02. 2013年9月25日 02:55:01
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おカネはなくても夢はある! 予知研究の東海大学・長尾年恭教授「南海トラフ巨大地震」は予知できる!? 地震予知の“最前線”でズバリ聞く(4) 2013年9月25日(水) 渡辺 実 、 水原 央 内閣府の南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(以下、南海トラフWG)が「確度の高い地震の予測は困難」と発表して以来、メディアでは「もうどうせ予知なんてできないだろう」という否定的な見方が広まった。東海地震の予知・予測のため約40年間、黙々と観測をつづけてきた気象庁さえ、このまま現体制での業務を続けられるかは未知数で、「いまはまな板の上の鯉の気分」と話した。では、地震予知研究の最先端にいる研究者はいま、何を考え、何を感じているのか。内閣府の専門家分科会のメンバーでもあった東海大学地震予知研究センターの長尾年恭教授を直撃する! ぶら防では久しぶりの遠征。だが海原を見つめる渡辺氏の表情は厳しい!? 「むむっ、これは大問題だなぁ、水原くん」 ゴミひとつない、美しい砂浜。静岡県清水市の海岸沿いに広がる名勝・三保の松原に立った“防災の鬼”、防災・危機管理ジャーナリスト渡辺実氏は、大海原の彼方を見やって、こう声を上げた。いったい、どうしたんですか!? 「せっかくの富士山が、まーったく見えないじゃないか!」 ……たしかに、富士山がそびえるはずの方角に見えるのは、海の上に低く垂れこめた雲ばかり。近くの寿司店の店主によれば、夏には雲の出ることが多く、富士山はほとんど見えないのだという。 なーんだ、とチームぶら防は一同、肩を落とした。三保の松原が富士山とともに世界遺産に登録されたことは記憶に新しいが、今後増えるであろう外国人観光客にも、ベストな時期を案内していく必要があるだろう。 「いいじゃないですか。今日は世界遺産の観光に来たんじゃないんですよ!」 とライター水原は、鼻息荒く松林から歩み出した。そう、今日の目的は、この松原のすぐ近くにキャンパスを構える東海大学海洋学部を訪問することだ。 東海大学地震予知研究センターは、海洋学部の4階にある。海にほど近いこともあり、校舎には「津波一時避難ビル」の表示も ここには、今回の“地震予知シリーズ”のきっかけとなった、内閣府の南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(以下、南海トラフWG)の分科会「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会」のメンバーであり、東海大学地震予知研究センター長をつとめる長尾年恭教授の研究室がある。
長尾年恭教授は、南海トラフ巨大地震の「確度の高い地震の予測は困難」という最終報告書の根拠となる学界の意見を取りまとめたメンバーだが、一方では「地震予知なんか本当にできるのか」という懐疑的な意見をものともせず、地震予知の研究に心血を注いできた研究者でもあるのだ。 できない、できないと言われてばかりの地震予知だが、最先端の研究所を訪れれば、“夢の技術”である地震予知の可能性を秘めた何かを見せてもらうことができるのではないか。 期待に胸を膨らませながら、チームぶら防は長尾研究室の戸を叩いた。 「困難」だが、「不可能」ではない! 取材に応じてくれた東海大学の長尾年恭教授。地震予知の可能性を追究しつづけている 「はじめまして。業界では有名な渡辺さんに、いままでお会いしたことがなかったのは、思えば不思議ですね」
