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「トランス脂肪酸」気にするくらいなら禁煙を
脂肪酸との付き合い方(前篇)
2013年10月18日(Fri) 漆原 次郎
食生活に気を配っている人は「トランス脂肪酸」という言葉を聞いたことがあるかもしれない。数年前から「有害だ」「危険だ」と、メディアで槍玉に挙げられてきた。2004年公開の映画「スーパーサイズ・ミー」では、監督自身がファストフードのハンバーガーを食べ続け、30日で11キロの体重増、7%の体脂肪率増加、さらに肝臓の炎症といった「結果」を出し、その話題もトランス脂肪酸が注目されるきっかけになった。
「トランス脂肪酸か。健康に悪そうだが、普段の食事で気にする必要があるのだろうか」。その程度に気にかけている人は多いだろう。
そこで今回は、トランス脂肪酸を含む「脂肪酸」に焦点を当て、心配の仕方などを考えていきたい。
話を聞いたのは、昭和女子大学生活科学部健康デザイン学科教授の江崎治氏だ。江崎氏は、2012年3月まで国立健康・栄養研究所で代謝学や内分泌学などの研究をするかたわら、国民の健康維持・増進などへの指針となる『日本人の食事摂取基準』の「脂質」の項目を担当してきた。また、内閣府の食品安全委員会が2010年に開催した「食品に含まれるトランス脂肪酸に係る食品健康影響評価情報に関する調査」検討会の座長も勤めた。
前篇では、脂肪酸とは何か、また、その一種であるトランス脂肪酸にどう向き合えばよいかを聞く。後篇では、トランス脂肪酸が使われなくなる風潮のなかで使用量の増加が指摘されている「飽和脂肪酸」にも目を向け、気の使い方を聞いていきたい。
“トランス型”の“不飽和脂肪酸”が「トランス脂肪酸」
江崎治氏。昭和大学生活科学部健康デザイン学科教授。医学博士。岐阜大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部を経て、1986年より国立健康・栄養研究所へ。同研究所で、生活習慣病研究部部長、基礎栄養研究部部長などを歴任して、2012年4月より現職。専門は代謝学、内分泌学、スポーツ科学など。糖尿病、肥満発症予防のための基礎研究を進めてきたほか、『日本人の食事摂取基準』(2005年版、2010年版)の「脂質」の項目の策定などにも取り組んできた。
──「脂肪酸」とはどんなものでしょうか? 「脂肪」とは違うのでしょうか?
江崎治教授(以下、敬称略) 脂肪の主要な部分をなすものが脂肪酸です。私たちは、食べものから「中性脂肪」と呼ばれる脂肪を体に摂り込みますが、その中性脂肪には3つの脂肪酸がくっつくのです。
また、体の細胞膜には「リン脂質」という別の種類の脂肪がありますが、そのリン脂質には2つの脂肪酸がくっつきます。
脂肪酸はたくさんの炭素元素(C)と水素元素(H)から構成されます。その点は、石油とよく似ています。
ただ石油と異なるのは、構造の末端に、炭素1個、酸素2個、水素1個の「カルボキシル基」(-COOH)があることです。脂肪酸は、このうちの「OH」を使って体内の脂肪などにくっつくことができます。石油にはこれがないため、たとえ体に取り込んでも素通りして排泄されてしまいます。
──脂肪酸には、さらに分類があるのですね。
江崎 はい。大きく「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分けられます。
脂肪酸はたくさんの炭素元素(C)と水素元素(H)から構成されると言いましたが、そのなかで、炭素と炭素が「C=C」のように結びつくことがあります。これは「二重結合」と言います。
二重結合の入らない脂肪酸は、飽和脂肪酸と言います。一方、この二重結合が入っている脂肪酸は、不飽和脂肪酸と言います。
脂肪酸の分類
さらに不飽和脂肪酸に注目すると、この二重結合のところで構造が曲がっているものと、曲がらず全体がまっすぐになっているものがあります。まっすぐになると常温で固まりやすくなります。曲がっている方を「シス型」と言い、まっすぐな方は「トランス型」と言います。
つまり、脂肪酸のうち、炭素の二重結合の入ったものが不飽和脂肪酸であり、さらにそのうち二重結合が曲がらずにまっすぐなものは「トランス型不飽和脂肪酸」です。これを略して「トランス脂肪酸」と呼んでいるわけです。
油を硬化するときにできてしまうトランス脂肪酸
──なぜ、トランス脂肪酸が人々の関心を呼ぶようになったのでしょうか?
江崎 「トランス脂肪酸が多く含まれている食品をたくさん食べる人の間で心筋梗塞が増えている」というデータが米国や欧州で報告され、「トランス脂肪酸の摂取は怖いのでは」と言われだしたのです。
ただし、心筋梗塞が増えたことの原因がトランス脂肪酸にあるとは言い切れません。トランス脂肪酸を体に取り込んでいる人は、その食品にトランス脂肪酸とともに含まれるべつの物質を取り込んでいて、その物質が心筋梗塞を増やす真の原因であることもありえるのです。
また、トランス脂肪酸の含まれる食品を買う人びとの生活環境や健康面があまり良好ではないという原因も考えられます。
仮に、トランス脂肪酸を多く含んだ食品を人びとに食べ続けてもらい、心筋梗塞になりやすいかを調べれば、原因かどうか突き止められるかもしれません。しかし、それは人体実験になるのでできません。本当のところは、なんとも言えないのです。
──心筋梗塞以外では、どんな病気との関係があると言われているのですか?
