02. 2013年12月23日 18:32:15
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高橋洋一「ニュースの深層」 2013年12月23日(月) 高橋 洋一 とうとう量的緩和縮小に踏み切ったバーナンキ。今後のFRBの金融政策を定量分析から予測してみる米連邦準備理事会(FRB)は12月18日、とうとう量的金融緩和の縮小を決定した。具体的には、市場から購入する債券の金額を現在の月850億ドル(8兆5000億円)から100億ドル(1兆円)減らし、月750億ドル(7兆5000億円)とする。購入額の変更は来年1月からである。ただし緩和のスピードをダウンさせたものの、緩和傾向であることに変わりない。 金融市場関係者の間で「テーパリング(tapering)」といわれていたことだ。この言葉は、バーナンキFRB議長が語った言葉で、量を減らすこと、つまり、量的緩和の縮小である。 アナリストやエコノミストで、これを長く待ち望んでいた人はちょっと怪しい。というのは、彼らは相場見通しを外してきたからだ。彼らは量的緩和を目の敵にし、量的緩和のリスクを強調する。量的緩和の効果がわからない。そのため、1年前の言動をネットで調べれば、例外なく今年の株価、為替、金利の見通しを外している。 今回の米国での量的緩和縮小が、きちんと説明できているか、どうかでアナリストやエコノミストの力量がわかる。これまで縮小すると言い続けてやっと当たりになった人や、今回がバーナンキ議長の最後の会合であることからその花道とかいう日本人好みの説明をする人は、まったくあてにできない。 日本のメディアが報じないFRBの公式資料から考える そもそもバーナンキ議長の発言のみから説明する人はどうかと思う。 FRBは、量的緩和について、以前から「6.5%の失業率と2%のインフレ率」という明確な条件を示している。筆者は、プリンストン大にいたとき、バーナンキ議長には個人的に薫陶を受けたが、きわめて合理的な人で、説明はほとんど定量分析だった。だから、今の金融政策から将来を見通して、そうした条件になるかどうかをチェックすればいい。 まず、事後的に、なぜ今回量的緩和の縮小になったかを説明するだけなら、FRBの公式資料からもわかる。それは、FRBのウェブサイトにでているFOMCの見通し(予測)だ。これを日本のマスコミがほとんど報道しないのは不思議である。この公式資料に言及しないアナリストやエコノミストの説明も怪しい。 18日の見通し(http://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/fomcprojtabl20131218.htm)では、2014年の失業率見通しは6.3〜6.6%となっている。これは6.5%を切るという数字だ。一方、前回の9月の見通しは6.4〜6.8%だ。これではまだ6.5%より高い。インフレ率は今回も9月も2%弱なので、失業率で6.5%を切った今回が、一つのメッセージを出すタイミングだったわけだ。
足元の11月の経済指標をみると、日本のコア指数に対応し基本的な物価動向を示す米国コア消費者物価指数(食料・エネルギーを除く)は前年同月比で1.7%、失業率は7.0%だ。FRBが指標に採用している個人消費支出価格指数上昇率は、2013年7−9月期で1.1%だ。それらを踏まえたうえで、上に述べたような見通しであるから、今回の量的緩和の縮小への第一歩になった。 1年後の失業率をほぼ予測する 次に、筆者が推測するFRBの定量分析を述べようと思う。これがわかっていると、今後のFRBの行動もある程度予想できる。 本コラムの読者なら、金融政策の効果には遅れ(ラグ)があることをご存じだろう。マネタリーベースを拡大しても、予想インフレ率の上昇、実質金利(=名目金利−予想インフレ率)の低下にもラグがある。それを受けて消費、投資、純輸出の増加など実物経済の変化にもラグがある。その後のインフレ率上昇や失業率低下にもラグがある。 日本では2年程度の効果ラグ(2013.05.27付け「金融緩和のキモは実質金利の低下にある!短期的な株価の乱高下でアベノミクス批判をすることの滑稽さ」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35934 )はある。アメリカ経済の場合、リーマンショック後のマネタリーベースと失業率の関係には1年程度のラグがある。つまり、FRBがマネタリーベースを増加させると、1年くらい経過すると低下しはじめる。その関係は相関係数0.95程度と高い。 この関係を使うと、ほぼ1年後の失業率を予測することができる。今のマネタリーベースの増加では、来年末の失業率は6.5%程度である。ここあたりで、緩和スピードをダウンさせないと、先の失業率が6.5%を大きく下回り、その代わりにインフレ率が高くなる可能性がでてきている。もちろん、当面の失業率はそれほど下がらないし、インフレ率も高くならないが、1年先をみると、そろそろ緩和スピードの調整が必要になってきている。そこで、今回の政策変更になったと考えることができる。
