01. 2014年3月19日 19:33:30
: nJF6kGWndY
直接、男女の脳をつないだら、面白いだろう http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304471904579448350773495562.html?mod=WSJJP_hpp_RIGHTTopStoriesThird 2014年 3月 19日 18:50 JST 更新 脳インプラントの未来―暗闇でも見える網膜チップ
By GARY MARCUS AND CHRISTOF KOCH [image] Getty Images あなたは暗闇の中でも物が見える網膜チップにいくら払うだろうか。どんなに騒々しいレストランでも会話が聞こえる次世代型の人工内耳や、読んだもの全てを完璧に思い出させてくれる、海馬に直接つなぐメモリチップはどうか。声には出さないけれど頭の中ではっきりと思い浮かべたこと(例えば、「フランスの太陽王」という言葉)を自動的にインターネットで検索し、該当するウィキペディアのページを要約して、それを脳に直接映し出す埋め込み型の接続装置はどうだろう。 SFの話だろうか。おそらくSFでなくなるのもそれほど先の話ではないだろう。脳のインプラントは現在、数十年前の目のレーザー手術の段階にまで進んでいる。リスクが全くないわけではなく、非常に限定された患者にのみ意味があるものだ。しかし、脳のインプラントは今後、起きることを見せてくれているのだ。 関連記事 格好いい人を信じてしまう脳のバイアス―米デューク大が調査 電気けいれん療法、記憶消去実験で成果―オランダの神経科学者 脳についての新たな理論─上部脳と下部脳 ペースメーカーや歯の被せ物、体内埋め込み型のインスリンポンプとは違って、神経機能代替装置――神経系に直接挿入した電子機器を使って脳の能力を回復させたり、補完したりする機器――は私たちの世界の見方、体験の仕方を変える。好むと好まざるとにかかわらず、神経機能代替装置は私たちの体の一部になるのである。 神経機能代替装置は目新しいものではない。世界で30万人を超える聴覚障害者の耳に使われている人工内耳として、30年間販売されている。米食品医薬品局(FDA)は昨年、セカンド・サイトが製造した初の人工網膜を承認した。人工内耳も人工網膜も同じ原理に基づいている。マイクやビデオカメラといった体の外にある機器が音声や映像を捉え、情報を処理する。その結果を使って電極を動かし、聴神経または視神経を刺激して、耳や目から自然に発生する音や映像に近づける。 [image] Barcroft Media/Getty Images 人工内耳を装着した少年 一般的に使われているもう1つの埋め込み型の装置は世界中で何千人ものパーキンソン病患者が使用している。脳深部の正確な位置に電気パルスを送り、運動制御に関わる回路の一部を活性化するものだ。薄い電極が頭蓋骨に開けた小さな穴から脳に挿入され、皮下に埋め込んだ電池バックにワイヤーで繋がれている。パーキンソン病の顕著な症状である震えや硬い動きを軽減したりなくしたりする効果がある(残念ながら、この機器で病気そのものの進行を止めることはできない)。この「脳深部刺激療法」については、パーキンソン病以外の病気に対する有効性を調べるために現在、実験が行われている。 カリフォルニア大学ロサンゼルス校の神経外科医イツハク・フリード氏らが2012年に医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンで発表した論文で示したように、電気刺激によってある種の記憶が改善することもある。7人の患者がビデオゲームのような装置を使った実験に参加、仮想空間の中で車に乗客を乗せ、特定の店まで送った。患者がゲームをしている間に脳に適切な電気刺激を送ると、仕事をより速く正確にこなすことができた。 だが、脳のインプラントは脳を直接刺激するタイプだけではない。例えば、麻痺状態にある人の意思を理解するために脳の信号を読み取るタイプのインプラントもある。ゆくゆくは、神経機能代替システムが利用者の希望を読み取り、インターネット検索のような動きを実行して、その結果を脳に直接送り返すというように、脳の刺激と信号の読み取りの両方を行うようになるかもしれない。 