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2020年東京五輪 晴海(埋め立て地)の選手村が津波に流される いつくるか分からない直下型大地震 世界のトップアスリートが被害者になる
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37309
2013年10月25日(金)週刊現代 :現代ビジネス
「東京は安全です」と首相が胸を張り、誘致を勝ち得た2020年東京五輪。だが、日本国民の多くも計画の詳細は知らないだろう。海ぎわに施設が集中するなか、世界との安全性の約束は守れるのか。
■東京湾は危険がいっぱい
待望の五輪が、東京にやってくる。そのこと自体はめでたいと、多くの地震・防災の専門家たちも顔をほころばせる。しかし世界中から大勢の人が訪れる五輪の防災対策に話題が及ぶと、彼らは「まだまだ課題は多い」と口を揃えるのだ。
「五輪の選手村や競技施設は湾岸部に集中しています。
東京都などによる巨大地震の被害想定によると、死者数が最大になるのは、首都直下地震が起こった場合で約9700人。このうち津波による死者はゼロだといいますが、これは断言できるものではない」
関西大学社会安全学部教授の河田惠昭氏はこう指摘する。河田氏は、政府の中央防災会議で、南海トラフ巨大地震の被害想定をまとめた作業部会の主査を務めた人物でもある。
「この被害想定は、関東大震災と阪神・淡路大震災のデータに基づいて計算されただけ。残念ながら、この程度の犠牲者数では済まないでしょう」
なにしろ、東京五輪の計画を見ると、主要施設の多くが「東京ベイゾーン」と東京都が名づけた臨海部に集中する。都内に設置される33競技会場のうち7割近い23会場、さらに選手村やメディアセンターなど多数の関連施設が海ぎわに建つことになる。
河田氏は、これまでの被害想定は津波に関して甘いのではないかと指摘する。
「たしかに、東京湾の海底地形は平坦で、ここで過去に大きな津波は発生していないと考えられる。太平洋から東京湾への入り口の部分がくびれており、大きな津波が入りにくいためです。また伊勢湾や大阪湾に比べて東京湾は浅い。これも津波が大きくならない要因です。それでも、震源の位置によっては津波は2m以上になると想定されている。さらに現状では、東京港の防潮堤など海岸施設は建設から40年以上経過しているものがある。見た目はきれいでも耐震性や液状化の心配があり、実際にはボロボロ。東京の海岸施設すべてを作り直すには、約4兆円かかりますが、五輪をやるからには今後の7年間で少しずつ新しくしていくしかない」
東京工業大学大学院理工学研究科の高木泰士准教授は、一般にはあまり知られていない東日本大震災時の東京湾での津波について調査を行ってきた。
「3月11日には気象庁の晴海検潮所で1・5mの津波高が観測されていますが、隅田川においても岸辺のテラス上に浸水が発生し、1・43~1・46mの津波痕跡が確認されました」
なんだ、そんな高さかと思われるかもしれないが、あなどってはいけない。
通常の波はたいてい、1回ザブンと水が寄せればおしまいだ。だが津波は、高さは低くても、大量の水が長い時間をかけて押し寄せ、次に一気に引いていく。この引き波の力は強く、30cmでも浸かっていれば、成人男性でも立っていることはまず不可能だ。
ひとたび津波のなかで倒れ込めば、沖合数十kmまでみるみるうちに流される。その速度は陸地近くで時速36km、沖合では時速100kmを超える。
2009年の世界水泳選手権でブラジルのシエロフィーリョ選手が叩き出した、競泳100m自由形の世界記録46秒91でも、時速換算ではわずか7・67km。五輪級の水泳選手であっても、津波に逆らって泳ぐことなど到底できない。
■本当に防げるのか
さらに、東京大学大学院新領域創成科学研究科の佐々木淳教授は、低い津波でも場所によって急激に高くなることもあると話す。
「津波は岸にぶつかると、反射によってだいたい2倍の高さになる。港内で波のエネルギーが集まったり共振すると津波の高さはさらに増します。
東日本大震災後に東京湾内で我々が調査したなかで、一番津波が高かった千葉県の新富津漁港では、2・9mにも達していました」
東京港では津波に備える防潮堤の高さ自体は平均して約4mあり、十分ではないかと見る佐々木教授だが、気がかりなのはその強度だ。
「3・11を踏まえて東京都の港湾局が昨年12月に津波や高潮の対策を見直すレポートを出しています。
このなかで重要なのは、3・11より東京湾に震源が近い巨大地震では、東京の震度も6~7となり、防潮堤が壊れる可能性があると指摘していることです。結局、耐震強化は平成24年度から10年かけてやっていくことになりました」
名古屋大学大学院工学研究科の川崎浩司准教授もこう指摘する。
「五輪開催はよろこばしいですし、ぜひ成功させてほしいですが、リスクを覆い隠してしまうのはよくない。
海抜の低いところで1ヵ所でも堤防が壊れてしまったら、そこから海水が入り込んで浸水する。すべての防潮堤が壊れるとは考えにくいが、すべてが保たれるとも言えません。また水門の一部が閉まらないとか、防潮扉が稼働しなくなる可能性もある。施設など、防災のハード面だけでは大災害に対応できないということは、東日本大震災からも明らかです。三陸にあった、世界に誇れる巨大防潮堤も、想定外の事態で壊れてしまった。どこにどう避難するべきか、とっさに人々が動けるような避難計画の周知が必須なのです」
では、あらためて五輪会場の状況を見てみよう。
実は、五輪の施設が建設される東京ベイゾーンは、そのほとんどが、「外郭防潮堤」と呼ばれる堤防の外側にある。外郭防潮堤は、湾岸部をぐるりと取り囲み、東京の街を津波や高潮から守っている最大高さ8mにもなる強固な堤防だ。
