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食料配布所を訪問するオバマ大統領。日本もアメリカの後を追いかけるのか(AP/アフロ)
貧困大国アメリカを追いかける日本 国民の3分の1が、貧困層やその予備軍に?
http://toyokeizai.net/articles/-/28041
2014年01月10日 中原 圭介 :エコノミスト 東洋経済
はたしてアメリカは、ほんとうにインフレで幸せになったのでしょうか。
アメリカは国民が金融資産の半分以上を株式でもっている国ですから、単純に考えれば、「株価が上がることは、国民の金融資産が増えること」を意味しています。しかし実際には、一握りの富裕層が金融資産の平均保有額を押し上げているだけで、国民の大半は金融資産をあまりもっていないという状況にあります。
■株価を上げることで、景気回復を図るのは邪道
株価が上がり続ける一方で、国民の所得はなかなか増えず、しかも物価が上がり続けているということは、名目以上に実質的な所得は減る傾向にあり、国民生活が苦しくなりつつあることにほかなりません。
FRBのバーナンキ議長は「原因」と「結果」を取り違えました。景気回復の結果として株価が上がるのが経済の正しい道筋であり、株価を上げることで景気回復を図るのは邪道というほかありません。邪道な政策ではどこかに無理が生じるものです。その副作用として、格差の拡大がより深刻になったのです。
「本当の景気回復」とは、株価や企業収益ばかりが高くなり、格差拡大を進めることでは決してありません。国民の生活が向上し、国民が景気のよさを実感できることではないでしょうか。アメリカのインフレ推進派の経済学者は、現実を直視して、もう一回考え直す必要があります。
もちろん、日本のリフレ派の経済学者も考え直すべきです。アメリカと同様に、通貨安や株高を先行させたとしても、「ほんとうの景気回復」など達成されるわけがないからです。むしろその副作用として、アメリカのように家計が疲弊してしまう可能性が高いことはいうまでもありません。
「株価の上昇だけではない。金融緩和は低金利を促し、企業の設備投資も増やすはずだ」。リフレ派はこう反論するかもしれません。確かに、日銀が2013年4月から行なっている異次元金融緩和後の4〜6月期のGDPでは、民間設備投資は前期比で1.3%増と6四半期ぶりにプラスに転じました。
しかしそれは、建設業が26.0%増、不動産業が20.1%増と大幅な伸びを示して全体を引っ張ったためで、大型補正予算における公共工事の増加によるものが大きいのです。肝心の製造業は9.1%減と3四半期連続で減少しました。設備投資増加の中身は、じつは寂しいものなのです。
■円安でむしばまれる家計
2012年の対ドル平均為替レートである79円から100円前後まで円安が進んだことにより、期待されたように輸出量が増えたかといえば、貿易統計の推移をみているとそうでもないことがわかります。1年以上も前年割れを続けていた輸出数量は、2013年7月にようやく前年比で1.8パーセント増、8月も1.9%増となりましたが、9月は再び1.9%減とマイナスに転じ、一進一退が続いています。
円安は輸出企業の採算にはプラスですが、輸出数量が伸びないのでは、設備投資が増加する見込みはきわめて薄いでしょう。量的緩和をし、円安にしたところで、顕著な需要の増加が見込めなければ、賢明な日本企業が設備投資に動くはずがありません。
雇用環境は若干の回復を見せていますが、これは量的緩和の成果ではないでしょう。2013年7月の完全失業率は3.8パーセントで、4年9カ月ぶりの低水準となりました。ここでも数字だけを見たら、雇用環境が大幅に改善しているように見えます。ところが、被雇用者数の増減を雇用形態別でみると、契約社員、パートタイマーをはじめとする非正規の雇用者数が2013年初めから大きく増える一方で、正規の雇用者数は減少傾向をたどっています。
それを裏付けるように、4〜6月期の労働力調査でも、非正規雇用で働く人は1881万人となり、四半期ベースで2002年の集計開始以来最多となっています。要するに、アメリカと同じように、日本でも雇用の質の劣化が始まっているかもしれないのです。
問題の家計の疲弊について話を戻すと、値上げはコスト・プッシュ型(コスト高による値上げ)とデマンド・プル型(需要増による値上げ)の二つに大別されますが、アベノミクスが招いたのは明らかに前者のコスト・プッシュ型です。
円安の進行が、コスト・プッシュ型の物価上昇をもたらしています。消費者物価を押し上げている最大の要因は、電気代、ガソリン代、ガス代といった輸入エネルギー価格の上昇にあるからです。円安は日本の家計を確実に蝕みはじめているのです。
象徴的なのは、国が買い取る価格がそのまま国内価格に反映される輸入の小麦価格です。すでに2013年4月に9.7パーセントの引き上げをしているにもかかわらず、同年10月にはさらに4.1パーセントもの引き上げが行われました。
その後もマヨネーズ、ハム、パン、食用油など家庭の必需品の値上げラッシュが続いていますが、結局のところ、日本もアメリカと同じく、物価は上がっても給料は上がらないという悪いインフレになる可能性が高いのです。給料が上がるのは、一部の大企業だけでしょう。
おまけに、インフレは貯蓄好きな日本国民の貯金を実質的に目減りさせることになります。その一方で、外国人投資家は日本がインフレ国家になることを期待して、日本株の保有比率を高めてきています。
そのせいか、日本企業の株主重視の傾向が強まってきており、労働分配率を引き下げて、利益率を引き上げようと考える企業も増えていく可能性があります。配当増や自社株買いで株主に報いようと強く考える企業が増えれば増えるほど、労働者を「使い捨て」にする企業が増えるリスクは高まっていくでしょう。
国民の暮らしはだんだん悪くなる一方で、一握りの金持ちや大企業はまったく痛痒を感じていません。その先にあるのはおそらく、「アメリカ型社会」の到来です。安倍首相と黒田日銀総裁は、本人たちは意識していないかもしれませんが、日本をそのような社会に導こうとしています。
国民の6人に1人が貧困層、国民の3人に1人が貧困層および貧困層予備軍に分類されるアメリカ、人口の2人に1人近くがワーキングプアの状況にあるアメリカは、まさに「貧困大国」です。そのいびつな姿が、日本の未来になることを決して許してはいけないと、私は強く思うのです。
1月に出版される新刊『インフレどころか世界はこれからデフレで蘇る』(PHP研究所)では、リフレ派が反論や反証できないほど、日本にとってこれ以上の円安が害であることを証明しています。昨年12月に出版された『トップリーダーが学んでいる5年後の世界経済入門』(日本実業出版社)とともに、興味のある方はぜひご覧いただければと思います。
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