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東芝で行われたミュー粒子を使った実験。約1カ月間(右下)データを取り続けると、円筒形のウラン燃料を鮮明に画像化することができた(東芝提供)
火山も原発も透視できる「ミュー粒子」
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20140808/dms1408080830005-n1.htm
2014.08.08 警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識
知らない間に皆さんの身体はもちろん、岩も通過していっている透過力が強い素粒子がある。ミュー粒子というものだ。宇宙線が地球の大気と衝突して次々に生まれている。寿命はたった100万分の2秒しかないが、1平方メートル当たり毎分1万個も飛んでいる。
このミュー粒子を使って、いままで見えなかった火山の内部が見えるようになった。
だが、それだけではない。メルトダウンを起こした福島第1原発の内部調査にも使われようとしている。
原発の中はめちゃめちゃになっているに違いない。破壊された3基の原子炉の炉心のほか、放射性物質まみれの何百トンものがれき、そして崩れ落ちた原子炉建屋の建材や金属フレーム…。
しかしこの内部、とくに溶け落ちた核燃料が正確にどこにあってどうなっているかは、まったくわからない。これを知らなくては廃炉作業が進まない。
これを調べるために原子炉内に立ち入ることはとうてい不可能だ。カメラを入れるために穴を開ければ、そこから大量の放射性物質が飛び出すから、これも危険だ。
身体の内部ならばX線で透視できるから、骨や内臓の密度が濃淡で表された写真が撮れる。だが原子炉も火山も、X線では通りぬけられない。
一方、ミュー粒子は3メートルもの厚いコンクリートに取り巻かれた原子炉や、火山灰や火山岩に覆われた火山の内部も通りぬけられる。そしてX線写真と同じように内部にあるものの密度に応じた写真を撮ることができる。
火山でどのようにマグマが上がってきて噴火に至るのか、噴火の後で残ったマグマはどこへいってしまうのか、といった噴火のメカニズムは、まだ十分にわかってはいない。
ミュー粒子を使った透視は、長野・群馬県境の浅間山や北海道の昭和新山などで始まったばかりだが、まだぼんやりした画像ながら、少しずつわかってきている。
それによれば、浅間山では火道(かどう)の上部に空洞が見えた。火道とは噴火のときのマグマの通り道だ。つまり噴火が終わった後で、火道を満たしていたマグマは冷えて下に落ちてしまっていたことがわかった。
ところで原子炉や核兵器に使われるウランやプルトニウムは特別に密度が大きいのでこのミュー粒子を使う透視手法が有効だと思われている。
すでにウランやプルトニウムの密輸を防ぐために、怪しいと思われる船積み用のコンテナ輸送容器を開けずに外部からスキャンするための装置は米国で使われている。
これはまだ、ぼやけた像しか見えないが、その装置を洗練して、福島の原子炉の内部を精密に見ようとしているのだ。うまくいけばいいのだが…。
■島村英紀(しまむら・ひでき) 武蔵野学院大学特任教授。1941年、東京都出身。東大理学部卒、東大大学院修了。理学博士。東大理学部助手を経て、北海道大教授、北大地震火山研究観測センター長、国立極地研究所所長などを歴任。『直下型地震 どう備えるか』(花伝社)など著書多数。
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