04. 2015年2月27日 16:22:51
: nJF6kGWndY
>>02 大気汚染主犯説には矛盾があるし http://www.3443.or.jp/book/book_sugikafun/sg0306_2.htm どうも寄生虫でも説明不可能らしい http://www.3443.or.jp/book/book_sugikafun/sg_0108.htm
4.日本におけるスギ花粉症増加 前項の英国におけるカモガヤ花粉症出現の経緯とほぼ等しいことが、戦後の日本で起こった。スギ花粉症の出現である。 第二次世界大戦前は見られなかったスギ花粉症が、戦後になって激増した原因として3つの要因が考えられる(図1)。 第一の要因として、アレルゲンであるスギ花粉そのものの増加。 第二に、動物性蛋白質や動物性脂肪の摂取量が増加し、人体内の抗体産生能力が強くなったこと。これは最初の例え話で説明するならば、防衛能力が高くなって過剰防衛を起こし易くなったと形容すべきだろうか。 第三に、アレルゲンであるスギ花粉を人体まで運ぶ媒体である大気が、車社会の進行のために絶えず撹拌されて落下花粉を、何回も空中へ巻き上げるようになったこと。 これら3要因の中でもスギ花粉症に関しては、第一のアレルゲン量の増加が明確である。なぜなら第二次世界大戦の直後、復興のために山々の木々は切り倒され有名なキャサリン台風の際のみならず、ちょっとした雨でも大洪水になったりして、治山や治水の問題が生じる。そしてそれを防ぐ目的から、1950年代に植えられた杉の木は、樹齢30年となる1980年前後に大量の花粉を飛ばせる計算になる(イラスト4・図3)。 そして確かに、日本でスギ花粉の大量飛散が最初に起きたのは1976年で、1979年には社会問題に発展している。それまでの日本でアレルギー性鼻炎の最大の原因はハウスダスト(HD)とブタクサであるとされ、スギ花粉は話題にさえならなかった記憶がある。さらにそれ以降、スギ花粉の飛散量は増加する傾向にあり、その傾向とスギ花粉症の増加との間には、密接な相関が見られる。 つまり他の要因はいくつか考えられるにせよ、スギ花粉飛散量の増加とスギ花粉症激増とは関連があり、それは戦後の杉植樹の結果だということが判る。 こうした経緯はどうだろう、英国における世界初の花粉症出現の様子と、実に良く似ているとは思わないだろうか。 「6.中国のスギ花粉症」 8.アレルギーの増加と寄生虫の減少 7.アレルゲンとしてのダニの増加した理由
ここまではアレルギー性鼻炎の中でも、花粉がアレルゲンである花粉症の増加した要因について、述べてきた。 しかし、アレルギー性鼻炎はもちろん花粉だけが原因となっている訳ではないし、それ以外のアレルゲンについて理解しておくことも、必要となる。そして実際アレルギー性鼻炎には、アトピー性皮膚炎や気管支喘息など他のアレルギー疾患と同様、ダニがアレルゲンとなっているものも少なくない。 現実にわれわれはスギ花粉飛散量のすごく多い、日光国立公園内に位置する栃木県栗山村(写真9・10)にて、調査を実施している。すると少なくとも小中学生の年齢層では、この村の全児童生徒のスクラッチテスト(アレルギー学的検査の一つ)陽性率は、スギ花粉の25.2%に対しダニが31.2%と、馬鹿にできない数値である。 そしてアレルギー性鼻炎も含めてほとんどのアレルギー疾患で、ダニはより重要なアレルゲンと理解されている。 このダニによるアレルギー疾患の増加も臨床的に指摘されているが、スギ花粉と同じようにダニも増えて来ているのだろうか。 そのこたえは、イエスである。 われわれの共同研究者である、高岡正敏・埼玉県衛生研究所主任研究員のデータによると、1960年代から1970年代そして1980年代へと、家屋内のダニの量は明らかに増加しているのである(図1)。 アレルゲンであるダニが増えているのならば、ダニによるアレルギー疾患の増加も当然であろう。 ダニと共にハウスダスト(HD)も原因とされるが、これは家屋内の塵のことでありダニの糞や死骸がその主成分とされている。つまりダニそのものが増えれば、HDも増加すると理解できる。 ダニが増えた原因は、戦後の復興期に不足した住宅を供給するために、数多く建てられた公営鉄筋アパートなど密閉型住宅の普及、ならびに新建材の多用との関連が考えられている。確かにダニの増加に一致するように、アルミサッシの開発やビニールシートの壁紙みたいな建材が出現してはいる(図1)。 これら新建材の多用や密閉型住宅の増加が、果たして実際にダニを増やす原因となっているのだろうか。またそれには、どのようなメカニズムが働いているのだろうか。 こうした住環境の変化で普及した、人間の住み易い住宅はダニにとっても繁殖し易い状況なので、それでダニがはびこるのだと言う意見も、良く聞かれる。 それはホントに本当なのだろうか。 アレルギーの原因となるダニはヒョウヒダニと言って、チリダニ科の一種である。このヒョウヒダニの家屋内における繁殖について論じる場合、ダニの特性を考慮せねばならない。 それは家屋内のダニの増殖には、以下の3条件が必要だからである。@温度が20〜30度で、相対湿度が60%以上ある。Aえさ(塵の中の有機成分)がある。B潜って産卵でき、隠れて繁殖できる潜入場所が家屋内にある。