02. 2014年10月14日 06:30:23
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【第495回】 2014年10月14日 垣田達哉 [消費者問題研究所代表、食品問題評論家] 実は痛風・メタボ予防にならない!? プリン体ゼロ、糖質ゼロのお酒の落とし穴 ――消費者問題研究所代表・垣田達哉 誰しも「健康で長生きしたい」と思う。健康でいるために、少しでも食生活を良くしようと考える。本来、健康を保つには、食生活全体を考えなければいけないが、多くの消費者は、簡単に健康を得ようとして「健康にいいものを摂取する」か「健康に悪いものを摂取しないようにする」か、に走る傾向がある。そこには大きな落とし穴が待っている。 メーカーや販売者は、消費者心理を巧みに操り、食生活全体ではなく「健康に悪いものが入っていない」「健康に良いものが入っている」のどちらかを、ことさら強調して消費者にアピールする。では、いったい何が起きているのかを具体例で検証してみよう。 お酒をプリン体ゼロにしても無意味!? 「つまみ」の方がよっぽど危険 スーパーやコンビニの酒類コーナーでは「プリン体ゼロ」「糖質ゼロ」のアルコール飲料が百花繚乱だが…… 今、テレビコマーシャルなどで大々的に取り上げられているのが、アルコール飲料の「プリン体ゼロ」の商品だ。プリン体を摂りすぎると高尿酸血症になり、痛風を引き起こす可能性がある。「ビールは痛風の危険度が高い」という指摘があるので、プリン体がゼロであることを、ことさら売り文句にしている。
しかし、酒に含まれるプリン体は一般食品に比べれば極めて少ない。多いと言われるビールで見てみると、サッポロ・ヱビスビールが約11mg、サントリー・プレミアムモルツが約9.5mg、キリン・一番搾りが約8.8mg、アサヒスーパードライが約5〜6mg(いずれも100mlあたり)である。 一方、食品に含まれるプリン体は、鶏モモ肉が122.9mg、牛モモ肉が110.8mg、豚ヒレ肉が119.7mg、カツオが211.4mg、マグロが157.4mg、マイワシが210.4g、スルメイカが186.8mg、豆腐が20.2mg〜31.1mg、枝豆が47.9mgである(いずれも100gあたり、以下同)。 酒のつまみで、モモの焼き鳥1本100g(プリン体・約123mg)を食べれば、キリン一番搾りの350ml缶ビール4本分(1400ml)のプリン体(約123mg)を摂取したことになる。カツオの刺身100gのプリン体は、アサヒスーパードライ350ml缶10本分(6mg×35=210mg)に匹敵する。 もうおわかりだろう。プリン体を控えたければ、ビールよりつまみだ。焼き鳥を1本(100g)減らすだけで123mg、カツオの刺身をマグロに変えるだけで約60mgのプリン体を減らすことができるのだ。 その他の肉類では、牛レバー219.8mg、豚レバー284.8mg、鶏レバー312.2mgと、レバーには非常に多く含まれている。牛肉では、肩ロース90.2mg、タン90.4mg、ハツ(心臓)185.0mg、第1胃(ミノ)83.9mgと、精肉や内臓にも多く含まれている。 魚類でも、マダイ128.9mg、マサバ122.1mg、マアジ165.3mg、ブリ120.8mg、サケ119.3mg、明太子159.3mgと、これだけのプリン体が含まれている。プリン体を気にしていたら、肉も魚もすべて食べられなくなる。 ビールのプリン体を減らすことが痛風の予防にはならないことは明白だ。そもそもビールが痛風の原因なら、ビール会社は、プリン体ゼロのアルコール飲料を販売する前に、ビールの販売を止めるべきだろう(プリン体の数値は、2007年五訂食品成分表・女子栄養大学出版より)。 糖質ゼロも意味がない!? 気にすべきは「アルコール度数」と「量」 プリン体ゼロの発泡酒や新ジャンルの酒が雨後の竹の子のように出てきたのは、ビールメーカーが糖質ゼロの商品で味をしめたからだ。何のことかよくわかっていないのに、何でもかんでも「0(ゼロ)」や「ハーフ」に飛びつく消費者をターゲットにしている。そうした消費者が糖質を気にするのは、カロリーを抑えたいからだろう。しかし、酒にそもそも含まれる糖質はごくわずかでしかない。 糖質が少なくても、全体のカロリーが高ければ意味がない。酒類のカロリーは、糖質が多いか少ないかよりも、アルコール分(度数)が高いか低いかによって決まる。 アルコールは、1g当たり7kcalに相当する。100mlはほぼ100gなので、アルコール分5%であれば、100mlあたり35kcal(700kcal×0.05)程度になる。