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読売新聞記事に捏造の疑い、取材対象者から抗議受けた記者は「いい宣伝になったでしょ?」
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140413-00010004-bjournal-bus_all&p=1
Business Journal 4月13日(日)13時8分配信
「飛ばし記事」とは、新聞・雑誌などで、裏付けを取らずに不確かな情報や憶測に基づいて書かれた記事のことだ。記事の内容が不正確であると発覚しても、メディアが自発的に謝罪するケースはまれだ。
新聞に限らず、マスコミは他社より少しでも早くスクープを抜くという点に執着しており、報道後にその内容と異なる展開になった場合は、「そんな展開はおかしい」「判断基準がぶれている」などと当事者を非難することさえある。
今回は、読売新聞が掲載したある飛ばし記事の概要と問題点、そうした記事を量産する記者について取り上げてみよう。
件の記事は、4月5日付読売新聞に掲載された以下の記事だ。
〜以下、同紙より引用〜
『客の顔情報「万引き対策」115店が無断共有』
スーパーやコンビニなどの防犯カメラで自動的に撮影された客の顔が顔認証で解析され、客の知らないまま、顔データが首都圏などの115店舗で共有されていることが4日分かった。
万引きの防犯対策のためだが、顔データを無断で第三者に提供することはプライバシー侵害につながりかねず、専門家や業界団体は「ルール作りが必要」と指摘している。
顔データを共有しているのは、名古屋市内のソフト開発会社が昨年10月に発売した万引き防止システムの導入店舗。首都圏や中京圏のスーパーなど50事業者計115店舗で、個人のフランチャイズ経営の大手コンビニなども含まれる。
各店舗は、防犯カメラで全ての客の顔を撮影。万引きされたり、理不尽なクレームを付けられたりした場合、該当するとみられる客の顔の画像を顔認証でデータ化した上で「万引き犯」「クレーマー」などと分類し、ソフト開発会社のサーバーに送信、記録される。他の店舗では顔の画像そのものは閲覧できない仕組みだ。
いったん登録されると、再び来店した場合、店員に分かる形で警報が発せられる。登録されたのとは別の店舗を訪れても、サーバーに記録された顔データで照合され、警報が出る。システムを導入する店舗では、「顔認証監視カメラ設置」などのシールを店内に貼って撮影していることを周知しているが、他の店舗と顔データを共有していることまでは知らせていない。
個人情報保護法では、防犯カメラで撮影した顔画像は個人情報に当たる。防犯目的であれば本人の同意がなくても撮影は認められているが、顔データを共有すると、第三者への無断提供を禁じた同法に抵触する恐れがある。提供された顔データが犯歴や購入履歴などと結びついて個人が特定されれば、プライバシー侵害につながりかねない。
顔データの共有について、個人情報保護に詳しい板倉陽一郎弁護士は「店側が恣意(しい)的に不審者だと登録でき、客にとっては、行ったことのない店舗で不利益な扱いを受ける恐れがある。誤って登録されても反論する機会はない」と指摘する。一方、ソフト開発会社は「万引きを防ぎたいという店側のニーズに応えており、問題ない」と説明している。
〜引用ここまで〜
●ネット上では炎上状態に
掲載場所はテレビ欄の裏面に当たる社会面で扱いも大きく、記事掲載同日午前中にはYOMIURI ONLINEの記事としても配信されたことから、インターネット上では話題になった。
「やまもといちろう氏Yahoo!個人」
『万引き犯共有ネットワークが物議を醸しております』
「栗原潔のIT弁理士日記」
『米国における万引き犯情報共有システムについて(+リカオン社特許について)』
これら有識者のコメントを受けて、「NAVERまとめ」や「2ちゃんねる」などでも「名古屋市内のソフト開発会社」とみられる企業名が挙げられ、ちょっとした炎上状態になっていた。
本記事内容に賛同し、同社サービスに対して批判的なスタンスを取る人々の主張ポイントは、大きく次の2つだ。
【ポイント1】
防犯カメラで自動撮影された客の顔が顔認証で解析され、客の知らないまま、顔データが多くの店で共有されている。
(問題とされる点)
・顔画像データは個人情報である
・データ無断共有は、個人情報保護法に抵触する
・顔データによって個人が特定されれば、プライバシー侵害に当たる
【ポイント2】
店側が恣意的に不審者だと登録でき、客にとっては、行ったことのない店舗で不利益な扱いを受ける恐れがある。誤って登録されても反論する機会はない。
(問題とされる点)
・警察ならまだしも、一民間企業が犯罪者データを恣意的に扱えるのは問題がある
・店側に都合が悪い人物は全員登録されて、私生活が制限される可能性がある
・これでは私刑(リンチ)と同じだ
以上のような議論は「Googleグラス」発表の際にも巻き起こったように、顔認証データをどう扱うかというテーマは、技術進歩に法整備が追い付いていない領域であろう。
●記事内に散見される事実誤認
しかし、日頃から万引き被害に苦しむ店舗の側からしてみれば、今回読売新聞が問題視しているようなシステムがあれば、これまで対策に割いていた余計な人件費や経費をもっと生産的な活動に回すことができ、メリットが大きいといえるのではないか。
そこで今回、事態の真相を探るべく、「名古屋市内のソフトウェア開発会社」(以下、A社)の担当者である畠山公治氏に話を聞いた。
