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米国のニクソン大統領が「ガンとの戦争」を宣言してから30年以上が過ぎた。この“戦い”で人類はいくつかの重要な勝利をおさめた。例えば絶望視されていた小児ガンの中には生存率が85%まで上昇したものもある。他の悪性腫瘍でも,少なくとも進行を食い止められる新薬の開発により,患者は長期間,生存できるようになってきた。例えば2001年に慢性骨髄性白血病の治療薬として承認されたグリベックは,臨床の場で大きな成功をおさめた。この薬のおかげで症状が和らいだ患者は多い。だが,多くの報告は慢性骨髄性白血病が完治したわけではないことを示している。悪性腫瘍細胞の予備軍ともいうべき細胞が根絶されていないので,ガンが根治したとは言えないのだ。
従来は体内に少しでも腫瘍細胞が残っていれば,ガンが再発する危険性があると考えられてきた。そのため現在の治療法はできるだけ多くのガン細胞を殺すことを重視している。だがこの方法が成功するかどうかは非常に行き当たりばったりで,最も一般的な固形ガンが進行した場合,患者の予後は改善できていない。
さらに現在では,慢性骨髄性白血病やいくつかのガンでは,新たなガン組織を作る力を持つ腫瘍細胞はガン組織中のほんの数%しかないことがわかってきた。このことから,これらの特殊な細胞だけを取り除くことができれば,より効果的にガンを根絶できると考えられるようになった。これらの細胞は新たなガン細胞の供給源であると同時に,腫瘍の悪性化の原因でもある可能性が非常に高いため,「ガン幹細胞」と呼ばれている。だがそれだけではない。ガン幹細胞とは文字通り,かつては正常だった幹細胞や,その子孫細胞で未分化な段階にある細胞が悪性化したものだと考えられているのだ。
悪性化した少数の幹細胞がガンの原因であるというアイデアは新しいものではない。幹細胞の研究は1950年代から1960年代にかけての固形腫瘍や血液ガンの研究から本格的に始まったとされる。正常なプロセスが狂うと何が起こるのかを調べることによって,正常な組織の形成と成長にかかわる多くの基本原則が明らかになった。
現在では幹細胞研究がガンの解明に役立っている。これまでの50年間で,正常な幹細胞のふるまいや幹細胞が分裂してできる子孫細胞の分化を制御するメカニズムがかなり詳しくわかってきた。またこれらの新しい発見をもとに,正常組織中の細胞に階層性があるように,腫瘍組織中にもガン細胞の階層性があることがわかった。
これらの事実は,暴走を始めた幹細胞もどきの細胞(ガン幹細胞)が多くのガンの原因だという説を裏付ける強力な証拠となっている。これらのガン幹細胞に的を絞って破壊するには,正常な幹細胞が悪性化する過程を解明する必要がある。
人体はいろいろな器官や臓器,組織が集まってできており,そのそれぞれが生命の維持に欠かせない機能を果たしている。とはいえ,体組織を作りあげている個々の細胞の多くは寿命が短い。今あなたの身体をおおっている皮膚は1カ月前と同じものではない。表面の細胞が剥がれ落ちて入れ替わっているからだ。腸の上皮は2〜3週間ごとに入れ替わり,血液の凝固を担う血小板の寿命は約10日だ。
ほとんどの組織では,このように新旧の細胞が入れ替わることで,細胞の数を一定に保っている。細胞数を維持するメカニズムは身体中どこをとっても同じで,実際にすべての多細胞生物で共通している。このメカニズムの大もととなっているのは少数の幹細胞だ。寿命の長い幹細胞は新たな細胞を補充する生産工場として働いている。組織などで機能を担う細胞ができる過程は厳密に制御されており,幹細胞からできる子孫細胞は細胞分裂をするたびに特殊化(分化)が進んでいく。
https://nikkeibook.com/science/english_read/bn200610.html
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