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WEDGE11月号「福島の避難者が見たチェルノブイリ」のウソと真実
WEDGEという月刊誌の今年の11月号に「福島の避難者が見たチェルノブイリ」という特集がある。24ページから32ページまでの記事でかなりの情報量がある。全体としてチェルノブイリでの例を引いて福島第一原発事故があまり問題がないと主張している記事だ。幾つか、ページ順に気が付いたことを記事の中の文章を引用しながら書いてみたい。
P.24:
「(チェルノブイリの)作業員が防護服なしに働いていたこと」
防護服は来ていないが原発構内ではマスクをつけている。つまり、服に放射性のチリが付いてもそれを無視する程度にまで事故の影響は軽微になっているが、半減期の長い核種の微粒子を肺に吸い込む可能性が事故後27年経っても残っているということだ。また、福島第一原発でマスクはもちろんのこと、防護服を着なければならないのは、原子炉などから未だにかなりの放射性物質が放出されて続けていることや原発周辺ではまだかなりの放射性微粒子が残っているからに他ならない。
P.27:
「『夢の町』と形容されるスラブチッチはチェルノブイリ原発から東へ約50キロ、首都キエフから北へ120キロに位置し、汚染地域の第4区分『定期監視区域』内にある。(略)事故後2年後の88年から人が住み始め、現在2万5000人が暮らす。」
基本的に西風が吹くためチェルノブイリの東側に新しい街を作ったということのはず。50キロ程度はそれでも離さないと安全な環境ではなかったということだろう。このことを福島に当てはめるといわき市や福島市などはある程度50キロ圏に入ってしまう。そもそもチェルノブイリ事故では事故翌日に原発から3キロの位置にあったプリピチャの住民は「3日間だけ町を離れる」と言われて避難している。日本は避難がかなり遅れている。多分、この避難の遅れ、または未だに福島市やいわき市からの避難をさせていないことは今後かなりの影響を及ぼすはずだ。このことは、福島県の健康調査で内部被ばくの程度をもっとも簡単に、そして、最も直接的に示す尿検査の結果が隠ぺいされていることを考えれば、ほぼ確実だと言っていい。
P.28:
「放射能が怖いかって?まったく気にならないよ。それより以前住んでいた都市の大気汚染のほうがよっぽど身体に悪かった。この町で放射能にナーバスになっている人なんて、聞いたことないよ。」
スラブチッチの住民の方へのインタビューでの発言。これだけ聞くと、とても安全な街のように聞こえる。ただ、それがなぜ安全なのかがまったく書かれていない。スラブチッチの町の空間線量を測っているはずだが、そのデータは記事に書かれていない。同様にスーパーで売られている食料品のベクレル量とか水道水のベクレル量など、基本的な放射能影響の状況についても記事には書かれていない。単にスラブチッチの住民が「放射能は大丈夫だ」と言っているという記事になっていて、これではあまり報道価値がないどころか、いろいろな誤解を招くだろう。
P.29:
「ウクライナ放射線医学研究所の医師たちも、ソ連崩壊による経済困窮、避難による家庭崩壊や失職、精神不安、不正確な情報を拡散する報道などによる社会的影響が深刻で、『日本で繰り返してほしくない』と指摘した。」
これだけ読んでいると、放射能被害はないかのように思えてしまう。そうであればもともと避難そのものが必要ない。ウクライナもベラルーシも政府系の研究所や医師そのものが実情を誤魔化して評価しているのはかなり有名なことだ。WHO自体がチェルノブイリの被曝被害をほとんど認めていないし、IAEAもそうだ。福島第一原発事故後2年と半年が経過した日本で、ウクライナ政府系の研究所などがWHOやIAEAと同じく被曝被害をほとんど認めていないということを理解していない、またはそれを承知で被曝被害があまりないというデマを記事として書くジャーナリストがこうして存在することにとても残念な思いがある。こうやって日本は滅んでいくのだ。
P.30:
「こんな質疑があった。浪江町出身の**さんが『ホールボディカウンターで、自分はNDですが、知人に全体重で300〜400ベクレル出ている人がいます。健康影響は考えられますか?」と聞いた。
この後の部分も相当に問題だが、まず、この部分がとても奇妙だ。まず、「浪江町出身」という表現があいまいだ。事故当時浪江町に居住されていて今は避難中だという意味なのか、または実家が浪江町にあり幼少時に浪江町で育ったが、事故当時は違う場所に居たというのかがはっきりしない。そして、「自分はND」と言っていることや「知人に全体重で300〜400ベクレル出ている人がいます」と言っていることがおかしい。ホールボディカウンターは、例えば体温計のようにほぼどんな体温計で測っても同じ体温が測れるという機器ではなく、その機械が設置される環境や調整の仕方、または機器の使い方から患者の服装によっても計測値はかなり変わってしまうのだ。計測の検出下限値でさえも全体重あたり300ベクレル程度であることは珍しくない。場合によっては検出下限値そのものが全体重あたりで500ベクレルを超えることさえある様子だ。更に「全体重で300〜400ベクレル」と言っても、どんな環境で計測した結果かが分からなければあまり比較にはならない。
P.30:
「え?300?それは、まったく心配いりません。私たちが気にしているレベルはこの赤線の30000ベクレルです。」
