http://www.asyura2.com/13/hasan84/msg/702.html
Tweet |
カジノ解禁の問題点、改めて整理〜誘致合戦過熱で自治体に巨額損害、社会問題の恐れも
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20131231-00010001-bjournal-bus_all
Business Journal 12月31日(火)7時48分配信
超党派の国会議員による国際観光産業振興議員連盟(IR議連=通称・カジノ議連)が、カジノ解禁推進法案(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案)を、議員立法で12月3日に国会に提出した。同法案は、来年1月からの通常国会で審議される。
世間では、あたかもこの法案が通りさえすれば、日本でカジノが実現するかのように思われているが、大きな誤解である。この法案は、単にカジノ解禁という政策目標実現に向けた、ごく粗いスケジュールと、ごく基本的な骨格だけを示したものにすぎない。カジノ解禁のための手段、すなわち、どのような制度設計でカジノを解禁するのかという具体的な内容は、今回の法案にはほとんど規定されていない。例えば、どのような考え方に基づき、どのような区域であればカジノを設置してもよいとするのか、という選定基準や評価要素も、カジノを解禁した場合に想定される負の影響への具体的手当ても、一切規定されていない。カジノ解禁の具体的な制度設計は、1年以内をめどとして別に立案されるカジノ解禁実施法(特定複合観光施設区域整備法)においてなされることになっている。
現状のカジノ解禁推進法案のみを前提とすると、「賭博に関連する公正な社会秩序」(カジノ解禁の実質的な正当化根拠)を確保できるかどうかはまったく不透明であり、白紙委任に近い状態で、カジノを解禁するという結論だけを先に決めることになりかねない。たとえるなら、具体的な内容の契約書もなく、どのような構造やデザインの建物が建つかわからないのに、先に高いお金を払って、とにかく巨大な建築物を業者(国)に発注するような状態である。
このように、法案は多くの問題を抱えているが、今回は、法律専門家として、カジノをめぐる各地での住民や自治体を巻き込んだ住民訴訟が多発する恐れという観点から検証したい。
●住民訴訟とは
住民訴訟とは、地方公共団体の住民が、自己の属する地方公共団体の「財務会計上の行為」を適正に保つために地方自治法で認められた制度である。違法な財務会計行為によって自治体が被った損害・損失の補填のため、住民が執行機関としての知事や市長などに損害賠償を求める訴訟が典型例である。住民訴訟は、住民であれば誰でも、自己の個人的な利益とはかかわりなく、監査請求を経て、単独で行うことができる。ここでいう「住民」は、外国人も法人(企業)も含む。しかも、裁判所に納める手数料は、いくら高額の損害賠償を請求しようとも、一律1万3000円だけですむ。
なぜ、住民訴訟が多発する恐れがあるのか。それは、カジノ誘致をめぐって、自治体が極めて多額の費用を支出することになるにもかかわらず、準拠すべき基準がカジノ解禁推進法案に一切規定されていないからである。そこを、カジノ反対派に住民訴訟で突かれる可能性が高い。カジノ解禁推進法案は、我が国で初めて民営賭博を合法化しようとするものであるが、この種の立法について、万人の賛成を得られることはありえない。法案が可決したとしても、反対派は絶対になくならない。住民でありさえすれば、誰でも、わずか1万3000円の手数料で、住民訴訟を提起できるのである。さらにいえば、カジノによって客を奪われることを危惧する近隣の事業者(例えば、パチンコ業者や、カジノがある複合観光施設に入れなかったホテル業者)が、種々の影響を狙って、住民訴訟の提起を後押しすることも考えられなくはない。このような自治体にとっての重大リスクを、以下具体的に説明したい。
●誘致をめぐる死闘〜ほとんどの自治体は負ける
カジノ解禁推進法案では、自治体の申請に基づき国が認定した区域(特定複合観光施設区域)において、国の許可を得た民間事業者がカジノの設置及び運営を行うという建て付けになっている。少なくとも当初は、極めて限定された区域においてのみカジノ施行が認められる方針である。よって、カジノ施設誘致を目指す自治体間の競争は、必然的に熾烈なものとなる。カジノ解禁推進法成立後1年以内を目途とするカジノ解禁実施法の成立を待って、その時点から動き始めるというのでは、その自治体が認定レースを勝ち抜くことはほぼ不可能である。
従って、カジノ解禁推進法案には、カジノ設置区域の選定基準や評価要素は一切規定されていないにもかかわらず、同法案が成立すれば、自治体によるカジノ施設誘致合戦が一気に加熱することとなる。既に全国で20か所以上の自治体や団体がカジノ誘致に手を挙げているが、最終的には、ほとんどの自治体が認定レースに負けることになる。
●誘致にかかる多額の費用、失敗すれば住民に転嫁
カジノ誘致を目指す自治体には多額の費用がかかる。ごく一部を挙げるだけでも、施設周辺のインフラ整備費用、市場性調査・可能性調査・社会経済影響度評価など、自治体による企画・構想や全体計画策定などに必要な諸費用、住民の理解を得るために必要な諸費用、国が要求する認定申請書類の作成に必要な諸調査の実施費用、施行基本方針を策定し、民間事業者からの公募書類を作成するための諸費用、入札手続諸費用、外部コンサルタントや法務アドバイザーとしての弁護士を起用するための費用などが自治体の費用となる(当然ながら、その原資は住民が負担する税金である)。現に、カジノ解禁推進法案が国会に提出される以前の段階においてすら、誘致活動のためにすでに4500万円を超える費用を支出している自治体もある。
