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プーチンに脅され、市場に裏切られ「凍える英国」
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20131211-00010000-wedge-bus_all
WEDGE 12月11日(水)12時16分配信
ウクライナが親ロシア路線に舵を切り、デモ隊が政府機関を占拠するなど国内が混乱している。リトアニア・ビリニュスで開催されたEUサミットの会場で11月29日に調印される予定だった欧州連合(EU)との連合協定調印を先送りする決断を行ったためだ。EUが条件とした服役中のティモシェンコ前首相のドイツの病院への移送をウクライナ国会が拒否したこと、隣国ウクライナのEUへの接近を嫌うロシア・プーチン大統領からの圧力が、先送りの大きな理由として挙げられている。
プーチン大統領からの圧力には当然だが、ウクライナ向け天然ガス供給の中断も含まれていた。天然ガスの供給中断が実行されれば、ウクライナだけではなく、EU全域に影響を及ぼす。その中にはロシアから最も離れている国の一つ、英国も含まれている。
その英国では、天然ガスと電気料金の上昇により、この冬、560万世帯のエネルギー価格の支払いが世帯収入の10%以上になり、エネルギー貧困層に陥ると報道されている。10月には、EU27カ国のなかで、英国のエネルギー貧困率がエストニアに次ぐ第2位になり、かなりの数の英国民が食料を取るか暖房を取るかの選択を迫られると報道された。
■プーチンに脅されるウクライナ
プーチン大統領が天然ガス供給を材料に交渉するのは、今回が初めてではない。2006年と09年1月の厳冬期にウクライナとの天然ガスの価格交渉が難航したこととガス抜き取り疑惑を理由に、ロシアはウクライナ向け天然ガス供給数量を大きく削減した。当時欧州向け供給の80%から90%はウクライナ経由のパイプラインで供給されていたので、欧州諸国にも大きな影響を与え、09年の中断の際には、ブルガリアなど6カ国向けのロシアからの供給が全て途絶するなど18カ国が影響を受けた。
06年のガス紛争の影響を受けた欧州諸国のうちドイツ、フランス、イタリアなどの西側諸国は、09年には天然ガスの備蓄をある程度行っていたが、ポーランド、ブルガリアなど東側諸国の多くは備蓄を持っていなかった。その状態は今も変わりない。厳冬期に天然ガスの供給が途絶するのは大きな恐怖だ。
09年の供給途絶の後、ウクライナ政府はロシア・ガスプロムからの購入価格を大きく上げることに合意した。いま、その価格は、ガスプロムのドイツ向け価格1000立方メートル当たり400ドルを上回る430ドルだ。ウクライナは「適正価格は250ドル」と主張しているが、プーチン大統領が提示した価格引き下げの条件は、ウクライナ国内のパイプラインをガスプロムに譲渡するか、あるいはロシアが主導する関税同盟にウクライナが参加するかだ。どちらもウクライナが受け入れられる条件ではなかった。
11月29日のEU・ウクライナの連合協定調印予定が決まってからは、プーチン大統領は、サンクトペテルブルク市に勤務していた際の部下であったガスプロムのミレル社長経由で、さらに圧力を強めた。ミレル社長は、「ウクライナのガス料金支払いは遅れており、10月1日現在で5億5000ポンドが未払いになっている」と主張し、直ちに支払うことを要求した。ロシアの意図がウクライナのEUへの接近阻止にあるのは明らかだった。一方、ウクライナは、料金値上げ以降の過去3年間で200億ドル以上の過払いがあると反論し、契約の見直しがなければ、ロシアからのガス購入を中断すると10月10日に発表した。
これに対し、10月末にはガスプロムは、未払い問題が解決しない限り前払いが必要とウクライナに要求する。ウクライナは11月11日にロシアからのガス購入を中止し、ハンガリー、ポーランドなどが輸入しているガスを迂回購入する契約を結ぶが、結局4日後にロシアからのガス購入が再開された。その6日後には、ウクライナ政府がEUとの連合協定調印の準備作業を中断し、ロシアの関税同盟に関する対話を再開すると発表することになり、国内は大きな混乱に陥った。
