01. 2014年10月17日 10:59:51
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マクドナルドが危ない橋を渡り始めた http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20141016/272657/?ST=print 2014年10月17日(金) 鶴野 充茂 不調にあえぐマクドナルドが、ネット動画を活用した新しいキャンペーンを米国で始めました。ネット上で消費者から質問を募り、その答えを動画で紹介していくというものです。 これは食品の安全性などへの世間の関心の高まりに対して、積極的な情報発信で透明性を高めようとする取り組みです。ところが、開始と同時に注目を集め、大きな批判が巻き起こりました。
これでは消費者の懸念は払拭されないという論調が中心です。 一方で、信頼回復をめざす企業の情報発信という観点では、別の見方ができそうです。そこで今回はそんなマクドナルドの取り組みを見ていきたいと思います。 ネット動画はアイデアの宝庫、それでは今週もいってみましょう。 米国で始めたQ&Aキャンペーン マクドナルドは今週、米国でマクドナルドへの一般消費者からの質問とその答えを特設サイトとネット動画で公開し始めました。 「私たちの食品について、あなたの質問は何ですか?」 そんな大きなメッセージのついた特殊看板を街に設置し、その看板に取り付けたカメラで一人ひとりの声を記録していったのです。 「子どもに食べさせる前に100%天然のものなのかを知りたい」 「ハンバーガーの中には一体何が入っているの?」 「牛肉は本当に100%本物なの?」 「どんな油を使っているの?」 「食べる人のことをどれくらい真剣に考えているの?」 「ピンクスライム(くず肉加工製品)はどうなの?」 そこにはマクドナルドに対する不安とも懸念ともとれる声が集められています。 そうした声に対して、1つずつ答えていこうという取り組みです。 回答として最初に公開された動画には、消費者を代表する立場で起用された案内役が登場し、マクドナルドの戦略購買部長なる人物に率直な質問をぶつけています。 「学生時代はマクドナルドでよく食べていましたが、食品に対するメディアバッシングなどですっかり離れていたので、来るのは久しぶりです。私も、他の人たちもたくさんの質問があります」 「何でも聞いてください。答える準備はできています」 そんなやりとりから始まります。 そして店の厨房に入り、こう聞きます。 「みんなが知りたい質問があります。ズバリ、ピンクスライムは肉の中に入ってるんですか?」 これに対してマクドナルドの担当者は明快に答えます。 「いわゆるピンクスライムは一切入っていません。ビーフにも、チキンにもです」 「どの商品にもまったくピンクスライムは入っていないのですね?」 「完全にゼロです。入っていません」 案内役に起用されたのは、世間の誤解を明らかにしていく人気番組の司会者、グラント・イマハラ氏。その目で明らかにされれば、信頼が得られるだろう、という企業側の思惑が見えます。 これを導入にして、イマハラ氏が工場の現場などをカメラと一緒に見ていく、という体裁になっています。 ここでは、「マクドナルドのビーフは本物か?」という問いに答えている動画をご覧ください。 外部の案内役がお墨付きを与える 動画のストーリーはこうです。 マクドナルドにビーフを納入している企業の工場を訪問し、「今日はしっかり見させてもらいます」というイマハラ氏に対して「100%本物のビーフですから大丈夫です。クオリティの高さに驚くはずです」と工場の担当者は自信たっぷりに答えてラインを案内します。 初期工程では大きなビーフのかたまり肉がラインを流れていて、「持って帰ってもいいですか?」イマハラ氏は興奮気味に伝えます。
「ピンクスライムをよく言うように注射器のようなもので混ぜていくところはないのですか?」 「ありません。途中で何も入りようのないシンプルなラインです」 「味見してみますか?」 そう促されて、今度は工場で味のチェックをしているという食品安全品質管理の担当者が説明をします。 「あなたは毎日ここでマクドナルドのビーフを食べて確認するという夢のような仕事をしているのですか? アメリカンドリームですね」 そんなやりとりの後、店舗に移動して、実際に販売されているものが同じ味かを確認して言います。 「ピンクスライムも、添加物も入っていませんでした」 そんな言葉で動画をまとめつつ、視聴者にさらなる質問を促しています。 リスクを想定しつつ、あえて踏み込んだ 実はQ&Aの特設サイトを作って消費者の声に答えていくという取組みは、カナダとオーストラリアのマクドナルドで先行して始まっていました。今回の米国マクドナルドはその効果を踏まえて米国内向けに展開したものです。 米国で新しく取り入れたのは、外部の案内役の起用です。 カナダやオーストラリアのQ&Aサイトでは、マクドナルド社員が役職と名前を明らかにした上で自ら案内役となり、質問に答えています。 「マクドナルドには10年以上勤めていて、これは本当によく聞かれる質問なのですが、完全な誤解です」 そんなことを言いながら、それぞれの質問に詳しい担当者が解説するのです。 典型的な例として、オーストラリアの動画を1つ見て頂きましょう。 こうした既存の形式に対して、米国では特に食品の安全性に対する関心が高いこともあり、社員が登場して語ることはもちろん、それに加えて信頼性が高い人物を案内役に起用したというわけです。 最近のグローバル企業が信頼性を回復しようとする際には、このような「見せる化」とも言うべき透明性を高める情報発信に取り組むケースが増えています。 多くの場合、共通点は3つあります。 1つめは、社員が顔・役職・名前を出して語ること。社員が前に出ることで宣伝臭さを減らし、信頼性を高める工夫です。 2つめは、動画で語ること。周りの雰囲気も合わせて伝えられるため、説得力と分かりやすさが強く出ます。 そして3つめは、継続です。