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372)糖質を止めれば健康になる理由(その@):グルコースはタンパク質を糖化する
【糖質摂取の増加が病気を増やしている】
人類の長い歴史の中で、死因の変遷は大きく3つに分けられると言われています。
旧石器時代までは外傷が最多の死因でした。狩りや戦いでの怪我、出産時の創傷、様々な傷からの感染症などが病気や死をもたらしました。
新石器時代になって人類が定住し、家畜を飼うようになると、感染症が主な死因となります。農耕生活で狭い地域に住む人が増えると感染症が伝搬しやすくなります。多くの感染症が家畜にした動物から持ち込まれ、人間の移住地に住むネズミやノミを介して伝染します。これら感染症による死因はワクチンや抗生物質が開発される20世紀まで続きます。 外傷と感染症の脅威を押さえ込んだ現代において、最大の死因となっているのが、いわゆる生活習慣病です。
がん、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、高血圧などの慢性病が、現代人の死因として大きな割合を占めています。
これら生活習慣病の根本的な原因として肥満が指摘されています。肥満の原因としては、以前は肉や動物性脂肪の摂り過ぎが指摘されていました。しかし最近では、糖質の関与が重視されています。その理由は、米国では1970年代から肉と脂肪を減らす食事が指導され、実際に食事中の脂肪とタンパク質のカロリー比率は減少したのに、肥満は2倍以上に増えたからです。(348話参照)
タンパク質と脂肪の摂取を減らすと糖質の摂取量が増えます。糖質はインスリンの分泌を刺激し、インスリンは脂肪の蓄積を促進するので、肥満が増えます。
米国疾病対策センターからの報告では、過去10年間のアメリカにおける医療費の大幅な増大は、肥満に相当な原因があることを明らかにしています。そして、米国における「肥満の流行」と形容される急激な肥満の増加の原因として、高果糖コーンシロップなどの糖質摂取量の増加が指摘されています。(350話参照)
中国でも肥満と2型糖尿病の有病数が爆発的に増えていることが問題になっています。
中国では大量の米が消費され食事中の糖質の割合が多いのが特徴です。体を多く動かすので、農村部の多い中国では今まで肥満はあまり問題になっていませんでしたが、経済成長とともにライフスタイルが変わり、運動不足と高カロリー食によって中国の都市部では肥満が増加し、糖尿病も急激に増えています。
狩猟採取を行っていた旧石器時代に比べて、農耕社会の食事ははるかに高い割合の糖質が含まれているのが特徴です。
狩猟採集社会では、摂取カロリーの45〜65%が狩猟によって得た動物性食品で、残りは採集した木の実や果物や野菜や豆などでした。このような食事ではカロリー比率は糖質が20〜40%程度で、蛋白質が20〜30%、脂肪が40〜50%程度になると報告されています。(294話参照)
一方、農耕によって穀物が安定的に得られるようになって、食事中の糖質のカロリー比率が上がりました。近代栄養学では、全カロリーの60〜65%を糖質から摂取することを推奨しています。これは肉類や脂肪の摂り過ぎが健康に良くないというのが主な根拠です。しかし、穀類やイモ類を主食にする食事で人類が生活してきた期間は、数百万年に及ぶ人類の長い歴史の中の1%にも満たないという事実があります。糖質の多い食事が果たして人間にとって健康に良いのか問い直す必要があると思います。
狩猟採取時代には糖尿病も高脂血症もがんも極めて少なかったと考えられています。現在でも、狩猟採取を行っている民族では、これらの生活習慣病は皆無だと報告されています。
このように、多くの現代病の原因として糖質摂取量の増加の関与が指摘されています。病気の発症に糖質の過剰摂取がどのように関与しているか、そのメカニズムを考察する必要があります。
【グルコースはアルデヒド基を持つ】