江崎 慢性的な炎症との関係が言われています。また、肥満との関係があるとの研究結果もあります。一方で、糖尿病やがんとの関係ははっきりしていません。
──なぜトランス脂肪酸が生じるのでしょうか?
江崎 自然界ではトランス脂肪酸は多くありません。例えば、植物も不飽和脂肪酸を作りますが、そのほとんどがトランス型でなくシス型です。
しかし、工業的な過程でトランス脂肪酸が作られてしまうことがあるのです。不飽和脂肪酸を多く含む油脂に熱を加えて水素を添加すると飽和脂肪酸になり、これで硬い油脂が作られます。これは「ショートニング」と呼ばれる食用の油脂です。マーガリンと同じですが、水分が0.5%以下しかありません。バターより安く済むのでしょう、ハンバーガー、ピザ、フレンチフライ、チキンナゲットなどのファストフード、ケーキ・ペストリー類、スナック菓子などによく使われます。
油脂を硬くするため飽和脂肪酸を作ろうとしてうまくいかず、化学反応によってトランス脂肪酸ができてしまうことがあるわけです。
ほかに、普通の植物油を作るときにも、脱臭操作でトランス脂肪酸が作られることがあります。しかし、量は少ないのであまり問題視されていません。
また、牛などの反芻動物では、脂肪酸が代謝されると、嫌気性菌という菌の働きでトランス脂肪酸ができます。しかし、その脂肪酸は、工業的につくられてしまうのとは異なる種類のもので、病気の発生の危険はほとんど報告されていません。
トランス脂肪酸の作られ方 (参考:江崎氏の資料をもとに筆者作成)
いろいろなものを普通に食べればよい
──トランス脂肪酸は心筋梗塞の危険性を高めるという話ですが、摂取量が多い人と、少ない人では、具体的にどう異なるのでしょうか?
江崎 米国の「ナース・ヘルス・スタディ」という、米国の女性7万8778人を対象に20年にわたり追跡した調査では、総エネルギーにトランス脂肪酸の占める率が高いほど、心筋梗塞の相対危険度は高まる傾向にあるという結果が出ました。
総エネルギーのうちトランス脂肪酸による摂取量が多い人たち(エネルギー比で2.8%)は、少ない人たち(エネルギー比で1.3%)に比べて心筋梗塞の危険度が1.33倍、増加していました。
──日本人はトランス脂肪酸とどう向き合えばよいでしょう? 食品安全委員会は2012年3月「『食品に含まれるトランス脂肪酸』評価書」を出していますね。そこでは、日本人のトランス脂肪酸の摂取実態として「大多数は世界保健機関(WHO)の目標である、総エネルギー量の1%未満を下回っている。通常の食生活では、健康への影響は小さい。ただし、脂質に偏った食事をしている人は、留意する必要がある」と結論しています。これをどう見ますか?
江崎 日本の大部分の人は、トランス脂肪酸を含む食品を食べている量が少ないということです。ただし、たくさん食べている人がいないということでもないので、その人たちは注意が必要だということです。
日本人は、欧米人に比べて心筋梗塞の発症率は低い方です。総エネルギーのうちトランス脂肪酸が占める割合の平均も1%に届かず、欧米の人々より低い状態にあります。
これらのことを考えると、トランス脂肪酸のインパクトはさほど強いものではないと言えます。喫煙者と非喫煙者を比べたときの心筋梗塞の相対危険度は5倍にもなるので、例えば喫煙者は喫煙を心配した方がよいでしょう。
しかし、トランス脂肪酸については、喫煙と違って、自分の努力で防ぐことができないという問題点はあります。いま、日本で売られている食品ではトランス脂肪酸の含有量に大きな差があります。0.6%と、ほとんど含まれていない食品もあれば、13%も含まれている食品もあります。
私は、トランス脂肪酸の含有量が多い食品材料をつくっている企業に、量を減らすようにしてもらえば、大きな問題にはならないと考えています。
──表示を義務化するという動きもありますね。
江崎 その方法もありますが、一般の消費者がそこまで読みこめるかということがあります。カロリー、ナトリウム、それに飽和脂肪酸の量。これくらいの表示にとどめないと、表示が複雑になると思います。
──なおもトランス脂肪酸のことが気になるという人は、どうすればよいでしょうか?
江崎 いろいろなものを食べるということです。シュークリームひとつをとっても、毎日同じメーカーのものを食べるのでなく、いろいろなメーカーのものを食べれば、トランス脂肪酸の含有量が多いシュークリームばかりを食べ続けるという状況を避けることができるでしょう。
人間の習性としては、同じものをそう食べ続けることもないと思いますので、そこまですることもなさそうな気もしています。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38938
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