これも大変に問題な発言だ。理由は上に述べたようにこういった値を計測する機器の問題で、なぜ、これを答えた医師の方が質問をしていた訪問団の人に、自分たちの測った機器で計測をしてみませんかと言わなかったのかが疑問だ。彼らも医師であり研究者なら福島での汚染の状況がどの程度か知りたいはずだろうし、自分たちが使っている機器がどの程度の値を示すかを確認したいはずだ。
P.30:
「白内障や精神疾患を心配する外部被ばく量は200〜300ミリシーベルトあたりだと言うから、これも日本の測定結果よりはるかに高い。」
記者の方が書かれた文章のはず。白内障は確かに外部被ばくで発症することが多いはずだ。しかし、精神疾患は外部被ばくで発症はあまりしない。明らかに内部被ばくで精神疾患、多分そのほとんどはブラブラ病と言われるもののはずだがが発症する。だから、この部分は明らかな間違いと言ってもいい。
P.30:
「ウクライナと比較する際に、空間線量だけに注目するのは適切ではない。ウクライナでは、外部被ばくより内部被ばくの与えた影響が大きかったからだ。」
内部被ばくの方が外部被ばくよりも健康に与える影響が一般的に大きいのは事実だが、福島での内部被ばくがあまりなかったというような印象を与えるという意味でこの文章は問題だ。実際には、福島での内部被ばく線量はあらゆる形で隠ぺいがされたわけで、半減期の短い核種による被曝は全く計測されていないと言ってもいいほどだ。事故当初、福島の青年団の方などが関係機関にホールボディカウンターで学童の内部被ばく程度の計測を要請したがすべて断られている。
P.30:
「日本の食品基準は、ウクライナが20年かけて厳しくしていった最後の基準よりも厳しいです。」
これもあいまいな文章。ウクライナの基準値が具体的にどの程度かが示されていない。
P.30:
「チェルノブイリの情報に触れた福島の人びとの議論は白熱した。(略)『家庭環境の状態が悪いと、世代を超えて精神疾患が連鎖したりするだろうね」
ここが実を言うともっともおかしいと思った部分。そもそも、こんな表現を普通の日本人がするだろうか。「家庭環境の状態」という表現は「頭痛が痛い」と同じ重複表現だ。また精神疾患という言い方は多分原発事故を巡って日本ではほとんど使われていないと思う。だから、このような会話があったということ自体が疑問だ。更に、論理的に言っても家庭環境が世代を超えて精神疾患を作り出すという考え方自体がかなり無理がある。
P.31:
「日本の空間線量、内部被ばく量が、チェルノブイリよりはるかに低く、きちんと把握されていることは確かだ。」
ここも事実とは異なると思う。福島市内などに設置されている空間線量計が、その周囲だけをきれいに除染されていて、値が低く出るようになっているというのはかなり話題になったことであり、事実のはずだ。また、内部被ばく量にしても初期被ばくの程度はほとんど測れていない。初期被ばくがある程度酷ければ、その影響は後々出てくることを無視している。
P.31:
「楽観的に物事をみないとダメです。楽観的な気分でいることにより解決できることが実は多いですから。」
これは読んでいて笑ってしまった。日本でもある医師の方が笑っていれば放射能被害を受けないというような話をしたと言うがそれと同じようなものだ。確かに免疫力は気持ちの持ち方でかなり変わるのだろう。しかし、まずは実際の被曝の度合いをはっきりと知ることが大切だ。現在の日本のように現実の被曝の程度が不明にされたままで楽観的であれというのはあまりに無責任と言うものだ。これを福島からの訪問団の方たちは一体どんな気持ちで聞いたのだろうか。
P.31:
「『頭の中の”除染”を』ー深刻な除法汚染」
31ページの上段にある囲み記事のタイトルがこれだ。内容は、現在観光ツアープランナーをやっている方がチェルノブイリ事故の直後に原発周辺を装甲車で放射線量を測定して回ったが今でも元気だというもの。「世界的に著名な雑誌でも、驚くほどの誤りが載っています。私は専門家だから気づきますが一般人は分からないでしょう。」と発言したとも書いているが、どうもこの方が専門家とは思えない。「私はハリコフ大学で化学を専攻しており、専門性を生かして現地へ投入された」としていて、単なる学生であった様子だ。ともかく、「驚くほどの誤り」とまで言うのであれば具体例を上げるべきだし、驚くほどの真実も載っている場合があるとも言わないといけない。
P.32:
「地元の人間で、汚染水問題を真っ先に話題に挙げる人はいませんよ。そんなことより考えないといけないことがたくさんあるじゃないですか。」
この記事の最後にあるセリフ。ここはとても共感する。この部分が書かれていることでこの記事の価値はある意味担保されていると思った。
なお、この記事の中に出てくる参加者のかたのfacebookがあり、それには「残念な事に、住民の方から意見を聞く機会が持てなかったので、詳細は分からないが、夢の街を目指して造られた街は、建物こそ古めかしくなっているが、子どもたちの笑顔があった。」と書かれていた。どうやらスラブチッチの住民の方との交流はWEDGE記者だけが行ったものであるらしい。
もう一つ重要な点がある。スラブチッチにはチェルノブイリ原発で働く作業員の研修所があり、その研修所で研修を受け、試験に受からないと作業員として働くことが出来ないシステムになっている。このことが全く記事では取り上げられていない。
2013年11月05日02時20分 武田信弘 ジオログのカウンターの値:38201
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