03. 2013年8月02日 02:15:19
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アタり?ハズレ?最近の「天気予報」がヘンな理由2013年8月2日(金) 鶴野 充茂 ここのところ天気予報から目が離せません。日本列島の広い範囲で災害が起き、ゲリラ豪雨が襲い、雨の降らない日は熱中症対策も必要です。 しかも今週は「これまでに経験のないような大雨」だとか「ただちに命を守る行動をとるよう」などと、その「表現」の激しさも最高潮の高まりを見せています。
気象庁は今後、特別警報を出したり危険度をレベル分けしたりしながら警戒や避難を呼びかけるようになるそうです。 ただ、それだけではどうもうまく行動につなげられそうな気がしません。効果的に行動を促すために必要な条件やアクションが抜けているように感じるのです。 今回は、そんな問題意識を持ちながら、動画からヒントを得つつ、天気予報を通じて効果的に人の行動を促す伝え方について考えてみたいと思います。 ネット動画はアイデアの宝庫。それでは今週もいってみましょう。 カレーのようになっていく防災気象情報 警戒を促されつつも、視聴者としては身動きがとりにくい。それが最近の天気予報を見ていて感じる違和感です。 8月末から「注意報」「警報」に加えて「特別警報」というものが使われ始めるそうです。大規模な災害発生が切迫していることを伝え、迅速な避難行動を呼びかけるものです。 さらに3年後には危険度によってレベル1からレベル5にして表現することを予定しているそうです。まるで辛さをレベル分けしているカレーのようです。 危険度をレベル分けして知らされること自体は、行動の参考にする上では有効です。少なくとも、「経験したことのないような」とか「この数十年間災害の経験のない地域でも可能性が高まっている」といったボジョレーヌーボーのキャッチコピーのような感覚的な表現よりははるかにいい。 感覚的なものは大げさになりがちで具体性に乏しく、発信者と幅広い受信者の間で同じイメージを共有しづらいため、結果的に行動に結びつきにくいからです。 また、花粉予報に使われるような「去年の10倍」のように、人によっては思い出せない過去や日頃意識しない平年と比較されるよりも参考になります。 慣れると地震の震度のように体感的にその深刻さも理解できるようになることでしょう。 ただ、これだけではダメです。うまく行動できないだろうと思います。 なぜか。 分かりにくいのもありますがそれだけではありません。情報のノイズが加味されていないからです。 テレビは大災害の際、おそらく今後も先を競ってショッキングな被害の様子を伝えます。視聴者はそれに気を取られます。 マスコミは基本的に今すぐ逃げる必要のない人たちのためのものです。おそらく専門家が出てきて「なぜ特別警報が出たのか」「このレベルなのか」などと解説してくれますが、本当にすぐに避難が必要な人にとってはそれが逆に障害になります。 よほど身の回りで目に見えた変化を感じない限り、あるいは自治体などの直接的で強力な呼びかけでもない限り、「自分」に危険が迫っているとは感じにくいからです。 では、どうすればいいか。 具体的に進める前に、天気予報の難しさを先に整理しておきましょう。 感覚に差が出ると「ハズレ」 気象予報の専門家によると、「いつ」「どこで」「どれくらい」雨が降るかという予報を出す時に、最も難しいのは「どこで」を特定することだと言います。 たとえば、東京都で雨が降るという予報を出して、実際に北区には降ったものの中野区には降らなかった、ということがあります。 予報としては「当たった」ことになりますが、中野区にいた人にとっては「ハズレた」と感じます。 降水の有無では8割以上の予報が当たっていると気象庁のデータは伝えています。 感覚としてはどうでしょうか? ネット検索で「天気予報」に加えて「なぜ」や「理由」を入れると、サジェスト機能で「ハズレる」「当たらない」といった言葉が現れます。気になってそのように検索している人がいる証拠です。 天気予報を見ている人はあくまで自分の生活圏での影響を気にしますので、場所だけ見ても大きくばらけているということになります。 予報の精度と視聴者一人ひとりの感覚には必然的に差が生まれます。 限られた時間、限られたスペースで情報を提供 また、伝えられる情報量にも制約があります。 