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大手企業54社に聞いたM9南海トラフ大地震 どんな準備をしてますか 電力、ガス、交通機関、商社、メガバンクほか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36431
2013年07月22日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
世の経営者はあげてコストカットに余念がないが、カットしてはいけないコストもある。まったなしの大地震対策に、この国を代表する大企業は真剣に向き合っているのか。ズバリ、聞いてみました。
■1億円分の非常食を用意
「全国の自治体との間で650件ほどの防災協定を結んでおり、協定先自治体と共同して訓練などを行っています」(イオン)
「津波リスクのある拠点については、(行員に)ライフジャケット(救命胴衣)の備品配付を実施しています」(三菱東京UFJ銀行)
「津波被害の危険度が高い地方拠点については、より安全な物件への移転や統廃合を順次進めています」(朝日新聞社)
そう遠くない将来、必ず来るとされる南海トラフ大地震。政府の発表では、今後30年以内に60~70%の確率で最大M9クラスの衝撃が日本を襲うという。
7月2日には千葉県山武市の九十九里浜に突如クジラ5頭が打ち上げられるなど、日本周辺では何かと不穏な自然現象が頻発している。実際、東日本大震災以来、活発化している各地の地殻変動も続いており、南海トラフでの大地震もいつ起きてもおかしくないと専門家たちは口を揃える。
ひとたび南海トラフで巨大な地震が起これば、その最大被害想定は死者32万人、経済損失220・3兆円。甚大な被害が記憶に新しい、あの東日本大震災ですら、死者・行方不明者は1万8554人、経済損失16・9兆円だった。日本社会の存続すら脅かすような大規模災害が目の前に迫っているのだ。
内閣府は南海トラフ大地震に関する最終報告書の発表に合わせて、国民に1週間分の水や食料等の備蓄を呼びかけ、企業や自治体にも積極的な震災対策を求めたが、はたしていま、日本の企業はどのような地震対策を行っているのか。
本誌では、日本を代表する大手企業約90社に地震対策への取り組みを問うアンケートを実施。そのうちの54社から回答を得た。次ページからがその回答の一覧表。冒頭の3社のコメントもその回答の一部だ。
津波に備えて救命胴衣を用意する企業から、危険な地域から移転する企業まで、大手企業はそれぞれに特徴的な対策を行っている。
一見してほぼすべての企業で行われているのが社員のための水や食料の備蓄。3日分の用意が標準的だ。また、都内に本社や拠点のある企業では、周辺の企業や商業施設で発生する帰宅困難者(交通網の寸断などで都心にとどまらざるを得ない人々、いわゆる帰宅難民)のための備蓄を用意しているところも多い。これは東京都が定めた「東京都帰宅困難者対策条例」に沿ったものだ。
同条例をもとに、都では都内の全事業者に全従業員の3日分の水、食料等の備蓄に加え、社屋などに受け入れる帰宅困難者に提供する分の備蓄も用意するよう努めることを求めている。企業にとって経済的には負担となるが、
「この条例案は経団連など経済団体側からも要請があって作られたものなので、施行にあたって、大きな反発はありませんでした。東日本大震災時には、どこの企業も何らかの形で、社員が帰宅困難者の波に巻き込まれた経験もあり、さらに大きな地震がやってきたらお互いに助け合うのが一番だと身に染みて感じたのでしょう」(東京都総務局総合防災部防災管理課)
さらに、災害対策を来訪客やテナントに対する安心・安全のアピールと考え、ビジネスチャンスと見る企業もある。なかでも圧巻の態勢を組んでいるのが森ビルだ。同社震災対策室事務局長の寺田隆氏はこう語る。
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「『逃げ出す街』から『逃げ込める街』へ、をコンセプトに、六本木ヒルズで5000人、他にも愛宕やアーク、表参道など大きな施設5ヵ所で各1000人ずつ、計1万人の帰宅困難者を受け入れることを考えています。
都の条例では3日分の備蓄ですから、一人一日3食で9万食。10%増しで10万食。その他、社員は夜通し働くことも考えて一日4食で計算して合計2万食。テナントや居住棟、近隣への配布分も含めて20万食を用意しています。
