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サガミザメのオスは大地震を予知する!? はじめての深海ザメ漁に大興奮。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39520
2014年06月14日(土) 沼口麻子の「サメに恋して」 現代ビジネス
長谷川さん親子と
溢れ出る高揚感と裏腹に、徐々に強くなる風。厚みを帯びた灰色の雲は時間の経過とともに厚みを増しているようだ。何か事件が起こりそうな予感がする、ざわつく海面。
「自然の摂理」という言葉は理解しているものの、この状況を私の頭はなかなか受け入れようとしない。海況が悪化していくのを少しでも食い止めようと、信じてもいない神様にお祈りを捧げてみたが、その想いもむなしく、スマートフォンの画面に表示されていたのは風速15メートルの文字。加えて、うねりも3メートルと時化予報。5月21日に予定されていた深海ザメ漁はあえなく中止となり、予備日として設けた翌日22日に望みは託された。
今回訪れたのは、東京から西へおよそ200kmの静岡県中部に位置する焼津(やいづ)市小川(こがわ)漁港。港には所狭しと漁船が係留されており、車から降りると、心地よい潮の香りがした。
■日本で一番深海ザメに熱い街「焼津」
焼津の深海ザメ漁について説明するには、第二次世界大戦にまで話が遡る。当時は深海ザメの肝油が重宝され、国がそのすべてを買収していたという。その使い道は、ゼロ戦の潤滑油として使われていたというから驚きだ。サメの肝油は上空の低温でも固まらない性質のため、潤滑油に最適だった。他には偏西風を利用した風船爆弾にも使われていたという。
しかしながら、その時代と比較すると今では需要は大幅に減り、肝油などの健康栄養補助食品やスクアランオイルという化粧品に使われるに留まっている。深海ザメを専門に獲る漁師はだんだん少なくなり、今では、たった一隻になったという。
その船の名は「長兼丸(ちょうかねまる)」。
その日、私が乗る予定だった漁船だ。
深海ザメ漁の期間操業をする漁船は他にもあるというが、一年を通して、深海ザメを狙う漁をしているのは、日本でこの船だけ。長兼丸三代目漁師の長谷川さんと、息子である一孝さん(四代目)の二人で操業している。
■生きている深海ザメをこの目で見たい
翌日22日の出港予定時刻は早朝5時に決まった。目覚まし時計を3時半にセットし、私は、新調したばかりの漁師合羽(水産合羽とも言う)を握りしめ、明日こそは海況が良くなり、出港できることを祈りながら、早めにベッドに横になった。
数時間後には、生きている深海ザメをこの目で見ることができる。
そんなことを考えていたら、まるで遠足前日の小学生のように、1時間起きに目が覚めてしまった。なかなか寝付くことができないうちに、目覚まし時計のベルを耳にすることになった。
■深海ザメ漁日和
早朝3時半。ホテルの部屋のカーテンをあけ、窓の外を眺めると、風がぴたっとおさまっていた。これはいけるかもしれない。逸る気持ちを抑えながら、新調した真っ白な漁師合羽に身を包んだ私は、漁船「長兼丸」の係留する漁港へ急いだ。漁師は時間に正確だ。1分でも遅れることは許されない。予定より30分早く、船着き場へ到着し、改めて海面を見てみると、驚くほど穏やかで、昨日とうってかわっての凪に、気持ちのよい朝焼けがさしていた。
私は思わず、口に出した。
「まさに深海ザメ漁日和!」
長谷川さん親子、私を含むサメ友(サメ好きの仲間たち)5名を乗せて、定刻の5時に長兼丸は出港した。
サメが獲れる漁場は駿河湾にはいくつかあるが、今回訪れる場所は焼津の沖。通称「焼津前」と呼んでいる漁場だ。15分ほどで到着し、まずは仕掛けの針に餌つけの作業。15cm大の豆アジ、イワシ、カタクチイワシ類を、漁師長谷川さんは手際よく付けていき、円形の樽の縁に丁寧にひっかけていく。深海ザメを獲るときのコツを尋ねてみると、「特にそんなのはない」と笑いながら答えてくれたりと、船の上は終始和やかなムードだった。漁師や漁船というとピリッとしたイメージで、罵声の飛び交うような厳しい世界を想像していたが、長兼丸は微塵もそんな雰囲気はなく、終始笑いで溢れていた。
準備ができると、長谷川さん親子は手際よく縄入れを行なった。あげ縄は1時間後に行なうということだったので、その間、船上サメ談議をして待つこととなった。
カズさん
