02. 2013年6月05日 06:18:48
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永久凍土が溶け始めた実はヤバい永久凍土 飯島慈裕さん(1) 2013年6月5日(水) 片瀬 京子 シベリアやカナダに「永久凍土」と言われる所がある。最近どんどん解けていて、何やらヤバいことになりそうだという。いったい何事? JAMSTECの飯島慈裕さんにうかがうことにしました。(写真:田中良知) ナショナル ジオグラフィック日本版2013年4月号「[マンモスの牙を探せ」 シベリアの北の海岸でマンモスの牙探しが盛んになっているという話が、『ナショナル ジオグラフィック』に載っていた。牙を売りさばき、生計を立てている人もいるという。
何万年も前に死んだマンモスの牙が、なぜ今、発掘ラッシュなのか。 マンモスの牙が発掘ラッシュの理由 理由の一つは、マンモスを長らく閉じこめてきた「永久凍土」が解け出し、海岸の崖に牙が露出するようになったこと。つまり、牙が見つかりやすくなったわけだ。 なぜ今になって、永久凍土が解けはじめているのか。 それは、我々にどんな影響を与えるのか。 そもそも永久凍土ってどんなところなのか。 「辺り一面、霜柱ですかね。踏んでみたい」と私ライターK瀬が言えば、「僕もそのイメージ。たぶん、間違ってると思うけど……」とナショジオ編集部Y尾。 JAMSTECに、毎年シベリアの永久凍土に通ってその変化を調べている人物がいるという。取材陣はいつものように横須賀へ参じた。 飯島慈裕(いいじま よしひろ)さん。 「昼休み、飯島さんが庭でサッカーをしていると、遠くからでもすぐわかる」と広報担当者に言わせる風貌の持ち主だ。 飯島慈裕(いいじまよしひろ)さん。
ロシア・ヤクーツク近郊に広がるタイガの森。この下にも永久凍土が。(提供:飯島慈裕) 今年2月には、東シベリアの永久凍土で森林が衰退している理由を突き止めた。このインタビューの約1カ月後には、東シベリアのヤクーツクへ出かけることになっている。 日本は万緑薫る季節ですが、ヤクーツクはきっと寒いことでしょう。なんと言っても永久凍土ですから。 「夏は、気温が30℃近くになることもありますよ」 永久凍土ってどんなところ? あれ。永久凍土と聞くと、霜柱のパワーアップ版のような土地を、白い息を吐きながらザクザクと進んでいく印象がありますが。 「森林もあるし草原もあるし、見た目としてはここが永久凍土かという感じのところもあります。地表は乾いているところもあれば、湿気でグジョグジョのところも」 ということは、取材陣は“永久凍土感”を改める必要がありそうだ。 「タイガ」や「ツンドラ」という言葉を、中学時代に習った人は少なくないはずだ。タイガは北方の針葉樹林帯、ツンドラはさらに北、ほとんど木が生えない地域である。実は、そのタイガの森やツンドラの大地の下に、永久凍土はある。 永久凍土の模式図。夏の間は解ける「活動層」の下に、凍った「永久凍土層」があり、楔形の氷(アイスウェッジ)もよく見られる。(提供:飯島慈裕) では、永久凍土とは何か。 定義は、土壌の温度が0℃以下の状態が、2年間以上続いている土地。ただし、夏の間は表面が解ける所も多く、ヤクーツクもそんな場所の一つ。ちなみに凍土といっても、凍っているのは土ではなくて水分である。
“永久”という名の割に、“2年間以上”で、言葉から受ける印象よりも、ルールは緩い。 「英語のpermafrostをそのまま訳したのですかね。中国語だと、多年凍土です」 多年、よりは永久、の方が響きがいいな。 永久凍土は、地球上の陸地面積の20〜25%を占めている。 広い。 飯島さんが出かけていくのは、そのうち、連続永久凍土と呼ばれる場所だ。 「永久凍土にも種類があります。島状に孤立した永久凍土は、日本にもあります」 どこです? 「富士山、大雪山、それから立山にもあります」 永久凍土、意外と身近です。 永久凍土は地球の陸地の20〜25%を占めている。(出典:National Snow and Ice Data Center)
「それら孤立した所とは違って、周辺のどこを掘っても永久凍土という土地は“連続”永久凍土と呼ばれます。年間平均気温がマイナス5℃以下にもなる、吹きっさらしの風に当たりやすいツンドラ地域とか、森林地帯でも過去の氷期に氷河に覆われてなくて、非常に長い間地面が凍っていたシベリアやアラスカ・カナダ北部に、連続永久凍土が多いですね」 飯島さんはなぜ、富士山でも大雪山でもなく、連続永久凍土を目指すのか。 「そこが最も、気候変動に敏感で、しかもその変化が気候変動に返るからです」 飯島さんは、JAMSTECの地球環境変動領域 北半球寒冷圏研究プログラムに所属している。 「地球温暖化が進むと、大気の温度が上がります。したがって、地面も温まって、凍土の温度も上がる。この30年くらいで2℃近く土壌の温度が上がったところもあります。