そうした条件である。 そうしてこれら3条件の中でもダニの繁殖には、湿度が重要と言われる。なぜならヒョウヒダニは乾燥に弱く、相対湿度50%では11日間で乾涸びて死ぬとされているからである。 それゆえ家屋内のダニを駆除するには、掃除機を徹底的にかけてフケなどのエサを無くして兵糧攻めにするも良し、畳やじゅうたんを減らしてフローリングの床とし潜入場所を無くしてやるも良し、である。とはいえ、湿度を下げてダニを生存できなくしてやるのが、一層早道ではある。 ここが重要なのだが、昔の日本の住宅は高温多湿といわれる日本の気象に合って、風が吹き抜け易く乾燥し易い造りになっていた。 これは兼行法師以来の、夏を過ごし易いように考えられた、つまりアジア・モンスーン型気候に対応できる開放型の日本家屋の特徴である。この家屋は一般的に在来工法と言う名前で知られているが、まず柱を立て梁をめぐらせ屋根を掛け、そしてハンギングウォールと呼ばれる壁を最後に拵える。そこでは床には畳が敷かれ、畳の下はあら床と言って、隙間だらけの木の床であった。 当時の家は冬でも隙間風が吹き抜け、床下の空気はあら床と畳を通じて家の中に出入りしたものだった。 そのような家では冬の屋内は寒く、住む人はこたつの周囲を離れることができない代わりに、冬季の乾燥した空気が屋内に満ち、湿度は低かった。 それに対して戦後急速に広まった高気密住宅では、外の空気は屋内に入らないが、屋内の湿った空気も外へ出て行くことができない。 当然屋内は湿度が高くて、ダニの増殖にふさわしい環境となっている。 それに加えて、こたつに代表されるような、昼間の家屋の一部のみを暖め夜間は消してしまう、局部暖房・間欠暖房の習慣がそれに輪をかける。 なぜならこの局部暖房・間欠暖房の生活習慣は、やはり亜熱帯に近い地域の家屋に適した暖房で、高気密住宅向きではないからである。 日本の家屋の開放型構造は、おそらく南方から伝えられたものと推測されている(写真11)。 日本人の開放型住宅好きは骨に染み付いているみたいで、第二次世界大戦前に樺太に住み着いた日本人は、その極寒の地でも開放型住宅を建て、冬は寒さに震えながら薪を焚き暖を取ったと言われる。 このため現地のロシア人からは、日本人が一冬に焚く材木で家が建てられると笑われたと聞く。 夏の暑さをしのぎ易い開放型の家では、長い冬の寒さを防ぐことは最初から考慮されていない。せいぜい家族の集まる家の真ん中でストーブを焚くくらいで、家屋内の他の部屋は冷たいままとなる。しかもそれも昼間だけのことであって、夜間は暖房を消してしまう局部暖房・間欠暖房である。 とはいえこうした暖房習慣はこのような開放型住宅には適していて、冬の冷たく乾燥した空気が屋内を通過する構造は、ダニを死滅させるには最適と言える。 昔の日本の家屋にダニの少なかったのは、以上のような理由が背景に存在したことによると、考えられる。 それに対し近年の高気密住宅は、名前こそツーバイフォーなどと近代的だが、そのルーツは寒冷地の丸太小屋(ログ・キャビン)である(写真12)。 在来工法を柱で建てる家と形容し、ツーバイフォーを壁で建てる家と表現するのは、その由来が南方の開放型住宅か寒冷地の丸太小屋であったのかによる。前者についてはすでに触れたが、後者は寒冷地の凍土の上を滑らせて運搬した丸太を横に木組し、四方の壁をまず積み上げてしまう。その後、壁の上に屋根を乗せる形で家屋が出来上がる。それが壁で建てる、ツーバイフォーの基本となったのである。 高気密住宅の暖房はそのルーツを反映し、厳寒地の外気の寒さに対抗できるようすべての部屋を24時間暖める、全室暖房・連続暖房が普通だ。そうすると屋内の空気は一定の温度に保たれ、湿度も低いままに抑えられるので、やはりダニは生存できない。 開放型住宅では冬の寒さをしのぎ切れず、病気になり易いことを知った日本人が、近年高気密住宅に住むようになったのは当然の流れと言える。しかし、開放型住宅の局部暖房・間欠暖房の習慣をそのまま持ち込んでしまったことにこそ。家屋内にダニの増加した原因がある。 空気は暖かいほど水分を多く含み得る(図11)ので、室温が高いと相対的に湿度は低くなり、逆に室温が低いと湿度は高くなる。 つまり高気密でしかも高断熱の住宅では、全室暖房・連続暖房ならば室温が高く湿度は低い。ところが、局部暖房・間欠暖房にすると部屋の温度を上げ切れず、湿度も高い状態となる(図12)。 このために高気密住宅では、空気の乾燥した冬季にもダニは死滅しにくく、次の夏には一層家屋内のダニが増える。高気密住宅でダニを増やさないためには、本来の全室暖房・連続暖房の習慣が必要なのである。 高気密高断熱住宅の普及と、その住宅の特徴に矛盾する局部暖房・間欠暖房の習慣以外にも、近年の住環境にはダニの増加する要因が多く見られる。 その最たるものとして、マンションを挙げることができる。なぜならマンションはコンクリートでできているが、完成後1年間程度はコンクリート内部から水分の放出が続く。 この染み出した水分は、床にじかに敷かれている畳などに吸い込まれ、ダニの生存に最適な状況を形づくる。 畳は、先に述べたような在来の日本家屋のあら床に敷かれ、空気の通り抜ける状態ならば中の湿度は低く保たれており、ダニは生存しづらい。