もちろん、FRBがこんな簡単な式で政策判断しているはずない。FRBはもっとまともなマクロモデルで計算しているはずだが、それを再現するのは個人では不可能だ。なにしろFRBには経済学PHDが数百人もいてその人たちが作っているからだ。しかし、そのマクロモデルの中で、失業率のところを取り出せば、基本的には上に書いたような単純な関係式になるだろう。 マネタリーベースの拡大が予想インフレ率を高める なお、ついでに、金融政策とインフレ率の関係も考えてみよう。ただし、実際のインフレ率はいろいろな要素で動くので、正しく予測することはなかなか難しい。しかし、金融政策は、実質金利(=名目金利−予想インフレ率)を動かして実物経済(消費、投資、純輸出)に働きかけるので、実際のインフレ率も重要だが、予想インフレ率も負けず劣らず重要だ。 本コラムの読者なら、筆者が繰り返し、マネタリーベースの拡大が予想インフレ率を高めると書いてきたことをご承知だろう。この点が、リフレ政策に批判的なアナリストやエコノミストが理解できないところである。ただし、アメリカでも同じ現象が起こっている。 失業率のラグと同じ1年とすると、予想インフレ率とマネタリーベースの相関係数は0.88と高い。これで、先行きをみると、2%程度のところになることもわかる。 以上で米国FRBの金融政策の見通しは大体わかったはずだ。日銀の金融政策も今後1年くらいはすでに発表されているので、これで日米の中央銀行の金融政策がおおむね予想できる。
購買力平価を市場が先取りしている ここで、前回に引き続き、来年の為替を占ってみよう。今年の為替は多くのアナリストやエコノミストにとって難しかったようで、ほとんど当たっていない。筆者は100円程度と予想していたので当たった。それは、為替が両国の金融政策の差で決まるというモデルをもっていたからだ。 実務界では、日米金利差のモデルに人気があるが、最近、日米金利差ではうまく説明できない。特に、ここ1年、日米金利差あまり変化がないにもかかわらず、円安傾向になっているのを説明できない。 基本であるマネタリーアプローチに戻ってみると、日米金利差のほかに、日米の予想インフレ率の差を入れるというアイデアが出てくる。 すると、アベノミクスによる異次元金融緩和を先取りしてスタートした昨年末からの円安をうまく説明できる。日本の予想インフレ率が高くなっているので、それで円安になっているのだ。いってみれば、日米の物価の比で為替が決まる購買力平価の考え方を、市場が先取りしているともいえる。
ちなみに、円ドルレートと、日米金利差に日米予想インフレ率を加えたものの相関は、日米金利差だけの0.44より大きく増加し0.83程度になる。 これを使いその他の情報を加味すれば、来年は1ドル100〜125円程度だろう。 真壁 昭夫真壁昭夫「通貨とファイナンスで読む世界経済」 2013年12月21日(土) 真壁 昭夫 米国の金融緩和策縮小で影響を受けるのはどこか 12月18日、米国のFRB(連邦準備理事会)は、現在行っている金融緩和策第3弾(QE3)を減額することを決めた。これによって、各月に850億ドルの国債と住宅ローン担保債券(MBS)の買い取りオペレーションは、来年1月から100億ドル減額することになる。 もともと市場関係者の間では、「早ければ来年1月、遅くとも3月には緩和策の縮小が始まる」との見方が有力だった。その意味では、今回の決定は予想の範囲内のことと受け止められている。 それに加えて、「FRBが縮小に踏み切るということは、米国経済の回復が確実になっている証拠」との解釈が大勢になっているようだ。そのため、足元の株式や為替の金融市場は、安定した展開を示している。 米株式市場は堅調、為替市場はドル高傾向 今後、FRBは経済状況を注視しながら、徐々に緩和オペレーションの額を縮小することになる。FRBはこれまでの市場との対話によって、緩和策の縮小がすぐに引き締め策への転換を意図するものではないことを市場に理解させることに成功した。 また、フォワードガイダンスによって、失業率が当初の目標である6.5%に低下したとしても、物価上昇率が2%以下であれば、相当期間、金融緩和策を継続することを明言した。それは、金融市場の参加者の不安心理を和らげる効果を果たした。 その結果、米国の株式市場は堅調な展開となり、為替市場では一段のドル高傾向が鮮明になっている。そうした状況が続く限り、米国経済は緩やかな回復傾向を辿ることが出来るはずだ。 新興国経済が低迷すれば日本にも悪影響 米国の金融緩和策縮小によって、最も大きな影響を受けるのはインドやインドネシアなどの新興国になるだろう。その背景には、米国の金融緩和策によって供給された資金の一部が、新興国へと流れ込んでいた経緯がある。 緩和策が縮小されると、中央銀行が供給する流動性は減少する。そうなると、新興国へ流れる資金量も減少する可能性が高い。また、既に流れ込んでいた投資資金が、本国へと回帰することが想定される。 それが現実になると、新興国の株式市場は軟調な展開になるだろう。また、為替市場で新興国の通貨が売られやすくなる。それらは、実体経済にも重要なマイナスの影響を及ぼす。 既に、一部の新興国の金融市場は不安定化しており、当面、そうした状況が続くと見られる。新興国の経済が低迷すると、間接的にわが国経済にも悪影響が出るはずだ。
