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http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE9BN00W20131224
2013年 12月 24日 14:50 JST
亀岡裕次 大和証券 チーフ為替ストラテジスト(2013年12月24日)
米国経済の回復を背景に、2014年1月から量的緩和縮小(テーパリング)が始まる。ただし、以前に比べてテーパリングと利上げが分離されて考えられるようになったうえ、失業率が6.5%を下回ってもインフレ見通しが2%を下回るようなら、米連邦準備理事会(FRB)が低金利政策を相当な期間、継続する姿勢を示したため、利上げ期待の高まりは抑制されている。
2年以下の米金利は低位で安定し、5年や10年など中長期の金利も景気回復期待の高まりに沿った緩やかな上昇ペースにとどまっている。こうした傾向は、米国の景気回復が進んでインフレ期待が高まるまでは続きやすいだろうし、テーパリングが終了して利上げが1年程度先に迫る14年末近くまで続く可能性が十分にある。この間は、金利上昇がリスクオフを招きにくく、景気回復と緩やかな金利上昇を背景としたリスクオンが続きやすいだろう。14年は、リスクオンの円安が進行する年とみている。
<金利よりもリスク許容度に左右されやすい状況>
市場は、金利よりもリスク許容度の変化が為替を左右しやすい状況にある。たとえば、12年11月から13年11月までのドル円を、日米実質金利差(5年物インフレ連動国債ベース)と米国株の株価収益率(PER、S&P500の12カ月先予想利益ベース)の2要因で回帰分析すると、相対的に米国の実質金利が1%上昇すると1.3円の円安効果、米国株のPERが1倍上昇すると6.7円の円安効果がある計算になる。この期間では、実質金利差が2.0%拡大して2.6円の円安効果、米国株PERが2.0倍上昇して13.4円の円安効果があったことになる。
では、今後はどのようになるだろうか。まず、米金利とPERの上昇余地を考えてみる。米10年国債利回りから株式益回りを差し引いたイールドスプレッドは現在マイナス3.8%だが、過去の推移を見る限り景気回復局面においては潜在成長率マイナス5%程度まで上昇する可能性が高く、これは現時点でマイナス2.7%程度であるから、1%強の上昇余地があることになる。
たとえば、1)10年国債利回りが0.4%上昇なら株式益回りは0.6%低下(PERは1.5倍上昇)、2)10年国債利回りが0.6%上昇なら株式益回りは0.4%低下(PERは1.0倍上昇)、3)10年国債利回りが0.8%上昇なら株式益回りは0.2%低下(PERは0.5倍上昇)する余地があるということだ。
今後は、金利上昇が抑制される一方でリスクオンになりやすいと考えると、一番目か二番目のパターンに近くなりそうだ。二番目の10年金利上昇幅を7割程度にして、前述の5年物インフレ連動国債利回り(実質金利)を用いた回帰分析にあてはめると、0.4%の金利上昇で0.5円の円安効果、1.0倍のPER上昇で6.7円の円安効果、合計7円ほどの円安効果が生まれることになる。主にはリスク許容度変化が寄与し、1ドル=110円程度に達する可能性が高い。
<日米購買力平価からみたドル円見通し>
さて、日本の貿易収支悪化と米国の貿易収支改善も、円安・ドル高要因となってきた。そうした貿易収支の基調にいまだ明確な変化は起きていない。
米国は、エネルギーの貿易収支改善が貿易赤字縮小に寄与しており、景気拡大で非エネルギーの貿易収支が悪化しても、貿易収支全体の悪化は抑制されやすい状況にある。日本は、価格変動を除いた実質貿易収支に改善の動きはなく、円安が実質純輸出に与えるプラス効果はまだ見受けられない。
今後は資源などの輸入価格上昇によって日本の交易条件が悪化する可能性もあるので、日本の貿易収支が改善基調に転換するには、もうしばらく時間を要しそうだ。日米の相対的な貿易収支の基調転換から約1年遅れてドル円の基調転換が起きやすいことから、少なくとも今後1年程度は円安・ドル高基調が続きやすいだろう。
長期的にドル円は、日米の購買力平価をベースとしたレンジ内を推移している。昨年来、日米購買力平価に対して円安が進んでいることにより、日本の貿易収支が米国に比べ相対的に改善しやすい状況に近づいている。ただし、長期的にみると、円安方向から円高方向へと基調転換する水準が、日米購買力平価に対して円安方向へシフトする傾向がある。これは、日本企業の海外生産が増えるにしたがい、円安が日本の純輸出や企業収益に与えるプラス効果が低減し、より大幅に円安が進まないと日本の貿易収支が改善しなくなっているためと考えられる。こうした傾向が今後も続くとすれば、この点からも、今回の円安は少なくとも1ドル=110円には達する可能性が高い。
<世界景気回復とクロス円主導の円安へ>
これまでは日米欧先進国の金融緩和と景気回復を背景とする流動性相場であり、リスク許容度の上昇を示したのは先進国株価の上昇だけだった。一方で新興国経済への不安を背景に新興国株価や商品市況は低迷し、世界全体のリスク許容度上昇は鈍かった。そのため、リスクオンで円が売られる一方、資源・新興国通貨の上昇は鈍く、先進国のユーロやドルの上昇が目立った。
12年11月からの13年11月までのドル円とクロス円をそれぞれ米国株(S&P500)と中国株(上海A株)で回帰分析すると、米国株の係数はほぼ同じだが、中国株の係数はクロス円がドル円の2.4倍となる。したがって、中国などの新興国株が低迷すればクロス円の方がドル円よりも弱く、新興国株が上昇すればクロス円の方が強くなる。
今後、米金利上昇抑制と世界景気回復を背景に、リスクオンの円安が進みやすいだろう。しかも、先進国の景気回復が新興国にも次第に波及し、新興国株価や商品市況も上昇する可能性が高い。先進国株高に限定されるのではなく、新興国株や商品市況の上昇を伴うリスク許容度の上昇となるだろう。14年は幅広い通貨に対する円全面安となり、ドルやユーロよりも資源・新興国通貨の上昇率が大きくなると予想される。
*亀岡裕次氏は、大和証券の投資戦略部担当部長・チーフ為替ストラテジスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。
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