キリン・ZERO(ゼロ)は、糖質がゼロでエネルギーも100mlあたり19キロカロリーと低い。一見、糖質もゼロでカロリーも低くて良い酒のように思えるが、アルコール分は3%である。 そもそも酒は、酔いたいから飲むものだろう。ある程度酔わないと満足しない人が多いはずだ。アルコール分が低いと、「飲んだ割に物足りない」ということになる。そうなると、たくさん飲まないと満足できない。それなら「アルコール度数が高いほうが、短時間で少ない量で酔えるからいい」という考え方もある。 私の独自指数だが、アルコール分5%を基準にすると、キリン・ZEROの酔っ払い度(係数)は、3÷5=0.6となる。5%の酒と同じ量を飲んでも、6割しか酔えないということだ。 3%の酒で、5%の酒と同じように酔うためには、5%の酒の約1.67倍も飲まなければならない。5%の酒1000ml(500ml入り2缶)と同じだけ酔うためには、キリン・ZEROを1670ml(500ml入り約3.3缶、350ml入りなら約4.8缶)飲まなければならなくなる。 アルコール度数が低い酒で満足できる人は、摂取カロリーも少なくて済む。アルコールの摂取カロリーは、糖質よりもアルコール度数と飲む量の方が、はるかに影響が大きい。 糖質もやっぱり酒よりつまみに多かった! 糖質は、酒よりも一般食品に多く含まれている。ポテトチップスの炭水化物は54.7g、食物繊維の4.2gを引いても51.5gである。ホワイトチョコレートは、炭水化物50.9g、食物繊維0.6gを引いても50.3gになる(いずれも100gあたりの数値・五訂食品成分表より)。 酒の糖質は、普通の清酒やビール、発泡酒で、100gあたり3〜4gで、ポテトチップスの10分の1以下である。糖質が含まれていない酒を飲んだからといって、酒のつまみを余分に食べれば何の意味もない。「糖質が少ない酒を飲んでいるから安心だ」といって、つまみをたくさん食べれば、かえって逆効果である。 焼酎やウイスキー、ブランデーは糖質ゼロの酒だ。プリン体は、100mlあたり焼酎は0.03mg、ウイスキーは0.12mg、ブランデーは0.38mg、日本酒は1.21mg、ワインは0.39mgである。糖質ゼロの酒を飲みたいのであれば、焼酎やウイスキー、ブランデーを水割りやオンザロックで飲めば、糖質を摂取しなくて済む。焼酎やウイスキーは、プリン体も0に近い。しかし、焼酎やウイスキー、ブランデーは、糖質は0だがアルコール度数が高いのでカロリーは高い。糖質が含まれている日本酒も、アルコール度数が高いのでカロリーは高い(プリン体の数値は、2007年五訂食品成分表・女子栄養大学出版より)。 糖質とプリン体の代わりに 酒には似合わない何かが入っている 「でも、同じ量のつまみを食べるなら、やっぱりビールよりプリン体ゼロの発泡酒の方がいいじゃないか。糖質が含まれているものよりゼロの方がいいじゃないか」と思われるかもしれない。しかし、ここにも落とし穴がある。 糖質やプリン体は、アルコール飲料も含め、食品の旨み成分である。ビールは、ビール本来の味を保つために原材料の使用基準を厳密に定めている。添加物の甘味料は使えない。糖質を減らせば味が変わる。その味を添加物で補うことができないので、糖質をカットした商品がなかなか出てこないのだ。 そこで、糖質を下げるために、本来酒には使用しない添加物などが使われていることがある。発泡酒やその他の発泡性酒類(スピリッツ等)は、ビールと違って、すべての添加物が使用できる。典型的なのが、スピリッツやリキュールである。 糖質とプリン体、世界初2つのゼロが売り文句の発泡酒、サッポロ・極ゼロは、発泡酒の原材料である麦芽、ホップ、大麦の他に、苦味料、カラメル色素、スピリッツ、水溶性食物繊維、エンドウたんぱく抽出物、香料、酸味料、安定剤(アルギン酸エステル)、甘味料(アセスルファムK)が使われている。 一方、同じサッポロの発泡酒で北海道生搾りは、100gあたり糖質が3.2g、プリン体が約3.4mg含まれているが、原材料は、麦芽とホップ、大麦、糖類だけである。つまり、2つ(糖質とプリン体)をゼロにしようとすれば、代わりに酒には似合わない添加物や原材料が目白押しになるのである。 人工甘味料の危険性については、ダイヤモンド・オンライン2013年9月30日から5回にわたって掲載された「カロリーゼロにだまされるな〜本当は怖い人工甘味料の裏側〜」に詳しく述べられているので参考にしていただきたいが、簡単に言えば「たとえカロリーがゼロであっても、人工甘味料は肥満や糖尿病の原因になる恐れがある」ということである。 