、森林は枯れない。また、同じロシアのヤクーツクでも、枯れている箇所と枯れていない箇所とがある。この違いはどこにあるのか。 これを飯島さんは、実測することで明らかにした。 「枯れているカラマツ、枯れていないカラマツの周囲50メートル四方、70カ所くらいの土壌に、コツと音がするところまで長い鉄の棒を押し込みました」 コツ、とは鉄の棒が凍土に当たる音。 つまり、凍土の層がどれくらい深いところにあるのかを、人海戦術をもって測定した。 「まあ、ここまで詳細な調査はあまりやられないんですが……」 鉄の棒を地中に差し込み、永久凍土層の深さを調べるロシア人研究者。(提供:飯島慈裕)
永久凍土層が周囲より低い「谷」になったところに、地下で解けた水が集まり、カラマツを枯死させる。(提供:飯島慈裕) その結果、周囲よりも深くに凍土の層があるところで、木が枯れていることがわかった。そこだけ凍土の層が深くにあるということは……右の図のように、凍土の層が浅い周囲から、水が流れ込み、溜まりやすくなっているということ。そして、木が枯れているのはまさにそんな場所。枯死は水分過多が原因で起きているのだ。 もう1カ所、注目をした場所がある。アラス周辺である。アラスとは、凍土が解けて地盤沈下したことによって誕生した池である。 「ここでは、凍土、植生、地形の変化がいっぺんに見ることができるんです」と飯島さん このアラスでは、雨と雪が増えると水位が上昇する。観察すると、周辺の土手に生えているカラマツは、水分過多になって枯れている。これも、枯死水分過多説を裏付けるものだ。 つまりこういうことになる。 東シベリアでも、北米でも、永久凍土は融解が進んでいて、その地帯の森林は同じように枯れている。 しかし、直接的な原因は正反対。東シベリアでは水分過多、アラスカでは水不足で枯れている。 では、なぜ東シベリアでは水分量が多く、アラスカでは少なくなっているのかというと、どちらも北極周辺の気圧配置のバランスが崩れたからだ。 飯島さんが凍土の変動を観測しているアラスの池。(提供:飯島慈裕) IPCC報告に記載されてなかった永久凍土の炭素量
さて。 気候変動によって、永久凍土は融解が進んでいる。良くない、という直感がします。さらに、融解によって、森林が枯れること以外に、どんな影響を何に対して及ぼすのでしょう。 「よく言われるのは、凍って閉じ込められている二酸化炭素やメタンガスが大気中に排出され、温暖化がさらに進むということです」
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による第4次報告書は、陸地の総炭素量を約2兆1900億トンと推定している。ここには、永久凍土内に閉じ込められている分は含まれていない。 「ところが、2009年に欧米の研究者が永久凍土内の総炭素量をきちんと試算しました。約1兆6800億トンです。IPCCはだいぶ過小評価していたことになります」 予算2万1900円と思っていたら、プラス1万6800円、合計3万8700円だったと気付いたときのような衝撃。これは痛い。 「ところが、この数字は、次期のIPCCの気候変動予測にまだ考慮されていないのです。全部解けて放出されると、えらいことになりますね」 ええ、ええ。それはもう。 永久凍土内で氷に閉じ込められているのは、氷河期に発生したガス。さらに土壌内には有機物も存在する。凍土が解けてこの有機物の活動が活発になると、排出される二酸化炭素の量は増える。 カラマツに水分の蒸散量を測定するセンサーを取り付ける。(提供:矢吹裕伯) 「それから、湿潤化の進行も悪影響を及ぼします。そういったところでは、メタンガスが生成されやすいからです」
メタンガスといえば、温室効果が二酸化炭素の20倍もあるガスだ。 どうしてそういう場所でメタンガスが生まれやすくなるんですか? 「土壌が湿地のように水浸しになると、空気中の酸素から遮断されやすくなるので、そういったところを好むメタンの生成菌の活動が活発になるからです」 はあ〜。 「それに、湿潤化で森林が枯れれば、二酸化炭素の吸収能力が減ります」 もう、悪循環じゃないですか。温暖化が進んで気候が変動して凍土が解けて木が枯れて、二酸化炭素やメタンガスがどんどん放出されて、するとまた温暖化が進みますよね? 「年々変動(数年単位の気候変動)もあるので、必ずしもそこまで単純じゃないと思います。ただ、北極の海氷減少や、それに連動した気象の変化を考えると、統計的には、東シベリアでは雨や雪が多くなりやすくなる、ということはあるでしょうし、それによって凍土の土壌の中の水が貯金が貯まるように増えていって、湿潤化で枯れるリスクが高まるということはあるでしょう」 うかうかしていられないのだなあ。環境関連のニュースを見る目が、変わりそうだ。そしてもうひとつ、改めて実感させられるのは、北極の海の氷、気圧配置、そして凍土の状態は、複雑に関連しているということ。海の研究所で、大気や陸地のこともまとめて考えるのは、理に叶っている。 つづく 海の研究所にある永久凍土研究者のデスク。 この記事はナショナル ジオグラフィック日本版との共同企画です。同サイト内にある「海」のコーナーでは、JAMSTEC研究者の連載や自然・環境に関する写真や記事を豊富にお読みいただけます。
海の研究探検隊 JAMSTEC
この連載は、海の研究所JAMSTEC(海洋研究開発機構)に集まる人々の物語です。海底を世界一深く掘れる船や、深海6500メートルまで潜れる有人潜水艇など、海というフロンティアを探検する能力では世界随一の設備をもつ研究所。そこに、未知への好奇心にあふれた一癖も二癖もある研究者、エンジニア、ダイバーが集まるようすは、さながらワンピースの海賊、それともサンダーバード?彼らの話を聞きながら、未知への航海を楽しもうではありませんか。 |