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3・11東日本大震災の直前と同じ異変が 東大名誉教授・村井俊治が警告する 「南海トラフ巨大地震来年3月までに来る」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37571
2013年11月19日(火)週刊現代 :現代ビジネス
ただの当て推量でも、超能力でもない。データが、あの東日本大震災の発生前と同じ異変を示している―。短期直前の地震予測をあきらめた地震学界に代わり異分野の権威が次の巨大地震を警告する。
■日本列島が動き出した
「データを見て、本当にびっくりしましたよ。これは東日本大震災のときと同じじゃないかと」
東京大学名誉教授の村井俊治氏は、いまでもその驚きが覚めやらないかのように、そう語りだした。
「初めは今年6月末、九州・四国・紀伊半島で異常変動がありました。
それが9月1~6日に、日本全国が異常な変動を起こし、私たちのシステムでは日本地図が真っ赤になったんです。
その次の週は逆に変動がなく、大変静かになったのですが、東日本大震災の前には、こうした変動と静謐期間が半年ほどの間に3回、繰り返されました。
そうした経験から、私たちは今年12月から来年3月頃の期間に南海トラフでの大地震が起こる可能性が高いと考えたのです」
この冬、南海トラフでの大地震が起こる―。
衝撃的な予測だが、実はここまでの話ならば、村井氏らは過去にも取材で訴えてきたという。ところがいま、事態はさらに悪化しているというのだ。
「9月の異常の後、4週間ほどは静かな状態がつづいたのですが、5週目の10月6~12日、再び広範囲で変動が起こったのです。
とくに大きな変動がみられたのは、九州・四国。詳しく見ますと、それまで高知県、愛媛県、紀伊半島に出ていた異常が香川県、徳島県など瀬戸内海側に移ってきている。九州、徳之島、沖縄も動いています。
これらの場所は、南海トラフでの地震、とくに九州・四国沖を震源とする南海地震が起こるとされている地域と、ぴったり符合するのです」
こう警告する村井氏、実は測量学の分野では世界的な権威だ。先月もアジアリモートセンシング会議という国際学会で基調講演を行ったばかり。測量学の世界で「ムライ」の名を知らない人はまずいないだろうとさえ言われる。
そんな村井氏が、東日本大震災以来、精力を傾けているのが「地震予測」の研究なのだ。
「私たちが使っているのは、国土地理院が全国1200ヵ所以上に設置している電子基準点のデータです。
これは、みなさんがご存じのGPSをさらに精密にしたようなもので、簡単に言えば人工衛星を使って、地上に置かれた基準点の動きを誤差2~3mmの範囲で測定する、精密な測地システムです。東西南北への水平方向の変動だけでなく、上下方向の隆起・沈降も観測しているのです。私たちはとくに隆起や沈降の上下移動の差、つまり変動の大きさに注目しています」
と村井氏は説明する。
■データはウソをつかない
世間では人工衛星を使って地上の位置を特定する仕組みを十把ひとからげに「GPS」と呼んでいるが、これは米軍の呼称だ。同様のシステムは、ロシア版では「GLONASS」、日本版では「準天頂衛星システム」と名付けられている。国土地理院では、これら日米露のシステムを組み合わせて、精密な測量を行っている。
村井氏はなぜ、これまで研究の対象にしてこなかった、地震の予測に乗り出したのか。きっかけは、3・11の東日本大震災が起こる前、2010年9月に、全国的な異常に気付いたことだったという。
「その後、2011年1月にも東北・関東で異常を観測したのですが、それが巨大地震の前兆だとは、まだ言えるだけの準備が整っていなかった」
さらに、すでに東京大学を退官し、名誉教授の立場で個人的にデータの観測を行っていた村井氏は、何かがおかしいと気づいてはいたのだが、発表する場もなく、公の場で注意喚起することもできなかった。
そのときの後悔が、いまの活動の原動力になっているというのだ。
