02. 2013年8月07日 09:55:28
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JBpress>イノベーション>マーケティング [マーケティング] 「新聞」離れと新聞「紙」離れの違いは何か 従来思考の呪縛が解ければ新聞社はデジタル化で強くなれる 2013年08月07日(Wed) 本間 充 私はWeb広告研究会の代表幹事を務めている関係で、多数のマーケティング関係者に会い、その出会いの中で多くのことを学ぶことができる。これは非常にありがたいことだ。 そして最近会う機会が増えたのが、日本新聞協会や折込広告の関係者といった、新聞業界の方たちである。みなさんの心配事は、新聞の将来である。 元CIA職員の告白報道に見る「新聞」の進化 新聞の将来を考えるということは、新聞を取り巻く環境に変化があることを感じているということであり、健全な危機意識を持っているということだ。 デジタルやITの進化は、「インターネットがもたらす物流の革新はチャンスかピンチか」でも述べたように、おそらく全ての業界でも影響がある。 だから、今考えるべきことは、現在の仕事の仕方やサービスの提供を維持するのではなく、デジタル・ITと組み合わせることができる自分たちの本来の強みは何かを考えることなのだろう。そう思うのはなぜか、最近起きた事例を基に考察してみたいと思う。 スノーデン元職員、ロシアに一時的亡命を申請 香港市内で英紙ガーディアンとのインタビューに応じるエドワード・スノーデン容疑者〔AFPBB News〕 最近の新聞報道から、世界的な問題になっているCIAの元職員エドワード・スノーデンのことについて振り返りたい。元職員の告白を報道したのは、イギリスの日刊新聞発行会社である、ガーディアン紙(The Guardian)である。 そして、多くの日本人がこの件を知ったのは、ガーディアンの新聞紙面からではなく、「NSA whistleblower Edward Snowden: 'I don't want to live in a society that does these sort of things' – video」という、ガーディアンのWebサイトで公開されていたビデオを日本の報道機関がテレビなどで再配信したものである。新聞社の新聞記事ではなく、ビデオの映像だった。 ここで重要なことは、デジタルの進化により、新聞社が自身のWebサイトでビデオ報道をできるようになったということである。映像というのは、確かに速報性もあり、そして何より元職員自身が話すことにより、情報の受け手は、透明性の高い報道だと思うだろう。 本人のインタビューを記事にして、文字情報として新聞やWebサイトで公開することも可能だ。しかし、ビデオでは編集があるかないかが見ている人に分かりやすいため、信頼性が高いのだろう。だから、ガーディアンのWebサイトに掲載された本人のインタビュー映像を一つの証拠として、多くのメディアが報道を行った。 そして、ガーディアンの企画はそれだけではなかった。6月17日に、Webサイトで読者から直接質問を受け付けている。ここでも、今までの新聞社ではできないが、Webサイトという空間では行える、読者の疑問点を解消させる企画を打っているのである。 これらのことにより、最初は唐突だと思われたスクープ、そしてあまりにも衝撃の大きいこの報道についての信憑性と問題の重要性が理解され、世界を震撼させるトピックになったのである。 日本ではガーディアンのスクープと報道されているが、実際にはその伝え方について、どのようにしたら読者によりインパクトを持って伝わるのか、現在使えるデジタルやITを駆使して報道したことが分かるだろう。日本の報道機関でもこの報道方法について議論すると、デジタル・ITへの理解が深まるのではないだろうか。 デジタルジャーナリズム さて、話を新聞関係者の話に戻そう。多くの関係者にとって、新聞の発行部数が減少していること、それに伴い事業収入に不透明感があることが危機意識を持つ理由なのであろう。このことと、ガーディアンの行ったデジタルジャーナリズムは、あまり関係がない。 