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2013年12月27日(金) 藤野 英人 現代ビジネス
2013年もあとわずか。経済や株式市場は、アベノミクスに始まり、アベノミクスに終わる1年間だったと思います。
「アベノミクスは偽薬である」ということを言い出した評論家がいて、これは本当にうまいことを言ったと思います。実は私もそう思っているからです。景気回復にたちどころに効く薬なんて、存在しないとは言わないけれども、作るのは非常に困難ですし、効く薬であればあるほど副作用がこわいという問題もおきます。ですから、そもそもそんな薬なんかなくて、使ったのは「偽薬」である、というのは一定の説得力を持ちます。
偽薬効果(プラシーボ効果)とは、ブドウ糖などが入った、薬効も害もない「偽の薬」でも、それを薬だと言われて飲むと、「薬を飲んだ」という安心感から一定の効果が出ることを言います。要は、アベノミクスによる株価の上昇は薬としての効果ではなく、みんなが「効くかもしれない」と思ったことが上昇の要因になった、というわけです。ただ、偽薬説を唱えている人たちは「だからアベノミクスは実態がなく幻だ」という論を展開をすることが多いように思います。
アベノミクスは言うまでもなく「3本の矢」で成り立っています。金融政策、財政政策、そして成長戦略です。一番鮮やかに効いたように見えるのが1本目の金融政策。黒田東彦・日銀総裁の登場までの過程と、彼の行なった異次元の緩和政策などが円安を演出し、輸出企業を中心とした大企業の成長期待を生み出しました。それが、日経平均株価指数の株価上昇要因になっていると思われます。
しかし、2本目の財政政策は景気に強いインパクトを与えているとは思えず、3本目の成長戦略も目立った成果が出ているようには見えません。そして、そんな簡単に成長戦略が出てくるとも思えません。
■「アベノミクスは偽薬」説に賛同しつつ、その効果を評価する
現在の日経平均株価指数の株価水準は、12月24日のザラ場中に16,000円を突破し、非常に好調です。現在のPERが16倍です。連日最高値を更新しているニューヨークダウのPERが15倍程度ですから、割高でも割安とも言えない水準ではないかと思います。5月23日のバーナンキショックを乗り越えて、5月22日の水準まで株価は戻ってきました。
ただ、5月23日とは違う点が2つあります。
@バーナンキショックといわれた、バーナンキFRB議長の緩和縮小懸念で下げた株価も、実際にその出口戦略が明確に示されたことにより、相場に安定感が出てきたこと。
A5月から半年以上、日柄調整があり、半年分時間がたったことで、今期から来期の企業業績を株価に織り込み始めたこと。
以上より、日本株が短期的に大幅な調整がある可能性は薄いと考えています。現状の株価水準は、目先の104円の円安水準と好調な企業業績から考えると「適正水準」と言えると思います。割高とは思えませんが、一方で割安にも見えません。今後の株価の上昇は、企業収益が上昇するか否かにかかると思います。
「アベノミクスは偽薬である」という説に、私もある意味、賛成だと言いました。リーダーが示すべきものは、まずビジョンやミッションであり、そのような志は意志さえあれば示すことができます。安倍首相が掲げたのは「デフレの解消」というビジョンであり、頑張った者が報われる社会にしようというメッセージでした。それこそが民主党時代には決定的に欠けていたものです。
昨年の野田総理の解散宣言から、事実上のアベノミクス相場が始まっています。自民党の政権交代が必須の状況下で、事実上、次の首相であった安倍氏のデフレ脱却宣言に対し、民主党政権で前向きな改革がされないことにイラついていた海外の投資家が大いに期待したのもよく理解できます。株価は「PER(人気)×EPS(利益)」の掛け算で表現できますが、まずはこのPERに点火をしたのがアベノミクスの初期の状態です。
日経平均指数はこのPERの上昇により大きく上昇していくわけですが、それは実体景気とは関係ない動きです。しかし、このような期待で動くのも株価形成としては極めてまっとうなことなのです。
