04. 2014年1月09日 09:47:20
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2013.12.20[マクロ経済] メディア情報 財政は持続可能か、消費税率、53%の可能性も 日本経済新聞 「経済教室」2013年12月11日掲載 R. Anton Braun International Senior Fellow R. Anton Braun [研究分野] Macroeconomics〈ポイント〉 ○公的債務は日本の将来の繁栄に大きな障害 ○障害は今後もますます際限なく大きくなる ○将来に繁栄の道残すなら大規模財政改革を 安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」が日本経済を刺激している。2013年にはインフレ率と経済成長率が上昇し、日経平均株価がここ1年で50%余り上昇したことに表れているように、楽観的な見方が強まっている。また、安倍政権は将来の健全な生産性の伸びの基盤になり得る構造改革の野心的な青写真を提示した。 こうした成功にもかかわらず、日本の将来の繁栄に向かう道に立ちはだかる体重800ポンド(約360キロ)のゴリラのような大きな障害物を、筆者は深く懸念している。それは公的債務である。 このゴリラには二つの特徴がある。一つ目はその巨大さだ。日本の公的債務の国内総生産(GDP)比率は12年に200%を上回った。これほど高い債務GDP比率は経済の足を引っ張る。大量の国債を民間部門に保有してもらうために、政府はリスク調整後のリターンで民間の投資機会よりも高い実質リターンを提供しなければならない。これによって民間投資がクラウディングアウトされて(締め出されて)しまう。 家計(個人)や金融機関は、企業への貸し出しよりも国債の保有を選ぶ。また企業は、リスクの高い投資よりも貯蓄を選好する。政府債務の規模が膨大であることを考えれば、日本の非金融企業が、借り入れよりも貯蓄の方が多い「貯蓄家」であることは驚くにあたらない。 政府債務はまた資源を若者から高齢者に移転する。国が増税する代わりに借り入れ(国債)を増やすことで、一部の高齢者は将来の高い税金を免れる。増税の前に死亡してしまうからだ。高い税負担を余儀なくされるのは、残った若者やその子孫だ。日本におけるこのような移転の規模は異例の大きさだ。 米南カリフォルニア大学のダグラス・ジョインズ教授と筆者の共同研究による予測では、1956年以前に生まれた人は、生涯において日本政府に支払った税金と社会保険料の合計よりも、公的年金の形で受け取る純給付の方が多い。最も恩恵に浴するのは第2次世界大戦中に生まれた人たちだ。彼らは、生涯の純給付が2300万円にのぼる。 これとは対照的に、57年以降に生まれた人たちは税金と社会保険料の支払いが給付を上回る。66年から2039年の間に生まれた人たちは、給付よりも生涯に支払う額の方が1500万円以上多くなる。最も大きな影響を受けるのは76年から2005年の間に生まれた人たちだ。彼らの場合には、生涯の支払い超過額が3000万円を超える。 ゴリラの二つ目の特徴は、今後もますます際限なく大きくなっていくことだ。日本は現代史上最も急速な人口構成の変化を経験している。日本の総人口に占める65歳以上の比率は、90年の12%から12年には24%に上昇し、2050年には40%に上ると予想されている。アベノミクスによって将来の平均成長率2%を達成できたとしても、債務のGDP比率は上昇を続ける。 問題は、政府の医療支出と公的年金支出がGDPよりもはるかに急ピッチで増えていくことだ。 私たちの予測によると、消費税率を14年に8%、15年に10%に引き上げるという現行の計画は、債務のGDP比率を安定させるには十分ではない。ほかの措置がなければ、12年に150%近かった純債務のGDP比率は2038年に350%へ上昇する。この水準は高すぎて、その時点で直ちに財政を再建しようとすれば、明示的、あるいは暗示的な国債の債務不履行(デフォルト)が必要になるだろう。デフォルトを回避するには消費税率を100%に引き上げる必要がある。そのようなあまりにも大きな痛みを伴う選択をするくらいなら、政府はデフォルトを選ぶだろう。 この障害物を取り除くには、日本の高齢化に関連した中期的な財政問題を解決する必要がある。人口動態が高い精度で予測可能であるため、これらの問題の性格は、そこそこの信頼性をもって予想できる。12年から2050年までの間に、従属人口比率(労働年齢人口に占める65歳以上の人口の比率)は0.4から0.8に倍増するだろう。同比率は、2077年に0.93で頭打ちになるまで上昇を続けるとみられる。 