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http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20140110-00047008-diamond-nb
ダイヤモンド・オンライン 2014/1/10 18:30 橘玲
2014年はどんな年になるのだろうか。
予想はたいては当たらない(より正確にいえばコイン投げと同じで半分くらいは当たる)が、人間は未来を予測する動物でもあるのでいくつか気になることを書いておきたい。
● 経常赤字による国債の金利上昇が現実に?
アベノミクスによる円安・株高で威勢のいい予想が並ぶ日本経済だが、こういうときこそ負の側面にも留意しておきたい。
株価の上昇が円安によるものということはほぼ異論がないだろう。トヨタを筆頭に自動車メーカーは過去最高の利益を計上し、国際競争から脱落しつつあった電機メーカーも息を吹き返した。
だが輸出産業が活況を呈する一方で、日本経済全体では10兆円を超える大幅な貿易赤字になっている。1ドル=120円前後の“円安バブル”だった2006〜07年でも貿易収支はずっと黒字で、「日本が貿易赤字になることはあり得ない」といわれていたことを思えば隔世の感がある。
貿易赤字は原発事故による火力発電燃料の輸入増大によるものとされるが、これだけでは大きな赤字は説明できない。問題は、競争力の高い一部のメーカーを除いて、円安でも輸出が思ったほど伸びていないことにある。国内産業の空洞化によって円安メリットは薄れているのだ。
円安になると、メーカーは手元にある製品を(円建てでは)より高い値段で売れるから利益を容易に確保できる。だがその後、原材料費や燃料費が高くなると製造コストが上がって利益は圧縮される。このように円安には利益を先取りする即効性があるが、その効果はそろそろ切れつつある。
昨年の株価上昇は、円安効果と公共事業の増加、消費税増税前の駆け込み需要でほぼ説明できる。そう考えれば、4月以降に日本経済のほんとうの実力が試されるときがくるだろう。
貿易赤字の拡大によって、昨年度は単月で経常収支が赤字になることもあった。「たとえ貿易赤字になることがあっても、分厚い所得収支の黒字があるのだから経常収支が赤字になるなど荒唐無稽だ」というのが専門家の合意だったことを思えば、日本経済に大きな転機が訪れたことは間違いない(経常収支≒貿易収支+所得収支)。
もちろん国際収支における貿易「赤字」や経常「赤字」は損失ではない。日本が「失われた20年」で膨大な「黒字」を貯め込んでいたことからわかるように、国際収支と景気との関係は単純な因果論では説明できないが、それでも、産油国や資源国に貯蓄を流出させながらインフレにすることで「日本経済は復活する」というシナリオはかなりのあやうさを秘めている。
経常収支が赤字化することのもうひとつの問題は、国債の国内消化に支障を来たす怖れがあることだ。これはマクロ経済の貯蓄投資バランスが概念上、経常収支と一致するためで、経常収支が黒字だと、国内の貯蓄だけで新規に発行される国債をすべて買うことができる(「日本経済は破綻しない」という論者はずっとこの理屈を振りかざしていたが、いまは口を閉ざしてしまった)。
それに対して経常収支が赤字になると、その分だけ海外から資金が流入することになる。日本経済の問題は国内に投資機会がないことで、こうした資金は国債の購入に向かうことになるだろうが、そのときは相応の金利を求められるだろう。外国人投資家による日本国債の保有割合が高くなることで、現在のような日銀と国内金融機関との予定調和的な低金利の維持(国債価格の高値安定)が難しくなり、国債市場を動揺させるかもしれない。
もともと「異次元緩和」の狙いはデフレによって高くなっていた実質金利を引き下げることだった。円安による物価の上昇で、現在は日銀の目論見どおり実質金利がマイナスになっているようだ。
国債暴落といった極端なことが起こらなくても、実質金利がマイナスの状態が長期間続くことは考えにくく、このままだといずれ金利はゆるやかに上がってくる(あるいはふたたびデフレに戻る)。日本経済は90年代末から超低金利が常態化しており、私たちはそれを当然の前提にしているから、仮に金利が2〜3%上がったとしても社会に大きな影響をもたらすだろう(変動金利で住宅ローンをめいっぱい借りているひとは破綻してしまう)。
だとしたら、今年は株価や為替よりも金利の動き(国債市場の動向)に注目すべきだ。年末までには、アベノミクスの成否が明らかになっているのではないだろうか。
● 米国株価は世界経済といっそう連動
アメリカ経済は2012年末に「財政の崖」問題で「国債がデフォルトする」「ドルが暴落する」などといわれていた。この問題はオバマケア(医療保険制度改革)をめぐって再燃し、昨年10月には政府機関閉鎖という異常事態を招いたが、心配されていた市場への影響はなく米国株は史上最高値を更新する活況となった。
これについてはFRB(連邦準備制度理事会)のなりふりかまわぬ量的緩和政策や「シェール革命」によるエネルギーコストの低下などさまざまな要因があるだろうが、より構造的な変化として、米国の株価と米国経済のリンクが弱まっていることがある。
米国の株式市場を時価総額でみれば、アップル、マイクロソフト、アマゾン、グーグルなど、上位に並ぶのはグローバル企業ばかりだ。彼らはたとえアメリカの国内経済が低調でも、世界経済が拡大しているのなら、世界全体から収益を得ることができる。そう考えれば、アメリカの失業率が高くても株価が下落せず、金融緩和が持続して金利が下がるとの思惑で株価が上昇したのは理にかなっている(低金利で資金調達しながら世界市場から利益を得られるし、収益還元法でも金利低下で理論株価は上昇する)。もちろんアメリカは世界最大の市場だから、国内景気がよくなれば株価はさらに上がるだろう。