そもそも、現状の円安も景気回復も、安倍さんが首相にならなくても起きていたでしょう。アベノミクスを始める少し前から為替は円安に振れていて、景気も少しずつ回復基調でした。というのも、景気は循環するからです。過去、循環しない景気は見たことがありません。無限に上昇する景気もなければ、無限に下降していく景気もありません。
人間が営んでいる限り、景気は循環し、たまたま景気の循環期の下降から上昇局面に差し掛かった時に安倍さんが首相だったということだと私は認識しています。おそらく民主党政権であっても、株価の上昇も景気の上昇も起きたでしょう。まさに景気が回復するとば口に登場したのが安倍さんだったという、とてもよい巡り合わせだったと思います。
株価は「PER(人気)XEPS(利益)」で表されると言いました。EPSは現在、1000円くらいを予想しています。PERは現在16倍です。もし民主党政権のままであったら、ざっくりEPSが900円程度(民主党政権が金融緩和措置を取らない前提で、今より円高であることを考慮して)、PERが14倍ぐらいで、12,600円ぐらいだったのではないでしょうか。
偽薬であれなんであれ、経済や株式市場には効く(と思われる)薬の投入が求められていたのであり、その意味ではアベノミクス相場は評価できるというのが私の意見です。その期待感がPERに反映されているということです。米国市場の15倍を上回る「期待」があるわけですから。
ただ、それがバブルというほど高くはなく、適正水準にあるというのが私の見立てです。米国で15倍、日本で16倍ですし、歴史的なPERの水準から考えても「普通」の居場所です。これをPBRや株式市場全体の時価総額を名目GDPの水準と比較しても違和感ないところだと思います。
■抑制基調だった5年間の影響が一気に噴き出す
では、2014年の日本経済について考えてみましょう。
来年の経済のキーワードは「人手不足」です。空前の人手不足の時代がやってきます。というか、もうそれは激しく始まっています。有効求人倍率は0.98倍まで来ていて、1を超すのは時間の問題。建設業はすでに人手不足となっています。自動車業界など生産の現場も人手が足りず、1000人単位で探していますが、なかなか見つかりません。それはそうでしょう。なぜなら、人はどこにもいないからです。
いないなんてバカな!日本は格差社会が始まっていて、多くの仕事にあぶれた人がいるのに、何を言っているのだと思われた方も多いでしょう。そして、それも一面で事実です。
2008年にリーマン・ショックがありました。これは本当に世界や日本経済に大きな打撃がありました。最近、米国で金融緩和の縮小を始めましたが、そもそも大規模な金融緩和を始めたのはリーマン・ショックから立ち直るためです。5年間も世界はリーマン・ショックに向き合ってきたのですね。
日本経済にも大きな打撃があり、多くの企業が派遣切りを行いました。テント村ができて、大きな社会問題になりました。多くの労働者が路頭に迷ったわけです。生活保護受給者が急増したのも、この時期からです。日本の企業サイドは派遣を切り、新規採用を抑制して、現有勢力をフル回転してなんとか乗り切ってきました。それはある意味、仕方がないことだったかもしれません。
そして、グローバル景気は2011年に一度回復に向かうのですが、日本だけが2011年3月11日の東日本大震災で景気が腰折れをしてしまいました。天災なので仕方がないのですが、本当にアンラッキーでした。
この5年間、日本企業はとにかく採用を抑制し、設備投資を抑制し、多くの日本人は節約をモットーとした辛い時期だったのです。本来、2011年に回復するはずの景気が回復しなかったので、私はその分のマグマが溜まっていると考えています。アベノミクス景気というか、アベノミクス相場の伏線は、この溜まっていたマグマにあります。安倍さんであろうがなかろうが、溜まったマグマはかならず噴き出します。上昇したエネルギーがいつかは消失するように、抑圧されたエネルギーは上に噴き出すのです。
事実、現場は相当投資を抑制しているので、「機械のビンテージ化」が起きています。老朽化した機械を騙し騙し使っていたのですが、ほぼ限界に達しつつあるのです。今後はこうして更新時期に入った機械の需要が続々増えるものと考えられます。しかし、機械以上に更新が必要で、かつ短期的にどうにもならないのは人材です。2014年、日本経済は人手不足に悩まされるでしょう。