従属人口比率が上昇すれば、医療や介護などに関連した政府支出も増加する。2050年には医療支出がGDPの14%を占めるようになり、公的年金支出は同15%に達すると予想される。 財政不均衡に対応する最も直接的な方法は、増税か歳出削減、またはその両方だ。両方の可能性を検討してみた。 検討した解決法の一つは、給付は変えずに従属人口比率の上昇に見合うだけ消費税率を引き上げることだ。このためには消費税の増税を前倒しする必要がある。例えば16年に政府純債務のGDP比率を現行の水準付近で安定させるためには、16年から18年の間に消費税率を16%に引き上げる必要がある。ただし、これで終わりではない。債務のGDP比率を中期的に2倍で安定させるためには、2026年から2077年の間に消費税率を最高53%まで徐々に引き上げる必要がある。 もう一つの解決法は高齢者に対する給付の削減だ。退職者のための医療支出と介護支出が将来の財政不均衡の最大の要因だ。現在、70歳以上の高齢者の医療費自己負担率は労働年齢の人よりも低い。70歳以上の自己負担率を労働年齢の人と同じ30%に引き上げ、介護保険の自己負担率(現行10%)も30%に引き上げることは、政府債務の安定化と縮小に有効な方法だ。 ただ、自己負担が一気に増えると、それに対応するため貯蓄を増やしたり仕事に戻ったりするのが難しい高齢者にとってはたいへんな重荷になる。その代わりに、以下のようなシナリオを検討した。2051年に70歳以上の医療費自己負担率と介護保険自己負担率が30%に増えると政府が事前に発表するのである。これによって、勤労者は退職後の自己負担の増加に備えることができる。 高齢者の自己負担率引き上げは、経済の障害物を取り除く有効な方法だ。自己負担率引き上げの政府の約束が信用されれば、若い勤労者はより一生懸命働き、貯蓄を増やすだろう。これによって経済は活気づき、政府の税収が増える。この措置がとられるとすぐに政府債務のGDP比率は安定化する。短期的には10%を超える消費税の増税は必要なくなる。消費税率10%で債務のGDP比率は2050年まで安定する。従属人口の増加に伴って中期的にはさらに消費税増税が必要だが、それでも最高29%で済む。 これらの戦略はいずれも若者に深刻な影響を及ぼす。増税と歳出削減のどちらを実施しても、日本の若者は過去の財政の大盤振る舞いのつけから逃れることはできない。若者も、その子供も生涯重荷を背負うことになる。こうした展望を考えると、低い出生率や、若者の起業意欲の欠如は驚くにあたらない。 巨額で膨張する一方の日本の国債の90%余りは国内で保有されている。これは、財政不均衡をどのように管理していくかについて、いかなる決定を下すにしても、その結果勝者になるのも敗者になるのも日本人であることを意味する。この障害物は、日本社会の結束にとって根本的な脅威となる。 消費税率を8%に引き上げるという最近の決定は、正しい方向への一歩だ。しかし、日本が将来の世代に繁栄への道を残したいのであれば、はるかに大規模で野心的な財政改革が早急に必要である。 なお、本稿で示した意見は筆者の個人的見解であって、米連邦準備制度の意見ではない。 R. Anton Braun カーネギーメロン大博士。専門はマクロ経済学、財政・金融政策。東大教授などを経て現職 http://www.canon-igs.org/column/131220_braun.pdf 014.01.07[マクロ経済] メディア情報 医療体制の強化に求められる大規模医療福祉事業体の誕生 「MMPG医療情報レポートVol.111」に掲載 松山 幸弘 研究主幹 松山 幸弘 [研究分野] 財政・社会保障 人口減少に伴う医療費減少を背景に医療法人合併の機運は高まっている 2006年医療法改正で、医療法人の非営利性と公益性を徹底するため、創設された社会医療法人は13年7月1日時点で203に増えている。このうち178法人の財務諸表を収集し集計した結果、診療報酬が底と言われた09年度でも全体の経常利益率は3.6%、プラス改定があったこともあって10年度は5.4%に上昇した。11年度の経常利益率は4.9%と若干低下したが、業績好調を背景に事業拡大に向けた先行投資を行なったところが多かったことが理由として挙げられる。 社会医療法人を巡る最近の注目すべき動きとして、過疎地の医療経営者から、「複数の医療法人が合併し、社会医療法人化することで地域医療の崩壊を食い止めたい」という趣旨の相談が寄せられるようになったことである。その背景には、地域によっては人口減少による医療費減少がすでに始まっていることがある。・・・
