01. 2015年3月26日 23:52:18
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減塩は本当に健康にいいか 2015 年 3 月 26 日 17:09 JST 更新減塩食賛成派は死亡リスクが減ると言い、反対派は安全でないうえ実行可能でもないと言う Corbis 米国では健康への意識が高まるなか、塩分は悪者扱いを受けている。米疾病管理予防センター(CDCP)は減塩を「国家の優先課題」と言っている。同センターは塩分の摂(と)りすぎが血圧を上昇させ、心疾患や脳卒中をはじめとするさまざまな疾病のリスクを高めると警告してきた。 一方で、こうした塩分悪玉説は大げさだとする懐疑派もいる。実際、あまりに幅広く塩分を控えると、健康を損なうリスクを高めるとの指摘もある。 減塩賛成派は米ボストンにあるブリガム・アンド・ウイメンズ病院の心臓専門医で、心血管障害や脳卒中などについて世界的に啓蒙活動を行う米心臓協会の代表を務めるエリオット・アントマン氏だ。一方、カリフォルニア大学デービス校栄養学部の非常勤講師デービッド・マッカロン氏は過剰な減塩がかえって健康問題を引き起こす可能性があると警告する。 両者の意見をまとめてみた。 ・賛成派 ―減塩は心臓疾患のリスクを軽減させる=アントマン氏 すべての人は食事に含まれる塩分の量を制限すべきだ。理由はたった一つ。死亡リスクを減らすためだ。 米国人は総じて塩分を摂取しすぎている。この点において大半の専門家や保健当局、科学機関の意見は一致する。高血圧の人だけでなく、糖尿病や慢性的な腎臓疾患を持っている人、中高年、アフリカ系米国人も塩分を控えることが大事だ。これらの人々は米人口の約半数を占めている。 しかし、残り半分は塩分の摂取量を気にしなくていいというわけではない。肥満症の人は塩分の摂りすぎによる血圧への影響が他の人に比べて大きい。肥満は人口の7割近くを占め、若者世代でも約3分の1に達している。また、加齢とともに起こりがちな血圧の上昇は減塩によって著しく抑えられる。これは重要なことだ。米国人の9割が死ぬまでに高血圧を経験する。 朗報は、たとえ少しずつでも減塩すれば大きな違いが生まれることだ。米国人は現在、平均で1日当たり3500ミリグラムの塩分を摂取している。ある推計によると、これを1日400ミリグラム減らすだけで、年間で1万5000人から3万2000人の死亡を防げる上、医療費も年間40億ドル〜70億ドル(約4800億円〜8400億円)削減できる。珍しい疾患を抱えている、もしくは医師の指示を受けているという患者でない限り、減塩すべきだ。 からだが塩分を欲しているとの見方もある。しかし、減塩食の習慣をつけると、それまで食べていた食事が塩辛く感じるようになるという研究がある。米国の食品に含まれる塩分を少しずつ段階的に減らしていけば、消費者は薄味を好むようになるだろう。英国では2003年から減塩プログラムに取り組んでおり、8年間で国民の塩分摂取量が15%減り、高血圧や心臓発作、脳卒中の件数も減ったという実績がある。 ・反対派―減塩は安全でないうえ実行可能でもない=マッカロン氏 米国の保健政策は国民全体に塩分摂取量を制限するよう求めている。この政策は実行可能でもなければ安全でもない。 実行可能でないというのは、社会政策が生物機能を打ち負かすことはできないからだ。塩分を欲しがるのはからだが必要としているためであり、食べ物のせいではない。からだの大事な器官にそれぞれ適した量の血流を維持するには特定の範囲の塩分量が必要だ。脳はいつ、どのくらいの量の塩分が必要かを知っている。 左:米国で摂取される塩分の40%が含まれる食品群、右:米国では成人の約3分の1が高血圧(グラフは年齢別・人種別でみた高血圧症の割合など) 脳が塩分欲求度を細かく管理しているという証拠は、政府援助を受けながら長年かけて世界中で実施された各種研究で明らかになっている。過去5年間に45カ国以上で約20万人を対象に実施された50を超える研究で、1日当たりの塩分摂取量は2800ミリグラム〜5000ミリグラムまで幅があり、平均では3700ミリグラムとなることが分かった。これは現在の米国人の1日当たり平均摂取量とほぼ一致する。
では、なぜ塩分制限が安全ではないのだろうか。最近の研究で、減塩は多くの人に有害になりかねないことが分かった。塩分の摂取量が少なすぎると血流が弱まる。すると、からだを守ろうとするシステムが作動し、器官への血流を管理する血中ホルモン濃度が上昇する。不適切な塩分摂取量が長く続けば、上昇したホルモン濃度が循環器系の疾患を引き起こす場合がある。また、1日当たり2800ミリグラム未満の塩分しか摂らない人は、科学的に実証された健全な範囲内で塩分を摂取している人に比べて、循環器系疾患の発病や死亡リスクがはるかに高まることが、数多くの医療研究で分かっている。 減塩で恩恵を受ける人もいるが、それは専門家と一緒に個別に判断されなければならない。大半の米国人にとっては、減塩は単に必要ないばかりでなく、有害になり得る。 デンマークのコペンハーゲン大学の研究者たちと私は最近、減塩による血圧への影響を調べた167の実験の公表結果を分析した。その結果、血圧が正常である場合、減塩による目立った効果はないことが分かった。これは全国民を対象に米国が推進する減塩への取り組みに科学的根拠がないことを意味する。人口の65〜70%の人々の血圧は正常で、減塩したところで恩恵はないからだ。 塩分摂取量に血圧が敏感に反応する人の場合は、果物や野菜類、乳製品を多めに摂ることで、血圧への塩分の影響を軽減させられる。不健康になりかねない水準にまで減塩するより安全だ。 からだの欲求に応じて塩分の摂取を促す脳の作用を無視して減塩食に慣れることが可能だという考えは今までに証明されたことはない。 英国政府はこの10年間で食品に含まれる塩分の減量に成功した。だが、国民の塩分摂取量は過去数十年間の研究で確立された通常の範囲内に収まっている。換言すれば、脳の神経ネットワークが塩分摂取量を仕切っている状況に変わりないということだ。 塩分摂取量に関する過去35年間の米国の指針は、減塩にはリスクがほとんどないという考えにある程度基づいている。だが実際にはかなりのリスクがあり、大半の人の血圧には恩恵がないという生物学的根拠が研究で特定された。健康政策は科学とともに発展しなければならない。
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