経済のグローバル化の進展で、株式市場と一国の経済を結びつける理屈は意味を失った。米国の株価は世界株指数とほぼ同じ動きをしており、アメリカ国内の景気だけを見ていても株式市場の実態はわからない。逆にいえば、アメリカ市場に投資することは世界市場に投資することでもあるのだ。
● 何世代かかけて欧州はひとつの「国」に
ヨーロッパ経済はギリシア危機があとを引き、1年前は誰もが暗い見通しを語っていた。3月にはユーロ加盟国であるキプロスが金融機関の不良債権で財政破綻し、EUの支援と引き換えに大口預金者の資産が没収された。このとき、ドイツの株価が史上最高値を更新し、1ユーロ=140円を超えるユーロ高になると予想できたひとはほとんどいなかっただろう。南欧の政治・経済は相変わらず不安定だが、ECB(欧州中央銀行)がユーロの守護神となったことで国債価格は安定した。
今年になってバルト3国のひとつであるラトビアがユーロを導入したように、周辺国のユーロ参加もふたたび加速してきた。実質的なユーロ圏は東ヨーロッパから北アフリカの一部にまで広がっており、この流れはこれからも変わらないだろう。自国通貨をユーロにすることはできても、そこから脱落して自国通貨に戻すのはものすごく大変なのだ。
だがその一方で、財政がばらばらのまま通貨だけを統一するというユーロの構造的な欠陥は解決していない。ユーロ圏の主要銀行の管理をECB主導で一元化する銀行同盟も、加盟国の恣意的な国債発行を制限するユーロ共同債も実現は容易ではなく、大きな破綻はないものの景気の低迷と高い失業率は続くだろう。移民排斥を求める極右政党の台頭や独立(自治権獲得)運動などの政治的な混乱を起こしつつ、何世代かかけて欧州はひとつの「国」になっていくのではないだろうか。
ちなみに、ベルギーの南北問題やスペインのバスク・カタルーニャ、あるいはイギリスのスコットランドで「独立」運動が活発化しているのは、ユーロ(欧州)という枠組みをひとびとが受け入れるようになったからだ。より大きな秩序(帝国)が姿を現わしたのなら、もはや国家の枠組みにとらわれる必要はない。独立を目指すひとびとはEUとユーロを支持している。
それに対して極右と呼ばれる政治勢力は、シュンゲン条約でEU域内の移動が自由になったことで移民が流入し、失業率の増加や治安の悪化につながっていると主張している。“なわばりバイアス”を利用したこうした主張はつねに一定の支持を得るだろうが、EU解体を招くほどのちからは持たないだろう。
ヨーロッパを旅行していて感じるのは、人種の多様化と同時に、ひとびとがバイリンガル(マルチリンガル)化していることだ。いまでは母国語と英語のほかに、フランス語やドイツ語、イタリア語などを(片言でも)話すひとは珍しくない。ヨーロッパ社会における「格差」とは、母国語しか話せないモノリンガルな層と、マルチリンガルなコスモポリタン層の間にあるのかもしれない。
● “人類史上最大”の中国不動産バブルはそろそろ終焉?
中国は2012年11月に習近平政権が発足したものの、経済の減速が明らかになって、不動産バブル崩壊が危惧されている。昨年6月には短期金利が13%台まで跳ね上がり、「影の銀行(シャドーバンキング)」に世界の注目が集まったが、それでも7.5%程度の経済成長を維持できた模様だ(昨年末にもふたたび短期金利が急上昇した)。
中国の地方政府が高金利で集めた資金を不動産開発に投入して債務を膨張させていることや、「鬼城」と呼ばれるゴーストタウンが全国各地にできていることはすでに周知の事実だ。専門家のなかには、「不動産価格はたしかに高いが、無理をしてでもマイホームを買いたい潜在顧客が何億人もいるのだから、経済成長と所得の増大によってじゅうぶん吸収可能だ」というひともいるが、現在の綱渡りをはたしていつまで続けられるのだろうか。たしかに私たちは、ひとつの省がひとつの国家に匹敵する中国の巨大さを正しく把握できていないのかもしれないが、それにしても中国の不動産市場は異常だ。
[参考記事]
●中国の地方都市・合肥で起きている不動産バブルの実態
●中国・海南島、「中国のハワイ」に忍び寄るリゾートバブルの終焉
●中国・成都に見る、異常な不動産バブル発生のメカニズム
“人類史上最大”ともいわれる中国の不動産バブルについてはこれまで何回か書いたが、私たちはこの壮大な物語の結末をそろそろ目にすることになるのではなかろうか。
● 悲観しすぎす、かといって楽観的になりすぎず…
昨年は投資家にとって幸福な年だったが、長期的に見れば実は株価はそれほど上がっていない。
米国株は1980年から2000年までの20年間で10倍以上になったが、その後は13年かけて1.6倍にしか上がらなかった。年利回りで3.7%で、その間にリーマンショックがあったことを考えると、株式は損はしないまでもけっして割のいい投資とはいえない。
その一方で、リーマンショックの直後には「グローバル資本主義は終わった」と叫ぶひとがたくさんいたことを思えば、それがたった5年で回復したのだから市場は強靭だったともいえる。
未来をいたずらに悲観することはないが、だからといって楽観的でいることもできない。そんな日々がこれからもしばらく続くのではないだろうか。
<執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>
作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。
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