研究室に招き入れてくれた長尾教授はにこやかにそう言った。 研究室には無数のパソコンのモニタが並ぶ。だがチームぶら防が部屋に入ったとき、画面の電源が入っているものはなかった。“地震予知シリーズ”第1回で訪れた気象庁地震火山現業室のように、巨大なモニタが掲げられているわけでもない。 取材日が夏休み期間中だったこともあるが、それにしても静かだ。研究室の奥から助手の男性が出てきて、お茶を淹れてくれた。 地震予知研究の最前線、とは言っても、どこか手作り感の漂う研究室内。気象庁とは、だいぶ趣が違いますね、と水原が訊ねると、 「地震予知の研究をしていました、と言っても、就職の口もない。決して学生に人気のある分野とは言えませんよ」と、長尾教授はしみじみと語りだした。 「学界のなかには、『地震予知の研究は、東海地震の予知を目指した大震法の威光をかさにきて、国から研究費を山のようにもらってきた。それなのに、結局何もできていない。あれは無駄な研究費だったのだ』と攻撃してくる人たちもいます。 彼らは、国が地震の研究に割いている予算、具体的には文部科学省の地震・防災研究課の予算を見て批判をしている。たしかに同課の地震調査に関する予算は、年間200億円程度あります。 しかし、実際にはそのなかで『予知』の名前のつく研究の予算は年間4億円。さらに、私たちが行っているような短期直前予知の研究にあてられているのは年間1700万円です。 地震の短期直前予知にかけられている予算は微々たるもの、と説明する長尾教授。政官財のあらゆるチャンネルで働きかけようと奔走しているというが、いまのところ厳しい状況は変わっていない これを複数の研究室で分け合っていますから、実際に私たちが使えるのは一番多いところでも年間200万〜300万円。これでは観測機材などを揃えるのもやっとで、人も雇えない。そもそも研究室の数だって限られているから、研究者になっても大学のポストがない。
いまの学生たちはそういうことに敏感ですから、若くて優秀な人材の確保が本当に難しいんですよ。 地震の短期直前予知の研究をしている研究者の高齢化も進んでいる。私もあと数年で定年ですが、いま一番、積極的に活動している研究者は、だいたい『日本沈没』が流行したり、東海地震説が出て、これから地震予知が面白そうだと思えた’70年代に学生だった世代です。 みんなもうすぐ60代でリタイアせざるを得ないけれども、40代くらいの有望な研究者はポツポツとしかいない。さらに研究者の卵となると、現状はさらに厳しいですね」 いきなり、地震予知研究の直面している“現実”を目の当たりにしたチームぶら防。はたして“夢の技術”の行く末は大丈夫なのか!? 衝撃発言「予知は20年後にはいらない技術かもしれない」 未来の技術を夢見る研究者でありながらも、現実を見すえて冷静に話す長尾教授 “防災の鬼”渡辺氏は、あらためて問うた。
「先生たちの出した報告書をもとに、あの内閣府の南海トラフWGの最終報告書が書かれたわけですよね。ここまでの取材でも、『予知ができない』と書いているわけではない、と専門家は口を揃えて言います。しかし、一般の人の受け止めはそうではない。 『ああ結局、地震予知なんて無理だったんだな』『もうやめればいいのに』という風にとらえてしまった人も多いようですね。これにはもちろん、あの最終報告書について伝えたマスコミの報道姿勢の問題もあったとは思いますが、先生ご自身は、この世間の反応をどう見ていますか」 すると、長尾教授は意外な話をしてくれた。 「地震予知は、できるにこしたことはありませんが、実はもともと防災とは直接、関係はないんですよ。というのも、地震が来ることがわかったとしても、それを止めることはできないからです。 私たちの大学があるここ静岡県も、東海地震を前提にした大震法の強化地域に指定されているとは言っても、防災対策としては地震予知をあてにしてきたわけではない。むしろ予知なし、予知が外れた、という場合でもやってこられるようにしてきた。 それは極めて正しい姿勢だと思います。建物の耐震化を進めて、壊れにくい街をつくる。そのことの重要性は、予知ができようができまいが、変わりません。 東日本大震災で、防災研究の重要性というのが、再び強く認識された。政治的には是非さまざまな意見もあるでしょうが、国土強靭化だといって、現政権などは公共施設や橋りょうなどを強くすると言っている。とにもかくにも、それを進めてもらえば、人の命はしっかり守られる。 ですから、せっかく“夢の技術”と言ってくださっていますけれども、私は20年後には、ひょっとしたら地震予知はもう『いらない技術』になっているかもしれないと思っているくらいなんですよ。 地震がいつきても困らない街、いつきても対応できる市民の意識。そういうものがしっかり築き上げられていれば、予知はますます必要ではなくなるはずなんです」 渡辺氏も、まさにその通りとうなづく。