けれども最近のマンションのように床に直接敷かれると、ダニの巣窟になる可能性がある。おまけに畳の上にカーペットを敷いてあったりすると、ダニの繁殖には一層適していることとなる。 寒い地域ではカーペットが汚れると、その上にさらにカーペットを敷く習慣もあったりして、さらにダニの好む住みかとなり易い。 マンションには、布団を干す場所が少ないという事実も、家屋内のダニを増やす原因となっている。 自分たちで実際に住宅内でダニを採取してみると、ダニのもっとも多いのは寝具であることが判る。そこで寝具のダニを十分に退治してやる必要があるが、布団を干せないためにダニの嫌いな乾燥した状態を保ちにくいのは困りものである。 また同じマンションの中でも、階数の低い方が高い階よりも湿度は高く、ダニが住み易い。なぜなら地面からは常に湿度が立ち上っているので、床下は湿度の高い状態にある。建築基準法では床下の換気について定められているのだが、それでは不十分なのが現況であって、床下の水分は床上にまで染み渡ってしまう。 当然マンションの1階は2階以上に較べて、ダニの住み易い条件が整っている。 さらに家人が部屋の中に居る時間が長いほど、換気の回数は多くなり屋内の湿度は下がる。ところが、密閉度の高いマンションで閉め切ったまま留守にする時間が長いと、台所や洗面所から蒸発した水分で屋内の湿度が上がる。 核家族化ではマンションで著しいものと想像できるが、核家族では自宅を留守にすることも少なくなく、室内のダニも増加しがちとなる。 ■ダニ・アレルギー アレルギー性鼻炎についてはコミック「愛しのダニボーイ」もご覧下さい。 「6.中国のスギ花粉症」へ 8.アレルギーの増加と寄生虫の減少 「スギ花粉症」メニューへ戻る 8.アレルギーの増加と寄生虫の減少
アレルギーが近年増えた原因として、3要素が考えられると書いた。それは第一にアレルゲンの増加、第二に栄養条件の改善、第三に媒体である大気が車社会の進行のために絶えず撹拌されて落下花粉を、何回も空中へ巻き上げるようになったこと、である(図1)。 それに加えて最近、回虫など寄生虫感染の減少したことが、アレルギー増加の原因であるとの仮説が提唱された。 実はこの仮説を日本で口にしたのは、国立感染症研究所の井上栄、感染症情報センター長であり、藤田紘一郎・東京医科歯科大学教授がそれを剽窃して「笑うカイチュウ」(講談社)に記し、有名にした。 その根拠は、@少なくても試験管内では回虫はアレルギー反応を抑制する物質を分泌している、A1949年には63%だった日本人の回虫感染率が1990年代には0.02%までに激減した。B回虫感染率の減少にちょうど相反するようにアレルギー疾患が増えた、の3つとされる。 実際、日本人の国民病(?)であるスギ花粉症について見てみると、人体の血液中のスギ花粉に対する抗体の平均値を、1973年と約10年後の1984年〜1985年とで比較した、前述の井上栄氏の研究では、後者の抗体値は約4倍に増加しているとされる(図13)。 それに対してニホンザルでは、この40年間寄生虫感染率は不変で、そのためかやはりこの20年間スギ花粉に対する抗体値は不変であった(図13)。 寄生虫がアレルギーを抑制するメカニズムだが、寄生虫も人体に対して異物である以上当然アレルギー反応を惹起こしている。そのアレルギー反応が余りにも凄まじいので、寄生虫感染のある人体に今更ダニやスギ花粉が入ったとしても、それにアレルギー反応を起こしている余裕はない、とこの仮説では説明されている(図14.15)。 しかし世界中の論文を比較してみると、この論法で説明できることばかりではない。例えばエジプトのタンタにおける調査では、気管支喘息の症例で寄生虫感染との関連を調べているが、寄生虫感染が強くてIgE抗体全体の値(総IgE抗体値)のすごく高い症例でも、喘息の発作は抑制されていない。 それに寄生虫感染のある人体では、寄生虫に栄養を吸い取られてしまうから、逆に抗体生産能力が寄生虫感染例では落ちてしまうかも知れない。つまり栄養が悪いから、アレルギーが生じないとの説明も可能である。 そこでわれわれは、実際にアレルギー性鼻炎の疫学調査を実施したそのデータから、アレルギーと寄生虫感染との関連を検討した。 その結果、話題の「寄生虫によるアレルギー抑制説」とは矛盾する、いくつかの事実が判明した。 第一にわれわれは1989年より、毎年北海道白老町で小中学生を対象に調査を実施しているが、寄生虫感染率がすでに0・02%に低下しているこれら小中学生において、毎年アレルギー反応の陽性率は増加している(図16)。この増加傾向は、こんなに低い寄生虫感染率からは、説明不可能である。 第二に、われわれは栃木県栗山村でも同様の調査を行なっているが、これら2つの地域ともアレルギー反応の陽性率は、年齢の上昇と共に著しく増加する。ここでは代表して白老町のデータを示す(図17)。 確かに寄生虫感染率は、一般的に年齢上昇と共に低下するとされているが、感染率がわずか0・02%しかないこの日本で、それよりもごく僅か感染率がそんなに明確に増加するものだろうか。 第三に、われわれは日本国内だけではなく中国でも調査しているが、アレルギー反応の陽性率は日本の小中学生で高く、中国の上海の隣村の小中学生では低い(図18)。 