アナウンサーが話すスピードは、1分間に大よそ300〜400語です。 これに対して、天気予報の番組やコーナーが2〜5分弱、ラジオだと1分、短い時だと30秒ということもあるそうです。 その限られた時間で天気予報を伝える。典型的なフォーマットはこうです。 全体の天気図を見ながら概況説明、続いて各地の天気、気温、そして降水確率。時に警報や注意報もあります。1つ1つがすでにかなりの情報量ですから、余分なことはまったく言えません。 新聞の天気予報欄も数センチ角の限られた枠内。このわずかな枠内で視聴者の「期待」に応えようとしている。 その限られた時間とスペースをフルに活用する最適な表現や説明を、数多くの専門家が長年かけて生み出してきたわけです。 つまり天気予報は伝え方においても工夫の塊です。しかし、読者、視聴者の1人ひとりが必要とし参考にする情報はそのまたほんの一部分です。 その限られた情報で、どれだけ行動につなげられるか。ここにも難しさがあります。 感覚がズレる専門家 ではここで、最初の動画をご覧ください。これは、天気予報の専門チャンネルが作ったスマホの天気予報アプリのプロモーション動画です。 [What happens when The Weather Channel makes it rain?] このアプリがあれば、正確に何時何分から雨が降り出すかが分かる、というのです。すごいことです。
そのアプリを見ていれば、雨が降る前に傘がさせる、と。 ここで、バス停の屋根に設置された雨を模したシャワーが、いきなりバスを待つ人たちを襲います。 屋根のあるバス停で、屋根の下にシャワーです。でも、アプリを見ていれば大丈夫、そんなメッセージです。 あれ、ちょっと待てよ、と感じます。 アプリの機能を知らせるために、降ってもない雨を無理やり降らせて他人の服を濡らすのか、と。 この「動画」のユーザー評価は、半数がネガティブです。 こうした紹介動画で半数がネガティブ評価というのはたいへん珍しいことです。 常に「空」を見ている専門家の人たちと情報の受け手である一般人の間には発想や感覚のズレがあるのかな、ということを感じます。これもコミュニケーションのギャップとして存在しています。 対象の個人にどう危険性を伝えるかが鍵 危険性を特別警報や危険度レベルで伝えても、なかなかうまく行動につながらない。それは、情報のノイズを加味していないからだ、ということを書きました。 これは人の習性を考えれば分かりやすいと思います。 たとえば仕事があっても目の前に気が散る要素があれば気になって見てしまう、ということと同じです。 では、どうすればいいか。 次の動画を見ていただいてから解説したいと思います。 [Anar Foundation against child abuse needs funds urgently] この春に話題になった動画なのでご覧になった方も多いかもしれませんが、これは子どもにしか見えない広告です。
親から虐待を受けている子どもに向けて、助けを求めるための電話をかけるように促しています。 しかも、子どもの背の高さからしか見えないメッセージになっていて、親には見えない形でです。 そして逆に、親にしか見えない部分には、こう書かれています。 「子どもへの虐待は時として子ども本人にしか気づかないことがある」。 何とも切ないメッセージです。 しかし、伝え方としてはたいへん参考になります。 この動画、子どもへの効果自体は明らかになっていないのですが、公開3カ月で800万回以上の再生回数を考えれば、少なくとも大人の啓発には効果があったと言えそうです。 そしてまた、これが行動を促す上で大きなヒントになるだろうと思うのです。 つまり、今すぐ避難するなどの行動が必要な人たちに呼びかけるには、単にマスメディアを通じた伝達だけではなく、その人たちだけが見られる手段を選ぶ方がはるかに効果的だろうということです。 今週、山口県などを襲った豪雨では、子どもたちの間でのネット上のメッセージのやりとりで迅速な避難につながったと何度も報じられていました。 災害の際はインフラ面での懸念もありますから、特定のサービスというよりも、いかに直接、避難の対象になる人たちにメッセージを届けるかという点がポイントになるだろう、ということです。 長年のフォーマットを壊す覚悟を もちろん天気予報自体の改善でも、できることはありそうです。 どうすればいいかを考える前に、まず、天気予報という長年同じような形式で伝えられてきた「当たり前」を変えてみる、という意識を持つ必要があるように感じています。 そんな動画をご覧ください。 [Dancewalk!‐SoulPancake Street Team] 「なぜ、人々は横断歩道をただ歩くのか」という問いを持って、常識に対する実験的な提案をしてみせているのがこの動画です。