「私たちの基本スタンスは、当て推量でものを言うことではなくて、データを出すことなんです。この異常データを見て、おかしいと言わないほうがおかしいでしょう、と。
これまで、多くの地震予知は当て推量で語られてきました。だから『当たった、外れた』という単純な議論に終始し、科学的に深まることがなかった。
でも私たちは、当たらないことを恐れて、データがあるにもかかわらず何も言わずにいて、大地震で人が死ぬことには、もう耐えられない。せめて、『大地震が起こるデータが出ていますよ』という言い方だけでもしておきたいんです。
東日本大震災のように、1万6000人近い方が亡くなってしまってから、実はわかっていましたなんて後出ししても意味がない。誰かがどこかで役立てて、ひとりでも人命が救われれば、という気持ちでやっているのです」
村井氏は、活動の拠点づくりと情報発信のため、「地震科学探査機構」(JESEA)という会社を立ち上げ、顧問に就任した。
同社社長の橘田寿宏氏はこう話す。
「地震の予測情報は月額210円のメールマガジンで毎週、配信していますが、村井先生としては苦肉の策というところです。
すでに東京大学は退官されていて、国などから研究費の補助も受けられない。でもデータを解析したり、多くの人に情報発信したりするにも元手はいります。
会社にしてようやく事業が動き出しましたが、金銭的にゆとりがあるとは言い難いですよ。本当はもっと処理能力の高いコンピューターを使いたくても、なかなか手が出ない」
村井氏も、ビジネスとして地震予測を行うことは非常に難しいと率直に語る。
「ビジネスとしてはリスクの高いものですよね。おカネをいただいているわけですから、胃が痛くなるような日々ですよ。でも、我々はきちんとデータを出していくしかない」
■驚きの的中率の高さ
では、村井氏らの予測方法の実力は、どれほどのものなのか。
村井氏は同じく同社の顧問を務める工学者の荒木春視氏と、2000~'07年に発生したM6以上の地震162件について分析。その結果、162件すべてで電子基準点のデータに、前兆と考えられる変動があることを突き止めた。
「そうした異常は、今年2月の十勝地方南部地震、栃木県北部地震、4月の淡路島付近の地震の際も、事前にはっきりととらえて、予測を発表できました。昨年1年間を通しての平均的な実績では、75%で『当たっている』と言えるでしょう」(村井氏)
75%といえばかなりの割合だ。だが、一種の門外漢、畑違いの村井氏らの予測に対して、地震学の研究者からは懐疑的な声も上がる。
「正直に言うと、電子基準点やGPSのデータによって地震予知ができるものではないと思うんですね」
地震学が専門で、海底地震計の設計開発にも携わったことのある、武蔵野学院大学特任教授、島村英紀氏は、こう話す。
「電子基準点などは、地面の上に乗っています。一方で、地震は地下数q、数十qの岩のなかで発生する。
岩盤から上の地面、つまり土の部分というのは非常にやわらかいので、雨がたくさん降ったりすると水を含んで膨らんだりする。地震を起こす、岩の部分の動きを忠実に反映しているとは言い難いんです」
そして、次のような問題点があると指摘した。
「まず、地表の土の部分がどう動いたら、地震を起こす地下の岩盤はどう動いているのかというメカニズムがわからない。GPSなどでどれくらい動いたら、地震につながるというデータも残念ながら、ない。さらに、大地震を引き起こす海底の南海トラフなどの上には電子基準点がない。
GPSによる研究は非常に大事だと思いますが、地震予測にただちに結びつくものではないと思う」
一方、こうした指摘に、村井氏は反論している。
「たしかに電子基準点のデータというのは季節や豪雨によっても変動しますが、一定以上の大きな変動は、地殻の動きと関係していると見ていいはずです。
それに、ここが地震の研究者と私たちの一番の違いだと思うのですが、我々は地震のメカニズムを追究しているわけではない。GPSのデータと地震との相関関係を分析するという、工学的アプローチなんです」
