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【第379回】 2013年10月18日 加藤順子 [フォトジャーナリスト、気象予報士]
大島町の防災体制、特別警報の問題点が明らかに
伊豆大島豪雨 24時間雨量824ミリの衝撃
住宅被害が周辺で集中した土石流が集中した「大金沢」の様子
写真:東京都提供
16日、東日本をかすめるように北上していった台風26号に伴い発生した集中豪雨で、伊豆大島の都が指定する土砂災害危険個所内で大規模な土石流が発生した。同日昼までに大島元町アメダスで観測された24時間雨量は、これまでの記録を大きく上回り、824ミリに達した。死者・行方不明者が50人超に達するまでの甚大な被害をもたらした、その根本的な原因はどこにあるのか。気象予報士らの見解から検証する。
「災害級の雨だ…」
10月16日早朝、ラジオ出演のために気象観測データを見た気象解説者の増田雅昭さん(株式会社ウェザーマップ)は、伊豆大島の実況値を見て、背筋が凍った。
数年に一度しか起こらないような猛烈な雨が観測・解析された場合に出される観測記録「記録的短時間大雨情報」が、大島にいくつも出ていた。
記録的短時間大雨情報(2:32発表)
大島元町 101ミリ
記録的短時間大雨情報(3:47発表)
大島元町 118ミリ
大島町付近 約120ミリ
記録的短時間大雨情報(4:50発表)
大島町付近 約120ミリ
大島元町 108ミリ
3日前の13日頃から、台風の進路予想図が更新される度に「何かしらの災害が起こるだろうな」と確信のような予感はあった。関東最接近時は、中心気圧が960hPaくらいと、かなり発達したまま北上する予想だった。台風の進路や勢力の予想が安定した傾向にあり、多少進路がずれたとしても、首都圏への影響は大きくなるだろうとみていた。
「メディアだとどうしても広く浅く俯瞰した視線で見ることになってしまう。でも、災害ってたいてい、ピンポイントで起こるものなんですよね。島なら島というポイントからも見て、現場で判断できることも必要です。そのスキルを、役場の人も持っているのでしょうか……」
「大島町役場はやることをやっていない」
生かされなかった土砂災害警戒情報
住宅が被害を受けた「大金沢」周辺の様子
写真:東京都提供
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「土砂災害警戒情報が出た時点で、避難勧告は出すべきでした。現場の防災担当者が、正しく防災情報を理解されていたのか疑問です。気象業界の人間や、防災の研修を受けている人ならば、発令するもの。深夜になる前に出しておくことが、行政の仕事です」
こうきっぱりと話すのは、長年メディアで気象解説者として活躍してきた岩谷忠幸さん(気象キャスターネットワーク事務局長)だ。
岩谷さんが指摘するように、筆者も、今回の台風26号の大島町役場が「やることをやっていない」防災体制であった印象を受けている。
町役場や自宅のネット回線でも、決断に値する十分な情報を得られたはずだった。以下に、アメダスの雨量や風向・風速データから当時の現象への想像力を膨らませて、発災前後の時間を追ってみたい。
15日深夜から16日未明に掛けて、台風の北上に伴って関東の南海上に局地前線が発生した。この前線は伊豆大島付近に停滞し、台風から大量の水蒸気の供給を受けて、大雨をもたらした。大島の三原山の中腹で起きた土石流は、この雨が原因だ。
15日の大島元町アメダスの記録によれば、朝のうちに降り出した雨は、午後には雨脚が強まっていった。台風特有の強風を伴い、夕方には横殴りの雨も降っていたと思われる。
気象庁が、大島町に大雨警報を発表したのは夕方の17時38分。次いで18時5分に、東京都と気象庁が共同で、避難勧告を出す際の基準となる土砂災害警戒情報を出した。どちらの情報とも、気象庁のウェブサイトでもほぼリアルタイムで確認できるものだ。
本来なら、この時点で、避難勧告が発令されているべきだった。外はまだ明るく、雨量の記録から推測するに、なんとか外出や運転のできる程度の雨脚だったはずだ。この後に台風本体が近くことを考えればなおさら、この時がベストのタイミングだったと思う。
22時には、降り始めからの雨量が、大島元町アメダスで200ミリを超えた。筆者はこの時が、避難勧告あるいは避難指示発令の2回目のチャンスだったと考える。
「降り始めからの雨量 200ミリ」は、土砂災害が起きやすくなる目安として、防災に携わったことのある者ならば、誰もが知っている数字だ。算出方法は、アメダスの数字をにらみながら、電卓で足し算をするだけだ。
3回目のチャンスは、もっと直接的だった。23時30分頃、気象庁から東京都建設局河川部に電話があった。予報官が残したメモには、以下の様に伝えたと残されている。