短期間に集中的に取り組んで終わりにせずに、会社として重視している姿勢を伝えるためです。答えにくい質問にも順番に答えていく、という形ですね。 こうした観点で、マクドナルドはカナダやオーストラリアで実績があったと言えます。 しかし同時に、マクドナルドは過去、ツイッターを活用したキャンペーンで手痛い失敗を経験しています。 マクドナルドでの経験を語ろうと呼びかけたことをきっかけに、悪夢のような体験談や批判があふれ出たのです。 それでもです。そうした過去を踏まえても、今回は広く質問を受け付け、それに答えるという投げかけを始めました。 その結果、まだ開始後数日ですが、すでに想定された批判の声はあちこちで広がっています。 「ビーフやチキンの餌や飼育環境、ホルモン剤投与の問題はどうなのかまったくわからない」 「化学物質などについての質問を無視するマクドナルドのやり方が好きだ」 「動画を見るとさらに謎が深まるな」 また、Q&Aサイトによって、他の消費者が知らなかった「誤解」や「噂」についても知らせるきっかけを与えているという指摘もあります。 たとえば、こんなものです。 「ヨガマットを作る時に使われる化学物質と同じものがハンバーガーにも含まれているって本当ですか?」 「ミミズは入っているのですか?」 「遺伝子組み換えの材料を使っているのですか?」 そこまで出しますか、という声も拾っているところが注目です。 批判を集めるのとともに、本来知らなくてもいいと言われそうな噂を逆に知らせるきっかけにもなるので、リスキーだとする声も中にはあります。 しかし、それでも尚、消費者の疑問に答えていく姿勢と情報開示が求められていると米国マクドナルドは声明を出しています。 また、継続していく中で、それまでカバーできなかった疑問に答えることもできるという考え方を示しています。 手抜き加減が目立ちすぎる日本マクドナルド さて、それで疑問が出てくるわけです。日本はどうなっているのだろう、と。 すると、日本マクドナルドも8月に、ひっそりと「見える、マクドナルド品質」というQ&Aページを立ち上げていました(http://qna.mcdonalds.co.jp/)。 そして最近、テレビCMも始めたようです。 問題は、それがほとんどニュースにも、話題にもなっていないことです。 それは一体なぜか。 米国などとの違いが分かりやすい動画を見てみることにしましょう。 9月に公開された「タイの工場って安全なの?」「チキンマックナゲットを作っている工場を見せて?」という2つの質問に紐付けられた回答となる動画です。 2つの質問に1つの動画で答え、なおかつ、Q&Aのための動画だと分からないようなタイトルにしていることは、あえて目をつぶるとします。 しかし、上で紹介したような米・加・豪のマクドナルドで制作されている動画と比べると、明らかに腰砕けになるような内容です。 社員も出てこない。 解説の声もない。 自分たちが伝えたいことだけをひたすらテロップと映像で見せ続けています。 Q&Aサイトに戻って質問を見ると、当たり障りのないものばかりです。どこで誰が出した質問かも分からない。 「こちらで質問をお待ちしています」という投稿を促すこともないので、消費者とコミュニケーションしようという姿勢も見られません。 一言で言えば、できるだけ目立たないようにしている、という意図が見え見えなのです。 これは今の時代、逆に大きなリスクです。 真剣な姿勢を見せられないことがリスク 業績回復をめざすタイミングでは、とかくヒット商品の開発などに目を向けがちです。もちろんそれも大切なのですが、業績回復を支える信頼回復も重要です。 信頼回復に必要なのは、企業としての姿勢をきちんと見せること、はっきり伝えることです。 その有効性を測る基準は、「そこまでやるか」という徹底さです。あえてやる、とことんやる。批判を浴びてもやる。 そんな挑戦を感じさせなければ、消費者が改めて応援しようとはならないからです。特にネット上の施策では反応が露骨に出ます。 企業のソーシャルメディア施策は、米国マクドナルドで見られるように、リスクを取ってでも話題にしてもらえること、反応が得られること、対話ができることを重要な目的と評価基準にすることが一般的になっています。 そんな観点で、現在の日本マクドナルドのQ&Aサイトは、明らかに挑戦から逃げています。少なくとも、このままの路線で行くのは極めて危うい。 それは業績に加えて組織的な課題の深刻さも浮かび上がらせるものとなるかもしれません。 ネットを見れば、人々の不安や疑問、社内の様子もよく分かります。たとえば転職情報サイト「Vorkers」を見れば、社員やOBが組織についてどう見ているかが綴られています。 そこで日本マクドナルドの企業文化について語られているページを見ていくと、「マニュアルを淡々とこなしていくことが大切」「売上至上主義」「現場は疲弊」「店舗数も膨大で社員数も少ないため目が行き届いていない」「社長の承認が通らないと全く進まず」「ワンマン経営」「トップと現場の見方にかなりギャップがある」などたくさんの声が集まっています。 取り組むべき課題は、すでに目の前に並んでいます。信頼回復に活かせそうな対話のテーマとヒントが山のように揃っているのです。それを活かさず、そのままにしていこうとしているのでしょうか。 どうもそんな危ない一歩を踏み出しているように思えます。 つまり、批判が噴出している米国マクドナルドよりも、逃げ腰の日本マクドナルドの方に、はるかに大きなリスクを感じるということです。 新体制での変革は、こうした透明性と情報開示に積極時に取り組む方向にもぜひ取り組んでもらえたらと思います。 ネット動画はアイデアの宝庫。それではまた、金曜日にお会いしましょう。 P.S.日経BP社とアサヒビールが運営する新メディア「カンパネラ」でも動画紹介などを書いています。ぜひ読んでみてください。 お知らせ 経営者はなぜ嘘つきと言われてしまうのか? PRのプロが教える社長の伝え方・話し方 「経営者はなぜ嘘つきと言われてしまうのか? PRのプロが教える社長の伝え方・話し方」が発売中です。 |