02. 2013年12月25日 11:54:04
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未来授業〜明日の日本人たちへ 廣井悠氏 〜帰宅困難者問題〜 2013年12月20日 今回の講師は、名古屋大学減災連携研究センター准教授の廣井悠さん。専門分野は都市防災で、特に大都市における対策について研究されています。 将来的に大地震が起きた場合、私たちはどのような行動を選択すればいいのでしょうか? 心構えなどをお聞きしました 帰宅困難者に関する3つの誤解 東日本大震災後、「帰宅困難」という現象や用語の認知度は飛躍的に上がりました。しかし、それが逆に新たな誤解を生むことになったとも考えています。ここでは代表的な3つの誤解を紹介したいと思います。ひとつ目の誤解は、「東日本大震災のときは歩いて帰れたから、近い将来に首都直下地震が起きても同じように歩いて帰れるだろう」というものです。これは首都圏の多くの方が誤解している認識なのですが、そもそも東日本大震災のときは道路も閉塞しませんでしたし、大きな火災もそれほど起きなかった。だから安全に帰れただけのことで、その状況と首都直下地震の被災の様相は全然違うのです。ですから、東日本大震災のときに帰れたからといって、同じような行動をとってもよいというわけではありません。
2つめの誤解は、「自分には体力があるから10kmや20kmなど歩いて帰れる」と思い込んでいる人がいることです。一般に、会社から自宅まで直線距離で10〜20km以上の人が帰宅困難者だといわれていますが、「自分は20km、30kmでも歩けるから帰ります」という人がいる。もしかしたら、物理的には帰れるかもしれません。ただ、都市災害時はみんなが一斉に帰ることによって道路が大混雑し、消防車や救急車が通れなくなってしまうという可能性が高いと考えられます。東日本大震災の東京でも至る所でそのような光景が見られました。この課題を解決するためには、自分が帰れるかという主観的な判断ではなく、「自分が帰ることによって、都市がどういう状況になるか」を皆が考えなければいけない。つまり「帰宅困難」とは、自分が間接的な加害者になるということでもある。ですから、「自分は帰れるから帰る」という考え方はやめていただきたいと思います。 3つめの誤解は、「帰れる、帰れないは災害時にたいした問題ではないので、帰宅困難者対策や帰宅困難者への対応は後回しでよい」という発想です。たしかに緊急時には、火災対応とか、埋まってしまっている人の救助の方が大切です。けれども東日本大震災で明らかになった問題は、「多くの人が帰れなかった」ということではなく、「震度5強だった3.11の東京ですらどこに行けばよいかわからない人や情報を受け取れない人で都市が大混乱に陥った」という事実です。これが震度6強、震度7になると、おそらく多くの人が行き場を失い、右往左往して二次災害に巻き込まれたり、適切な避難行動がとれなかったり、あるいは災害対応を大幅に遅らせて間接的な加害者になってしまう。この問題をどうにかしようというのが帰宅困難者対策です。「帰れない人をどうしようか?」ではなく、迅速な避難行動あるいは安全な場所への滞留も含めた、災害時の移動ルールをきちんと決めることが本来の対策の意義なのです。そのために重要なのは、とどまれる安全空間をつくり、備蓄を準備し、きちんとした災害情報を入手してもらうこと。ですからこれらの3点に注目し、災害時に自分が大都市にいた場合、どのように行動をすべきかを考えなおすべきです。 災害時の対応 気象災害の場合は、台風の発生など、ある程度予測できます。気象情報も事前に入手できますし、自主的に早期帰宅したり、朝の出勤を遅らせるなどの対応も可能です。ただ地震は突発的に発生するものなので、おそらく事前に回避する手段はありません。そこで、そんなときどうすべきか、どこに行くべきか、どう情報を収集すべきかを考える必要があります。しかしそれは、その人の状況によって違ってきます。たとえば土地勘のない場所にいる観光客、学校にいる学生さん、企業にいる人など、いろいろな人によって異なる。だからこそ、いざというときどう対応すればいいかを、個々人が事前にシミュレーションしておく必要があります。 基本的に、その対応は都市によって違います。たとえば名古屋や大阪などは津波が来る可能性があるので、できるだけ高い場所に移動した方がいい。一方、東京などでいちばん怖いのは火災です。ですから、広域避難場所のようなオープンスペースや燃えにくい空間、あるいは外壁などが落ちてこない場所にとどまる必要があります。ビルの中にとどまるという選択肢もありますが、ビルの中が安全かどうかは判断が難しい。震度5強の東京でしたら「まあ大丈夫だろう」と判断はつきますが、東日本大震災がそうだったように、ビルの中がグチャグチャになって、余震も多く、高層ビルがグラグラ揺れているという状況下で安全性は誰にも判断できません。