それでも、地震の前に予知ができたら、いいことはありますよね? ビルの窓ガラスの掃除を延期したり、新幹線を徐行させたり、できることはいろいろあるんじゃないですか? 水原が食い下がると、長尾教授は朗らかに答えた。 「もちろん。繰り返しますが、予知ができるにこしたことはないんです。だからこそ、私たちも研究を重ねているんですよ」 じゃあ、いまどこまでこの研究が進んでいるのか、ご説明しましょう。そう言って長尾教授は唯一の大画面モニタの電源を入れ、プレゼンテーション資料を画面に映し出した。 いよいよ、地震予知研究の最先端が明らかになる!? 一長一短の最新地震予知法、組み合わせて使うのが大事 「まず、そもそも大地震が起こることを予測できるのかという問題があります」と長尾教授は語りだす。まず考えなければいけないのは、気象庁が観測しようとしている大地震の前兆、「プレスリップ」(前兆すべり)が本当に起こるかどうかだ。 「これは、内閣府の南海トラフWGの分科会でも報告書にはっきりと書いたことなのですが、3・11のような東北地方沖に比べると、南海トラフのほうが、はるかに前兆が出やすい。 これは分科会のメンバーである東京大学理学部の井出哲教授ら、コンピューター・シミュレーションを専門とする人々の意見が一致した部分でもあります」 しかし、いくら前兆すべりが起きやすいとは言っても、本当にそれをとらえることができるかは別問題だ。 「ところが、それをとらえることができると強く示唆する研究成果が、なんと今年に入ってフランス人研究者から発表されたんです。 この論文はフランスのジョセフ・フーリエ大学というところのミシェル・ブションさんらが執筆し、『ネイチャー・ジオサイエンス』に掲載されました」 この研究グループがやったことはごくシンプルだ。日本の気象庁やアメリカ地質調査所(USGS)などの集めた精度の高い地震のデータを収集。太平洋沿岸で発生したM6.5以上、震源の深さ50km以上のプレート境界型地震を調べた。 「基本的には、大きな地震の前に起きた地震を数えるだけという、ごく初歩的な統計をしてみたんです。すると、31件中25件で、明瞭な前震の増加がとらえられていたことがわかった。 約8割もの場合で、大きな地震が起こる前に、その震源となる地域で地震の増加が起こっていたとはっきりわかったんです」 フランスでの研究をまとめたスライドを説明する長尾教授。画面右側のグラフはすべて右肩上がりになっているが、これは地震の発生時刻に近づくほど、前震の発生頻度が上がっていることを示している 「ウソみたいだ! ちょっと待ってくださいよ。そんなことが、本当にそんなに簡単な計算でわかったんですか」
さすがの“防災の鬼”渡辺氏も目を丸くした。 「はい。レベルで言えば、大学生の卒論程度のシンプルな統計です。これが出たものだから、気象庁も焦ったと聞きましたよ。使ったデータには気象庁のものも含まれているわけで、『ずっと観測をしてきたのに、何を見ていたのか』と言われてしまいますからね」 長尾教授によると、どうやら気象庁の職員のなかでも、現場レベルでは、『大きな地震の30%程度では前震があるように見える』とささやかれてきたらしいという。 「しかし、その情報を気象庁が世間に発表していく、という流れにはならなかった。社会への影響も大きいですし、本当にそれで予知などできるのかという学界内の懐疑論も根強いこともあったんでしょう。 でも、『地震予知って、誰がやる仕事ですか』ということを私は強く言っておきたいんです。大学の研究者は、24時間態勢で観測をしたり、異変が起きたことを世間に伝える資金も、人手も、法的な後ろ盾も持っていない。 本当に地震予知をして、それを社会に活かしていくことができるとすれば、それはやはり国や行政のレベルで本腰を入れて取り組んでいってもらわなければいけないと思うのです」 これには、渡辺氏も大きくうなづいた。たしかに、地震予知の技術は研究者が開発するにしても、実際の予知は研究者個人がすべての責任を負ってできる仕事ではないだろう。 それにしても、と渡辺氏はこう問いかけた。 「明確な前兆現象が存在するとわかったとしても、まだ私たちがイメージする『地震予知』を実現するのは難しいように思えますね。