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http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20130719/dms1307190734003-n1.htm
2013.07.19 夕刊フジ
いきなり梅雨が明けて真夏の猛暑が続いている。そこで怪談をひとつ。
現代の地殻変動の観測の精度は高い。地面が100万分の1だけ縮むかどうか、地面の傾きが1億分の何度か変わるかどうかの変化が測れる。
そんな細かさで見ると不思議なことが見つかった。
1970年代に、岩手県から秋田県にかけて地殻変動が西北に移動していったのが発見された。地面が数十万分の1縮んだほどのわずかな地殻変動だが、太平洋岸から日本海岸へとゆっくり横切っていったのである。
動いた速さは、ごく遅く、年に20キロ。時速にすれば2メートルほどになる。つまりカメよりも遅く、カタツムリ並みの速さのものが地下を動いていったことになる。移動性地殻変動と名付けられた。
この移動を時間をさかのぼって逆にたどっていくと、陸から海へ出て、さらに太平洋プレートが日本海溝へ沈み込むところに起きる海溝型の巨大地震の場所に至る。
そして、この移動した何かは、巨大地震が起きたときにちょうどその震源に、その時間にいたことが分かったのである。1968年に起きた十勝沖地震(マグニチュード=M=7・9)がその地震だ。
つまり地下の「妖怪」は、大地震の震源から生まれて、日本を駆け抜けたように見えるのである。
また、関東地方でも、地面の傾きが、東から西へゆっくりと移動していったのが発見されていた。そして逆にたどったその先には1953年に起きたM7・5の房総沖地震があった。日本だけではない。ペルーでも同じような現象が見つかった。
じつは、この妖怪にはもっと深い嫌疑がかけられている。
それは大地震に「立ち会った」ばかりではなくて、大地震を引き起こしたのではないかという嫌疑である。大地震の震源から生まれて日本の地下を走り抜けただけではなくて、走る途中で地震の引き金を引いた元凶ではないかという嫌疑なのである。
妖怪は、そもそも海溝での海洋プレートと大陸プレートの押し合いから生まれた「鬼っ子」かもしれない。
前回に1997年に豊後水道で「のろまの地震」が起きた話をした。このときにも、この地震の震源から生まれた微小な地殻変動が、ゆっくりと四国や中国地方を横切っていった。
この妖怪が動く速さ、時速にして数メートルとは、とても不思議だ。地球の内部をなにかが岩をかきわけながら動いていくにしては途方もなく速すぎるし、一方、秒速数キロメートルで走る地震断層と比べると、けた違いに遅すぎる。
地震や台風など地球に起きる事件の常として、大きなものだけが起きることはない。たまたま大きいものだけが見えているだけなのであろう。
いま、あなたの家の下を、小さな妖怪が、音も立てずに通り過ぎているのかもしれない。
■島村英紀(しまむら・ひでき) 武蔵野学院大学特任教授。1941年、東京都出身。東大理学部卒、東大大学院修了。理学博士。東大理学部助手を経て、北海道大教授、北大地震火山研究観測センター長、国立極地研究所所長などを歴任。『直下型地震 どう備えるか』(花伝社)など著書多数。
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