結論からいうと、今回の読売新聞記事は、執筆した畑武尊記者によるかなり悪意のある飛ばし記事である可能性がうかがえる。以下、畑記者が同社を取材した時に記録された会話データを基に、本記事の信憑性を検証していこう。
【読売新聞記事の内容について、事実と異なる点】
(1)顔データを無断で第三者に提供する
→対象者と同意書を交わしたデータベースのみが共有の対象となるため、無断共有ではない。また「第三者への提供」とあるが、共有される同意書取得済みのデータベースは本システム導入店のみで共有対象となる。担当者によると、取材時にはきちんと「同意書を交わしたもの」と説明をしたにもかかわらず、記事では「無断」とされていたという。
(2)顔データが首都圏などの115 店舗で共有されていることが4 日分かった
→首都圏に当該システム導入店舗は存在しない。
(3)A社が昨年10 月に発売
→提供・販売開始は今年2 月14 日のプレスリリースが正式。当該原稿は畑記者にも送信済み。
(4)理不尽なクレームをつけられたりした場合に「クレーマー」などと分類
→取材では、万引き防止のための顔認証システムとして説明しており、クレーマーを登録する要素は目的と異なる。
(5)登録されたのとは別の店舗を訪れても、サーバーに記録された顔データで照合され、
警報が出る
→すべての登録データを共有するわけではなく、限定したもののみ。
・自店のみで顔認証検知されるデータベース......9 割以上は共有していない
・他店とも共有されるデータベース......必ず同意書を交わしている
(6)提供された顔データが犯歴や購入履歴などと結びついて個人が特定されれば、プライ
バシーの侵害につながりかねない
→共有検知した先では、「共有システムの〇〇〇:データベースを検知致しました」と現示され、顔画像は表示しない。また、サーバのデータベースと照合する対象は顔特徴から抽出される数値のデータベースであるため、誰が見ても紐づけは不可能。
(7)客は知らされず、店が誤って「万引き犯」と登録した場合でも、客が異議を申し立てるなどで取り消す手段がない。つまり「誤認」でも取り消せない
→削除要請を受ければ共有データ・自店内のデータベースから削除可能であり、利用店舗での削除も可能。同意書を交わした上でデータを共有するため、登録者本人の同意がない限り登録対象とならない。よって誤認登録である可能性は低い。共有システムに登録する際には、定められた管理者が保有するパスワードを知る管理者のみ登録が可能。
ちなみにA社は、本システムの販売に当たり、事前に複数の弁護士などに法的に問題ないか確認を取った上でリリースをしているとのことであった。
●記事の内容に対し、法律の専門家から疑問の声も
今回の読売新聞記事の法的解釈については、法律の専門家からも次のように疑問が投げかけられている。
「システム運営者と各店舗の関係は、委託関係(個人情報保護法22条)として処理すれば、個人情報保護法違反にはならない。したがって、『店舗間の顔認証情報共有』を『個人情報保護法に違反するおそれがある』とする読売新聞の記事は、間違いか、そうでなくても、問題の本質ではないことになる」(『顔認証による万引防止システムと法の支配について』<「花水木法律事務所のブログ」より>)
筆者が取材した警察関係者も「顔認証における顔データベースの共有は個人情報保護法には抵触しない」との考えを示した。
とはいえ、法的根拠についてはまだ整備されていない部分もあるため、今後の議論が待たれるところであるが、ここで問題にしたいのは、読売新聞が事実を裏取りせずに、証拠もない情報を公の記事で断言しているという点である。
A社に確認したところ、同社とシステムをすでに導入している店舗に消費者から苦情は来ていないという。
以上見てきた疑問について、本記事執筆者である畑記者に直接確認すべく読売新聞社に問い合わせたところ、「担当者不在」との返答であった。
万引きによる日本国内の小売業における被害総額は年間4500億円以上と試算されている。この金額に対して、小売業の売上高対人件費比率を15%、従業員の平均年収を300万円と仮定した場合、年間2万2575人分の雇用が喪失している計算になるのだ。まさに、犯罪によって、国民の働く機会が失われているといえよう。
そんな中、今回読売新聞が批判しているようなシステムが普及すれば、犯罪が未然に防げるようになるかもしれない。
●取材対象者は畑記者に抗議
当該記事が掲載された当日、畠山氏は畑記者に対して抗議の電話をしたという。それに対して畑記者は開口一番、こう答えたのである。
「どうです。いい宣伝になったでしょ?」
畑記者からA社に取材依頼があった際は、次のように伝えられていたという。
「さまざまな顔認証の取材をしており、最前線のシステムとして取り上げたい」
「社名、製品名を出して掲載する予定」
「これから取材する別の顔認証システムも複数あるので、その一つとして掲載する予定」
A社は、この取材趣旨をそのまま受け止め取材に応じた結果、誤った事実と不確かな法的解釈に基づく批判記事を書かれてしまったのだ。これは見方を変えれば、社会的影響力を持つ大手新聞による中小ベンチャー企業への営業妨害とも取れるし、趣旨に賛同して契約を決めたユーザー店舗にも損失を与えかねない行為といえよう。本記事内ではA社の社名も製品名も掲載されていないことから、畑記者の後ろめたさも感じられる。
読売新聞には、本記事掲載に至るまでの一連の経緯や問題点の検証、およびその結果の公表が求められている。
新田 龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役
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