科学用語を翻訳すると、つまり、こういうことだ。理由はともかく、地震が発生するまでの、GPSで測った地面の動きのデータをたくさん集めてくると、「こう地面が動いたときに地震が来ている」という関連性がわかるはずだ。自然科学者である地震学者は「なぜそうなるのか」と考え始めるが、人間社会での応用を重視する工学者は、「とにかくそうなるのだから、どうにか手を打てないか」と考える。村井氏は言う。
「たしかに、システム上の限界もあります。たとえば地震の兆候をリアルタイムに監視したくても、国土地理院がリアルタイムに観測データを出してくれない。気象庁など一部の機関には情報提供しているようですが、私たちがお願いしに行っても、ダメの一点張りでした。データに間違いがないか確認してから一般公開するということなのでしょうが、観測から2週間経たないとデータを出してくれない。でも、それで人命を救える可能性が少しでもあるのだったら、ときには間違いがあっても、情報を出していったほうがいいんじゃないかと、私たちは訴えているんです」
予測技術の実社会での応用を重視する村井氏らは、精力的に政府や企業にこの技術をアピールしている。
「先月には内閣府の審議官から、ぜひ話を聞きたいという打診をいただいて、説明に行きました。
また、東日本高速道路(NEXCO東日本)の取締役に説明する機会もあったのですが、これは非常に残念な結果に終わりました。
その方は、『地震予測のデータなどもらっても、どうしようもありません』と驚くべきことをおっしゃる。『私たちは地震が起きたときにいかに交通を復旧するかが仕事であって、地震の予測などには興味がない』と言うんですね。自分たちが地震を止められるわけでもないし、そんなことは自分の仕事ではないと。
唖然としました。お客さんががけ崩れなどで亡くなるのを防げるかもしれないと私などは思うのですが。百パーセント当たるなら別だが、可能性が高いというくらいでは動けないということなのでしょう」
村井氏自身も、まだこの技術が未完成なのは確かだとしている。
「けれども、もしものことがあったら、どうしようかと準備することはできると思うんですね。それによってずいぶん被害も違ってくるはずなんです」
■地震の規模はM7以上
たしかに、予測がはずれて批判されることを恐れ、何かあってからデータを後出ししても意味はない。また、いま政府や地震学者が公表しているように「今後30年以内に70%の確率で巨大地震が起きる」と言われても、何をしていいのかわからず、途方に暮れるしかない。
国民が本当に求めているのは、村井氏らが目指しているような、「聞いて、危険を感じて、備えられる」使える予測なのだ。
ちなみに、村井氏らが予測する南海トラフでの地震の規模は、どの程度のものなのか。村井氏とともに研究を進めている工学者の荒木氏によれば、
「該当する地域の断層の長さから言って、M7以上でしょう。九州、四国から紀伊半島までは津波が高くなる危険性がありますね。沿岸部では、震度6強になる可能性もあります」
南海トラフでの地震が恐ろしいのは、一部分で大地震が起こると、隣り合う他のエリアでも大地震が連鎖的に発生し、全体として巨大な地震となる可能性もあるということだ。
実際、1854年の安政南海地震と安政東海地震は32時間のタイムラグを置いて起こった連動型の巨大地震とされている。場合によっては、九州から東京を含む関東までの各地が激しい揺れと津波に襲われ、高層ビルや巨大な橋などが崩壊するなど、とてつもない大災害に発展してしまう。
内閣府の中央防災会議も今年5月の最終報告書で、南海トラフで巨大地震が発生した場合、最大で死者32万3000人、被災者950万人、経済的損失は220・3兆円と試算している。また大阪府は10月30日に発表した独自の被害想定で死者を最大13万人としている。
刻一刻と迫る、次の巨大地震。占いのように「当たるかな、当たらないかな」と悠長に構えている場合ではない。「何かがおかしい」と伝えようとしている科学者たちの声に耳を傾ければ、心構えだけでもできるのではないだろうか。
「週刊現代」2013年11月23日号より
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