カラメル色素(注(1))は、コーラなどに使われる着色料だが、発がん性物質が含まれている可能性が高い添加物だ。苦味料以降はすべて添加物だが、酒に9種類もの添加物が使われている。一部の発泡酒に使われている加工デンプン(注(2))も、発がん性物質が含まれている可能性がある添加物である。化学調味料の調味料(アミノ酸)や加工デンプンは、いずれも加工食品によく使われる添加物である。原材料だけ見ていると、酒類というより加工食品のようである。 プリン体や糖質の代わりに、発がん性物質入りの可能性のある添加物や、肥満や糖尿病の原因の恐れのある添加物など、余計な添加物や原材料を摂取する「トレードオフ」(一方を追求し他方を犠牲にすること)は、健康にとってマイナスはあってもプラスにはならない。 糖質を減らすもう一つの方法が「酵母エキス」を使うことだ。酵母エキスは、酵母といっても酒を醸造(発酵)するときに使うわけではない。酒になった後に、味付けとして使うものである。添加物ではなく食品に分類されるが、調味料である。 調味料を使わなければならないのは、やはり「糖質を減らすと味が落ちる」という証拠であろう。酒本来の味でない添加物や調味料で補わないと売り物にならないということだ。メーカーは「おいしい糖質オフ」、「本当にうまい糖質ゼロ」と味の良さを強調するが、それが添加物や調味料の味だとすると、いかにも情けない。 酒本来の糖質の代わりに添加物や調味料を食べるというのも、何か釈然としない。「酒に人工甘味料や調味料を入れるのは邪道」のような気もするが……。 注(1):カラメル色素 砂糖を焦がして作るカラメルと違って、工業的に製造されるカラメル色素は、製法の違いでI、II、III、IVの4種類がある。アンモニア化合物を加えて作るIIIとIVには、発がん性物質の疑いのある4−メチルイミダゾールが含まれている。日本ではIIは生産されておらず、IもわずかでIIIとIVの生産量が圧倒的に多いと言われている。調味料や飲料、菓子などの加工食品に非常に多く使われているが、簡略名しか表示されないので、どの種類なのかを見分けることはできない。 注(2)加工でん粉 加工でん粉に指定されている物質は11種類ある。EUでは動物試験で腎臓に変化があった9種類について乳幼児向け食品に5%の使用期限を設けている。ヒドロキシプロピルデンプンとヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンの2種類には、遺伝毒性発がん性物質の疑いのあるプロピレンオキシドが残存する可能性がある。米国でも製造基準や残留基準が規定されているが、日本ではどの物質も規制されていない。加工でん粉は簡略名なのでどの物質が含まれているのかはわからない。 本来の旨みを味わわなくて何が楽しいのか 糖質は甘味成分、プリン体はうま味成分の核酸であり、どちらも、食品が本来持っているおいしさの基本成分だ。このおいしい成分を取り除けば、当然、代替品で食品においしさを付けなければならない。わずかの糖質やプリン体を嫌って、本物の旨みを、発がん性などの危険性がある添加物に入れ替えたトレードオフ食品が、身体に良いわけがない。 酒は、添加物以上に危険な発がん物質である。酒が身体に悪いことは誰でもわかっている。悪いことをするのだから、自分に言い訳をしたい。「糖質ゼロなんだから」「プリン体がゼロなんだから」と自分に言い聞かせたい。糖質ゼロやプリン体ゼロを求めるのは、酒を飲むための免罪符が欲しいだけである。 トレードオフ食品は、自己満足の免罪符にはなっても、健康にはけっして免罪符にはならない。健康にとって一番大切なことは、糖質の量でもなければ、プリン体の量でもない。ただ一つ、暴飲暴食(飲み過ぎ、食べ過ぎ)を避けることだけである。 厚生労働省が主導する国民の健康作り運動「健康日本21」では、酒の適量を「日本酒なら1合(180ml)」「ビールなら中ビン1本(500ml)」「ウィスキー・ブランデーならダブル1杯(60ml)」「焼酎ならぐいのみ1杯(70ml)」のうち、いずれかとしている。農林水産省が健康作りを目的に作成した「食事バランスガイド」にいたっては、酒を飲むことなど想定していない。 メーカー側の、糖質やプリン体が少ない酒を美化しているキャッチフレーズに乗せられて「糖質が少ない酒だから少しぐらい多く飲んでも大丈夫だろう」という気持ちになることが、もっとも健康に悪い。 「糖質が少なければ、たくさん飲んで良いということにはならない」ということを肝に銘じるべきである。結局、どんな酒でも「飲みすぎは厳禁」ということに尽きる。 http://diamond.jp/articles/print/60414 |