01. 2014年12月04日 07:11:56
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【第536回】 2014年12月4日 ダイヤモンド・オンライン編集部 風呂場で死ぬ人の数は交通事故死の4倍! 寒い家が引き起こす高齢者の病 十分な断熱対策がなされていない住宅が全体の7割にも上る日本。風呂場で溺死する人の数は1万9000人と、なんと交通事故死の4倍にもなる。その多くは高齢者。一気に寒暖の差にさらされることで、心筋梗塞や脳卒中を引き起こすのだ。そのほかにも、“寒い家”は高齢者の健康に大きな害を及ぼしていることが分かってきた。(ダイヤモンド・オンライン編集部 津本朋子) 毎年、酷暑の季節には熱中症でお年寄りが亡くなるという、痛ましいニュースに触れる。しかし、真夏だけが危険なわけではない。むしろ、家庭内での事故死という観点で見れば、冬を中心に起こる風呂場での溺死事故の方がはるかに多い。冷えきった体をいきなり熱い風呂に沈めることによって、急激な寒暖の差にさらされ、心筋梗塞や脳卒中を引き起こしてしまうのだ。 交通事故死の4倍にも上る風呂場での事故死。急激な寒暖差にさらされることが、心筋梗塞や脳卒中の引き金になる 厚生労働省の人口動態統計によると、2012年に溺死事故で亡くなった人の数は、およそ5600人。しかし、実際にはこの3倍にあたる1万9000人が亡くなっている。
というのも、事故死ということになれば検視を受けなければならないため、多くの遺族が病死扱いを望み、統計上に人数が反映されないのだ。 一方、警察の取り締まり強化により、12年の交通事故死は4411人にまで減少した。つまり、風呂場で亡くなる人の数は、交通事故の死者の4倍にも上るのだ。 近年、こうした寒暖差による健康被害は「ヒートショック現象」と名付けられ、注意喚起が広がっている。危険なのは風呂場だけではない。トイレや廊下、さらには就寝中に暖房をつけていないために冷えきった朝の寝室など、気温が低いエリアは家の中の至るところにある。 “寒い家”は国から改修命令が出る英国 血圧が30mmHGもの大幅変動をする例も 風呂場で亡くなる人の多くは高齢者だ。住環境と健康の関連性を調べている慶応義塾大学理工学部システムデザイン工学科の伊香賀俊治教授は「我々の調査では、気温差が10度になると、40代以降の人は血圧が上がることが分かりました。特に70代以上の高齢者では、30mmHGもの上昇を見せた人もいました」と話す。 伊香賀教授は20〜30代の人も調査対象としているが、こうした若い世代では血圧の大きな変化は見られなかったという。年を取れば取るほど、血管の老化が進み、寒暖差に弱くなるようだ。 日本の住宅は断熱対策がなされていないものが多く、およそ7割の住宅が断熱材を全く使用していないか、使用していても不十分だ。こうした住宅では冬場、暖房を使用している部屋は20度だが、廊下など使用していないエリアでは5度以下といった、極めて大きな寒暖差が生じる。 住宅の断熱性能について、あまり問題視されていない日本とは対照的に、国を挙げて改善に取り組んでいるのが英国だ。06年に施行された改正住宅法によって、住宅に査察官が入り「健康性と安全性」が劣ると判定した場合には、改修や閉鎖・解体命令が下されることになった。ちなみに、費用は持ち主が負担するが、税制優遇などが受けられるという。 これに先立つこと10年以上、英国では建築や医療の専門家たちが住宅と健康の関連性について、綿密にデータを蓄積してきた。こうしたデータを受けた法改正だったのだ。現在、デンマークやニュージーランド、そして米国のいくつかの州などで、同様の動きが起きつつあるという。 日本でも“寒い家”と健康の関連調査が本格スタート リフォーム業者も断熱リフォームに力を入れ始めた 英国保健省の年次報告書(2010年)によると、冬場の室内温度が5度以下であれば、低体温症を起こすなど、極めてリスクが高いとしている。9〜12度はそれよりはマシだが、血圧上昇や心臓血管疾病のリスクがある。「許容温度」は18度以上、「推奨温度」は21度だ。 日本でも高齢者の医療費上昇が問題になっている今、国土交通層は住宅のリフォームに補助金を出す代わりに、工事後、血圧を測るなど健康調査に協力してもらうという「スマートウェルネス住宅等推進事業」を立ち上げた。一定基準の省エネルギー性能にするためのリフォーム費用の半分(上限は戸建てで100万円。合わせてバリアフリー工事も行う場合には120万円)を補助する。 より省エネルギー(つまり断熱性能)の高い住宅を義務化するためには、日本人の健康データの裏付けが必要となる。そのために国が補助金付きで調査に乗り出したというわけだ。このほかにも、地方自治体などで省エネルギー住宅へのリフォームをする場合に適用される補助金が用意されているケースもある。 こうした動きを受けて、リフォーム業者も断熱リフォーム商品を充実させるようになってきている。 たとえば、ハイアス・アンド・カンパニーは住宅の中で必要なスペースだけに絞って断熱工事を施す「ハウスINハウス」を提供している。高齢者の住む住宅は子どもたちが巣立ったあと、使われていない部屋がいくつもあったりするが、そうした部屋を除いた居住スペースだけにエリアを絞ることで、価格を安く抑えることができる。住友不動産は今年秋、建て替えの約6割の費用で断熱リフォームをできる「断熱リノベーションパッケージ」という新商品をリリースした。 しかし、補助金がつくとはいえ、断熱リフォームのネックは価格だろう。2〜300万円が相場と、決して安くないのだ。一番いいのは新築時に断熱仕様にすること。リフォームと違って、新築時なら100万円もかければ、十分な断熱仕様にすることができる。 「暖房をつければしのげるだろう」と考えて断熱リフォームを敬遠する人はまだまだ多い。確かに、暖房費用削減だけを効果と捉えるなら、数百万円もの出費は到底ペイするものではないだろう。しかし、心筋梗塞や脳卒中で死亡したり、重い後遺症を抱えるリスクを考えれば、決して高くはないかもしれない。 http://diamond.jp/articles/-/63009
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