■大地震を予知する生物
長兼丸の4代目漁師、長谷川一孝さんは、カズさんという愛称で親しまれる。長身で色黒の肌にまっ白のフレームのメガネが印象的だ。そんなカズさんから、この漁場の興味深いエピソードを聞くことができた。
「サガミザメのオスが大量に獲れたら、危険信号。その4日以内に地震が起こる」
長兼丸はサガミザメのメスを狙う底はえ縄漁を行なっている。カズさん曰く、サガミザメのメスの生息水深は300〜400m。オスはそれよりももっと深いところに生息しており、通常ならば、メス狙いの水深に入れた仕掛けにオスが掛かることはない。しかしながら、この8年の間に不可思議な現象が起きたという。
これはいずれもこの「焼津前」での出来事。メスが漁獲される300〜400mの水深にも関わらず、オスが大量(20〜30匹どころではない量とのこと)に漁獲されたというのだ。初めてサガミザメを大量捕獲したのは忘れもしない2009年8月7日。その4日後の2009年8月11日に駿河湾地震(M6.5)が発生した。そしてその現象はこれだけに留まらず、後日思い返してみると、2011年3月11日の東日本大震災(M9.0)、2011年8月01日の駿河湾地震(M6.1)、2012年1月28日の山梨県東部・富士五湖地震(M5.5)の数日前にはサガミザメを大量捕獲していたことに気づいたという。
それらの地震はいずれも大規模なものであったので、私は息をのんだ。これがたまたまではないとしたら、なぜ、このような大規模な地震の前にサガミザメのオスは通常よりも浅場へ集団移動するのか。長兼丸はサガミザメのメスを狙う底はえ縄漁を行なっている。カズさん曰く、サガミザメのメスの生息水深は300〜400m。オスはそれよりももっと深いところに生息しており、通常ならば、メス狙いの水深に入れた仕掛けにオスが掛かることはない。
カズさんは真剣な口調で続ける。
「あくまで僕個人の仮説なのですが、地殻変動や人間が感じ得ない微弱な周波数か何かの変化を感じ、サガミザメはいち早く危機を察知できるのではないかと思うのです。そうだとすれば、この現象は、地震の際に起こる海底雪崩に影響のない、より浅いところへ逃げているようにも思えるし、または危機であるからこそ、子孫を残す繁殖行動をするために、メスの生息水深へ大移動しているとも思えるのです」
■サガミザメのオスと地震の関係性
サメと地震の関連性については科学的な根拠は何もない。メディアは安易に地震と深海生物との関係性を煽る風潮があるが、私の知るサメの科学者でそれを肯定している人はひとりもいない。
一方で、サメの仲間は、頭部を中心に微弱電流を感知するロレンチニ氏瓶という特殊な器官があり、他の魚や生物にくらべて微弱電流に敏感に反応するという特徴がある。そういった意味では、私たちが感じ得ない環境の変化を感じて行動している可能性がないとは言えない。しかしながら、その現象を断定するにはまだまだデータが足りないだろう。偶然ではなく、本当にそうであるのか、定量的な調査も必要であるし、なぜサガミザメのオスだけがそのような行動をするのかという検証も必要であるからだ。
ただ、これだけは断定できる。
今、日本でもっとも深海ザメを熟知する漁師が、サガミザメのオスと地震の関係性を目の当たりにしているということを。
■深海ザメ漁開始
船上サメ談議は、聞いたこともない話ばかりで非常に興味深く、瞬く間にあげ縄を開始する時刻となっていた。今回入れた仕掛けは250針。さあ、どんな深海ザメが水揚げされるのだろうか。
長谷川さんが縄をたぐり、針が順々に船の上にあげられていく。最初の50針は残念ながら、何も掛かっていなかったが、次の50針から深海生物が顔を見せ始めた。最初に漁獲されたのはチゴダラ。肛門の近くに発光器を持つ深海魚だ。この日は海が白にごりしており、水面近くになるまで漁獲物が何かを確認することが難しかった。海中で細長いシルエットが見える度、サメではないかと心拍数が上昇したが、期待もむなしく、続けて掛かったのはオキギス、ホラアナゴ、トウジン、アコウダイ、マナガツオであった。
なかなかサメは掛からない。
もしかしたら、今日は深海ザメと出会うことができないのかもしれない。そんな不安がよぎったとき、水中でまた細長いシルエットがぼやっと光った。
でも、またオキギスか何かだろう。
ぼんやりとしたシルエットが水面近くまであがってきた。
緊張で顔がこわばる。船の縁から落ちんばかりに身を乗り出して凝視する。
紛れもない、深海ザメだ!