この図では、スギ花粉・ダニ・HDいずれかのアレルゲンに対するスクラッチテストで、1種以上陽性となった症例を表しているが、上海の隣村の陽性率は30%前後で日本の40%前後に較べ、明らかに低い(チベットについては、稿を変えて触れる)。これが寄生虫感染率の差によるものかどうか、われわれは中国で検便を試みた。 すると上海の隣村の小中学生の寄生虫感染率は、日本の0・02%に対して0・08%であるに過ぎなかった。 中国でも10年前までは寄生虫感染率は63%もあったのだが、近年国家規模の寄生虫撲滅キャンペーンが行なわれ、劇的なまでに減少した。 ちなみに日本でも1949年に63%あった寄生虫感染率は、その10年後には20%以下となっている。決して中国のこの数値は、信じられないものでもない。 小中学生に引き続き南京医科大学でも、在学生を対象に同じ調査を実施したが、寄生虫感染のある症例でもアレルギー反応陽性率は非感染者と同程度であった(表4)。つまり寄生虫は、アレルギーを抑制しない。 われわれのこの報告は注目を集め、追試がいくつか行なわれた。 こうした「寄生虫によるアレルギー抑制説」の矛盾は、実際にはわれわれの調査を待つまでもなく、これまで公表されていたデータからも指摘できる。 例えば前述の井上氏の、1973年と1984〜1985年を比較したスギ花粉特異的IgE値の変化に関する研究がある(図13)。 これによると、73年の時点で血液中の総IgE抗体値もスギ花粉特異的IgE値も、さほど高くなかった。それに対して、84〜85年の血液のスギ花粉特異的IgE抗体値は73年のそれに較べて4倍以上の数値を示したが、総IgE値は高くなかった。 寄生虫説は、寄生虫が感染すると総IgE値が10、000近くにまで異常上昇し、今更スギ花粉などが体内に入って来てもそれに対して反応している余裕は無い、というお話であった。その仮説に従えば、73年の血液の総IgE抗体値はとても考えられないくらい、高い値を示さねばならないはずである。 この件についての、井上氏とわれわれとの議論の詳細を、ここでは敢えて公表する(図19〜21)。 また寄生虫説は、寄生虫感染率の変化していないニホンザルを比較の対象としているが、被験者(被験サル?)に選定が厳密でなく(図22)、結果も厳密さに欠ける。 自明の理であるが疫学調査は、その地域に在住するあるグループの全員を対象になされるべきであって、それら被験者は氏名も含めてすべて厳密に管理されなければならない。名前も判らない、その地域に何匹生息しているのか把握できていないニホンザルでは、疫学調査の対象にすらならない。 この寄生虫説は、最初からそんな齟齬に満ちていたのである。 さて、寄生虫感染とアレルギーの関係を調べたわれわれの疫学調査についての、追試の結果はどうだったのだろうか。 当時の科学技術庁のスギ花粉症研究班では、宮崎県と鹿児島県でブタ回虫の感染例に対して、調査を施行した。その報告は、ブタ回虫はアレルギーを抑制するどころか、増悪させてしまうという内容であった。 また南米エクアドルで、われわれとほぼ同じ内容の調査を行なった山梨医科大学耳鼻咽喉科のグループは、寄生虫説に否定的な結論を出した。 実を言うとわれわれの最新のデータ(図23)からも、寄生虫はむしろアレルギー反応を促進させているのではないか、との調査結果が得られている。 考えてみれば回虫が日本で減少したのは、戦後の食糧難を下肥と家庭菜園で乗り切った時期が終了し、下水道が普及したためである(図1)。 下水道普及は、平屋建て住宅の減少と1950年代のビル建築ブームによって、推進されて来た。ビルブームはアパートやマンションの建設に繋がり、高気密高断熱住宅の増加をもたらす。先に触れたように高気密高断熱住宅は、これまでの局部暖房・間欠暖房の日本人の生活習慣では、室内の湿度を上昇させダニを増加せしめる。その結果、ダニのアレルギーも増加することとなる。 一見、寄生虫の減少がアレルギーの増加をもたらしたように見えなくはないが、実際は直接の関連性に乏しい。 9.大気汚染によるアレルギー増加説 アレルギー性鼻炎や花粉症の増加したもう一つの要因と信じられて来た大気の汚染は、それではどのようにアレルギー増加に関わっているのだろうか。 日光市で行なわれたスギ花粉症調査では、1970年代から年々花粉症の増加が観察されている(表5)。そしてその増加は、いろは坂における車両の通行量に比例していた(図24)。加えてスギ花粉症は、杉だらけの山の中よりも国道沿いの日光杉並木の周辺で、一層多発する傾向が認められた(図25)。 研究に携わった東京大学物療内科にグループは、自動車ことにディーゼル車の排ガスが大気汚染をもたらし、スギ花粉症増加につながったものと想像した。 そこでこのグループは、ディーゼル排気物質とスギ花粉とを混ぜてマウスに腹腔に注入し、スギ花粉特異的IgE抗体の産生が増加することを確認した。 この結果から、ディーゼル排気物質はアレルギー反応を増強するものと、無邪気に思い込んでしまった訳である。 一方、東京都と岩手県でアレルギー性鼻炎の調査を実施していた慈恵医科大学耳鼻咽喉科のグループは、前者を大気汚染地区、後者を非汚染地区として、ブタクサとHDに関するアレルギー検査の結果を比較している(図26)。