備蓄されている食品は、最近のおいしいレトルトやインスタントの食品。肉じゃがとかカレー、カップラーメンなど、ずいぶん種類が豊富ですよ。5年保存なので、賞味期限半年前くらいのものは防災訓練に参加された方とかNPOに無償でお配りしています。
1食分約500円、合計1億円の投資になりました。賞味期限が5年ですから、年間2000万円ほどですが、コストよりも賞味期限などの管理が大変ですね」
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この他、東京都交通局が5万人分、東京メトロが10万人分の帰宅困難者用の備蓄を用意するなど、都心での被災時には頼もしい数字が並んでいる。もし、あなたが被災しても近隣の大手企業や商業施設を頼っていけば、どこかで助けてもらえるかもしれない。
■衛星携帯で通信手段を確保する
だが、こうした民間企業の協力による帰宅困難者の一時避難所の一覧を、都はあらかじめ公表していない。
「ある大企業や施設が大量の備蓄を用意しているとわかると、周辺の企業などが『うちはもう安心だ』と対策の手を緩めてしまうかもしれない。事前の公表を行っていないのには、そんな事情もあるんです」(前出・東京都総務局総合防災部防災管理課)
一方、大企業に勤めている人々も、ひとたび大地震が起これば被災者となる。いずれの企業も社員やその家族の安否確認にさまざまな方法で対応しているが、災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏は、思わぬ落とし穴もあると指摘する。
「私も仕事柄、いろいろな企業に呼ばれて防災計画書を見る機会がありますが、結構、穴もあるんですね。
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たとえば、いまでは災害時に電話回線だけの緊急連絡網では役に立たないことは常識なのに、『電話で連絡する』としたままの企業もありました。連絡態勢を構築していると言っても、これではどうにもならない。インターネットやSNSの活用を盛り込んでいる企業でも、実効性のある運用ができていなかったりする。一方、進んでいる企業では専用の無線端末や衛星携帯を用意していたりします」
和田氏の知る限りでも、大手の自動車会社はかなり綿密な防災対策を練っている他、携帯電話などの通信大手は、いかに他社より先に通信環境を復旧させるかが企業への信頼のキモになるだけに、「ガチガチに計画を練っている」という。
「100年に一度、1000年に一度の災害と言われると、企業はどこまでコストをかけるかという問題に直面しますが、おカネをかけなくても対策を考えておけることはたくさんある。
たとえば、スタッフが被災していなくなったらどうするのか。バックアップ方法をどうするのか。一見、しっかりしている大企業に見えても、福島の原発事故のときのように、細かいところまでフォローできていない場合もある。人は体験したことのない大災害時に、自分で動こうとしても何もできません。実効性のあるマニュアルを、どこの企業も作っておく必要があるでしょう」(前出・和田氏)
■災害バイク隊が出動する
実際に災害を経験して対策をブラッシュアップしてきたという企業もある。東京都中央区にある戸田建設総務部総務課主任の佐藤洋人氏はこう話す。
「東日本大震災の前から、地下3階の倉庫に食料や水を備蓄していたんです。エレベーターは停電しても自家発電装置があるから大丈夫だと思っていたんですが、いったん止まるとメンテナンスの方が来ないと運転を再開できない。それで社員が階段を何往復もして持ち上げたんですが、これが大変だった。いまは各階に備蓄を分散しています」
この会社の取り組みでもっとも特徴的なのは独自の「災害バイク隊」を編成していることだ。
「阪神・淡路大震災のとき、復旧支援で社員を送り込んだんですが、車が通るスペースはない、自転車はすぐパンクするというので、オフロードバイクなら行動しやすいという話になった。
それで、本社でもいち早く社員のために周辺の情報を収集しようということで、『災害バイク隊』を結成しました。とくに、どうしても帰宅したいという社員のために、経路の安全を確認するのが目的です」(前出・佐藤氏)