■生産者人口は、東京五輪までの7年で600万人減少
まずは生産者人口。総務省のデータによると、2008年のリーマン・ショック当時は約8230万人いた生産者人口が、2013年には7900万人(推計値)になっています。5年で330万人減っているのです。それも、シニアの引退と若い人の減少が重なっているから、事態は想像以上に深刻です。これがオリンピックの2020年の予測値となると7300万人。これからわずか7年で600万人も減るわけです。
ただでさえ生産者人口、それも若者が減っているのに、多くの企業はこの5年間、新卒採用を抑制して、若い人に機会も与えず、十分な投資を怠ってきました。そして結果的に、意図しないニートをたくさん作ってしまいました。本来は雇用をし、OJTなどを通じて教育をし、経験を積んで初めて本来の「生産」者になるわけです。
建設業も非常に厳しい時代が続いていたので、下請け業者は若手の採用を抑制してきました。その結果、現場の高齢化がどんどん進んでいます。そこへ東日本大震災の復興特需とオリンピック特需がやってきました。小さい規模の経済で適正化されていた経済圏が一気に膨張したわけです。そもそも生産者人口が減ってきているのに、現場で作業をしたり、現場監督をしたりするノウハウを持った現場の人が圧倒的に不足してしまったのです。
資材も不足していますが、それだって誰かが現場でモノを作らなければ解消しません。セメントも、足場も、機械で自動的に作られるわけではなく、機械を動かす人が必要です。トラックを動かすのにも大型の免許を持った人が必要です。しかし、大型免許を保有している人の高齢化が進み、若い人はそもそも大型免許の取得を嫌がっているので、これから深刻なドライバー不足になるのは目に見えています。
今まで「幸運にも」生産者人口の減少の痛みを受けてこなかったのは、リーマン・ショックの上に東日本大震災が続き、経済が縮小均衡をしていたため気が付かなかったのだと思います。しかし、わずかに景気が持ち直すだけで、この問題点が浮上してきます。
本来、精魂を込めて仕込まなければいけなかった若者たちの就業機会を社会全体で受け止めてこなかったツケは、社会全体で負っていくことになるでしょう。
■建設、外食・小売、物流…「現業」従事者の不足をシニアが埋める
これは外食・小売の分野でも切実な問題として起きています。アルバイトが採用できないのです。それはそうです。なぜなら若者が減っている上に、社会全体の教育力が落ちているので、時間通りに出勤したり、敬語を使ったりできない若者が増えているのです。
ブラック企業問題も影を落としています。長時間労働の辛い仕事はすべて「ブラック」である、というような風潮が広まっています。もちろん、そのようなブラック企業が多いのは事実です。しかし、そのおかげで大学生が居酒屋でアルバイトをしようとしても仲間に止められたり、親に止められたりするケースが増えているようです。「そこまでして働かなくてよい」と、多くの人が考えているのです。
そこで起きるのは時給単価の上昇です。それはもうすでに始まっていて、外食や小売のアルバイト時給はジリジリ上昇しています。しかし、時給が上がったからといって、優秀な子が来るわけでもありません。厳しく叱ったらすぐ来なくなるし、朝来ないと思ったら、店長にLINEやメールで「体調不良で」と送るようなドタキャンも日常茶飯時になっています。これは外食・小売業に共通の悩みです。
これは結果的に価格に反映されていきます。もしくはサービスの低下です。デフレ時代には「安くてよいサービス」が成り立っていました。しかし、これからは「安くて悪いサービス」か「高くて良いサービス」を選択するようになっていくものと思われます。これは予言ではなく、未来の事実だと私は思っています。
物流も同じ状況です。ネットの普及で、運ぶ人の負担が増えてきています。アマゾンや楽天の成長はすばらしいことですが、それは買い手ではなく売り手が運ぶということを意味しています。運ぶ人たちの現場での負担は厳しく、またドライバーも不足気味です。アマゾンに対して、ヤマトも値上げ交渉をしているという話を聞きます。
このように、実際にモノを作ったり運んだりサービスをする「現業」の人たちが不足しつつあり、それは短期的に解消する見込みはありません。なぜなら人口は加速度的に減っていて、かつ経験値はカネで買えないので、育てるには時間を要するからです。そこは、シニア世代を投入して埋めていくことも一定程度可能ですし、マクドナルドを見ればわかるように、すでに現場にはシニアの人たちが大量に「進出」しています。