そして、ことにHDについて東京の被験者の陽性率が岩手の被験者のそれよりもかなり高いことから、大気汚染がアレルギー性鼻炎を増加させたと結論した。 けれども良く考えると、この結果は少しヘンである。 スギ花粉は、大気内を浮遊する物質の一種と考えられる。こうした空中浮遊物質は汚染された大気と混ずることがあるから、ディーゼル排気物質の影響を受けてアレルギー反応を強く起こす可能性はある。 しかし家屋内に存在するHDと大気汚染の接点は、余りあろうはずはない。 果たしてダニやHDのアレルギーの場合、大気汚染の影響を受けることがあるものだろうか。 そこでわれわれは白老町の調査で、製紙工場があって大気汚染の見られる地域(萩野地区)と、全国有数の競走馬産地として知られる空気のきれいな地域(白老地区)、そして漁業や農業が主のやはり空気のきれいな地域(竹浦・虎杖地区)の3ヶ所について、スクラッチテストを施行した(図27)。 この調査の被験者となったのは、白老町の海岸線に近い国道沿いの小中学校に通う、町内の全児童生徒であった。なおここでは、特殊学級がありそれゆえに全町内からの通学生のいる、森野小中学校は省いた。 森野地区には製紙工場の目前に365日・24時間連続測定の大気汚染監視装置があり(図28)、その結果をここに示す(表6・7)。 これらの数値はすべて基準範囲内となっているが、風向きその他の条件によっては汚染大気が住宅街に流れ込むこともあり、大気汚染の影響は地域住民にとって重大な関心事となっている。 その結果であるが、図29に示すようにスクラッチテストの陽性率は3地区とも有意差が見られなかった。さらに鼻症状や鼻鏡所見を加えて診断したアレルギー性鼻炎の頻度(図30)も、3地域に有意差は存在しなかった。 白老町は北海道であるために、杉はほとんど植生していない。アレルギー性鼻炎の原因は、ダニとHDのみである。この調査内容から考えると、ダニならびにHDによるアレルギー性鼻炎が大気汚染の関与を受けているとは、とうてい言えない。 東京都と岩手県とを比較して、前者でHDのアレルギー性鼻炎が多いとした論文は、東京都における高気密高断熱住宅の普及と、その結果としてのダニやHD増加の反映である可能性を、否定できない。 加えて実はスギ花粉症においても、日光での東京大学物療内科の報告以外に、大気汚染と花粉症の頻度との間に明らかな関係を見出したと主張する論文は無く、世界的にも大気汚染説が支持されているとは言い難い状況となっている。 そんな観点から日光における研究結果を見直すと、意外な推測が成り立つ。 つまりこの日光の報告では、いろは坂の交通量の増加とスギ花粉症の頻度とは、比例すると記されている。また、交通量の多いスギ並木の近くでスギ花粉症が多発する、とも記載されている。 すなわち交通量がスギ花粉症の増加に結びついているのが論文の骨子であって、ディーゼル排気とスギ花粉症の相関は想像に過ぎない。 確かにマウスの実験で、ディーゼル排気物質にアレルギー反応増強作用が証明されているが、投与部位や投与濃度などの点で疑問がある。アレルギー発症要因と増悪要因の混同も、気になるところである。 日光のスギ花粉症増加は、交通量が増えて地面に落ちたスギ花粉を再び巻き上げた。そのために地域住民の鼻腔に吸い込まれるスギ花粉の量が2倍3倍となった、その結果でしかないのではなかろうか。 もっともこの推論を断言する前に、一つ大事なことを確認しておかねばならない。 それは花粉やダニなどアレルゲンが増加すると、アレルギーもそれにつれて増えるかどうかという問題である。それを証明するためには、以下の事実を再確認する必要がある。 第一に、アレルゲンに曝される曝露の量もしくは曝露時間が増えればアレルギーの頻度も増加していること。 第二に、そのアレルギーの頻度の増加は、異なった被験者を対象とした調査だけでなく、同一の人間の経時的変化を追跡して(コホート調査)確認してあること。 第三に、逆にアレルゲンに曝露量が減少すると、アレルギーの頻度も少なくなること。 以上の3点である。 第一の問題については、北京の協和医科大学アレルギー科の顧瑞金教授(写真13)にデータがある。顧教授は、寧夏というヨモギの多い地域に、他の地域から軍隊として定住するようになった被験者のアレルギーの頻度を調べた。 すると当初0.03%であった被験者のヨモギ花粉症の頻度が、7年後には100倍の3%にまで増加していたのである(図31)。 われわれの白老町(図17)や栗山村における小中学生に対する調査でも、中国の江蘇省の青少年に対する調査でも、被験者の年齢が上昇するほどアレルギーの頻度は増加していた(図32)。つまりアレルゲンの曝露時間が長いほど、アレルギーは増加するものと判断できる。 第二の課題についてわれわれは、3年ごとに9年間連続して行なった白老町の調査で、それを確認している。6・9・12歳の時点で3回スクラッチテストを受けた被験者を見ると、成長と共に陽性率が明確に増加していたのである(図33)。 第三の点については、われわれの共同研究者である中村晋・元大分大学教授が在学生を対象に、1年生の時点と4年生になってからのアレルギー学的調査で、変化を確認している。