ガーディアンの取り組みからは、ジャーナリズムが自分たちの強みだと理解していることが分かる。そして、今回のスクープが、どのようにしたら多くの人に、信頼感のある形で伝わるかを考えた。それと新聞社の事業構造の改革とは階層が異なる。 新聞社の方たちとの議論の中で、「電子面の広告はアドテクノロジーを活用しないといけないのだろうか?」「タブレットにはいつ対応すべきか?」という質問を、たびたび投げかけられる。これも重要なことだが、それは新聞社の最も大きな強みである領域なのだろうか。 新聞社の強みと収入源の議論は分けて行うべきだ。一緒にすると混乱する。 まず新聞社が今の環境変化の中で考えるべきことは、自組織の特徴や強みの中で、デジタル・ITと組み合わせて強化できる領域は何かという議論であろう。そして次に、その領域をどのようにビジネスにするかという議論である。 その議論の中では、ひょっとしたら広告収入がビジネスに必要ないかもしれないし、読者も今までの紙の読者と違うのかもしれない。まずは、今までのビジネスの前提条件を無視して、自分たちの強みを明確にする必要がある。 重要なことは、今起きていることは「新聞」離れではなく、新聞「紙」離れであるということである。多くの人は報道情報を求めている。友人からの伝聞情報だけでは信憑性に乏しいことは理解している。だから、今できるデジタルジャーナリズムを改めて議論することは、とても重要だと考える。 報道のプロではない広告主にとっても他人事ではない ところで、この議論は新聞社などのプロのコンテンツ提供者のみに必要な議論ではないだろう。広告主や事業主といった“アマチュア”の組織によるコンテンツ提供についても、もちろん必要だ。 多くの広告主はインターネットが使えるようになった時に、「これで私たちも、自分たち自身で情報を伝えられる」「正しく伝えられる」などと、歓迎の言葉を発したはずだ。 それゆえに、多くの企業が自社サイトでニュースリリースを公開している。今もこの状況についての認識や行動には変化がない。しかし、多くの企業のサイトでは、アクセス数が少ないという問題も抱えている。 実は、グーグルのニュース検索サイトで企業のニュースリリースは検索できない。なぜなら、企業のニュースリリースページは、内容はニュースであっても、プロとしてニュースを編集する報道機関のサイトではないからである。 だから、多くの広告主はニュースの配信側として一般的なコンテンツを提供していたとしても、報道の領域ではプロでないことは自覚しないといけない。 そして、ニュースリリースを自社サイトで公開している理由と、その企業の関係者がどのようなリリースを望んでいるのかを再度議論する必要がある。今回のスノーデン事件をガーディアンが従来とは異なる形で報道したように、本当はリリースの内容ごとに議論しないといけない。 デジタルやITを活用した、時代に合う方法を探そう メディア新時代にも生き残るプロの記者、米コロンビア大研究 「ツイッター・タウン・ホール」で、質問に答えるオバマ米大統領を携帯電話で撮影する参加者〔AFPBB News〕 今回、新聞社の方たちとの対話をきっかけに、ガーディアンの報道を振り返って分かったことは、デジタルやITを活用すると、今までの強みをさらに強化する方法があるということである。 今までの新聞社であれば、スクープはすべて新聞で行うことであり、ましてや新聞発行より先に、しかも他のメディアで、スクープを掲載することなどはあり得なかった。しかし、今回は自分たちの本質的な強みを、デジタル・ITの利点で増強したケースであり、多くの示唆がある。 大事なことは、デジタル・ITを理解して、自分たちの仕事の方法を時代に合う方法に変えることなのである。 新聞社にとっては、「新聞」離れが進んでいるわけでないという状況理解と、デジタル・ITとの融合。広告主や事業主にとっては、自分たちが外部に情報公開をしている意味と、デジタル・ITとの融合。 さぁ、どんな小さなことからでもいい、議論を始めよう。デジタル・ITの特徴を理解し、仕事のやり方を変え、サービスを良くすること。これが、本当に必要な論点だろう。
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