01. 2013年12月13日 11:41:37
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FRB副議長にフィッシャー氏浮上の波紋、巻き戻し続く 2013年 12月 12日 15:01 JST [東京 12日 ロイター] -リスクオン・ポジションの巻き戻しが続いている。イベント前の調整もあるが、市場関係者を警戒させているのは次期米連邦準備理事会(FRB)副議長にスタンレー・フィッシャー前イスラエル中銀総裁の就任が浮上したことだ。同氏はイエレン次期FRB議長候補が「頼みの綱」とするフォワード・ガイダンスに対して慎重な姿勢をみせており、米金融政策の先行きに不透明感が強まってきたとして嫌気されている。 <揺らぐ市場のシナリオ> 世界的に株価が調整している要因は、米議会超党派委員会による予算枠合意でFRBによる量的緩和縮小(テーパリング)観測が強まったことではないとの指摘も多い。「テーパリングは米雇用統計が改善して以降、時期はともかく既定路線となっている。FOMC(米連邦公開市場委員会)前のポジション調整とみるべきだろう」(MCPアセット・マネジメント証券チーフ・ストラテジストの井上哲男氏)という情勢分析だ。 ポジション調整を加速させているのは何か。「『ボルカールール』の最終案はあいまいな部分が多く、運用面で厳しくなるリスクを一部のファンド勢は感じているようだ」(国内証券)との指摘もある。 だが、市場の警戒感を一段と強めたのは、次期FRB副議長の候補にフィッシャー前イスラエル中銀総裁が浮上したことが大きいとの声が広がっている。 「フィッシャー氏は、イエレン氏が導入しようとしているフォワード・ガイダンスに慎重な姿勢を示しており、米金融政策をめぐる不透明感が強まった」と三菱東京UFJ銀行・金融市場部戦略トレーディンググループ次長、今井健一氏は指摘する。 米量的緩和縮小は縮小幅がわずかであっても、引き締め方向にかじを切ることであり、材料としてはネガティブ。市場が将来の景気回復や物価上昇を強く意識すれば金利が跳ね上がるおそれも強まる。 そこで、将来の政策指針であるフォワード・ガイダンスを示し、利上げは当分先だと示すことで、低金利環境を維持する──。市場が期待するそのシナリオが、フィッシャー氏の浮上で揺らいでいることが不安の背景だ。 米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、フィッシャー氏は今年9月、フォワードガイダンスのような声明は市場を混乱させる可能性があると指摘。「FRBがこれから何をするか詳述することはできない。なぜなら、FRB自身もわからないからだ」とした。 フィッシャー氏は、2005年にイスラエル中銀の総裁就任直後、市場にシグナルを与えることを試したが、状況が変化した場合に中央銀行の行動を妨げることがわかり、あきらめたとし、「過剰なフォワードガイダンスを与えれば、(中央銀行は)柔軟性を失うことになる」と述べたという。 <読みにくい新FOMCのスタンス> フィッシャー氏がFRB副議長に就任すれば、来年の米連邦公開市場委員会(FOMC)の政策スタンスに少なからぬ影響をもたらす可能性があることも、不透明感を強めている。 フィッシャー氏は「様々な問題にバランスが取れたアプローチをしている」(米金融機関)とされ、「タカ派」や「ハト派」といった二分法には当てはまらないとされる。フォワード・ガイダンスに慎重だからといって「タカ派」というわけではない。 実際、11月8日に開かれた国際通貨基金(IMF)のフォーラムでフィッシャー氏は、「(金利の)下限がゼロになっても金融政策の有効性は必ずしも失われず、中銀の金利が事実上ゼロになっても経済を引き続き支援するために中銀としてできることは多く存在するということだ」と発言。FRBの非標準的政策の効果を強く確信しているとの考えを示唆している。 ただ、来年、FOMCメンバーは大きく変わる。バーナンキ議長のほか、ローゼングレン総裁(ボストン連銀)、エバンス総裁(シカゴ連銀)、ブラード総裁(セントルイス連銀)などハト派が投票権を失う一方、政策決定の投票メンバーにプロッサー総裁(フィラデルフィア連銀)とフィッシャー総裁(ダラス連銀)というタカ派が入る。 フィッシャー氏は有力金融エコノミストして世界的に多大な尊敬を集めており、マサチューセッツ工科大学の教授時代には、バーナンキFRB議長やドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁が同氏の教えを受けた。経済学会の重鎮であり、新しいFOMCがフィッシャー氏になびくこともありえる。 米景気は順調に改善しており、リスクオンムードが崩れたわけではないが、市場では「イエレン氏がどう主導権を取っていくのかも読みにくくなった。しばらく手控えムードが強まりそうだ」(国内銀行)との声も多くなり始めている。 (伊賀大記 編集:田巻一彦)
コラム:ビッグデータのマクロ分析、大規模予算計上し米国追撃を 2013年 12月 9日 14:17 JST 田巻 一彦
