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快走・東レ、高リスク連続大型買収から透ける、長期的“脇固め”経営と新市場進出への布石
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20131214-00010001-bjournal-bus_all
Business Journal 12月14日(土)7時19分配信
東レの快走が止まらない。
東レが11月8日に発表した2013年4-9月期の中間連結決算は、売上高が前年同期比13.3%増の8537億円、営業利益が同20.7%増の442億円で増収増益となった。純利益も同46.8%増の293億円と大幅に増えた。
営業利益が最も伸びたのは炭素繊維事業で、前年同期比約70%増だった。化学繊維事業も「ヒートテック」など衣料向け高機能繊維が好調で、前年同期比約30%増だった。このため、同社は14年3月期の通期連結決算予想を「当初通り」と据え置き、純利益は13年3月期比34.1%増の650億円を見込んでいる。これで純利益は2期ぶりの過去最高益更新がほぼ確実となった。
そんな中、同社が今年の9月27日に発表した、海外メーカー2社の大型買収が「東レも自前主義との決別か」と、業界で騒がれたのが記憶に新しい。M&Aに頼らず、「開発も製造も自前」を貫く経営で成長してきた同社にとって、初の大型買収だったからだ。
業界関係者を騒然とさせた大型買収発表は、次のような内容だった。
まず、米国の炭素繊維大手・ゾルテック(ゾル)を約570億円で買収。併せて、韓国の水処理膜大手・ウンジンケミカル(ウン)の買収でも優先交渉権を獲得したと発表。同社の買収額は明かされていないが、約400億円と推測されている。2社合わせて1000億円近い買い物となり、加えて「いわく因縁つきの案件」(繊維業界関係者)とあっては、業界内がざわつくのは当然だった。
●買収の目的
まずは、この2社買収の目的を見てみよう。
ゾルは炭素繊維の世界シェア3位で、「ラージトウ」と呼ばれる低価格汎用の炭素繊維が主力。同社製品は、主に風力発電機の羽根材やプラスチックの強化材として利用されている。同社を買収する東レは炭素繊維の世界首位メーカーで、「レギュラートウ」と呼ばれる高機能・高品質の炭素繊維が主力。主に米ボーイング社の旅客機の構造材や天然ガス運搬用圧力容器材などに利用されている。
炭素繊維市場におけるゾル買収後の東レの世界シェアは単純合算で31.7%となり、現在2位でシェア13.9%の東邦テナックス(帝人子会社)を大きく引き離し、圧倒的な競争力を確保することになる。同時に、汎用品から高機能品まで揃えた初の「炭素繊維総合メーカー」にもなる。東レはゾル買収の理由について「高機能品と汎用品の両面から事業展開を図ることで、新たな成長機会を獲得するのが目的」と説明している。
一方、ウンも水処理膜の世界大手ながら、主力は低価格汎用品。主に家庭用浄水器の水処理膜として利用されている。対して、水処理膜で世界シェア25%程度と推測されている東レの主力は高機能品。主に海水淡水化や下水処理の大型水処理設備で利用されている。水処理膜市場におけるウン買収後の東レの世界シェアは、これも単純合算で30%弱に達すると見られ、30%強と見られる世界首位のダウ・ケミカル社と対抗できる規模になる。ウン買収理由もゾルの場合とほぼ同じだ。
さて、9月27日の記者発表で、東レの日覺昭廣社長は記者団からの「これまで大型買収には及び腰だったのに、今回は大型買収を2連発もした。これは従来の自前主義との決別を意味するのか」との質問に対し、「自前主義路線を放棄するわけではない」と明確に否定している。また「大型買収2連発」については「現行の中期経営計画で約2000億円のM&A投資を予算化しており、買収発表がたまたま重なっただけ」と説明している。
●ライバルが忌避した案件へ乗り出す
今回の買収について、繊維業界関係者は「業界内で憶測されたように、自前主義を捨てた買収なら、今回の2社ほど危ない買い物はない」と言う。ゾルの場合は帝人(東邦テナックスの親会社)、三菱ケミカルホールディングス(三菱レイヨンの親会社)などのライバルメーカーが、東レより先に買収を検討したがリスクが大きいと判断し、見送った案件だったからだ。
