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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第57回 中央銀行はお金の「行先」を管理できない
http://wjn.jp/article/detail/0089383/
週刊実話 2014年1月2日 特大号
12月1日、今年のノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー教授(S&Pケース・シラー指数で有名)は、独週刊誌シュピーゲルにおいて、アメリカ株式市場やブラジル不動産市場などの価格高騰に懸念を示した。
シラー氏は、
「まだ警鐘を鳴らす段階にはないものの、多くの国の株式市場は高値にあり、一部の不動産市場では急激に価格が上がっている。これはまずい結果を招きかねない」
と述べた。
また12月5日、PIMCO(米パシフィック・インベストメント・マネジメント)のビル・グロース氏は、主要国(特にアメリカ)で実施されている「前例のない規模」の金融緩和により、株式や債券価格が本来の水準を超えて押し上げられているとの見方を示した。
さらに、12月6日には来日中だったフランス政治経済学会のアンドレ・オルレアン会長が産経新聞のインタビューに応じ、中央銀行が国内銀行から国債を買い取り、通貨を大量に発行する量的緩和政策について、「リーマン・ショック後の衝撃を和らげた」と評価したものの、「経済成長を促す点で疑問がある」と述べた。
理由は、
「量的緩和で増発されるマネーは金融市場の内部にとどまり、投機に向かう力を増幅させ、新たな金融危機を起こし、実体経済にとっては逆効果になりかねない」
とのことである。
現在、アメリカ、ユーロ圏、イギリス、日本などの主要国で株価が軒並み上昇している。
NYダウは歴史上初めて、終値が16000ドルを超えた。イギリスの株価指数FTSEは6600ポイントを超え、史上最高値に迫っている。ユーロストックス50指数は10月に3050ポイントを上回り、史上最高値を更新した。そして、日本の日経平均も再び上昇を開始し、一時は16000円台に迫った。
注意すべきは、日米英欧の「実体経済」は、決して好調とは言えないことだ。日本の物価上昇率は、コアコアCPIでようやくプラス化した段階だ。イギリスの物価上昇率はゼロ。アメリカは1%。欧州は消費者物価指数が0.7%上昇である。
米英欧諸国は、明らかにデフレ化しつつある。日本はようやく「デフレ脱却」に向かうところだが、米英欧は逆にデフレ化の方向に進んでいるわけだ。
驚くべき事実は、アメリカがリーマン・ショック以降、実に4兆ドル(約400兆円)ものドルを発行し、金融市場に投入したにもかかわらず、物価上昇率が1%と低迷している現実だ。しかも、英米両国の失業率はいまだに7%を上回り、リーマン・ショック前の水準を回復していない。
さらに、ユーロ圏の場合は「全体の失業率」が12.2%。ギリシャ、スペインの失業率に至っては、25%を上回っている。それでも、株価指数が「史上最高値」を更新してしまったのだ。
現在の日米英3カ国は、中央銀行が量的緩和、すなわち「国債の貨幣化(通称・財政ファイナンス)」を続けている。中央銀行が(主に)国内の銀行から国債を買い取り、同じ金額分の通貨を発行し続けているわけだ。
ユーロの場合は、株高と同時に「ユーロ高」が発生しているため、ジャブジャブのドルが両替され、ユーロ圏に流れ込み、株価を押し上げている可能性が高い。
問題は、中央銀行は自ら発行したお金の「行先」を管理することはできないという点だ。
中央銀行が発行した通貨が、銀行から借り入れられ、民間や政府の「消費」及び住宅投資、設備投資、もしくは公共投資に向かえば、「モノ」や「サービス」が消費、投資として購入されたことになり、必ず誰かの所得を創出する。
それに対し、中央銀行が市中銀行に発行したお金が借り入れられ、株式や土地、金融商品の購入に向かった場合、それ自体は所得を産まない。無論、株価や土地価格が上昇すれば、消費拡大という間接効果(いわゆる資産効果)が発生するが、あくまで「間接的」だ。
現在の各国の株価上昇(新興経済諸国では土地価格も上がっている)は、実体経済ではなく金融経済に「中央銀行が発行したお金」が流れ込んだことを主因としているのではないか。そうなると、主要国(特にアメリカ)が量的緩和の縮小という金融引締めに舵を切った途端に、各国の株式・土地バブルが崩壊し、巻き戻しが発生しかねない。
断っておくが、筆者は現在の資産価格の上昇について、「来年はバブルが崩壊する! 大変だ!」と、危機感を煽りたいわけではない。
何しろ、金融経済におけるストック価格の上昇は、直接的には実体経済(所得)を拡大しないが、金融経済でストック価格が暴落(すなわちバブル崩壊)してしまうと、実体経済は多大なるダメージを受ける。そんな事態は、誰も望んでいない。
金融経済における資産(ストック)価格暴落を防ぐためにも、今後の各国の政府当局は「実体経済の成長」により重点を置くべきと主張しているのだ。
要は、実体経済と金融経済のバランスの問題だ。実体経済が成長し、金融経済とのバランスを回復すれば、資産価格の上昇をソフトランディングできる可能性が高まる。
金融経済ではなく、実体経済を拡大させるためには、誰かが「中央銀行が発行した通貨」について、所得を生み出すように使わねばならない。
すなわち、政府の財政出動の出番なのだ。
ところが、日米英欧という主要国はこぞって「財政均衡主義」に冒され、適切な財政出動作に踏み出せない(それどころか「増税」を決断した国すらある)。
そうなると、2014年の各国政策担当者は、「金融引締め」と「資産バブル膨張」との間で綱渡りをせざるを得ない。
来年は色々と「難しい一年」になりそうだ。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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