そんな素晴らしい機器が実現するまであとどのくらいかかるのだろうか。まず、科学者や医師、技術者が人間の脳に電極を挿入するためのより安全で信頼性の高い方法を見つける必要がある。今のところ、ドリルで頭蓋骨に小さな穴を開けて、長くて薄い電極――鉛筆の芯のような形をしている――を脳の深部に挿入するのが唯一の方法である。この方法では、皮下にワイヤーが埋め込まれるため感染症のリスクが伴う。また、脳内で出血が起きる可能性があり、深刻な影響が生じたり命を失ったりする恐れもある。 体の中に入れない機器にはこうしたリスクはない。ニューロスカイが製造した脳波を測定するためのスカルキャップ(「健康や教育、娯楽に応用できる」ものとして市販されている)はその1つである。しかし、こうした機器ではセンサーと個々のニューロンと離れているため、有効性もはるかに低い。巨大なサッカースタジアムの外からたった一組の会話を盗聴しようとしているキーストン・コップ(訳注:米国の無声映画に登場する、へまばかりしている警官)のようなものだ。 今のところ、神経細胞群が発する信号を拾い上げるためには、脳と機械を結びつける装置(ブレイン・マシン・インターフェイス)を脳に直接繋ぐ必要がある。しかし、信号を拾える装置を神経細胞群に届くほど細長くする方法は見つかっていない。その理由の1つに機械的な問題がある。脳は人が動くたびに頭蓋骨の中で揺れ動いていて、インプラントが1ミリメートル動いただけでも効果がなくなる可能性がある。 もう1つの理由は生物学的な問題である。インプラントは免疫反応を引き起こさないように、無毒で生物適合性があるものでなければならない。さらに、頭蓋骨の中に全体が収まる程度に小型で、夜間に頭皮に設置した誘導コイルで充電できる程度にエネルギー効率に優れたものでなければならない(原理は電動歯ブラシの充電スタンドと同じだ)。 このような障害はとてつもなく大変なもののように見えるかもれないが、その多くは、携帯電話がまだ靴箱の大きさくらいあった20年前に携帯電話メーカーが直面した問題に似ている。脳のインプラントには携帯電話以上に大きな進歩が必要になるだろう。いったん装置を埋め込んで頭蓋骨を閉じてしまえば、簡単に装置の性能を高めることはできないからだ。 しかし、カリフォルニア大学バークレー校のマイケル・マハルビズ氏やホセ・カーメナ氏らのように、神経工学を研究する数多くの有能な若手研究者たちが問題を克服しようとしている。彼らが開発を進めているのは「ニューラル・ダスト」という無線装置である。生物学的に変化をもたらさない、1個の大きさが0.1ミリメートル(人間の毛1本の太さとほぼ同じ)のマイクロセンサーを数千個設置して、脳の外部で読み取れることができる超音波に電気信号を変換するものだ。 本当の問題はこうした装置ができるかどうかではなく、いつどのようにできるか、である。物質科学や電池化学、分子生物学、再生医学、神経科学にどれほどの進歩が必要なのだろう。それだけ進歩するのは10年かかるだろうか。20年だろうか、30年、それともそれ以上かかるのだろうか。マハルビズ氏はインプラントを「健康な成人にとって『一生にわたって安定』したものにできれば、多くの深刻な障害は常に治療可能なものになりそうだ」と電子メールに記している。何百万人もの患者にとって、脳のインプラントはまさに人生が変わるほどの大きな変化をもたらす可能性がある。 私たちがこれらの生物工学上の限界を解決できると仮定して、次なる難題は脳を作り上げている1000億個の小さな神経細胞から複雑な情報を読み取ることだろう。方法は限られているものの、既にそれは可能である。 ブラウン大学のジョン・ドノヒュー氏らは数十年にわたる人間以外の霊長類の研究に基づいて、「ブレインゲート」というシステムを作り上げた。これを利用すれば、完全な麻痺状態にある患者が思考で機器を動かすことができる。ブレインゲートは約100本の針状のワイヤーを埋め込んだ小型チップ――ハイテクブラシとでも言おうか――を動きを制御する大脳新皮質の部位に挿入することで動く。運動シグナルは外部のコンピューターに送られて解析され、さらに外部のロボット装置に転送される。 約10年前、このシステムはある四肢麻痺の患者が義手を動かすのに利用された。