The New York Times 2013年12月23日(月) エミリーE.スミス、ジェニファー・アーカー「ミレニアム世代の探求者たち」 Think Stock by gettyimages 人生の意味とは何なのか ホロコーストを生き延び、ベストセラー『生きる意味を求めて』(※)を書いたヴィクトール・フランクルは、人生最大の疑問に答えるという使命感を若いころに持った。彼が高校生のころ、教室で科学教師が「人生とは一個の燃焼過程であり、酸化のプロセスに過ぎない」と断言した。しかしフランクルはどうしてもそれを受け入れられず、イスから立ち上がり「先生、それなら人生の意味は何なのですか」と叫んだのだ。 10代のフランクルがそう口にしたのは100年近く前の出来事だ。しかし彼と今日の若者は、われわれが想像する以上の共通点がある。 1980年以降に生まれたY世代やミレニアム世代の現代の若者は、米国史上もっとも高学歴の世代であり、ベイビーブーマー同様、人口の最大部分の1つだ。しかし2008年の大不況以降、彼らは厳しい状況下にある。この数十年で最悪の労働市場に直面し、借金を抱え、多くが失業中だ。老若間の所得差は拡大している。 この世代の様子を伝えるべく、グーグルで「ミレニアム」と検索すると、「ミレニアムは利己的か」や「ミレニアムは怠惰か」や「ミレニアムはナルシスティックか」などの項目が関連検索として表示される。 (※)訳注:英語版タイトル。邦題は『夜と霧』 大不況下で成功の再考を迫られた われわれは失われた世代を擁しているのだろうか。教室の中や仲間うち、さらにわれわれの調査結果を見る限りでは、ミレニアム世代を失われた世代というよりも流動的な世代としてとらえている。 昨今の厳しい経済状況に鍛えられて、今日の若年層の成人たちは、成功とは何かを考え直すことを迫られ、その結果、彼らにとっての成功とは物質的な豊かさより、それ以外のものを意味するようになっている。 それ以外のものとは何か?多くの研究者が信じていることだが、ミレニアム世代は、前世代よりもはるかに幸福に関心があり、なかでも年長の層よりも比較的若い層のほうがその傾向が強い。金銭への追求よりも、グーグルのような特典とスタートアップの柔軟さを結びつけた仕事のような、彼らを幸福にさせるキャリアを求めているようだ。 しかしデータを細かく見てみると、ちょっと違った図が見えてくる。ミレニアム世代は、幸福といわれるものより、意味ある生活をおくることへの興味が見て取れる。金銭的な成功にはそれほど関心をよせず、世の中を少しでもよくすることに関心があると報告書は指摘する。 キャリア・アドバイザリー・ボードの委託でハリス・インタラクティブが行った2011年の調査報告書によれば、21歳から31歳の若年層の成人が望むキャリア上での成功の一番の要素は、意味あるという感覚だという。その調査によれば、彼らの上司はミレニアム世代の第一のモチベーションは金銭だと語るが、調査対象となった4分の3近くの若年層の成人が、「キャリア上の成功を決めるもっとも重要な3つの要素のうちの1つが意味のある仕事だ」と答えている。 意味ある生活と幸福は一致しない もちろん、「意味ある」というのは流動的な概念である。しかし近年の社会科学者によって意味についての理解と計測はすばらしく向上した。社会心理学者は意味を、人生に目的と価値と影響力を感じる度合いの認知的、情緒的な評価と定義している。 われわれの共同研究では、意味ある人生において欠かせないものとは何かについて精査している。意味というのは、人によって重要性の異なる主観的なものだが、決定的な特質は、それが自分自身よりはもっと多くのものに関係していることだ。意味ある人生をおくる人々は、他者や仕事や人生の意味、あるいは、世の中そのものとつながっていると感じている。人生の意味は1つでない。われわれが日々刻々と経験する意味は、つながりという形態を保ちながら、多様性を備えているのだ。 意味あることではない、とはどういうことかという理解もまた重要だ。幸福を感じることと、意味を感じることは同じではない。この記事の筆者の1人であるジェニファー・アーカーが加わった長期の新しい共同研究では、397人のアメリカ人を1カ月以上追跡調査し、彼らの人生に意味があり幸福だと考える度合いや、自らの信念や価値観、人生でそれまで行ってきた選択の仕方について質問した。 この研究で人々が、自らの生活の満足度や幸福度を評価する方法とかなり似たやりかたで、生活の意味を確実に評価できることがわかった。