全文を読む→ 医療体制の強化に求められる大規模医療福祉事業体の誕生PDF:543.7 KB http://www.canon-igs.org/column/140107_matsuyama.pdf 2014.01.08[マクロ経済] メディア情報 減反見直しの愚かさ 週刊農林2014年1月5日号に掲載 山下 一仁 研究主幹 山下 一仁 [研究分野] 農業政策 今回の減反廃止報道には驚いた。政策ではなく、報道に驚いたのである。10月24日、私はワシントンにある全米屈指のシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)のシンポジウムで登壇し、アベノミクス第三の矢の農業政策が掲げる6次産業化、輸出振興、農地の中間管理機構は全て過去に失敗した政策のリメイクに過ぎず、減反という戦後農政の岩盤中の岩盤を崩さない限り、日本農業に将来はないと主張していた。その翌日、空港で日本の新聞を開くと、減反廃止の見出しが、踊っていた。本当なら安倍政権の大英断だ。私の長年の主張が実ったのかと思った。 しかし、帰国してから、農業界が平穏なことに気付いた。減反廃止なら米価の大幅引下げである。JA農協や自民党の農林族が騒がないわけがない。マスコミ報道とは逆に、自民党や農林水産省の担当者は、生産調整は大事だとか、米価は下げないとか主張している。 今回の政策変更を正確に報道しているのは、日本農業新聞だけだ。不勉強な主要紙などの記者達と異なり、JA農協関係者は、今回の政策変更の意味を十分理解している。減反の本質は高米価の維持であり、その廃止は米価の大幅な引き下げである。JA農協の存立基盤を脅かすようなことを自民党がするはずがない。 今回の政策変更の内容を見ても、2010年から民主党が導入した戸別所得補償を廃止するだけである。自民党は選挙公約を実施しているだけだ。マスコミは生産目標数量の廃止を大げさにとらえているが、現在これと唯一関連している戸別所得補償がなくなれば、これもなくなるだけの話だ。戸別所得補償も生産目標数量もなかった2007年に、マスコミは減反廃止と報道したのだろうか? 2013年に入ってから、マネーとは無縁の私に、日本の農業や農政について、海外の投資家から面会や講演の依頼が来るようになった。しかし、第三の矢に評価するところがなく、アベノミクスに対する海外投資家の目が覚めつつある。放っておくと、日本売りになりかねない。これを避けるために、今回の政策変更を大きく売り出したいという政権の意向があったのだろう。 しかし、それに飛びついたマスコミの記者達の不勉強もはなはだしい。我々農政に長年かかわった者にとって、「減反補助金」とは、水田に麦や大豆などのコメ以外の作物を作付する場合に、1970年から出してきた補助金を意味する。しかし、今回マスコミは、2010年から民主党が導入した、コメを作付けた水田に交付される戸別所得補償を「減反補助金」などという名称で呼んでいる。言葉や用語にうるさいはずのNHKさえ、「減反交付金」という造語を作りだした。「減反補助金」である戸別所得補償が廃止されるのだから、減反廃止というわけだ。しかし、戸別所得補償が「減反補助金」なら、1970年から2009年まで減反は補助金なしで実施されてきたのだろうか? 若手同僚記者の失点を取り繕うとしたのか、箔付けに農業経済学者の発言を引用しながら、今回の「減反廃止」で米価に下落圧力がかかるという解説記事を書いた、大手経済紙の編集委員もいる。震災の影響やJA農協の価格操作によって米価が高騰した最近2カ年を除くと、2001年から10年間で米価は26%低下した。それと同じことが起こると言うのだ。しかし、これまでのように需要の減少で米価が傾向的に下げることと、減反を廃止して供給が増えて、米価が需給均衡価格へドンと下がるということは、同じではない。引用された農業経済学者も迷惑しているのではないだろうか? 今回の政策変更は、減反の廃止どころか拡充・強化である。1970年から続いている本来の減反面積に対する補助金(減反補助金)は、戸別所得補償を廃止したお金を使って、拡充される。つまり、高米価政策という農政の根幹に、いささかの変更もない。米価が下がらないので、TPP交渉での関税撤廃などできないし、零細な非効率農家もコメ作を続けるので、主業農家が農地を借り受けて規模を拡大することもできない。政府・自民党が、TPP交渉でコメの関税を維持するという主張と減反は廃止しないと言っていることは、整合性が取れている。マスコミが言うように、これが減反の廃止なら、コメの関税の引き下げや撤廃が政府のTPP交渉対処方針になるはずだ。マスコミ報道は支離滅裂である。 当たり前だが、コメ農家にとって、最も作りやすい作物はコメだ。