最近では、脳幹卒中で何年も前に麻痺状態になったキャシー・ハッチンソンさんが自分の脳と、心(の一部)を読み取る脳インプラントの力だけでロボットのアームを操作してボトルからコーヒーを飲むことができた。このデモンストレーションの様子はユーチューブに投稿された。 今のところ、こんなふうにロボットのアームを動かすのは、大きな船を操縦したりアライメントを調整していない車を運転したりするのと同じで、面倒で困難だ。神経科学の現状を考えれば、最も優秀な神経科学者でも暗闇の中でガラスを通して物を見ている程度にしか、脳の活動を読み取ることができない。何が起きているかはだいたい分かるが、まだ決して詳細を理解しているとは言えない。 実際には、「あのテニスボールを打ち返したい」という曖昧な欲求を厳格に統制された一連の命令に変換して、スムーズに行動を実行するといった、最も基本的な行動を人間の脳がどのように行っているかについては今のところ、全く分かっていない。まじめな脳科学者であれば、コンピューターのキーボードの何分の一かの正確さや反応の速さを持つ脳波測定器を一般に販売できると言える人はいないだろう。 神経コードを理解できるのはまだ先の話だ。だからこそ、オバマ大統領が昨年発表した「BRAINイニシアチブ」――連邦政府の資金が投じられている――は非常に重要なのである。私たちは脳の声に耳を傾けるのに今より優れた器具が必要だ。情報を脳に送り返すためにはもっと正確な器具が必要だ。さまざまな神経細胞ついて、また、神経細胞が複雑な回路の中でどのように結合しているのかについてさらに詳しく理解する必要がある。 機能的磁気共鳴画像(fMRI)装置で撮影した脳の画像が近年、よく使われているが、画像が粗く、十分ではないだろう。まず、画像は間接情報である。fMRIが測定するのは脳の電気的な活動の変化ではなく局所血流量の変化で、ひいき目に見ても代役としては不完全である。さらに、fMRIの画像には神経コードをはっきり認識できるほどの解析度はない。脳をスキャンした時の3次元画素(ボクセル)にはそれぞれ50万個から100万個のニューロンが含まれているが、私たちに必要なのは一つひとつのニューロンに迫ることである。 さらに詳細にニューロンを捉えることが重要なのは、認識や記憶、意識の原子は脳の部位ではなく、ニューロンやさらに小さい要素であるからだ。化学者は化学反応が原子を結びつけたり離したりする電子の動きが(ほぼ)全てだということに気付き、化学は定量的な科学の1つになった。神経科学者は脳についてこれと同じことをしようとしている。そのときが来るまで、脳のインプラントは森の論理、つまり1本1本の木を十分に理解しない状態でしか機能できないだろう。 この点について最も期待が持てる機器の1つに、光遺伝学という最近開発された技術がある。ニューロン一つひとつの内部にある遺伝子の分子構造をコントロールして脳の回路を直接操作する技術だ。さまざまな色の短い信号を使って、遺伝子の郵便番号とでもいうべき独自の情報を持ったニューロンのグループのスイッチを付けたり消したりできるのだ。脳は演奏可能なピアノになったも同然である。分子生物学と光学、電子工学を融合した光遺伝学は既に成人後に失明した患者向けの最新式の人工網膜の開発に導入されている。光遺伝学は神経科学の全ての領域に革命的な変革をもたらしている。 分子生物学や神経科学、物質科学の進歩はやがて、ほぼ確実に、小型で賢く、安定していてエネルギー効率に優れたインプラントを生み出すことになるだろう。こうしたインプラントは脳の中で嵐のように起きている電気的な活動を直接読み取ることができるようになるだろう。今のところ、このようなインプラントは抽象概念にすぎず、机上のものであって人が体験できる可能性は低い。だが、それもいつか変わるだろう。 乳房手術のような医療技術の発展を考えてみよう。初めは乳房切除後の再建や先天性の異常の修正に対応するために開発されたが、豊胸や顔のしわ取り、腹部の美容整形手術などの美容目的の処置は今や、当たり前になった。金持ちや著名人だけでなく、社会の幅広い層を魅了するほど信頼性も効果もあり、価格も抑えられている。 いずれ脳のインプラントは麻痺や失明、健忘症といった深刻な問題以外にも利用されるようになるだろう。