ゾルは12年9月期こそ2285万ドルの営業黒字だったが、それまでは2期連続の赤字。株価は低迷し、業績の持続的回復は望めない状態になっていた。「米国では身売り先を探しているメーカーとしても有名」(同)ともいわれているという。
成長産業といわれる炭素繊維市場であるが、付加価値の低い汎用品は中国勢の独壇場。中国では約30社もの汎用品メーカーが乱立し、世界中で「過剰供給→低価格競争激化」の市況デフレを引き起こす要因となっており、ゾルはその市況に翻弄されている1社だというのだ。「高機能品を得意とする日本のメーカーがゾルを買収しても、買収効果が得られない」(前出とは別の関係者)という見方が強い。
一方のウンは、親会社が韓国中堅財閥の一角を占めるが、同財閥傘下の建設会社が約9000億円の巨額損失を出し、その煽りで同財閥が昨年9月に経営破綻した。現在、裁判所の管理下で同財閥の資産処分が進められているため、「ウンの株式も競売にかけられている。公開していないが、財務内容の悪さは推して知るべし」(同)という。
このように業界内でもその効果を疑問視する声が多く上がるような大型買収に東レが踏み切った理由について、M&A専門家は「今の東レには、2社を使い方次第で優良子会社に育てられるとの自信があるのだろう」と推測する。なぜなら、今回の買収は「M&Aの目的である事業規模拡大のための経営資源と時間を買ったのではなく、成長戦略のための事業基盤と技術を買ったと推察できる」(同)と見られているからだ。
●広大な自動車部品市場参入への布石
こうした見方を裏付けるかのように、東レが成長戦略の中核に位置付けている炭素繊維事業におけるゾル買収の理由について、日覺社長は「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/10月12日号)の取材に対し、「イノベーションのジレンマを避けるため」と語っている。
つまり、高機能・高品質一辺倒の商品戦略では、いずれ消費者ニーズとずれる時期が出てくる。一方、汎用品メーカーはいずれ低品質から高品質へ脱却してくる可能性がある。消費者ニーズのずれと汎用品メーカーのキャッチアップが交錯した時、高機能・高品質メーカーの競争優位性は音を立てて崩れてしまうとの認識を、日覺社長は持っているのだ。
これを東レの炭素繊維事業に当てはめると、高機能・高品質商品戦略で成長してきた同社は、高機能品・レギュラートウでは圧倒的な競争優位にあるものの、汎用品・ラージトウに関する技術では弱い。したがって、炭素繊維の需要が拡大し、レギュラートウとラージトウの中間的な品質を求めるニーズが出てくると、同社の現状では対応できない。しかし、ラージトウを持っていればこのニーズには容易に対応でき、結果的に同社の商品競争力はより強固になる。そのための布石が、リスクを伴うゾル買収なのだ。
加えて、ゾル社買収を決断した理由はもう1つある。それは、東レが炭素繊維需要拡大の本命と見ている自動車部品市場への進出だ。同市場は、同社が現在の得意先にしている航空機・天然ガス関連の市場規模とは比較にならないほど大きい。
このため、同社は11年に独ダイムラーと合弁会社を設立、炭素繊維複合材を使った自動車部品の共同研究を進めている。しかし、レギュラートウ技術は強いがラージトウ技術が弱い現状では、その適用は高級車向けなどの一部に限られてしまう。ところが、ゾルのラージトウ技術を活用すればこのネックを解消でき、同社製炭素繊維の適用範囲は一般車向けに広がる。「そうなれば高機能品も量産化が見込める。需要拡大の隘路になっている高価格も、適正な利益を確保しつつ低価格化できる」(業界関係者)は見られている。
東レは現行の長期経営計画で、炭素繊維事業の売上高を20年に3000億円(12年3月期実績699億円)まで拡大する目標を掲げている。
これについて大手証券アナリストは「ゾルの買収で、東レは自動車部品市場に本格的に進出できる可能性が強まった。今やこの数値目標は夢物語ではない」と言い切る。
10年先、20年先の市場を睨み、自前主義で本体を堅実に守りながら、脇を補完的な技術を持つメーカーの買収で固め、長期経営目標を着実に達成してゆく。東レの快走はしばらく続きそうである。
福井晋/フリーライター
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