炭水化物(carbohydrate)は単糖を構成成分とする有機化合物の総称で、代謝されてエネルギー源となる「糖質(saccharides)」と人の消化酵素で消化されない(したがって、エネルギー源にならない)「食物繊維(dietary fiber)」に分けられます。つまり、炭水化物は糖質と食物繊維から成ります。
炭水化物の多くは分子式がCmH2nOnで表され、これを書き直すとCm(H2O)nとなり、炭素に水が結合した物質のように見えるため炭水化物と呼ばれます。
炭水化物は単糖類、少糖類、多糖類に分けられます。
単糖は炭水化物の最小単位で、それ以上分解すると糖の性質を失います。
少糖は単糖が2個〜10個程度が縮合したものでオリゴ糖とも言います。砂糖の主成分である蔗糖はグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が結合した二糖類です。
単糖が多数結合したものが多糖です。穀物に含まれる澱粉はグルコースが多数結合したものです。
人間を含め動物は食物中の糖質を分解してエネルギー、すなわちATP(アデノシン3リン酸)を作り出して生命活動に利用しています。
食物中の糖質は消化管でグルコースやフルクトースのような単糖まで分解されて吸収され、細胞に取り込まれて分解されてATP産生に利用されます。
さて、炭水化物は、水酸基(-OH)を多数持ち、さらに、アルデヒド基(-CHO)または、ケトン基(>C=O)のどちらかを持っています。
アルデヒド基を持つ単糖をアルドース(ポリヒドロキシアルデヒド)といい、ケトン基を持つ単糖をケトース(ポリヒドロキシケトン)といいます。
酸素原子と二重結合でつながっている炭素を末端に持つものがアルドースで、内部に持つものがケトースということになります。
グルコース(ブドウ糖)はアルドース、フルクトース(果糖)はケトースになります(下図)。
分子内に遊離性のアルデヒド基やケトン基を持っていると還元性を示すので、このような糖類を還元糖と言います。「還元」というのは、他の物質から酸素を奪い、自分は酸化される性質です。この還元糖の性質がタンパク質やアミノ酸と反応する理由です。つまり、グルコースだけでなく、フルクトース(果糖)もタンパク質と結合します。
図:糖質は水酸基(-OH)を多数持ち、アルデヒド基(-CHO)かケトン基(>C=O)を持つ。アルデヒド基を持つ単糖をアルドース、ケトン基を持つ単糖をケトースと呼ぶ。グルコースはアルドースで、フルクトースはケトースになる。グルコースもフルクトースも還元性をもち、タンパク質やアミノ酸と結合する。
【アルデヒド基はタンパク質と結合する】
アルデヒド基はタンパク質の側鎖のアミノ基と反応して結合します。
病理検査で組織を固定する時にホルマリン(ホルムアルデヒドの水溶液)やグルタールアルデヒドを使用します。これは、ホルムアルデヒドやグルタールアルデヒドのアルデヒド基が組織のタンパク質のアミノ基と反応してタンパク質を架橋して凝固させる作用を持つからです。
アルデヒド基をもつグルコースも、細胞や組織の様々なタンパク質に結合して、働きを阻害します。つまり、グルコースはアルデヒド基を持つので、体に毒になる可能性を秘めているのです。
タンパク質のN未端あるいは分子内に含まれるリジン残基の遊離アミノ基はグルコースのアルデヒド基と非酵素的に結合します。この給合はいったん形成されると自然に解離することはありません。これをタンパク質の糖化といいます。
タンパク質の糖化は血糖値の高さに比例して起こるため、寿命の判明しているタンパク質の糖化度を測定すれば、過去のある一定期間の血糖の高さを推定することができます。この原理を利用したのが、糖尿病の検査に使われるヘモグロビンA1c(HbA1c)です。 赤血球の寿命は約120日なので、赤血球に含まれるヘモグロビンというタンパク質の糖化の度合いを測定すると、過去1〜2ヶ月間の血糖値の指標になると考えられています。 食後に血糖が上がると、体は膵臓からインスリンを分泌して血糖を下げます。このインスリンによる血糖調節機構が破綻し、アルデヒド基をもつグルコースの毒性によって細胞や組織のダメージが進む状態が糖尿病という病気です。