<この時間帯、3時間に70ミリを越えるような雨が長時間にわたって観測され始めています。このまま続くと、尋常ではない状況になる可能性がある。台風が接近する可能性があるので、(東京都全体に)大雨警報や土砂災害警戒情報等発表中です>
都によれば、この「尋常ではない」という予報官の言葉を、16日0時10分頃に大島町役場と大島支庁に伝えたという。
「大金沢」周辺の様子
写真:東京都提供
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15日24時までの1時間に大島元町アメダスで観測された雨量は、54ミリ。雨脚はすでに、出歩けないほどの非常に激しい状態になっていたと思われる。この時点で、降り始めからの雨量は、ほぼ300ミリに達していた。
日付が変わる頃から、雨はさらに猛烈な降り方になっていったと思われる。1時間に90ミリを超える雨量が5時までに4時間も連続した。
気象庁は、1時35分頃にも、東京都の総合防災部に、電話で以下の内容を伝えている。
「伊豆大島で24時間降水量が400ミリを超え、なお、猛烈な雨が続いています。現地では、尋常ではない状況になりつつ(あるのではないか)と思慮しております。大雨警報や土砂災害警戒情報を発表中です」
2度目の記録的短時間大雨情報を発表した直後の午前3時55分、気象庁はついに大島町役場に直接電話をした。この時に伝えたとされるのは、以下のような内容だ。
「10月の平均雨量の倍に相当する大雨になっており、記録的大雨情報を、複数回発表しています。このような状況はあと数字時間続く(と思われます)」
気象庁はこの間も、台風位置や予測情報、大雨や暴風の見通しなどを記した気象情報や、東京都と共に土砂災害警戒情報を度々更新している。これらは、ファックスで大島町役場にも伝えられている。
なぜ特別警報は発表されなかったか
同警報が抱える意外な問題点
今回、伊豆大島北部に、気象庁から大雨特別警報が発表されなかったことも話題になっている。
大雨特別警報は50年に一度のレベルの大雨の時に発表されるが、観測史上最多の雨量時でも、伊豆大島に出なかったのには理由がある。特別警報は、広域災害を前提としているため、府県規模の広がりでしか運用できない基準となっているのだ。
今回明らかになった特別警報についての問題点は、気象解説者の片平敦さん(株式会社ウェザーマップ)が書いているので、詳しくはそちらを参照していただきたい。(参照:『伊豆大島記録的豪雨 「特別警報の課題」と「命を守るのは誰か?」』)
ちょうど1ヵ月前の9月16日に、京都府・滋賀県・福井県の3府県に初めて出された大雨特別警報は、大雨の影響が大きくない地域まで巻き込み、問題となった。特別警報は、発表されると自動的に避難勧告を伴うからだ。
特別警報に関しては、8月末の運用開始からたった2ヵ月で、特別警報相当の現象に絡み、連続して、この「広域」問題がもちあがったことになる。
筆者の推測ではあるが、16日1時35分に、気象庁から大島町役場に対して行った電話こそが、この特別警報に準じるような連絡だったのではないだろうか。
だからこれがもし特別警報として発表できていたとしても、果たして現場で命を守る情報になり得たかというと、疑問に感じる。特別警報は、あらかじめ対策を呼びかけるためのものではなく、深刻な事態が起きている実況を伝えるものなのだ。
ともかく、15日の早いうちに町が得られた情報の範囲で、住民に避難を決断してもらうことができたきっかけは、やはり夕方の土砂災害警戒情報だったように思う。それが本来の土砂災害警戒情報の意義でもある。避難勧告は、役場が「最低限やっておくべき」ことだったといえる。
今回の伊豆大島豪雨の背景は、今後、詳しく検証されることになるだろう。
報道によれば、発災当時は、町長も副町長も不在だったと聞く。冒頭に述べたように、台風の接近やその危険度が明らかになりつつあった状況で、島を留守にすることになった経緯や、その間、役場でどのように台風体制が敷かれていたのか、今後の教訓のために明らかしてほしいと思っている。
前出の岩谷さんは、地方自治体の現状をこう推測する。
「住民に避難してもらうタイミングの判断ができる人が、自治体にいないのではないでしょうか。必ずしも予報士がいればいいということではないが、防災の避難行動に結びつけられる知識や経験がある人やチームが、行政の防災には必要です」
台風26号が猛威をふるったこの日、新たに台風27号が発生した。予想されている進路が、台風26号にそっくりなのが気がかりなところだ。日本近海の海水温は依然として高く、台風が発達したり、勢力を維持させたりするのに十分な状態が続いている。10月も下旬に差し掛かり、秋が深まる頃だが、今年の台風シーズンはまだ続いていると言えるだろう。
(気象予報士 加藤順子)
http://diamond.jp/articles/print/43204
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