■ロシアへの依存度を下げたい欧州
天然ガスは、欧州の一次エネルギー消費の約25%を占めている。天然ガスの60%以上は輸入だが、最大の輸出国はロシアであり、輸出シェアは30%以上だ。ロシアのシェアは2000年には約50%あったので、徐々に落ちてきているが、それでもEUは天然ガス消費量の約20%をロシアに依存していることになる。石油も石炭もロシアへの輸入依存度は約30%とかなり高い。欧州が再エネ導入に熱心な一つの理由はロシア依存度の引き下げにある。
ロシアからの天然ガス購入が多い国は、ドイツ、イタリア、ポーランド、英国、フランスだ。英国の輸入統計では、ロシアからの購入数量はゼロだが、ガスプロムの発表では英国輸入量の17%がロシアからだ。北海からの生産が減少している英国では、輸入数量が生産数量を上回るようになっており、ロシア産天然ガスは全消費量の9%を占めている。英、ロシアの統計の違いは、大陸経由の天然ガスにはスワップ契約があるために、英国の統計ではロシア産として認識されず、大陸の国からの輸入と表示されるためだろう。
仮に、ガスプロムがウクライナとの紛争を理由に欧州向けの供給を中断すれば、英国も物理的な影響を受けることになるが、もっと大きな問題は天然ガスの価格が上昇することだ。英国ではガス料金・電気料金の値上がりが大きな社会問題になっている。
■この冬、英国民の3分の2は十分な暖房ができない
1990年からエネルギー市場の自由化を行った英国では、ガス・電力供給を行っている大手6社がこの冬のエネルギー価格の値上げを発表しており、ガス・電力料金が4%から10%値上がりすることになる。04年に552ポンドだった家庭の年間の平均エネルギー価格は13年12月には1312ポンド(約22万円)に達すると見込まれている。約2.4倍だが、この間の平均所得の伸びは20%しかなかった。所得に占めるエネルギー価格の比率は大きく上昇した。
最近行われた世論調査では、節約するために32%の人が間違いなく電気を消すか暖房を停めると回答し、35%の人が多分そうすると回答した。実に国民の3分の2が節約のために、節電、節エネを行うことになる。英国第2位のスーパーマーケット、アスダが5500人の母親を対象に実施した調査では、もう少し厳しい結果が出ている。若年層の母親の4分の3、全体の3分の2が、必要な暖房を行うことができないと回答している。
英国のスーパーマーケットによると、エネルギー価格の上昇に備え食料品への支出も減少している。暖房を取るか食料を取るかの選択を多くの人が迫られていると報道されている。
こんななかで、BBC放送のニュース番組に出演したデービー・エネルギー気候変動大臣が「私は家でもジャンパーを着ている。皆着ているのでは」とコメントしために物議を醸すことになった。コメントについて聞かれたキャメロン首相の報道官が「個人の行動に関し口を挟むつもりはないが、考慮してもよいかもしれないアドバイス」と述べたために、野党労働党のミルバンド党首から「エネルギー価格上昇に対する政権の回答は、『家でもフード付きのセーターを着ろ』だが、この回答はキャメロン政権が懸命に働く労働者の側に立っていないことを示すものだ」と非難されることになった。
■公共性を優先するなら、自由化すべきではなかった
エネルギー価格の値上げ発表を受け、ミルバンド党首は15年の総選挙で労働党が勝利すれば20カ月間エネルギー価格を凍結するとの公約を早々と発表した。世論調査では50%以上が凍結案を支持した。議会の答弁に立ったキャメロン首相は「国際市場をコントロールできないのに価格を凍結するというのはペテン師の政策だ」と述べ、適切な表現ではないとたしなめられることになったが、キャメロン首相は、ミルバンド党首が労働党政権のエネルギー大臣時代に導入した環境関連の費用を削減することにより、エネルギー価格を引き下げると発表した。