ラジオやテレビで災害情報が聞けても、「ここの橋が落ちている」といった局所的な情報はほとんど伝わってこない。その情報をバイク隊が補完するのだ。
「といっても、隊員もサラリーマン。せっかく腕の上達した社員が転勤になってしまうこともあります。
それに3・11では、あらためてイメージ通りにはいかないと思い知らされましたね。あの日は私しか隊員が会社におらず、バイクで社を出たのですが、事前には20分程度で行けると予想していた新宿まで3時間もかかりました。車と車の間を人が歩いていて、バイクでも飛ばせないんです。貴重な教訓になりました」(前出・佐藤氏)
直面してみないと何が起こるかわからない大地震。立命館大学歴史都市防災研究所の高橋学教授は次の大地震のスケールを甘くみてはいけないと指摘する。
「言い方は悪いですが、阪神・淡路大震災は中堅都市ひとつだけ、東日本大震災は人口密度の低い地方の沿岸部をそれぞれ襲った災害です。南海トラフで想定される大地震は、それとは別次元のものになる。前も大丈夫だったから、また日本は立ち直れるなどと安易に考えてはいけないのです」
■地下の備蓄は水びたしに
大企業の入っているような高層ビルは、遠くの海底を震源とする南海トラフのような地震(海溝型地震)では大きな被害を受ける。
「机やコピー機が飛んできて、人を押しつぶします。長周期地震動の伝わり方によっては、そんな揺れが何分も続くでしょう。ビルそのものは倒壊しなくても、なかはシャッフルされてしまう。モノが飛んでこないようシールド(遮蔽)された場所を作るか、トイレのような壁の多い場所に逃げ込むしかないでしょう」(前出・高橋教授)
また企業の備蓄や発電施設の設置の仕方にも落とし穴があると高橋教授は話す。
「かつて海や川底だったような土地では、大地震の際に液状化が起こりますが、意外と意識されていないのが地下室での液状化被害です。阪神・淡路大震災の際に、神戸の市立博物館の地下にあったホールは液状化で泥が噴出して砂に埋もれかけてしまいました。
大量の備蓄品や自家発電装置を置く場所がなくて、地下室に設置している企業は多いのですが、本当にそこにあって大丈夫なのか、よく検討する必要がある」
危険性を認識し、対策を取るべきなのはもちろんだが、ここまでくると企業にとっては大変なコストの負担になるのも事実。一部の企業からは、「政府の想定などを見ると、大きすぎてうちの会社で対策をしてもしょうがないと思ってしまう」「テナントとして入っているビルの管理会社の対策に頼ってしまう」など弱気な意見も漏れ聞こえてきた。
だが、災害と経済の関係に詳しい一橋大学大学院経済学研究科・政策大学院の佐藤主光教授はこう話す。
「企業の防災が難しいのは、他の設備投資や従業員の福利厚生に比べ、実際に地震が起こらないと効果が実感できないところです。また、防災に積極的な企業の株価が高いかと言えば、必ずしもそうではない。
しかし、企業の社会的役割を考えれば、それは雇用の創出であり地域経済の活性化です。防災努力を欠く企業は震災時に地域経済を支えることはできません。反対に、撤退などで地域経済にダメージを与えるかもしれない。企業のブランド性、信頼性の観点からも防災に積極的な企業はもっと評価されていいでしょう」
前出の立命館大学・高橋教授は、南海トラフの大地震を生き抜くには、日本の企業社会の在り方そのものを見つめなおす必要があるだろうと話す。
「iPS細胞の研究でノーベル賞を受賞した山中伸弥教授のご実家もそうだと聞きましたが、私の実家も町工場。自動車の部品を作って、トヨタ自動車などに納品していました。大阪のパナソニック工場周辺やトヨタ自動車の本拠地周辺では、そういった町工場がひしめき合っていますが、壁が少なく、工場の上に自宅があるような町工場は大地震で倒壊して炎上しやすい。
かつて大企業は中小企業と支えあってきましたが、最近はどうも下請けに冷たい企業文化が日本を席巻しています。しかし、防災の観点から見れば、町工場が焼ければ大企業の工場も一蓮托生で火災に巻き込まれてしまいます。
もしかしたら、南海トラフの対策を真剣に考えることは、自社だけがよければいいというのではなく、地域ぐるみ、取引先ぐるみで互いを活かしあう強い企業文化を取り戻すチャンスになるかもしれません」
無駄なコストか、生き残るカギか。審判のときは、すぐそこまで迫っている。
「週刊現代」2013年7月20日号より
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