[東京 9日 ロイター] -ビッグデータの活用というと、日本ではすぐに企業のマーケティングへの応用に関心が集まりがちになる。だが、この分野で大きくリードする米国では、マクロ分野への活用が目標の1つになっている。 立ち遅れが目立つ日本でも、東京大学がビッグデータを駆使した消費者物価指数(CPI)を稼働させ、他のマクロデータへの応用にも挑戦しようとしている。政府は、日本経済の生産性を引き上げるツールとして、大規模な予算を計上し、この分野で米国を追撃するべきだ。 <オバマ政権が12年に始めたビッグデータ活用戦略> 日本では、ビッグデータを「事業に役立つ情報を導き出すためのデータ」というように認識するケースが多い。例えば、販売管理のために蓄積してきた膨大なデータについて、当初の目的とは違った観点から分析すると、それまでは全然気付かなかった消費者の購買行動のパターンがわかる──というようなケースが典型的な例だ。 だが、ビッグデータ活用の本家とも言える米国では、2012年にオバマ政権が「ビッグデータ・リサーチ・イニシアティブ」を公表し、6つの政府機関が2億ドル超の予算を計上して、本格的な取り組みを始めた。 これに対し、日本での取り組みは民間ベースでのデータ解析がほとんどで、米国に大きく水を空けられている。 <データ活用の東大CPI、外資系投資家も注目> しかし、希望の光が1つだけ、輝いているところがある。東京都文京区本郷の東京大学だ。そこでは、今年5月からスーパーからの販売時点情報管理(POS)データを利用し、日々の物価動向を把握する「東大日時物価指数」が稼働している。 何が画期的かと言えば、全国300店舗のスーパーから集計された食料品・雑貨の価格データを集計して、全く新しい物価の指数を編み出したことだ。 総務省が作成している消費者物価指数(CPI)では、各項目の価格を調査対象から聞き取るという「手法」が原則となっている。このため、売れている量などで比重を変えるということは、なかなか難しい面がある。 一方、東大の新指数では、POSデータを使っているので、量も即時に把握でき、その量に応じてウエートを変え、指数に反映させている。 東大物価プロジェクト研究代表者の渡辺努・同大学大学院経済学研究科教授は「売れるものは、通常はより安いので、総務省の指数よりも、物価水準は低く出る傾向にある」と指摘する。 渡辺教授によると、新指数の調査対象は食料品と雑貨に限られ、諸外国のCPI統計では「グロッサリー」に分類されている分野で、CPIに占める割合は約20%。1日ごとにデータ収集し、直ちに指数が算出できるため、ほぼタイムラグなく物価水準を把握できるという特徴がある。 東大指数から、総務省のCPIにおける食料品・雑貨価格の動向が相当程度予測でき、これをもとにCPIそのものも推計することができる。渡辺教授は「ヘッジファンドなど金融関係者からの問い合わせが増えている」と述べる。 <スーモのデータから、不動産バブル把握も可能> 渡辺教授は、ビッグデータの活用を不動産や飲食など個人向けのサービス価格に広げる「挑戦」を始めつつある。家賃や不動産取引のデータを聞き取り方式で把握するのは、データ収集数に限界があることや、実態を本当に把握できているのか、という点を含め、不透明感の残るやり方だった。 しかし、リクルートの不動産情報サイト「SUUMO(スーモ)」のデータを活用すると、瞬時に不動産情報を把握できる。だが、この手法は、さらに大きな果実を得られる「夢のツール」の色彩を帯びている。 過去のバブル時代のデータも蓄積しているリクルートの協力を得て、渡辺教授が過去の不動産バブルの特徴を価格の変動から導き出したところ、ある特定の地点の地価が、突出して高くなるという現象があちこちで起きているというパターンを発見した。 その「法則」を当てはめると、現在の東京でも隅田川以東の「東部地区」の一部で、バブル的現象が起き始めているという。 <認知ラグがなくなれば、画期的に変化するマクロ政策運営> 来年4月からの消費増税後に、実際に買い控えが起きるのか、それとも名目価格の上昇にかかわらず、消費者の購入量に大きな変化がないのか、東大のシステムを活用すると、初めてその全貌が明らかになる。 マクロ経済政策の運用には、これまでこうしたビッグデータを活用した手法は用いられてこなかった。その結果、後になって「あの時は、すでにバブルだった」「すでに物価は下がっていた」などの認知ラグが発生し、適切な政策運営を阻む要素になっていた。 しかし、ビッグデータを活用して、現在時点の経済情勢が把握できるようになれば、視界が開け、より適切な判断を下させるようになるだろう。今年の夏から9月にかけ、消費税率の引き上げで個人消費に大きな影響が出るという見方と、限定的だという見方が対立し、消費増税の実施判断がなかなか付かないという事態を招いたが、こうした点も回避できるようになる。 将来は、国内総生産(GDP)速報値が、現在よりももっと早く算出できるようになることも夢ではなくなる。「ビッグデータ」をマクロ政策に活用するため、政府は米国に負けないプロジェクトを打ち立てるべきだ。 私は、東京オリンピックが開催される2020年までに米国より先に「GDPが瞬時にわかるシステム」を構築する国家プロジェクトを策定するべきだと提案する。そこから様々な副次的な技術が生まれれば、日本の経済・社会に足りないと言われている「イノベーティブな気風」を育む1つのきっかけにもなると指摘したい。 |