この結果、杉の非常に多い大分大学の在学中にほとんどの被験者で1年生のときよりも4年生になってからの方が、アレルギーの頻度は高いことが判った(表8)。 ところがそれにも関わらず、冷夏の翌年でスギ花粉飛散のすごく少なかった1994年春の調査では、4年生のスギ花粉症の頻度が1991年の1年生時より少なかったのである。 アレルギーの頻度は、アレルゲンの曝露量と曝露時間の影響を受けていることが、これらの現象から理解できる。 つまり、いろは坂など日光におけるスギ花粉症の激増は、アレルゲンとしてのスギ花粉曝露量もしくは曝露時間に関係しているらしいことが、推察できる。そしてその曝露量あるいは曝露時間の増加は、先に述べたように車両の通行量増加による花粉の飛散を、無視できない。 実はこの点についての疑問を、日光の小泉氏(これら一連の論文の筆頭著者)に直接問い質したことがあったが、氏はわれわれの疑問に一切反論することができなかった。 くどいようだが、これらの論文の論旨を以下に連ね、それに対するわれわれの意見を記す。 論旨は、分析するとこのように纏められる。@日光街道には杉の大木が江戸時代から存在していたのに、スギ花粉症の激増は大気汚染の進んだ最近のことである。Aスギ花粉症の頻度には地域差があり、重要国道である日光杉並木周辺の住民に多発する傾向がある。Bスギ花粉降下量の等しい日光の複数の地域の比較では、交通量の多い地域のスギ花粉症発症が多い。Cこれらの事実から、スギ花粉症増加の背景に自動車の排気ガス の影響が想像できるが、マウスの実験ではディーゼル排気素粒子と混合したスギ花粉は、アレルギー反応を増強する。Dこれらの事実から、ディーゼル排気ガスなどによる大気汚染は、スギ花粉症増加の原因となっている。 けれどもこれらの論拠は、実は一つひとつ反論可能である。 @については、スギ花粉症の激増は花粉を飛散させ得る樹齢30年以上の杉が1980年前後に増加したことが原因と考えられる。大気汚染と、直接の関連は疑わしい。 ABはつまり、車両通行量の多い地域ほど一旦地面に落下した花粉が巻き上げられて、2度3度と繰り返し人の鼻粘膜に触れるためであろう。 Cは先にも述べたように、このデータをそのまま人に当てはめることはできない。 さて、大気汚染とスギ花粉症増加について、その関連を主張しているもつ1つのグループは、慈恵医科大学耳鼻咽喉科である。このグループは1980年の論文(図34)で、東京都と岩手県においてHD・ブタクサ・スギに対するアレルギー学的検査を施行し、大気汚染地区と考えられる東京都において非汚染地区と仮定される岩手県よりも、アレルギーの頻度が高かったとしている。しかしこの論文では奇妙なことに、HDとブタクサについては両地域の陽性率が明記してあるのに、スギのデータはまったく記されていない。 さらに、明察な読者は気付いておられるだろうが、1980年論文の原本と表現できる前出の1979年論文(図26)には、より詳細なデータと共に「検査に使用したアレルゲンは室内塵(HD)とブタクサ花粉であり、この両者による鼻アレルギーの頻度は我国において1・2位を占めており・・・」と書かれてある。つまり、スギ花粉についてはまったく実施されていない。しかもわれわれが指摘したように、東京都で陽性率の高いのはHDであって、ブタクサはむしろ岩手県の被験者の方が陽性率が高い。 これらの事実から判断する限り、慈恵医科大学耳鼻咽喉科の調査結果の真実は、実際には後述のようなものであったのではないかとの、疑惑が生じる。 @ 慈恵医科大学耳鼻咽喉科のグループは、実際にはスギ花粉についての疫学調査は実行していなかったのではないか。1980年論文に明確に記載してあるように、HDとブタクサについてのみ実施したのではないか。 A しかも大気汚染地区とされる東京都において頻度の高いのは、HDのアレルギーである。これは大気汚染よりも住宅内のダニ増加の反映と判断される。ブタクサに至っては、非汚染地区と彼らが称する岩手県の陽性率の方が、東京都より高い。 これらの数値を以てなにゆえに慈恵医科大学耳鼻咽喉科は、大気汚染がスギ花粉症増加の原因だと1980論文には記入したのか。 これらの疑問は、スギ花粉症がこの日本で社会問題になるほど激増したのが1979年であった事実を思い浮かべると、解決する。つまりそれまではわが国においては、スギ花粉症は臨床上まったく問題にならないほど、頻度が少なかった。それは、彼ら自身が1979年論文(図26)に記載している通りである。 けれどももちろん1979年以降は、スギ花粉についての検査無くして花粉症を論じることはできない。1979年に発表された彼らの論文はそのまま、彼らがその時代からとり残されてしまったことを、残酷にも証明した。 追い詰められた彼らが何をやったか、それは1980年論文(図34)を読めば明白である。 それにしても、もろくも事実をねじ曲げてしまった彼らも愚かだが、彼らのわい曲を見抜けなかったそれ以後の耳鼻咽喉科医の責任だって、決して軽くない。 ともあれ、スギ花粉症の増加の原因が大気汚染であるとのお話は、東京大学物療内科のグループの錯覚と、慈恵医科大学耳鼻咽喉科のグループのわい曲の賜に過ぎない。 その真実を、せめて本書の読者には知っておいて頂きたいと思う。 10.感染症とアレルギー