この引き下げの対象の環境関連費用はエネルギー価格のうち112ポンドを占めているが、ミルバンド党首は、このうち60%は現連立政権が導入したものだと首相を非難した。また、連立相手の自由民主党からも、「保守党が環境政策に冷淡なことは分かっているが、政策のパニック的な逆戻りは許されない」との声が上がった。政権は112ポンドのうち約50ポンドを削減する意向であり、詳細は12月4日に発表予定のオズボーン財務大臣の秋の定例演説で触れられる予定だ。
さらにキャメロン首相は、エネルギー企業が顧客に提示する価格は最大でも4種類に限り、さらに各家庭に最安値になる料金を提示するように要請する意向だ。これに対し、競争の制限であり、自由化に反するとの批判があり、さらに、スマートメーター、電気自動車などと組み合わせた料金プランの提示が困難になり、新技術導入を阻害するとの声も出ている。
エネルギー企業に対し、デービー大臣は「顧客は、株主に高収益をもたらす金のなる木ではない。公共サービスを提供する企業では、業界は公に奉仕しなければならない」と述べているが、自由化した市場では企業は株主へのリターンも追及する必要がある。もし公共性が優先されるというならば、エネルギー市場を自由化すべきではなかったということだろう。英国電力自由化市場の問題については「電力自由化で『新たな総括原価主義』が必要に?温暖化対策進める英国のジレンマ」もお読み戴ければ幸甚です。
■もともとエネルギー価格は安かった英国 真の問題は…
エネルギー価格上昇に悩む英国だが、欧州主要国のガス料金、電力料金と比較すると英国の料金は相対的に安い。また、最近の値上がり率も他欧州主要国と変わりはない。図‐1と図‐2が示す通りだ。議会が11月に発行したエネルギー価格に関するレポートでも、自由化以降、ガス・電力料金共に下落したが、2000年から04年頃を底に値上がりしていると指摘し、エネルギー貧困層も96年の650万世帯が03年には200万世帯に減少していると述べている。
しかし、自由化以降、エネルギー価格が値下がりしていた最大の理由は、北海からの天然ガス生産量が増えたことだ。この天然ガスにより、価格が高かった国内炭使用の発電所の燃料切り替えも可能になり、電気料金も下がった。しかし、天然ガス生産量は、図‐3の通り、2000年にピークを打ち減少を続けている。英国のエネルギー価格が上昇に転じた最大の理由は自国産エネルギー生産量の減少だ。
安価なエネルギー価格に慣れていた国民には急激な値上がりは堪えたに違いない。さらに、英国には問題がある。家屋の断熱効果が極めて悪いことだ。英国では家屋の新築は年間18万戸しかなく、断熱効果の悪い家屋が多く使用されている。このために、エネルギー価格の総額の支払いが多くなり、1人当たりGDPが同レベルの欧州諸国よりエネルギー貧困率が数倍高くなる。政府が削減を計画している環境対策コストのなかには断熱工事への補助が含まれており、エネルギー価格引き下げ策が、中長期的にはエネルギー価格負担額の上昇を招く可能性がある。
さらに、英国の問題は所得の格差拡大だ。米国CIAのデータによると、英国のジニ係数(所得の格差を表す係数で0から1の間で表され、数字が多いほど所得に偏りがある)は05年の0.34が08/09年では0.4になり、貧富の差が拡大している。ドイツの0.27(06年)、フランスの0.33(08年)、イタリアの0.32(11年)、日本の0.38(07年)より高い数字だ。
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■英国の現状は自由化の行き着いた姿 日本への示唆
エネルギー市場を自由化すれば、企業には供給義務はなくなり、自由に価格設定が可能になる。様々な要因があるにせよ、英国の現状は自由化の行き着いた姿だ。これは消費者にとっては望ましいことではない。特に政府の価格引き下げの策の対象になっていない中小企業にとっては、エネルギー価格上昇は大きな問題だろう。先行している各国の事情をよく調査し、分析したうえで、日本も自由化、エネルギー市場改革を行う必要があることは言うまでもない。
山本隆三 (常葉大学経営学部教授)
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