機能障害の程度が低い人々も取り入れるだろう。技術が成熟すれば、インプラントは機能の修復に目的が限定されていた段階を卒業し、健康な人々、または「普通の」人々の能力を向上させるために使われるようになるだろう。記憶や集中力(副作用のないリタリンのようなものだ)、認識、気分(プロザックよ、さようなら)を改善するために用いられるだろう。 緊急性のないインプラントが登場した段階では、多くの人が抵抗するだろう。失敗例もあるだろうし、医学が進歩するときと同じように、死亡例も出てくるだろう。だが、こうした製品が売れないと思う人は世間知らずだ。今でも、大きな試験の前に子どもにアデロール(注意欠陥多動性障害の治療薬)を喜んで子どもに飲ませる親がいるのだ。「天才児」(そうでなくても、少なくとも大きな試験が終わるまで何時間も落ち着いて、集中していられる子ども)を作れるのであれば、多くの人は心引かれるだろう。 親が脳インプラントに金を出さなくても、軍は金を出すだろう。最新技術に投資する国防総省の機関、国防高等研究計画局(DARPA)のプログラムは既に、戦争で負傷した兵士を支援する目的で記憶を向上させる脳インプラントの研究を支援している。非常に高い集中力を持ち、地図を完璧に記憶できて、何日も不眠でいられる兵士を欲しがる将軍を誰が責められるだろう(もちろん、スパイも兵士の脳を盗聴しようとするだろうし、ハッカーは兵士の脳を乗っ取ろうと思うかもしれない。最高水準の警備が敷かれるだろう。暗号化は欠かせない)。 初期の機能向上インプラントでゴルフのトップ選手がメンタルトレーニングを自動化してスイングを改善できるとすれば、後続のインプラントでは、週末ゴルファーは一切練習しなくてもよくなるかもしれない。神経科学者が練習の成果を解析する方法を発見すれば、「神経の編集者」が1年分の練習に相当する成果を直接、しかも一気に脳に組み込むことができるようになるかもしれない。 そんなことは今後10年や20年では起きないだろうが、21世紀が終わるころには、今のコンピューターのキーボードやトラックパッドが冗談のように思えるだろう。グーグル・グラス3.0 でさえ、原始的だと思うだろう。情報を脳の中に書き込んで、それを直接読み取ることができるのだから、視界の一部をふさいでまで目に情報を映し出す理由があるだろうか。コンピューターはあなたが求めていることを予想するのではなく、あなたが何かを言ったりタイプしたりするのをどうして待つ必要があるだろうか。 今世紀の終わりまでには、これまで販売されてきたあらゆる入力機器はもはや使われなくなるだろう。もっと早い段階でそうなるかもしれない。高級自動車メーカーがまさに発表しようとしている「ヘッドアップディスプレー」――ドライバーは道路から目をそらさなくてもデータを見ることができるようになる――はもうどうでもよい。今世紀が終わるまでには、多くの人が脳みそからつま先まで全身、クラウドに直接繋がれるだろう。 こうした機器の登場によって私たちの社会は全体として今よりも幸福で平和になるだろうか。生産性は高まるだろうか。どんな世界ができるのだろう。 予想することは不可能だが、予想可能であっても、一見、よさそうに見えるにしても、未来とは関係ない。ロナルド・レーガン大統領はかつてこう言った。「未来は臆病者のものではない。勇敢な人間のものである」 能力が強化された人間――自ら進んで脳インプラントの恩恵を受けて、付随するリスクも甘受する人々――は仕事や結婚相手を探すという日常の競争でも、科学の世界でも、競技場でも武力衝突の場でも、そうでない人々より優れた成果を上げるだろう。格差は新たな難題を投げ掛けると同時に、私たちがとても想像できない可能性を広げるだろう。 (ゲイリー・マーカス博士はニューヨーク大学の心理学教授。ニューヨーカー誌のブログに科学や技術に関する記事を寄稿している。クリストフ・コッホ博士はアレン脳科学研究所の最高科学責任者) おすすめ記事 ファースト・ソーラー、10-12月期は58%減益 ファースト・ソーラー、10-12月期は58%減益 イラン政府、オマーン経由のLNG輸出を検討中 NY連銀、新手法で労働市場の健全性を見極めへ 半導体市場、高速携帯通信網めぐり競争がし烈化 福島第1原発、ロボットが廃炉作業に大きな役割 |