ところでこの項の最初に、アレルギーの増加と感染症の減少とは関係がある、と書いた。 つまり、長い間人類の共通の敵は細菌による感染症だった。近年の感染症の減少と栄養条件の改善により、人間は敵を見失い力を持て余した。そんな状況にある人体では、ほとんど害の無い異物でさえ侵入すると過敏なまでの防御反応を人体は示し、それが人体自身にも危害を加えることとなる。それがアレルギー反応だという、いわば比喩的な説明であった。 それは単なる比喩に過ぎないのだろうか。それとも何らかの根拠のある説明なのだろうか。 特定の感染症の減少傾向とアレルギー疾患増加との間には、何らかの関係があるとされる。 具体的には、わが国の結核感染などは1960年代に減少しているが、スギ花粉症が1963年に発見されその後激増したことなどと、時期的には一致する。 そして実は人間の免疫細胞には2種類あり、細菌感染に関与するTh1と呼ばれるタイプと、アレルギー反応を起こし易くなるTh2と呼ばれるタイプのものとに分類できることが、最近判った。 この2つのタイプの免疫細胞は、互いにバランスをとって存在しているものと考えられ、Th1が優勢なときにはTh2は抑制され、逆にTh2が優勢のときにはTh1が抑制される。 と言うことは、感染症の多い時期には人体内でTh1が優勢となりTh2を抑制しているが、感染症の減少した時期にはTh1が抑制されTh2が優勢となる、つまりアレルギー疾患が多くなると理解できる。 動物実験では明らかにされていたこの理論(図35)を、人間に対する実際の調査で確認したのはわれわれの共同研究者の、白川太郎・京都大学医学系大学院教授と榎本雅夫・日赤和歌山医療センター耳鼻咽喉科部長であった。彼らは、被験者となった和歌山県の中学生では、結核の指標であるツベルクリン反応とアレルギー検査の結果とは、ちょうど背中合わせみたいな逆の相関関係が見られることを、証明した(図36)。この逆相関の理論は、われわれの中国の小中学生における追試の調査でも当てはまることが判り、やはりツベルクリン反応とアレルギー調査の結果とは、逆の関係にあると考えて良さそうである。 こうした調査成績から判断する限り、この項の最初に記した感染症の減少とそれにより力を持て余した過剰な免疫能力により、アレルギーが増加したのだという仮説は、少なくとも結核については的外れでもなさそうだ。 お話としては単純で判り易いわれわれのアレルギー理論だが、まるっきり法螺話という訳でもなさそうである。 11.中国でのアレルギー疫学調査 ここまでわれわれのお話を読んで頂いて、なぜわれわれが日本ばかりでなく中国でもアレルギー性鼻炎の調査を行なっているのか、不思議に思う読者もおられるかも知れない。 なぜなら中国では、未だそれほどアレルギー疾患が多い訳でもなく、その意味から言うと、日本や欧米のようなすごくアレルギーの多い地域で調査した方が効率が良い、と言えなくはない。 われわれも実は中国での調査開始以前は、そんな考え方を否定できないと思っていた。ところが1995年に南京医科大学で医学生を対象に疫学調査を開始し、中国での被験者のアレルギーの頻度が日本よりかなり低いことを知ったとき、その考えが必ずしも当たっていないことに気付いた。 日本でも第二次世界大戦前には、花粉症を初めアレルギー性鼻炎はその存在すら、知られていなかった。このために日本人と欧米人とでは人種の異なるために、つまりDNAのせいでアレルギーの頻度が違うのかも知れない、との議論さえ当時は見受けられた。 けれども、東京オリンピックが開催された1964年の初のスギ花粉症論文発表以来、日本人のアレルギー性鼻炎は激増し、今では国民病と形容されるほどである。 このためアレルギー性鼻炎がこんなに増えた背景に、遺伝ではなく社会的環境要因の変化が大きく関わっているのではないかと、考えられるようになった。 そしてもしもその環境要因を突き止めることができたならば、それを除去してアレルギー疾患を治すことだってできるはずである。 ところが約30年前から目立って増加して来た日本のアレルギー性鼻炎では、その原因は30年以上前のものであって、現在ではそれは変貌してしまっている可能性が高い。 それに対して、今まさに北京オリンピックへ向けて邁進中の中国は、東京オリンピック時代の日本のような社会的環境のまっただ中にある。当然中国社会は、アレルギー疾患増加の背景要因を多々備えているはずである。 実際われわれの調査では、1995年に38・4%だった南京医科大学1・4年生のスクラッチテスト陽性率は、5年後の1999年には47・4%にまで増加している。 つまり中国では、アレルギー疾患増加の社会的要因が揃いつつあり、それにつれてアレルギーそのものも確かに増えて来ている。 中国でこそわれわれは、アレルギー増加の原因を突き止め、その解決策や予防策を確立し得るのかも知れない。 10.感染症とアレルギー 12.以上を踏まえたスギ花粉症の治療法 12.以上を踏まえたスギ花粉症の治療法