地震を予知した、というためには、『いつ』『どこで』『どれくらいの規模の』地震が発生するかを予測する必要があるでしょう。その点は、いかがですか」 おっしゃる通りです、と答えた長尾教授。 「まさにいま、そのための研究が急ピッチで行われているんです。あの東日本大震災の際に、それぞれの研究者が膨大なデータを得ています。それをもとに、これから何ができるのか。いま研究は大きく前進しようとしています」 一長一短の最新地震予知法、組み合わせて使うのが大事 東日本大震災の際に得られたデータを活かし、いま前進しつつあるという地震予知研究。そこにはどんな研究があるのか。 「ひとつには、GPSによる観測。東北地方の地殻の動きが、3・11の直前に変わったことを観測していた研究者もいます。 また、GPS衛星から地上に届く電波の速さを計測して、震源地の上空に漂う電子の分布が変化したことを突き止めた研究者もいる。北海道大学の日置幸介先生たちの研究です」 さまざまな成果があるが、長尾教授ら東海大学の研究チームが行っている研究でも、地震の前兆と思われる現象がとらえられたという。 「私たちは、『地下天気図』というのを作っています。地震の観測というと、何か大きな出来事があったときだけ地中の様子を見てしまいがちなのですが、自然現象を観察する態度としてはそれだけでは不十分です。 天気予報というのは、毎日空の状態を説明して、『いまこうなっていますよ。だから来週はこんな天気になりやすいでしょう』と概況を見ていきますよね。それと同じように、普段から地下の様子を見ていこうという取り組みをしています」 長尾教授らが作成している地下天気図の例。地震活動が活発化したところは赤、静穏化したところを青で表示している。「天気予報でいう高気圧、低気圧のようなイメージで見てもらえれば」と長尾教授 具体的には、何を観測しているのか。
「これは、地震活動のゆらぎをとらえたものです。単純化して言えば、エリアごとに、いつもは平均してどれくらいの地震活動があるかを計算する。 その値と、直近の期間で地震が起きた頻度を見比べると、平均より地震が多く起きていたり、少なくなっていたりすることがわかります」 阪神・淡路大震災以降に整備された、細かい地震も高い精度でとらえる防災科学技術研究所のHi-netというシステムを利用してはじめて、この地下天気図を描き出すことができたのだという。 「東日本大震災の際も、日本の太平洋側では広範囲にわたって地震の頻度が落ちる、『静穏化』が起きました。とくに地震発生1週間前からの静穏化の広がりは非常に明瞭だった。 3・11のあと、私たちはそれがどうしてああいう形での静穏化になっていったのかを研究し、次の大地震に備えようとしています」 うーん、と“防災の鬼”渡辺氏はうなる。 「それでも、まだ『このエリアでそろそろ地震がきそうだぞ』とまでしかわかりませんよね? 予知の3つの要素のうちの、『どこで』まではわかりますが、『いつ』『どれくらいの』という部分はどうなりますか?」 長尾教授はそのツッコミに、我が意を得たりという笑顔で答えた。 「おっしゃる通りです。ですから、そこに今度は、電磁気を使った研究を組み合わせます。『このエリアが危なさそうだ』というバックグラウンドの情報が地下天気図。さらにそこに他の方法を組み合わせていく。 たったひとつの方法で、完璧な地震予知ができる、なんていうものはまず、眉唾だと私は思っています」 なるほど、と渡辺氏は膝を打った。では、電磁気を使った研究とは、どのようなものなのだろうか? 低予算だけど実力はすごい? チームぶら防が旧校舎で見たものとは 「電磁気による予知の研究は、実際に観測装置を見ていただくこともできますよ」 長尾教授の温かい言葉に甘えて、ぜひそれを拝見したい、とお願いすると、 「ちょっとここから離れた場所なので、車で移動しましょうか」と長尾教授。 え、他の場所にそんな最先端の観測設備があるんですか こんな古びた教室にいったい何が……? 目を輝かせて移動を始めたチームぶら防。だが、長尾教授の車について走ること約5分。先導する車がすべりこんでいった建物を見て、一同から「?」の声にならない声があがった。