認定区域におけるカジノの実際の運営開始までには多くのハードルがあり、(1)自治体が国からカジノ設置区域の認定を受けられなかった場合、(2)自治体が区域の認定は受けられたが、適切な民間事業者を選定できなかった場合、(3)自治体が民間事業者を選定したが、当該事業者が国から許可を得られなかった場合、(4)民間事業者が国から許可は得られたが、資金不足などにより、カジノを含む複合観光施設を実際に運営するに至らなかった場合のいずれにおいても、自治体がそれまでにかけた莫大な費用のほぼすべてが無駄になり、住民には損害だけが残る。
自治体間でカジノ誘致をめぐる死闘が繰り広げられることになるにもかかわらず、今回のカジノ解禁推進法案には、肝心要のカジノ設置区域の選定基準や評価要素は、一切規定されていないのである。このように、国から認定を得るために必要となる開発規模(施設の規模)が不明であるほか、自治体がカジノ事業者から徴収できる納付金の額・率や、カジノの顧客として売上に大きな影響を与えると想定される中国人などの外国人へのビザ緩和の有無などもまったく規定されていない。従って、自治体も関与する民間事業者も、採算性(事業収益性)や想定される経済効果(創出される雇用者数や税収など)の合理的試算ができない。カジノ解禁法は、経済性が主たる正当化根拠(存在意義)であるから、この点は致命的な欠陥である。
以上のように、各自治体は、そもそもカジノを当該地域に誘致することが妥当か否かの客観的検証すらまともにできない状態で、多額の費用をかけて誘致合戦を遂行せざるを得ないのである。
●住民訴訟が多発する可能性
ここまで見てきたように、自治体が認定レースに負けた場合は、まずもって、十分な検討も行わずに多額の費用を安易に支出したことを理由に、住民訴訟が提起される可能性が高い。
さらに、明確な違法行為(例えば、特定の業者との不正な癒着など)はなくとも、結果としてカジノ誘致に失敗すれば、違法な財務会計行為によって地方公共団体が損害を被ったとして、反対派住民などから住民訴訟を提起されるリスクがある。その理由は、(1)住民訴訟の対象となる「違法な」財務会計行為とは、狭い意味での財務会計法規に反する場合だけでなく、地方自治法上の最少経費最大効果原則や職務権限誠実執行の原則に反する場合なども広く含むこと、(2)最高裁判所の判例上、財務会計行為(公金の支出)自体(例えば、インフラ整備のための工事費用の支出)には違法性がなくとも、それに先行する行為(例えば、カジノを施行する民間業者の選定や協定の締結)に違法性がある場合も、住民訴訟を提起し得ることからである。
もちろん、自治体が認定レースに勝ったとしても、誘致活動における明確な行動基準を示せなければ、最少経費最大効果原則に反する無駄な支出があったなどとして、住民訴訟を提起されるリスクがある。このことは、パチンコ店や公営競技(公営賭博)の場外施設の設置に対して、地域の善良な秩序や生活環境を悪化させるとして、各地で反対運動や訴訟が相次ぎ、大きな社会問題になっていることを想起すれば明らかであろう。
●自治体に求められること
自治体が今後行うべき行動は、次の2点である。まず、国に対して、最低限、カジノ設置区域の選定基準や評価要素をカジノ解禁推進法に規定することを求めることである。法案を事前審査した衆議院法制局も、これらの事項を法律に規定すべきであるとの意見を述べている。これらの事項が法律に規定されなければ、さまざまな憶測や不確かな情報などが流れ、悪質なブローカーやコンサルタントなどに判断を歪められる恐れがある。
次に、カジノ誘致には、金銭面だけをとっても多大なリスクがあり、失敗すれば、損害がすべて住民に転嫁されることを肝に銘じ、最大限に慎重を期した対応を取る必要がある。具体的には、専門性が高く複雑な事項であるがゆえに、客観中立で、信頼できる専門的立場からのセカンドオピニオン・サードオピニオンを求め、常にそれを記録化しておくことである。住民訴訟が提起される多くの場合、それとセットで、市民から情報公開請求がなされる。それによって、どのようなプロセスで誘致活動が行われ、税金が支出されたかが明らかとなる。自治体が、きちんとした記録を残していなかったり、怪しげなブローカーやコンサルタントに判断を歪められ費用を支出したとなれば、目も当てられない事態となる。
以上は、自治体の立場から見たものであるが、カジノ法制の透明化・明確化は、カジノ解禁の是非を考える上で、国民・市民も利害を同じくする。カジノ設置区域の選定基準・評価要素や選定プロセスすら法律で明確にしないことで得をするのは、巨大な利権を水面下で不当に囲い込みたい者だけである。
●徹底した熟議が必要
筆者自身は、法律によって「賭博に関連する公正な社会秩序」(カジノ解禁の実質的な正当化根拠)を確保でき、かつ、国民が、総体として、メリット(雇用増、税収増、財政改善、観光振興、国際的大規模会議誘致、新たな文化の発信など)がデメリット(依存症患者や多重債務者発生の恐れ、勤労の美風への影響など)を上回ると判断したならば、カジノを解禁してもよいと考えている。
しかし、その前提として、カジノ解禁は、いわゆる「飲む、打つ、買う」のうちの「打つ」という人間の本能的欲望に直結する深いテーマであるとともに、お金の稼ぎ方・使い方という意味で憲法27条の「勤労の義務」にもかかわる重大テーマである。また、特別法を制定して、いったんカジノを解禁すれば、多くの利害関係者が誕生するし、現行法制の多岐にわたって特例的措置を設ける以上、後になって廃止することは事実上不可能であり、もはや後戻りできない。
従って、カジノを解禁するかどうか、解禁するとしてもどのような制度の建て付けにするかについては、国民間の熟議が必要であり、来年1月からの通常国会においても緻密な徹底審議が求められる。
山脇康嗣/弁護士
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。