こうしてわれわれのお話を聞いて頂いて、読者の方にもなんとなく「群盲、象を撫づ」と表現されるアレルギーの全体像が、おぼろげながら見えて来たのではあるまいか。 他のアレルギー疾患すべてにこの原理が通用するかどうか、耳鼻咽喉科医であるわれわれには判らないが、少なくともスギ花粉症などアレルギー性鼻炎については、原理は至ってシンプルであるように思える。 つまり一つには、アレルギー性鼻炎は栄養条件の改善により免疫学的に強くなった人体の、無害な異物の鼻粘膜からの侵入に対する過剰防御反応である。 もう一つには、アレルギー性鼻炎は抗原抗体反応である。世の中のすべての事象がそうであるように、原因であるアレルゲンが増えれば結果であるアレルギー性鼻炎は増加し、アレルゲンが減ればアレルギー性鼻炎も減少する。 これまでの何の根拠も無く言い伝えられていた、大気汚染や寄生虫減少はアレルギー性鼻炎増加の原因ではない。 こう考えるとアレルギー性鼻炎の治療は、アレルゲンの除去がもっとも理に適った方法であることに気付く。 アレルゲンの除去、それは具体的にはどうすれば良いのだろうか。 スギ花粉症の防御法については、中村晋・元大分大学教授が本書の中で書いておられる。スギ花粉症を鼻粘膜まで到達しないよう、それ以前に防ぐ方法である。 スギ花粉症においてそれが徹底できない場合、もう一つの方法がある。 それは、レーザーを使用して鼻粘膜を焦がし軽く刮げ落として、花粉が鼻粘膜に付着してもそれに抗原抗体反応を生じないようにしてやる方法である。これも考え方によっては、アレルゲンに対する原因療法と理解できないことはない。その詳細は、本書の藤原久郎・藤原ENTクリニック院長の項をお読み頂きたい。 ただレーザーによる手術だけでは、くしゃみ・鼻汁には有効だが鼻閉が改善しづらい。 それは鼻粘膜が慢性炎症のために繊維化して、いわばタコになっているため(図37)である。 その場合に、われわれは後述するソムノプラスティを用いている。この手技については殷敏医師の執筆した項をご覧頂きたいが、鼻閉に対しての効果は劇的である。 われわれは、スギ花粉症の新しい外科的治療法として、レーザーとソムノプラスティの併用がきわめて有用であることを、これまでに証明して来た。 さまざまの理由から、スギ花粉症においてアレルゲンに対する対策の十分に講じにくい場合に、これら2者の併用はアレルギー性鼻炎治療の柱になり得る治療なのではないだろうか。 強く推奨する理由である。 スギ花粉症をテーマとした本書では十分なスペースを割くことができないが、ダニに対する対策も重要である。冬季、ダニに対するアレルギー性鼻炎に悩まされていると鼻粘膜が過敏となり、スギ花粉の飛散に敏感に反応し易くなるからである。 ただしこれには住環境の改善も必要となり、加えて生活習慣の改善も考慮せねばならない。 これについて詳細を知りたい読者は、われわれの共同研究者である加藤大志朗の「建てて良かった 快適・健康住宅」(日本評論社)と、拙著「みみ、はな、のどの変なとき」(いちい書房)をお読み頂きたい。 文 献 三好 彰:改訂増補版 みみ、はな、のどの変なとき,いちい書房,東京,2002 三好 彰 編著:鼻アレルギー,日本評論社,東京,1998 三好 彰 編:実地医家のための花粉症診療の実際,メディカル・コア,東京,1998 三好 彰,他:スギ花粉症・ハクションコミック 美人アナ 花子さんの場合,いちい書房,東京,1995 Miyoshi,A.et al.:Field work on nasal allergy ・,Chin J Immunol Allergy Asthma Pract,5(Special Issue):65−70,2001 三好 彰,他:鼻アレルギー疫学調査より・第3報,耳鼻と臨床 45:676・689,1999 三好 彰:「花粉症」日英中比較考現学,諸君! 31(5):106・112,1999 三好 彰,他:鼻アレルギー疫学調査より・第2報−,耳鼻と臨床 44:644・666,1998 三好 彰,他:中国のスギ花粉症・スギ花粉症は日本独特か・,耳鼻咽喉科・頭頸部外科 70:139・145,1998 三好 彰,他:鼻アレルギー疫学調査より,耳鼻と臨床 43:447・470,1997 井上 栄:文明とアレルギー病,講談社,東京,1992 藤田紘一郎:笑うカイチュウ,講談社,東京,1994 藤田紘一郎:腸内寄生虫とアレルギー疾患,総合臨床 45:838・843,1996 藤田紘一郎:清潔はビョーキだ,朝日新聞社,東京,1999 中村 伸,他:ニホンザルの花粉症,モンキー 235:4・7,1991 |名和行文:寄生虫疾患とアレルギーの合併,アレルギーの臨床 19:772・775,1999 兼子順男,他:大気汚染地域と非汚染地域下における学童生徒の鼻疾患罹患状態およびわが国の鼻疾患の変遷について,耳鼻咽喉科展望 22(補3):1・49,1979 兼子順男,他:鼻アレルギーと大気汚染,耳鼻咽喉科展望 23(補4):54・65,1980 中村 晋:大学生における杉花粉症の頻度並びに在学中の有病率の推移に関する7年間の調査成績,アレルギー 45:378・385,1996 Shirakawa,T. et al.:The Inverse Association Between Tuberculin Responces and Atopic Disorder,Science 275:77・79,1997
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