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NHK捏造問題、頑なに「やらせ」を認めず「過剰な演出」強弁の理由 信頼失墜の公共放送
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150502-00010005-bjournal-ent
Business Journal 5月2日(土)17時30分配信
●幕引きのための調査報告書
昨年5月に放送されたテレビ番組『クロ−ズアップ現代 追跡“出家詐欺”〜狙われる宗教法人〜』内で多重債務者に出家の斡旋を行っているブローカーとして登場した男性が、「自分はブローカーではなく、NHK記者の指示で“役柄”を演じた」と告発していた問題について、NHKは4月28日、調査報告書を公表した。
結論としては、「事実の捏造につながる、いわゆる『やらせ』はなかったものの、裏付けがないままこの男性をブローカーと断定的に伝えたことは適切ではなかった」などとしている。NHKは番組を担当した記者の停職3カ月をはじめ、その上司や役員などの処分を決定。組織としての幕引きへと向かった格好だ。
●番組内容と制作過程の乖離
番組では、出家詐欺の当事者とされるブローカー・A氏との接触に成功し、彼の事務所でインタビューを行っていた。取材当日は偶然にも多重債務者・B氏がやって来て、出家詐欺を相談する様子を撮影することに成功。しかも、その映像は隣のビルからの隠し撮りという準備の良さだ。さらに事務所から出てきたB氏にも話を聞いており、本来であればスクープであった。
しかし実際は、B氏と記者が旧知の間柄で、A氏はB氏の知り合いだった。事務所もまたB氏が撮影用に調達したものでありニセの事務所だった。A氏は調査報告書が出た後も、自身がブローカーであるとは認めていない。
報告書は、基本的に記者の証言や主張を受け入れるかたちでまとめられている。記者がA氏をブローカーだと思い込んでいたこと、役柄や演技の指示はしていないという主張が認められ、取材・撮影の手法に問題はあったが、「事実の捏造につながる、いわゆるやらせはなかった」と判断しているのだ。
しかし、放送された内容と報告書にある制作過程を客観的に比べてみた時、「やらせはなかった」という結論には納得できないものがある。
なぜなら、やらせには捏造だけではなく、いくつかのヴァリエーションがあるからだ。実際よりも事実をオーバーに伝える「誇張」、事実を捻じ曲げる「歪曲」、あるものをなかったことにする「削除」、逆にないものをあるかのようにつくり上げる「捏造」が、いずれもやらせに該当する。だが、報告書は捏造だけをやらせと認識しており、その狭い定義に該当しないということで、「やらせはなかった」と言い張っているのだ。
上記に照らせば、この番組では取材側の都合に合わせた、いくつかのやらせが行われていた。それらを報告書は、やらせではなく「過剰な演出」と呼んでいる。いわば一種の「言い換え」である。
●やらせと過剰な演出の間
かつて、テレビ番組のやらせが大問題となったことが何度もあった。1985年、『アフタヌーンショー』(テレビ朝日系)で、制作側が仕組んだ暴行場面が放送された「やらせリンチ事件」。92年、『素敵にドキュメント 追跡! OL・女子大生の性24時』(朝日放送系)で、男性モデルと女性スタッフに一般のカップルを演じさせたケース。同年、『NHKスペシャル 奥ヒマラヤ・禁断の王国ムスタン』での「やらせ高山病」シーン。その後も2007年に、『発掘!あるある大事典2』(関西テレビ系)で捏造問題が起きている。いずれも番組自体が打ち切りになったり、テレビ局トップの責任が問われたりしてきた。
もしNHKが今回、『クロ現』におけるやらせを認めた場合、ダメージは相当大きいものになるだろう。なぜなら同番組はやらせとは無縁であるべき報道番組であり、NHKの看板番組の一つでもある。その影響を考えれば、是が非でも報告書から「やらせ」という言葉を排除し、あくまで「過剰な演出」という着地を目指した可能性は十分にある。
筆者は『クロ現』という番組自体は高く評価している。社会的なテーマを掘り下げ、内容の質をキープしながらデイリーで伝え続けていることに敬意を表したい。それだけに、今回のような番組づくりは残念であり、当事者である記者には憤りを感じる。番組のみならずNHKという公共放送、さらにテレビジャーナリズム全体に対する信頼感を大きく損なったからだ。
今回の報告書では、この記者が関わった他の番組でもB氏を登場させていることに触れている。しかし、その内容について詳細な検証は行っていない。あくまでも、この番組における過剰な演出を指摘することで終わっている。果たして、それでいいのか。
また、くだんのA氏も「今後は、BPO(放送倫理・番組向上機構)の手続きにおいて、私の名誉が回復されるよう努めていきます」というコメントを出している。もしもBPOがこの番組の審議入りを認めることになれば、この問題の本質に迫る“第2章”が始まるかもしれない。
(文=碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授)
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