【糖化したタンパク質が老化を促進する】
消化管粘膜上皮や血液細胞のように再生によって絶えず入れ替わっている細胞であれば、タンパク質の糖化が起こっても、新しい細胞に交代することで若い状態を維持できます。 一方、寿命の長い細胞やタンパク質は糖化が蓄積するので、タンパク質の糖化による影響を受けやすくなります。
例えば、神経細胞は増殖や再生をしないで一生使われるので、加齢とともにタンパク質の糖化が蓄積して機能が低下していきます。
皮膚のコラーゲンが糖化すると肌の張りや弾力性が低下します。
血管のコラーゲンやエラスチンも寿命が長いので、糖化が蓄積すると体中の血管が徐々に破壊されて多くの臓器の働きが低下します。
「人は血管とともに老化する」と言われています。血管が老化して固くなると、臓器や組織を養う血液循環が悪くなり働きが低下するからです。健康を維持するためには血管を柔らかい状態に維持することが必須であり、そのためには血管のタンパク質の糖化を防ぐことが大切なのです。
白内障もタンパク質の糖化が原因です。眼のレンズに相当する水晶体を満たすクリスタリンというタンパク質は一度作られると補充や交換ができません。クリスタリンの糖化が進行すると固くなり透明度が低下して視力に障害がでるのが白内障です。
このように、神経や血管や皮膚や水晶体などのタンパク質に糖化が進むことによって、様々な老化現象が起こっています。
【糖化最終生成物(AGEs)がさらに細胞機能を阻害する】
料理で食材を加熱すると、グルコースやフルクトースのような還元糖とアミノ化合物(タンパク質やペプチドやアミノ酸)が反応して様々な物質ができます。これらの物質は料理の味や香りや色とも関係しています。
この反応はアミノカルボニル反応、あるいは発見者の名前をとってメイラード(Maillard)反応と呼ばれています。
このメイラード反応は非酵素的な反応で、加熱によって短時間で進行しますが、常温でも長い時間をかけて進行します。
生体内でグルコースやフルクトースなどの還元糖がタンパク質に結合する糖化反応も生体内で起こるメイラード反応です。
体内で生成した糖化タンパク質はその後分解して様々な低分子物質が生成します。これらの物質を糖化最終生成物(advanced glycation endproducts;AGEs)と言います。AGEsというのは糖化反応による生成物の総称で、多数の種類が知られています。このAGEsという物質が、さらにタンパク質を変性させ、炎症や酸化ストレスを高めて老化を促進します。
すなわち、AGEsはタンパク質を架橋して変性させ、正常な働きを阻害します。
マクロファージなどの炎症細胞や血管内皮細胞にはAGEsで修飾されたタンパク質が結合する複数の種類の受容体があり、これらの受容体にAGEs修飾タンパク質が結合すると細胞内のシグナル伝達系が活性化されて、増殖因子や炎症性サイトカインの産生が促進され、活性酸素の発生も増えてきます。
【糖質の摂取量が多いほど老化が促進される】
糖質を多く摂取すると血糖が上昇し、タンパク質の糖化やAGEsの産生が増えます。健常者でも、皮膚コラーゲン中のAGEs蓄積量は加齢とともに増加し、糖尿病患者で同年齢の健常者よりもAGEsの量が多いことが報告されています。
糖化によるAGEsの生成・蓄積は、糖尿病における様々な組織の機能低下だけでなく、動脈硬化や認知症や骨粗鬆症や皮膚の弾力低下など、加齢に伴う多くの老化現象の根本的な原因となっています。
つまり、糖質自体に老化を促進する作用があり、タンパク質の糖化やAGEsの産生を減らすこと、すなわち糖質摂取を減らすことで老化を遅らせることができると言えます。
(次回に続く)
http://blog.goo.ne.jp/kfukuda_ginzaclinic/e/5597bb5514e2078a338d53082dfa08c5
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