そこは、どうみても現在は使われていない、いわゆる「学校の怪談」に出てきそうな旧校舎だったのだ。 「これが、私たちの観測設備です。あ、床にコードがはっているから気をつけて!」 長尾教授が見せてくれたのは、古い教壇のまわりに並べられた、ラジオのチューナーと、最新式とは言えないパソコンなど数台の機械がつながったもの。インタビュー会場の研究室より、さらに手作り感満載の設備だ。 機材の説明をしてくれる長尾教授。クーラーもない部屋は普段は締め切られており、取材の間にも全員が汗を拭きだしながら会話することに 「これで、何を測っているんですか……?」
渡辺氏が面食らったように尋ねる。 「これは、ちょうど仙台から飛んでくるFMラジオの電波をとらえようとしている装置です。もちろん、普段は仙台のラジオがここ静岡で聞こえることはありません。ところが、大地震の前には、なぜか遠くのラジオが聞こえるはずのない場所でも聞こえるようになる、という現象が起こるんです」 こうした現象は、電気通信大学の早川正士教授らが中心となって研究が進められている。 原理はまだ解明されていないが、考えられている仮説はある。岩石が圧力で破壊される際には、岩石を構成する分子のなかの電子が圧力によって移動させられ、一時的に岩石内で電流が発生する。 大地震の前に岩盤があちこちで破壊され始め、電流が多数流れるようになると、電流のまわりに発生した磁場が上空の電磁場に影響し、ラジオの電波を反射するような層が形成される。 それによって、本来は聞こえないはずの仙台のFM放送が静岡にまで届くようになるのだという。 「ラジオに限らず、地震の前に起きる直前のこうした電磁気的な異常から地震の予測を行ったところ、統計的には明らかに有意だという結果が出ているのです。このことは、内閣府の南海トラフWGの分科会の報告書でもはっきりと書かれました」 この技術によって、地震予知の要素のうちの「いつ」が補完されるのだ。 長尾教授が案内してくれた旧校舎の屋上には、2mほどのアンテナが数本並んでいた。間近に立つとさすがに存在感があるが、遠目には一般家屋の上に取り付けられたテレビのアンテナの印象とそう変わるものではないだろう。 アマチュアの地震予知研究家のチームが設置したアンテナもある。プロの解析とは異なる結果が出ることも多いが、「情報は多いほど面白い」と長尾教授は話す 「アメリカでは、すでにこうした新しい方法を使って、実際に地震を予知してみようという試みが始まっています。
ただ、先ほども言いましたが、大切なのは地震の予知ができようができまいが、被害を少なくすることができる社会づくりだと私は思います。 地震予知は“夢の技術”であると同時に、まだまだ手さぐり状態の過渡期的な技術でもある。そこに政治的な思惑や、社会的な責任がのしかかるので、ますます身動きがとりにくくなっているのは事実です。 それでも、東日本大震災が起こり、次の南海トラフ巨大地震が近々やってくると考えられているいまだからこそ、やるべきことがある。私はもし、独自に、大地震の前兆だと思われる成果が出た場合は、自分で責任を負って、それを社会にむかって発信しようと思っています。 残念ながら、現在の日本の態勢では公の支えはありませんが、科学者としてできることはしなければならない。そんな気持ちで、日々研究をつづけているんです」 屋上の気持ちのいいひらけた空間で、笑顔でそう語る長尾教授。だがその心中には大きな決意があるようだった。 大震法の制定から約40年、これまで莫大な研究予算を使ってきたという批難もある地震予知研究だが、実態はそのイメージとは程遠い地道で手さぐりのものだった。 「長尾先生たちに、もっと予算をつけるのか、それとも気象庁のあの観測態勢さえも縮小していってしまうのか。 これはもう、国の思惑がどちらに向いているかを確認するしかないよ、水原くん。この“地震予知”シリーズ、最後はやはり内閣府に斬りこむしかない。最終回は僕が自ら、内閣府に乗り込もう!」 この国の地震との向き合い方を問う今回の旅も、いよいよ最終盤。今後の展開に乞うご期待! このコラムについて 渡辺実のぶらり防災・危機管理 正しく恐れる”をモットーに、防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏が街に繰り出し、身近なエリアに潜む危険をあぶり出しながら、誤解されている防災の知識や対策などについて指摘する。まずは東京・丸の内からスタート。 |