こういった観測結果はいくつも得られています」 2℃上がるとひとことで言っても、たとえばマイナス20℃がマイナス18℃になるのと、マイナス1℃がプラス1℃になるのとでは、その結果の受け止め方は変わるそうだ。 「0℃近傍では、見かけ上の温度の変化は少なくても、氷が解けることにエネルギーが使われています。0℃前後の期間が長く続き、氷は時間をかけて水になります」 凍土が解けて、何が起きているか 飯島さんが注目しているのは、この辺りの“氷が解ける”温度帯である。出かける先のひとつである、東シベリアのヤクーツクでは、凍土の温度はマイナス5℃から0℃程度だという。 では、地中で氷が水になることで、地上でどんな変化が起こるのか。 氷が水になるといえば、そうですね、流れていく? 「そうです。まず、湖や川へ流れ込む水の量が増えます。それから……」 それから、なんでしょう? 「地上の植物に影響を与えます。水が流れ出るのと、地面から凍土までの深さが深くなることで、地面付近の土壌水分が少なくなり、枯れることがあります」 なるほど。雨が少ない土地では、もともと土壌に蓄えられている水が植物を生育させる。氷が解けるということは、その蓄積を失うことになる。 「地形が変わることもあります。地中にあった氷がなくなって、へこむんですね」 永久凍土が解けると、河川の水量増、植物の枯死、土地の陥没など、人の目に見える形での変化が起きるのだ。 ヤクーツク。水分の多い土壌で熱の伝わり方を測定中。(提供:飯島慈裕)
左の写真(2007年8月)に元気だった木が、2年後(2009年6月)に枯れている。「凍土の湿潤化」が原因と、飯島さんは突き止めた。(提供:飯島慈裕) 取材陣の手元にある、2013年2月づけのJAMSTECのプレスリリースには「東シベリア永久凍土地域の湿潤化で森林が衰退」とある。 湿潤化で森林が衰退? 森が衰えるのは、氷が解けてなくなるためではないんですか? 「それだけではない、ということです。今、北極周辺で起きていることを説明します」 北極圏の気圧パターンが崩れている 北極圏では2005年、2007年、そして2012年に海氷が激減している。特に夏の減り方が顕著だ。この原因のひとつに、北極圏の大気の状態が変わったことが挙げられる。要するに、気圧配置が変わったのだ。 もともと、北極は全域で気圧が高くなったり、低くなったり、気圧の変化が一様なのが普通だった。その指標が、北極振動と呼ばれているもので、ちなみに日本を含め北半球の中緯度地域はこうした北極の気圧変動に応じて、暑かったり、寒かったりする。 ところが、そのパターンが崩れつつある。 夏、北極圏に高気圧と低気圧が両方とも居座るようになったのだ。多いのは、北米側に高気圧、シベリア側に低気圧というパターン。このパターンになったとき、北極から大西洋に向かって風が吹き、海氷が流されてしまうのである。2005年以降の海氷激減は、こうした気象要因も強く関わっていた。 2005年〜2007年の夏の平均的な気圧配置。北米側に高気圧、シベリア側に低気圧が居座った結果、北極海の海氷が風で流されたり、シベリアに雨を降らせたりしている。(提供:飯島慈裕) そして、この異常な気圧配置は、海氷を吹き流すだけではない。 「東シベリアに低気圧を運び、夏に雨、冬に雪を降らせやすくなります」
降雨量、積雪深の観測データを見ると、1950年から2000年まで、多雨多雪の年は2年しかなかった。ところが、2005年から2007年までは3年連続で、多雨多雪。 そうか、シベリアで降雨量、降雪量が増えてるのか。 あれ? さきほど、永久凍土が融解し、水が流れ出てその土地から減ることで、森林が枯れるという話がありましたよね。雨や雪が増えるなら、プラマイゼロとはいかなくても、バランスはいい方へ行くのではないですか? 「私も最初はそう思っていました。実際に、アメリカとカナダの永久凍土では雨が減り、その影響で森林が枯死したことが報告されていました。温暖で地表面近くの凍土が解けて流れていったうえに、雨が少なかったからです」 ところが、雨と雪が増えた東シベリアでも、結果としては同じように森林は枯れていく。なぜなのか、飯島さんは根本から見直すことにした。 つづく この記事はナショナル ジオグラフィック日本版との共同企画です。同サイト内にある「海」のコーナーでは、JAMSTEC研究者の連載や自然・環境に関する写真や記事を豊富にお読みいただけます。
海の研究探検隊 JAMSTEC
この連載は、海の研究所JAMSTEC(海洋研究開発機構)に集まる人々の物語です。海底を世界一深く掘れる船や、深海6500メートルまで潜れる有人潜水艇など、海というフロンティアを探検する能力では世界随一の設備をもつ研究所。そこに、未知への好奇心にあふれた一癖も二癖もある研究者、エンジニア、ダイバーが集まるようすは、さながらワンピースの海賊、それともサンダーバード?彼らの話を聞きながら、未知への航海を楽しもうではありませんか。 |