外郭防潮堤の外側にある埋め立て地は、高さ3mほどの比較的小規模な「堤外地防潮堤」に保護されている。東京五輪の競技会場なども、多くはこの堤外地防潮堤に囲まれることになる。
だが、驚くべきことに、五輪関連施設のなかでも、世界のトップアスリートが生活する選手村が整備される予定の晴海5丁目に限って言えば、この堤外地防潮堤も設置されていない。丸裸の埋め立て地なのだ。
東京都は、「海が見渡せる景観が損なわれる」として今後も晴海5丁目の選手村の周囲に新たな防潮堤を建設する計画は持っていない。
代わりに、埋め立て地の上にさらに盛り土を重ね、地盤を海抜6・5mまでかさあげし、その上に選手村を建設するという。
波音も間近、海の見渡せる気持ちのいい海岸―。聞こえはいいが、本当に選手たちの命を守れるのか。
■逃げ道も逃げる先もない
都市防災が専門のまちづくり計画研究所所長、渡辺実氏は、こう指摘する。
「盛り土をするのはいいのです。老朽化した堤防よりは、ずっと安心できる。
しかし、計画を見ると選手村には、海に突き出した海上テラスのレストランや遊興施設がある。海沿いの遊歩道などもあるようですね。ここはどう見ても、津波の被害をまぬかれない」
日本の防災の現状に疑問を呈しつづけている東京大学理学部のロバート・ゲラー教授もこう話す。
「都などは2m強の津波しか想定していませんが、それは現実に、このレベルの津波しか起きない、という保証にはなりません。東日本大震災クラスの大地震が東京の近くで発生したら、あのときと同程度の津波が絶対に起こらないなどとは誰にも言えないのです。
ところが、行政というのは、立場上100%安全だと言い切らなくてはならないと考える。ひとたび2mに対応すればいいとなったら、その数字が絶対のもののようになってしまう。要するに、リスクは非常に低いが、ゼロではありません」
こうした津波被害に加えて専門家が指摘するのは土地の液状化だ。地震工学が専門の東京電機大学理工学部・安田進教授はこう話す。
「選手村が建設される晴海地区は埋め立て地。埋め立て地は液状化が起きやすいのです。
埋め立ての方法はさまざまですが、基本的には土砂を運んできて海を埋めるだけ。埋め立ての際に地盤を締め固めるようなことは通常しません。のちにその場所を使う利用者が対策を施すのが一般的です。
東日本大震災のとき、東京ディズニーランドの建物のある部分は液状化の被害を受けませんでした。しかし、東京から千葉の臨海部に限っても、41œが液状化している。これは阪神・淡路大震災の4倍で、世界最大規模の液状化です。40年間、液状化の研究をしてきた私でも、ひどい被害だと思った。これはやはり、土地の利用者が液状化対策を施していなかったためと言えるのです」
だが、事業者が建物の下だけをしっかり締め固めたとしても、問題は残る。
「東京ディズニーランドでも、建物は大丈夫でしたが駐車場が液状化し、車が動かせなくなりました。液状化の激しかった千葉県浦安市内では、水道管などが被害を受け、復旧に時間がかかった経緯があります。
コストとの兼ね合いもあるでしょうが、ライフラインや災害時に重要な道路なども対策をしておかなければなりません」(安田教授)
前出の都市防災の専門家・渡辺氏はこう指摘する。
「五輪の予定図を見ると、選手村付近から陸側に逃げる最短ルートは4本の橋のどれかになる。これが落ちれば選手村は孤立します。
よしんば橋が残っても、人が殺到すれば2001年の明石花火大会での歩道橋事故のように身動きがとれず圧死する人が出るかもしれない。
しかも、逃げる先は月島・勝どき経由で築地付近になりますが、そこはそこで多数の人がひしめき合っており、避難先として好ましいわけではない。そう考えれば、選手村の建物の上層階にとどまって1週間ほど自立して過ごせる準備をしておくしかない」
さらに前出の名古屋大学・川崎准教授は、五輪の時期に大地震がくれば、普段とは比べものにならない混乱が起こると話す。
「日本人なら子供でも大なり小なり地震の経験があるものですが、外国では地震の体験が一度もないという人も珍しくありません。
五輪開催期間中は、選手のみならず、多数の観光客も来日しますから、外国人の数が圧倒的に増える。
震度2~3の揺れでも狼狽する人もいるでしょう。また大きな地震の際に、日本人なら建物の外に飛び出すと落下物で危ないと知っていても、外国の人はそれが分からない。
まして液状化で水が噴き出し、マンホールが浮き上がってくるのを目にしたら、パニックに陥っても仕方がない。
いいことばかりを言うのではなく、『日本では地震が起こります』『その際はこう動いてください』と各国の選手団や観光客にもはっきり伝えることです」
早稲田大学理工学部教授で元土木学会会長の濱田政則氏は、こう話す。
「安倍総理は『東京は安全だ』と宣言して五輪を誘致しましたが、東京の臨海部が安全かというと、それは疑問ですよ。
しかし、やると言ったからには、2020年までに臨海部の防災性を高めて、さすが東京、と思わせないといけない。
私は、当然、言われなくてもあらゆる対策が取られるものと考えています。繰り返しますが、世界に向かって、『安全だ』と言ったわけですからね」
もはや国際公約ともいえる「安全な五輪」。準備不足が露呈したとき、「想定外でした」と泣き言を言っても、世界は許してくれない。せめて世界のトップアスリートが集結する選手村くらいは立地場所を根本的に見直すところから安全対策を考えたほうがいいのではないか。タイムリミットは、わずか6年と9ヵ月後に迫っている。
「週刊現代」2013年10月26日号より
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