青信号になると同時に、音楽が流れ、信号にも「ダンス」という表示が現れます。横断歩道を渡る時にダンスをしようというメッセージです。 動画の中の何人かは明らかに制作側の役者ですが、音楽に合わせて自然に体を動かす人も出てくるわけです。 始めはバカバカしいと思っていても、体を動かしてみると意外に楽しめたりする。 見ている側も面白い。長年決まった形で進められていた仕事を見直す時には、一見おかしな方法も試してみる価値がありそうという気にさせてくれる動画です。 さて、では、天気予報ではどうすればいいか。どうすれば視聴者が理解しやすく、必要な行動をとりやすくなるのかを考えてみました。 アバウトでも信頼性が高い方がいざと言う時に効果的 仮に「特別警報」が出て避難を促す時に、すぐに行動に移す人の率を上げるには、普段から天気予報をもっとシンプルに伝える方が効果的です。原則は以下の通りです。 ‐何よりムダなく短いのがいい 行動の参考にしてもらうには情報増より厳選です。行動を決めるための情報と、深い理解のための情報に分ける。 天気予報で言えば、行動を決めるための最低限の情報は天気マークと最高・最低気温です。理解を得るための情報には「前線が発達」「大気が不安定」「1時間に〇mmの雨」といった専門用語による解説が入りがちですが、これも入れるなら図解だけにした方が今以上にはるかに分かりやすくなります。 ‐活用したい「続きはウェブで」「詳しくはスマホで」 詳細情報は別にする。多くの情報を求めている人には別の手段を案内する。天気予報では、今、ネットに多種多様な予報と観測データがあります。この使い方を案内する方が親切です。テレビCMでよく使われている手法を天気予報にこそ活用したいところです。 ‐説明よりも視覚的なイメージ(マーク)中心で 図形の方が言葉や数字よりもはるかに短時間で容易にイメージや情報を伝達できます。初めての人が多く利用する空港などは説明よりも案内マークが効果的に配置されているように、ユニバーサルで直感的に理解しやすいマークで人の行動は大幅に楽になります。天気予報でもたとえばゲリラ豪雨の可能性を示すマークがあれば、警戒しやすいはずです。 ‐日頃の信頼性重視、アバウトでも外れないイメージに 意外と後回しにされがちなのは、発信情報に対する信頼性を高めることです。頻繁に変更されたり「外れた」という感覚が増えると、いざと言う時に避難を呼びかけられてもすぐに反応しにくくなります。 天気予報なら予報の精度を高めることはもちろん大事ですが、情報量の制限が大きなマスメディアでは伝える上での限界があります。 多くの人が「天気予報が外れた」と感じるのは、実は「降らないと言っていたのに降った時」なのだそうです。だとすると、ゲリラ豪雨などで厳密な予測が困難な今、お天気マーク自体を少しアバウトにしたり、降水確率の表示を激変の可能性を示すマークを組み合わせるなども効果的な方法ではないかと考えます。 おそらく天気予報に限らず、こうしたポイントが行動を促す時に反応を得やすくする上で重要になるように感じます。 天気予報は日々の行動を決める上で重要な情報です。ここ最近の気象の変化によって伝え方においても最適な形が変わってきているなら、ぜひ対応をお願いしたいものです。 さらにまた、大きな災害の際に少しでも被害が少なくて済むような形を一緒に考えていきたいところです。 ネット動画はアイデアの宝庫。それではまた、金曜日にお会いしましょう。 このコラムについて 金曜動画ショー 話題になっているネット動画をビジネスの視点から、コミュニケーションの専門家であるビーンスター鶴野充茂氏が紹介します。どんなメッセージをどのようにネット動画で伝えているのか。どんな要素や条件によって、その動画が広められ、多くの人に見られているのかを分かりやすく解説。最新の話題やトレンドのチェックとして、あるいは動画を活用した情報発信のヒントとしてご覧ください。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130801/251806/?P=2 |