特に、兼業農家にとって、麦や大豆を作るのは大変だが、コメなら簡単につくれる。前回の自民党政権末期の2009年から、作りにくい麦や大豆に代えて、パン用などの米粉や家畜のエサ用などの非主食用にコメを作付させ、これを減反(転作)と見なして、減反補助金を交付してきた。具体的には、農家が米粉・エサ用の生産をした場合でも、主食用にコメを販売した場合の10アール当たりの収入10.5万円と同じ収入を確保できるよう、8万円を交付してきた。安いエサ米などを作っても高い主食用のコメを作ったと同じ農家手取りが確保できるようにしたのである。 それでも米粉・エサ用の需要先が少ないので、今回補助金を10アール当たり最大10.5万円にまで増額し、米粉・エサ用の米価をさらに引き下げて需要・生産を増やそうとしている。これは主食用米の販売収入と同額である。もし農家が主食用の収入と同じ収入で満足するなら、農家は米粉・エサ用のコメをタダで販売することができる。補助率100%の補助金である。実需者は輸送経費等だけを負担すれば、米粉・エサ用にコメを入手することができる。輸入される小麦やトウモロコシよりも、コメの方が安くなるのだ。世界的にみても、トウモロコシや小麦などの他の穀物と違い、コメがエサとして使われることはほとんどない。価格が高いからだ。今後日本の牛や豚は税金の塊のようなエサを食べることになる。 もし農家が米粉・エサ用のコメ販売でわずかでも収入を得れば、主食用よりも米粉・エサ用のコメを作った方が有利となる。現に農林水産省の資料によると、1.1ヘクタールをエサ用のコメに転作すれば、主食用の所得は114.5万円減少、エサ用のコメの所得は178.5万円の増加、ネットで64万円増加することになる。そうであれば、主食用のコメ生産は減少して米価は上がり、消費者家計への打撃は大きくなる。これは"戦後農政の大転換"どころか、自民党への大政奉還による、食管制度時代の高米価政策への"農政復古"である。 減反政策の下で収量増加の品種改良がタブーだった国や都道府県の試験研究機関が、精一杯エサ用の多収米を作っても、収量はせいぜい10アールあたり700〜800キログラムくらいだ。しかし、民間企業は主食用でそのくらいの収量のコメを開発している。このコメで1トンの単収を実現している農家もある。単収680キログラムで、主食用に販売した収入と同じ10.5万円の減反補助金をもらえるなら、エサ米を作った方が有利だ。主食用米価の低下を恐れるJA農協は、この品種を採用しようとしなかった。しかし、エサ用として作るなら米価は下がらないので、JA農協も採用するだろう。 兼業農家がエサ米を作れば、かれらが農地を手放して主業農家に農地が集積するという、"中間管理機構"の前提条件が崩れる。農林水産大臣も経験した渡辺美智雄氏は、米価を上げて減反をするという政策矛盾を、かつて「クーラーと暖房を一遍にかけるようなものだ」と形容した。今回の減反見直しと中間管理機構も同じだ。農政はクーラーと暖房がお好きなようだ。 さらに、財政負担の増加も問題だ。現在米粉・エサ用のコメ作付面積は6.8万ヘクタールで、減反面積100万ヘクタールの1割にも満たないが、10アール当たり8万円と補助単価が大きいので、トータル2,500億円の減反補助金のうち544億円がこれだけに支払われている。 農林水産省はエサ用に最大450万トンの需要があるとしている。単収700キログラムなら、面積で64万ヘクタールだ。もし10アール当たり10.5万円を払うと、これだけで7,000億円かかる。残りの減反面積を合わせると、減反補助金は8,000億円に達する。減反補助金については、5,500億円もの税金投入の増加となる。 これまで減反補助金と戸別所得補償を合わせて5千億円ほどの税金を使って米価を上げ、消費者に6千億円もの負担を強いてきた。コメ産業は1.8兆円にすぎないのに、トータル1.1兆円の国民負担だ。今回の見直しで、補助金が効きすぎて、エサ用のコメの収益の方がよくなれば、主食用のコメの作付けが減少し、主食用の米価がさらに上がってしまう。そうなると、税金投入の増加とあわせて、国民負担はさらに高まる。消費税を上げるときには、貧しい人の食料品価格が上がるという逆進性の問題が指摘され、食料品の税率を低くするという軽減税率が検討されているのに、国民の主食であるコメの価格については、取り上げる政治家の人がほとんどいないのは奇妙な話だ。 http://www.canon-igs.org/column/macroeconomics/20140108_2292.html
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