ですから、まずは高台や広域避難場所、オープンスペースなど安全な場所に行くことが重要です。そのためには地域を襲う代表的な災害を知っておかなければいけません。 そして東京・名古屋・大阪などの大都市では、ある程度落ち着いたら安全な建物内などに集まり、帰宅していいとわかるまで待つことが大切。お子さんをお持ちのお父さんやお母さんは、心配だからと急いで帰ると、先程申し上げたように救急活動の妨げになるかもしれませんし、自分が被災する危険もあります。ですから地震などが起きた場合は、きちんと学校や保育園などで子どもの安全を確保してもらい、ツイッターやフェイスブックなど、なんらかの手段で連絡をとりあうことを事前に約束しておく。そして、お互いを信頼することが重要です。 帰宅困難に備えて 災害が起こった場合、行政は発災から3日間は、埋もれている人を助け出したり、応援を呼んだり、火災を消すなどの行動に集中しなければなりません。帰宅困難者の全面的な対応はとても期待できない。つまり帰宅困難者対策は現状、企業と個人ががんばらないとできない対策なのです。東京都は、大きな地震が起きたら、基本的に帰宅しないでとどまってくださいと条例を出しています。しかし、それはなかなか難しい。大きな震災の直後は安全な空間の確保が難しいし、3〜4時間どころか、ひどいときには3日間以上とどまらなければいけないかもしれませんから備蓄も必要です。百貨店など、お客さんを保護しなければいけないところも当然ありますし、行き場のない帰宅困難者が集まってくるかもしれない。
ただ自分の従業員をとどまらせるのとは異なり、特に一般の行き場のない帰宅困難者をとどまらせる場合は、どんな人がどれだけとどまるかはわかりません。ですから、事前になんらかの準備が必要です。どうやったらとどまれるか、どのくらいとどまらせることができるか、どのようにとどまる施設を開設・閉鎖するか、災害が起きたときはどこに誘導すればいいのかなどを事前に考えなければいけない。 首都直下地震が起きたら、約92万人の行き場のない帰宅困難者が東京都で発生するといわれています。私はもう少し多いと考えていますが、いずれにせよまだ公共施設ではほとんど対応できません。ですからこの受け入れは、一般の企業の方に少しでも手伝ってもらう必要があるのです。災害対応をどれだけ素早くできるかによって復旧復興のスピードは相当違ってきますので、社会全体が問題意識を共有して災害を乗り切ることが必要です。 ですから企業が行うべきは、自社の従業員をとどまらせること、行き場のなくなった人を受け入れてあげることの二点です。後者については耐震性が強く、余裕のある企業が役割を担うことになるでしょう。そして、従業員や買い物客の人たちに、自分が帰ると間接的な加害者になって迷惑をかける、もしかしたら人的被害を生んでしまうかもしれないという意識を持ってもらうことが重要です。被災地では手が足りなくなる場合もありますから、その場の施設管理者の指示に従って災害対応を手伝うことも求められるでしょう。 災害時の心構え とどまるという意識、そして情報。このふたつが帰宅困難者対策には重要です。災害情報を適切に受け取らないと、どこでどういう災害が起きているか把握できず、どうすればいいかがわからなくなります。ですから、可能であればラジオなどの災害に強い情報ツールで最新の情報を入手し、それに基づいた行動をしていただきたいと思います。ツイッターなども有効ですが、災害直後は誤った情報も回っています。問題は、間違っているかもしれない情報を他の人に伝えてしまうこと。そうすることで相手がなんらかの被害に遭ったとしたら、情報を伝えた人の責任になってしまう可能性があるわけです。ですから、なるべく公的な情報を集約して伝えなければいけない。 当然ながら、帰宅困難者対策という意味では安否情報も非常に重要です。家族の安全が確認できないと、無理にでも帰ろうとしてしまいます。ですから、安心してとどまるためには、家族の安否情報は必要不可欠。最近は携帯電話のアプリや伝言サービスなどいろいろな確認方法がありますが、安否情報を家族全員で共有することが大切。ですから準備をし、練習しておくことが求められます。 それから、災害時には多くの人が渋谷、東京、品川などのターミナル駅に集まります。駅には最新の交通情報があって、情報をとることができるからです。すると駅が大混雑し、危険な状況になるかもしれません。ですので、特にお子さんをお持ちの方は駅に行かない方がいい。たいした情報も得られないかもしれませんし、2001年の明石花火大会歩道橋事故のように群集雪崩が起きた場合、被害に遭いやすい方はお子さんや要援護者なんです。ですから、人が集まって危険な場所には行かないという心構えも重要だと思います。 (FM TOKYO「未来授業」11/4(月)〜11/7(木)放送より) (2013年12月20日公開) |