意味ある生活と幸福な生活は、何らかの形で部分的に重なるが、それらは根本的にまるで違う。意味ある生活をしていると述べた人は、より他人本位であり、具体的には自身を「与える人」だと見なしている。人のために行動することが重要だと語った人は、その暮らしにより多くの意味を感じている これを、幸福に暮らしていると述べた人々と比較すると、見事に対照をなしている。幸福は「獲る人」のものなので、より自分本位に結び付く。人々は、表面的には欲しいものを手に入れるときに幸福を感じ、それは必ずしも他人を優先するときではない。他人を優先すればストレスが生じることもあり、他人の欲望のために自分の欲望を犠牲にする必要がある。たとえば、子どもを持つことに意味はあるが、幸福度は減る。 興味をもつのは人助けが中心の仕事 個々人が、いわゆる意味志向の考え方を取るとき、すなわち人と「つながり」、「人に与え」、「自らをより大きな目的に方向づける」考え方をしたとき、はっきりとした利点が生まれる。それはたとえば、向上した心理的な安定、いっそう増した創造力、高まった仕事のでき、などだ。自分の仕事に意味を見出している労働者は、現在の仕事に邁進し、その仕事を辞めない。 さらにこのような考え方は、ミレニアム世代が求める仕事に影響する。今日の若年層の成人は、他人に永続的な影響を与える仕事を望んでいる。この春、世界的な学生団体である全米優等生教会が、成績優秀な9000人以上の学生や卒業生を対象に、人生でやりたいことは何かと尋ねたところ、この不況期に学生時代を過ごしたミレニアム世代は、医療や政府の仕事を好むことが分かった。 200以上の会社の中で彼らが志望する25社のうち、8社は健康関連か病院で、6カ所は政府または軍関連であった。セント・ジュード・チルドレンズ・リサーチ病院はこれらミレニアム世代が働きたい場所としてはトップの人気で、同協会のCEOジェームズ W ルイスは「ミレニアム世代が興味をもつのは人助けが中心の仕事です」と指摘する。 いくつかの研究は、ミレニアム世代は仕事でも個人生活でも自己中心的であてにならず、旧世代と比べて利己的だと指摘してきた。しかし新しいデータでは、こうした否定的な傾向が逆転しはじめていることを示している。 「意味ある人生」をはじめたミレニアム世代 この夏、「社会心理と個性の科学」誌に発表された研究の中で、ヒジュン・パク、ジーン M.トゥエンギ、パトリシア M.グリーンフィールドの3人の研究者は、1970年以来毎年、数十万人もの12年生を追跡している調査結果に注目した。 高校最上級生の他人への気遣いは減退しており、車などの高額製品を評価するある種の物質主義が40年くらいの間は増加していたものの、2008年以降はこうした傾向が逆転する。年長のミレニアム世代が意味への関心を示したのに対して、大不況時に成人となった若年のミレニアム世代は、他人への関心をいっそう強め、物品への関心は低下したと調査は指摘した。 データはより広範囲なパターンを反映している。1976年から2010年にかけて、高校最上級生たちは経済的苦境時には他人へのより高い関心を、経済的繁栄期にはより低い関心を表した。若い人々は苦境時には、いっそう他人や外界に目を向ける。 もちろんだれも経済的に厳しい時期を生きることを好まないが、特にミレニアム世代は手ひどい目に遭ってきた。しかし同時に、経済的貧困には恩恵もある。結果的にミレニアム世代は人生の成功とは何か、を深く考えさせられてきた。 彼らは、物質的な成功を指針とすることではなく、他人の生活によい結果を生むことで、自らが望む「意味のある人生」をはじめたのだ。それはまた、フランクルが人生を生きるに値するものとするとした当のものでもある。(翻訳:松村保孝) 『現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン』2013年12月13日(金)配信 エミリーE.スミス ---フーバー研究所刊「新標準と決定的アイデア」誌・編集者 ---------------------------------- ジェニファーL.アーカー---スタンフォード大ビジネススクール教授(マーケティング)『ドラゴンフライ エフェクト ソーシャルメディアで世界を変える』(翔泳社)著者 Copyright(2012) The New York Times. All rights reserved by New York Times Syndication Sales Corp.This material may not be published,broadcast or redistributed in any manner. この記事は現代ビジネスブレイブ「コンプリートマガジン」または「グローバルマガジン」に収録しています。 http://gendai.ismedia.jp/articles/print/37808 |