一方で、経理や事務など、IT技術で取って代われるようなホワイトカラーの人たちの居場所は、どんどんなくなるでしょう。付加価値の少ない仕事をしているホワイトカラーの人たちは、デフレ下の勝ち組だったのですが、これからは相対的に貧乏になっていくかもしれません。
企業サイドは、上昇する労務費、材料費、物流費、外注費と向き合う必要があります。これらは、消費税の転嫁よりも、むしろインパクトが大きくなる可能性があります。
さらには、ホテルの予約ができなくなってきています。出張族は如実に感じていることでしょう。主要都市の予約がなかなか入れにくくなってきていて、単価も上昇しつつあります。これは円安による外国人観光客の増加、景気回復による出張族の増加、シニア層の消費税増税前の駆け込み旅行の増加による要因だと考えられています。ホテル稼働率の上昇によって、シーツのクリーニングサービスをしている白洋舎が業績の上方修正をしたりするほどです。
■景気は順調に回復。しかし2年連続の消費増税に耐える体力はない
景気そのものは順調に回復をしています。そして、それは人手不足の構造的問題を飲み込みつつ、その影響を複雑に反映させながら拡大していくでしょう。
消費税の影響は業種や企業によってはそこそこ受けるのでしょうが、全般的にはマイナスの影響を吸収できるでしょう。しかし、2015年の8%→10%の引き上げは、政治的には苦しいのではないでしょうか。さすがに、ある程度景気が回復をしても2年連続の消費税の増税に耐えられる体力は日本経済にはないのではないかと、楽観的な私でも思えます。
株式市場は堅調な日本経済に支えられて楽観的な見通しを持っています。とはいえ、2013年のアベノミクス相場ほどの爆発的な上昇は望めないでしょう。しかし、15〜20%程度のアップサイドは見込めると考えています。
日経平均指数はPER16倍で変わらずの前提で、EPSが2割程度の成長を見込むと、16×1200=19200となり、19200円という水準を予測します。ここまでいけば2万円台に乗ることはそれほど難しくはないように思います。NISA(少額投資非課税制度)もスタートするので、投資初心者の人たちも多く参入するのが2014年です。波乱がないといいですね。
2014年相場はコストのコントロールが企業経営にとって大きな課題になるでしょう。安定的な経営資源(ヒト・モノ・カネ)を低コストで安定的に調達できる工夫をしている会社やブランド企業にとってはよい1年になると思われます。
業種的には、自動車、設備投資関連(機械)、人材紹介・派遣、(ヒトを採用できる)物流、ネット企業(コマース、決済)、ニッチな分野の業界No.1企業、メディカル関連などに注目をしています。同じ業種でも、業績も株価も優勝劣敗がかなりはっきりする年になることでしょう。安倍首相が演出したアベノミクス相場が持続するかどうかは、民間企業のがんばりによることでしょう。
■東アジアの地政学的リスクへの懸念
米国はそれほどのリスク要因があるように思えません。出口戦略も、バーナンキFRB議長はとても思慮深く市場と対話をしながら進めてきました。2014年は好調な米国経済を見せつけられるのではないでしょうか。米国が日本株のリスク要因になる可能性は低いと思います。好調な米国経済と金融緩和の縮小は、強いドルを誘発していきます。円はドルに対して安くなる可能性が高いでしょう。
2014年以降の日本の株価における最大のリスク要因は、
@2015年の消費税増税の強行
A東アジアの地政学的リスクの顕在化(北朝鮮の暴走・日中の尖閣をめぐる衝突)
ぐらいではないでしょうか。
Aは起きてほしくないです。日本が太平洋戦争で学んだのは、癇癪を起こさず冷静に行動するということだと思います。再度、失敗をしないよう粘り強い交渉で外交的平和解決の道を模索してほしいと心から願います。
2013年は読者の方々には大変お世話になりました。2014年もよろしくお願い致します。よい年をお迎えください。
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