これは、先ほどの話に出てきた地震を余地する噂のサガミザメか? それとも近縁種のヘラツノザメだろうか? この2種については外見が非常によく似ており、素人が見分けることは難しい。船上にあげて確認したところ、この種はヘラツノザメであることがわかった。
水中カメラ
https://www.youtube.com/watch?v=ZEukH8b6FhU
船上カメラ
https://www.youtube.com/watch?v=EKHjN3ycoBs
念願の深海ザメに会えた! こんなに興奮したのはいつぶりだろうか。
ヘラツノザメと
次に上がってきたのは、なんと、チゴダラの頭部であった。
長谷川さんは言う。
「これはゴジラの仕業だ」
ゴジラの愛称で呼ばれているのは、ヨロイザメ。まるで黒い鎧を着ているかのように、鋭利なサメ肌で全身が包まれており、その身体に触れる際は注意をしないと簡単に流血してしまう。また、ノコギリ状に鋭い下額の歯、短く丸みを帯びた鼻、厚い唇から、顔つきもゴジラの愛称にふさわしく、魅力的だ。
人気のサメ顎ランキングの上位にも入り、サメ好きの間では人気のあるサメのひとつでもある(サメの種類により歯の形状が異なるのだ)。
今回、ヨロイザメを漁獲することはできなかったが、その食事のあとと思われる残骸が3つほど水揚げされたので、この海域に生息しているのは間違いなさそうだ。姿は見えずともそこにいる。なんともサメらしくてかっこいいではないか。理由はわからないが、ヨロイザメは触ると黒っぽい体表の色が落ちるという特徴がある。次回、ヨロイザメと出会えたときは、目一杯抱きついて、私の真っ白な漁師合羽をヨロイザメ色に染めてみたい。
正午を回ったころで、ヘラツノザメと共に私たちは帰港した。長谷川さんは、次回は石花海(せのうみ)に行きましょうと提案してくれた。石花海という漁場はその東側に水深100m〜700mの巨大斜面があり、多くの深海生物が生息する大変面白い漁場だ。
オンデンザメやチヒロザメ、カグラザメと言った駿河湾ビッグ3と言われる大型深海ザメと出会える日も遠くない。
沼口麻子(ぬまぐち・あさこ)
シャークジャーナリスト
1980年生まれ、静岡県在住。東海大学大学院海洋学研究科水産学専攻修士課程修了。 小笠原諸島父島周辺海域に出現するサメ相調査とそのCestoda (条虫類) の出現調査を行う。共同研究「静岡県御前崎沖で漁獲されたメガマウスについて」(日本魚類学会)など。
サメは一般的に怖いとしか認識されていない。しかしながら、サメは世界中に500種類以上存在し、生態学的に非常に面白いものや、人と密接に関わる文化を持つものも多い。これらを一般へ認知させるため、サメに特化した真の情報発信を専門に活動を行う。また、全国のサメ好きを集めたサメコミュニティの運営を主宰する。
ブログ http://profile.ameba.jp/sharkjournalist/
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